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報告書&レポート

2007年3月8日 シドニー事務所 久保田博志、永井正博 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp masahiro-nagai@jogmec.net
2007年19号

オーストラリア マイン・ツアー報告(2)-オーストラリア最大の金鉱山における「持続可能な開発」、その生産と環境と地域社会との関係-

 「JOGMECマイン・ツアー」として、2007年2月9日、オーストラリアの代表的な鉱業地域である西オーストラリア州Kalgoorlieに位置する同国最大の金鉱山Super Pitを訪問した。
 本稿では、Kalgoorlie市街地に隣接するSuper Pit金鉱山の生産と環境と地域社会との関係について報告する。


1. はじめに


 Super Pit金鉱山は、米国資本のNewmont Mining Corporation社(権益50%)とカナダ資本のBarrick Gold Corporation社(権益50%)が共同経営するKalgoorlie Consolidated Gold Mines Pty Ltd社(KCGM)によって操業されている埋蔵鉱量(Proven and Probable)154百万t、金品平均位1.98g/t(Cut off品位 0.9 g/t)、金生産量834,063oz、回収率85.6%(2005年12月時点)の国内最大の金鉱山であり、長さ3.8km、幅1.35km、深さ450mの露天採掘ピットは非鉄金属鉱山では国内最大級である。

図1 Super Pit金鉱山位置図


2. Super Pit金鉱山の歴史


 Super Pit鉱山の歴史は、1893年、Paddy Hannanら3人のアイルランド人が現在のMt.Charlotte鉱山付近の地表で石英脈を発見したことに始まる。当初は多くの鉱区が設定され、それぞれ坑内採掘が行われた。1900年初頭には、Alan Bondによって露天採掘が計画されたが、鉱区をまとめられず露天採掘は実現しなかった。その後、鉱山は、1970年代までにKalgoorlie Mining Associates、Kalgoorlie Lake View、North Kalgoorlieの3社に集約されてGolden Mile鉱山として坑内採掘が続けられ、1989年にNormandy Australia社*1とHomestake Gold of Australia社*1によってKalgoorlie Consolidated Gold Mines Pty Ltd社(KCGM)にまとめられて露天採掘が開始された。
 露天採掘によって、低品位鉱石の採掘が可能となり資源を有効かつ効率的に採掘・回収できるようになった。*2
 
*1 Normandy Australia社は、後にNewmont社によって買収される。また、Homestake Gold of Australia社は、後にPlacer Dome社によって買収され、その後、Placer Dome社は2005年にBarrick Gold社によって買収され、現在に至っている。
 
*2 鉱山開発当初の1893~1909年の金生産量は10.5 百万oz、金品位27g/t、1903年には1.2百万oz・金品位41 g/tを記録するなど高品位鉱石の採掘が行われていた。1989年の露天採掘開始以降の金生産量(累積)は11百万oz・平均金品位2.3 g/tであった。


3. 生産プロセス




(1) 採掘プロセス
 採掘プロセスは、(Ⅰ)採掘・発破レイアウトの策定、(Ⅱ)旧坑の特定、(Ⅲ)旧坑の状況を把握するためのボーリング、(Ⅳ)品位調整のためのボーリング、(Ⅴ)発破のためのボーリング、(Ⅵ)火薬(ANFO)充填、(Ⅶ)発破(毎日午後1時の1回)、(Ⅷ)発破後の旧坑の確認、(Ⅸ)鉱石の特定、(Ⅹ)採掘、(ⅩⅠ)整地・ベンチ形成のプロセスからなる。採掘量は、86百万t/年、剥土比6.7:1。

表1.主要採掘機材
機材
規格
能力
価格
数量
ショベル Komatsu PC8000、自重685t バケット容量60t

13百万A$

4台

ダンプトラック Caterpillar 793C、自重116t 積載時重量225t

4百万A$

34台

ホイール・ローダー Caterpillar 994D、自重191t 積込能力38t

4.2百万A$

1台

ブルドーザー Caterpillar D10R、自重65t 積込能力22m3

1.4百万A$

4台

モーターグレーブ Caterpillar 16H ブレード面長4.8m

1.1百万A$

2台

ホイール・ドーザー Caterpillar 854G、自重99t 積込能力45m3

2.4百万A$

1台

ホイール・ドーザー Caterpillar 834B、自重120t 積込能力22m3

1.25百万A$

1台

ボーリング機 Ingersoll Rand DM45    

7台

参考資料:KGCM社パンフレット「Welcome to The Super Pit」、Register of Australian Mining 2006/07

(2) 選鉱・冶金プロセス
 選鉱・冶金プロセスは、露天採掘ピットに隣接するFimistonプラントとそれより約20km離れた場所にあるGidjiプラントで行われ、(Ⅰ)破砕、(Ⅱ)粉砕、(Ⅲ)浮遊選鉱(以上はFimistonプラント)、(Ⅳ)焙焼(Gidjiプラント)、(Ⅴ)CIL:Carbon In Leach(Fimiston及びGidjiプラント)、(Ⅵ)金回収(Fimistonプラント)からなる。

表2.選鉱・冶金プロセス諸元(黄鉄鉱精鉱の場合)

