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報告書&レポート

2007年3月29日 ロンドン事務所 高橋 健一 e-mail:takahashi@jogmec.org.uk
2007年26号

マダガスカル初の大型鉱山開発案件となる日加韓企業によるAmbatovyニッケル・コバルト・プロジェクトの現況

 はじめに
 これまで長い間、目立った鉱業生産活動がほとんどなかったマダガスカルにおいて、同国では初となり、世界的に見ても有数の大規模ニッケル・コバルト鉱山が、2010年に誕生する予定である。
 Ambatovyニッケル・コバルト・プロジェクトは、日本の住友商事も資本参加し、日本企業が参加する初のアフリカ地域におけるニッケル鉱山開発案件であることに加えて、日本-カナダ-韓国企業による国際的な共同プロジェクトにもなっており、多くの点で非常に注目されるプロジェクトである。
 同プロジェクトは、現在、プロジェクト・ファイナンス及びマダガスカル政府による各種許認可手続きが進行しており、2007年の鉱山建設開始に向けて順調に進展していることもあり、今回、同プロジェクトについて紹介する。

1.Ambatovyプロジェクトの概要

(1) 位置
 Ambatovy鉱山サイトは、マダガスカルの首都アンタナナリボの東方約80kmの標高約900mの中央高地帯に位置する。また、マダガスカル島東岸に位置する同国第2の都市であり、主要港でもあるToamasinaからは265kmのロードアクセスとなる。アンタナナリボ-Toamasina間は幹線道路及び鉄道で結ばれ、途中、鉱山サイトの南側近傍を通過していることから、鉱山サイトへのアクセスは良好と言える。
 一方、鉱石処理・精練プラントは、Toamasina港の近傍に建設される予定となり、鉱山サイトとプラント・サイトは、スラリー化した鉱石を輸送するための約220kmのパイプラインで結ばれる。
 
(2) 地質・鉱床概要
 Ambatovyプロジェクトは、Gabbro-Syenite Complex内の、約3km離れた2つの大規模な風化した超塩基性岩から生成された2つのラテライト鉱床(Ambatovy鉱床、Analamay鉱床)で構成される。Ambatovy鉱床は約3km×2.4km、Analamay鉱床は約4km×2.8kmの広い範囲に胚胎しており、鉱床の層厚は平均約40m、最大約100mと、他のラテライト・ニッケル鉱床と比較して、極めて厚い点が特徴となる。

  Ambatovyプロジェクト位置図

出典:Dynatec社ホームページ

(3) Ambatovyプロジェクトの経緯
 1) 鉱床発見からPhelps Dodge社による探鉱(1960~1990年代)
 Ambatovy鉱床は、1960年のマダガスカル地質調査所による広域地質調査によって、発見された。
 その後、Phelps Dodge社が子会社を通じ、1995年5月にプロジェクトの探鉱権を獲得し、以降1990年代において、総掘進長22,000mのボーリングを始め、選鉱テスト、環境影響アセスメント、経済性評価等の広範囲な調査を実施した。
 2) Phelps Dodge社からカナダDynatec社への権益移転(2003年~2005年前半)
 2003年8月、Phelps Dodge社はAmbatovyラテライト・ニッケル鉱床の開発を進めるため、鉱山サービス及び湿式製錬技術・プロセスプロバイダー業務を主要事業とするカナダのDynatec社と、開発費用の負担とDynatec社が持つ湿式製錬技術の商業ベースでのライセンス供与を条件に、Dynatec社がプロジェクト権益53%を獲得する内容のJV契約に合意した。
 2004年9月、正式にDynatec社は、権益53%を獲得し、プロジェクトの実質的な主導会社となった。さらに2005年2月、Dynatec社は、自社株式他と引き換えに、Phelps Dodge社からプロジェクトの残りの権益を獲得し、プロジェクト権益100%を所有するに至った。
 2005年2月、Dynatec社は、最初のプロジェクトのFS結果を発表した(2006年に一部更新)。その結果、年間生産能力はニッケル約6万t、コバルト約5.6千tの他、プロジェクトライフは27年(マイニングライフ20.5年、貯鉱処理6.5年)と算定された。
 3) Implats社及び住友商事の参入~Implats社の撤退(2005年後半)
 2005年5月、Dynatec社は、プラチナ生産世界第2位であるImpala Platinum Holdings社(以下、「Implats社」)と、同年8月には日本の住友商事と、2社がプロジェクトへ資本参加することで、それぞれ合意。最終的に三者間での株主間協定が、同年10月に合意された。この協定により、各社のプロジェクト権益は、Dynatec社及びImplats社が各37.5%、住友商事が25%となり、新規2社の参入条件は、参入後の各権益分の資金負担に加え、Implats社は南アの自社精錬所拡張によりプロジェクト中間製品からの地金生産を実施。住友商事は、主にDynatec社に対する債務保証を始めとする資金的サポートを条件に、プロジェクト生産開始から15年間における、生産ニッケル地金のうち3万t/年の購入権を獲得した。この2社の参入により、Ambatovyプロジェクトは、鉱山・中間製品精製プロセスプラント操業がDynatec社、地金生産がImplats社、地金販売が住友商事と、役割分担化されることとなり、事業化に向けて大きく前進することとなった。
 しかしながら、2005年12月、Implats社が、本業であるプラチナグループメタル事業への注力等社内事情により、プロジェクトからの撤退を表明。2006年1月、最終的にImplats社が違約金を支払い撤退、その後のプロジェクト権益比率は、Dynatec社75%、住友商事25%となった。
 4) 韓国企業コンソーシアムの参入~現在(2006年)
 2006年10月、韓国国営企業であるKorea Resources社(以下「Kores社」)を中心とする同国企業コンソーシアムと、カナダの鉱山エンジニアリング企業であるSNC-Lavalin社のプロジェクトへの参入が合意され、韓国コンソーシアムは権益27.5%を取得し、SNC-Lavalin社はプロジェクト・ファイナンス完了後に5%を取得(それ以前はDynatec社が保持)することとなった。韓国側は、Kores社の傘下に、Daewoo International社、Keangnam Enterprises社、STX社の3社が参画している。これにより、プロジェクトの既権益者であるDynatec社(加)の権益は40%に、住友商事が27.5%に変更されることとなった。韓国コンソーシアムは、この参入により、プロジェクトからのニッケル地金生産量の残りの3万t/年(生産量の50%)の購入権を獲得した。
 
(4) Ambatovyプロジェクトの開発計画
 2005年2月に最初のFS結果を発表。2006年5月に、主にニッケル価格の上昇等による経済性の見直しを図るため、当初のFSが更新された。これらの結果、世界でも最大級の、かつ、低操業コストのニッケル開発プロジェクトであることが確認された。
 これまでに発表されたFS結果による鉱床の評価、及びプロジェクトの開発計画の概要は以下のとおりである。

・鉱量(Mineral Reserves):
鉱量区分
百万t
品位
ニッケル(%)
コバルト(%)
推定鉱量(Probable Reserves)
80.9
0.99
0.097
確定鉱量(Proven Reserves)
44.1
1.12
0.102
125
1.04
0.099
追加低品位鉱量
39.4
0.69
0.064
カナダ証券法NI 43-101基準による

 
・年間生産量(当初10年間):
 ニッケル地金:59,079t、コバルト地金: 5,315t(他、硫安:190千tを生産)
   ※参考:日本のニッケル地金輸入量52千t(2004年)
・プロジェクトライフ:27年
・鉱石採掘:
 Ambatovy鉱床、Analamay鉱床の2箇所において露天採掘を行い、採掘された鉱石は、鉱山サイトでスラリー化され、総延長約220kmのパイプラインを通じ、Toamasina港近傍の製錬プラントに供給される。
・製錬処理:
 Toamasina港近傍の処理プラントにおいて、スラリー化された鉱石は、湿式製錬法(Pressure Acid Leaching:PAL法)により処理され、最終製品としてニッケル地金(ブリケット。LMEクラス1グレード)及びコバルト地金を生産。
・初期投資額:25億US$
・操業コスト:0.77US$/lb(生産開始後3年~12年)
・プロジェクトのIRR及びNPV:
 

3つのケースで作成されており、それぞれ以下のとおりとなっている。

 

IRR

NPV(10%)

税引後
キャッシュフロー

25年平均金属価格ベース
(Ni:4.52US$/lb、Co:19.93US$/lb)

16.6%

1,278百万US$

548百万US$

ベース・ケース
(Ni:4.00US$/lb、Co:10.00US$/lb)

11.4%

249百万US$

386百万US$

2006年4月価格ベース
(Ni:8.25US$/lb、Co:15.60US$/lb)

25.3%

3,394百万US$

887百万US$

 
  なお、Dynatec社の資料には、今後開発予定の主要大規模ニッケル鉱山との比較が掲載されているが、参考として紹介する。
 

プロジェクト

ニッケル
年生産規模

コバルト
年生産規模

生産開始予定

Ambatovy

6万t

5,600t

2010年

Goro(ニューカレドニア)

6万t

4,650t

2010年

Koniambo(ニューカレドニア)

6万t

N/A

2010年

Voisey’s Bay(カナダ)

5万t

2,300t

2006年

Ravensthorpe(豪)

5万t

1,400t

2008年

(5) 資本構成、各社の担当等
 本プロジェクトは、非鉄大手ではない企業、国際的な共同資本による開発案件としても特徴付けられるが、その資本構成及び各社の主な担当は以下のとおりである。
 ・Dynatec社(カナダ):権益40%
 本鉱山のオペレーター会社となる。同社は、特にニッケル湿式製練技術において、豊富な知識、経験を持つエンジニアリング・鉱山会社である。
 ・住友商事(日本):27.5%
 プロジェクトの総括的な管理、マーケティング、財務など担当。また、生産ニッケル地金のうち半数の3万t/年の購入権を保有(15年間)。
 ・Kores社グループ:27.5%
 プロジェクトにおける担当及び権益は住友商事と同様。Kores社は韓国政府出資の海外資源開発に係る国営企業(政府出資98.8%、韓国開発銀行1.2%)である。
 ・SNC-Lavalin社:5%(プロジェクト・ファイナンス完了後取得)
 鉱山・プラント建設の設計・資機材調達(EPCM:Engineering, Procurement Construction and Management)の請負契約者として、鉱山操業の実業を担当する。同社は、EPCM契約による鉱山操業において、多くの実績を持つ(Voisey ‘s Bayニッケル・プロジェクト他)エンジニアリング企業である。