プロセス
諸 元
破砕 ・鉱石の50%を拳大に破砕
粉砕 ・回転ミル、SAGミル、ボールミルにより粒径1/5mmまで粉砕
浮遊選鉱 ・金と金を含む黄鉄鉱を回収
焙焼 ・全ての精鉱がGidgiプラントで焙焼される。焙焼温度600℃
CIL ・全ての浮遊選鉱の尾鉱を処理(使用済みカーボンは1000℃で再生利用)
金回収 ・カーボンからの回収:カラムで金を含むカーボンと苛性ソーダ、シアンを混合、金を溶解し、次工程へ
・電解(EW):金溶液から鉄カソードに金析出。
・約1300℃で融解、金塊にして精錬所(Australian Gold Refinery (Perth Mint)へ出荷
参考資料:KGCM社パンフレット「Welcome to The Super Pit」、KGCM社Webサイトより


4. 環境への配慮

(1) 粉塵
 露天採掘ピット内は、散水車によって土埃の発生を抑制している。風向きなど気象観測、目視によるピット内の状態の確認を行い、状況によっては作業を停止することがある。また、市街地に向かって風が吹いているときには、発破を中止することがある(3~4日発破を見合わせたこともある)。

写真1 Kalgoorlieに隣接するSuper Pit金鉱山

(2) 騒音
 騒音管理としては、騒音防護壁・消音装置の設置や夜間の設備使用制限のほか、新たに騒音が発生している場合には騒音源の特定を、また、新たに掘削を行う場合には騒音モデリングを実施して騒音レベルの変化を予想するなどが行われている。

写真2 モニタリング装置

(3) 発破
電気雷管の使用等により発破時間・タイミングを制御、騒音や振動レベルは以前より低減し、また、露天採掘が深くなることで騒音や振動を感じるレベルが低くなるとしている。

(4) 煙害
精鉱の焙焼によってばい煙(亜硫酸ガス:SO2)が発生する。かつて、焙焼炉は選鉱施設にあったが、同鉱山がKalgoorlie市街地に隣接していることから、煙害を避けるため市街地から約20kmはなれたGidji地区に焙焼設備を移設し、大気中に拡散しやすいように高さ178mの煙突から高層にばい煙を排出する方法を用いている。風向きによっては焙焼炉の操業を見合わせている。

写真3 Gidji地区の焙焼設備
(出典:KCGM Webサイト)

(5) 危害防止
 3,500kmに及ぶ旧坑道があることから、露天採掘ピット内のほかに、住宅地付近にも旧立坑や陥没が多数ある。KCGMは危害防止のためにこれらの埋め戻しやフェンスによる立入禁止地区の設定等を行うなどの危害防止を行っている。

写真4 危害防止フェンス

(6) 植栽
 Kalgoorlie周辺は、元来、森林地域であったが、金やニッケル鉱山の開発によって森林は鉱山で使われる材木として、或いは、動力用の燃料として全て伐採されてしまった。1980年代末にようやく修復が開始され、その結果、650ha、25万本の植生が回復された。植生は鉱山の騒音や粉塵の緩衝帯となっている。

写真5 植栽の状況
参考資料:KGCM社パンフレット「KCGM News & Views」

5. 地域社会との関わり

(1) 経済効果
 KCGMは、西オーストラリア州の金売上額の17%を占め、輸出額は482百万A$、ロイヤルティ及び諸税は16.7百万A$、給与支払い額は255百万A$、その他地域社会への経済効果は76百万A$と、地域経済に大きく貢献している。また、Kalgoorlieの人口が約30,000人に対してKCGMによる直接雇用は約750人、間接雇用は約3,000人と雇用面での貢献も大きい。
 
(2) 地域に対する企業方針
 KCGMは、地域社会との共存を最重要経営方針として位置づけている。フライ・イン-フライ・アウトを行わず、従業員のほとんどがKalgoorlieに居住していることもその現われである。
 また、「Consider, Communicate, Contribute!」をスローガンに、地域とのコミュニケーションにおいて細心の注意と透明性と先見性を最重要視している。Kalgoorlie市内Boulderには広報用施設「Super Pit Shop」が開設されており、情報公開・意見収集・鉱山ツアーなどが実施されているほか、24時間問合せ窓口(Contact Line)を設置して苦情等の情報収集や広報活動を行っている。

写真6 広報用施設「Super Pit Shop」

(3) 閉山に向けて
 現段階では具体的な閉山計画は決められておらず、閉山予定の5年前にあたる2012年頃までに、地域の意見を取り入れ閉山と閉山後の対応を決める方針が示されている。他方、現在、一般公開している露天採掘展望台や旧鉱山鉄道等の観光施設は閉山後も存続することが明らかにされている。
 一般に大規模な露天採掘後を埋めた例は少なく、露天採掘ピットは埋め戻されずに地下水や雨水が貯まった状態になる可能性が高いと見られている。その場合、鉱山周辺の地下水は海水の10倍程度の塩濃度なので貯まった水の淡水化利用や魚等の養殖、人工湖として観光レジャーなどへの利用も検討される可能性がある。また、ずり・尾鉱などの堆積物は成形、飛散防止、浸出防止の植栽が行われる。
 

6. おわりに

 100年以上にわたりKalgoorlieの地域社会に貢献してきた町のシンボル的存在である大金鉱山の閉山は、地域に与える影響は大きい。閉山後の露天採掘跡や堆積場の環境修復方法などの技術的な関心とともに、閉山後の土地利用を含めた閉山計画とその実施に地域社会の意見がどのように組み入れられていくのか、閉山後においても「持続可能な開発」が可能であるのか、可能であればそれがどのような形で実現されるのかなど、大規模開発とその閉山後を考える上でSuper Pit金鉱山の今後10年間は貴重なケーススタディとなると考えられる。
 
参考文献 
KCGM社パンフレット「Welcome to The Super Pit」
KCGM社パンフレット「KCGM Nws & Views」
KCGM社広報DVD「The Super Pit」
KCGM社Webサイト

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