2. マダガスカル鉱業事情、政府による支援等

 これまでマダガスカルの資源ポテンシャルは注目されつつも、鉱業生産活動は、個人ベースの小規模採掘を除いては、国営企業によるクロム鉄鉱鉱石の生産が1か所で行われているのみであり、外国資本による大規模鉱山の開発、生産活動には至っていなかった。
 この要因は、他のアフリカ諸国と同様、法律、税制面における投資環境の未整備に加え、近年まで、過去1950年代~70年代前半に実施された、地質学というよりは、むしろ岩石学的見地から作成された地質図が存在するのみで、最新技術に基づく地質情報が不足していることが大きく影響していると考えられていた。
 これらを改善し、地下資源開発を主軸とした同国の経済開発を進めるため、1999年~2002年に、世界銀行他の支援により、投資環境を改善すべく、鉱業分野における新たな法・税制の整備などをテーマとしたMining Sector Reform Project(PRSM)が実施され、さらに、その第2フェーズ・プロジェクトとして、Project of Governance of Mining Resources(PGRM)が2003年~2008年の期間に実施されている。PGRMにおいては、鉱業分野でのガバナンス及び透明性の確保、小規模採掘者の支援、民間投資の促進、最新理論・技術に基づく資源ポテンシャルの再評価などに焦点が絞られている。
 これらの産業構造改革プロジェクトの下、1999年の新鉱業法の制定(2005年一部改正)以降、特に、2002年に誕生した現Ravalomanana大統領政権下において、外国資本の導入による地下資源開発促進政策が積極的に実行されてきた。最も重要なものの一つは2002年の大規模鉱業法(LGIM)の制定である。これは、1999年の新鉱業法の制定により基本的な法の枠組みは整備されたものの、他の国に比べ税制等の魅力が乏しいとされ、これを改善し、法・税制面での優遇を拡大した内容を含んだ法律である。また、地質情報不足の解消策として、最新の技術による空中物理探査や、衛星画像解析によるデータ取得、デジタル化等の整備とともに、最新の地質学理論に基づく同国地質の再評価が進められ、一般に提供が開始されている。
 以上、鉱業分野における大規模投資による開発促進政策が進展し、投資家にとっても魅力的な環境になっており、2005年にはRio Tinto社(現地JV会社:QMM)が約6億$を投資して重砂鉱床プロジェクトに着手、その後、本Ambatovyニッケルプロジェクトの開発開始と、大型プロジェクトが続くことになった。最近では、カナダAlcan社によるボーキサイト・プロジェクト、カナダPan African Mining社の金プロジェクトの他、ウラン、白金族、鉄鉱石、石炭、ダイヤモンド等の貴石など、幅広い鉱物資源を対象とした探鉱活動が活発化してきている。また、石油・天然ガス部門においても、外国資本導入政策が進められており、オフショアを中心に、Exxon Mobil社を始めとする外国企業が、国営会社OMNISとの生産分与契約(PSA)をベースとし、探鉱活動を活発化している。
 Ambatovyプロジェクトは、以上のようなマダガスカルの政策、投資環境の下、大規模鉱業法に基づくプロジェクトとして位置付けられ、各種直接・間接税の減免措置、為替制限の撤廃、輸出入関税の減免措置、法律的位置の確保などの政府からの優遇及び保障を受けられることとなる。

3. Ambatovyプロジェクト 今後の予定

 2006年10月のKoresグループ参入後、プロジェクトは、開発に向けて大きく進展しており、現在は、鉱山建設に向けてのプロジェクト・ファイナンスの交渉・手続きが進行している。
 プロジェクトにおける借入金額は、総所要額29億US$(初期投資額25億US$+借入コスト)のうち、50%~60%に当たる17億US$以上とし、プロジェクトへの融資団には、参加企業の本拠地となる各国の対外投資に係る公的金融機関である、日本の国際協力銀行、韓国輸出入銀行、カナダ輸出金融公社の他、アフリカ開発案件として、同じく公的金融機関である欧州投資銀行及びアフリカ開発銀行が参加しており、この点においても、国際共同プロジェクトの色彩が強く出ていると言えよう。2006年12月にファイナンスの基本事項は合意されている。
 一方、政府許認可事項として、2006年12月、マダガスカル政府により、開発計画に関する環境アセスメントが承認されている。
 以降、今後のスケジュールは、2007年第1四半期中に、本鉱山開発に係る優遇税制措置、法的安定性の確保などを内容とした、マダガスカル政府からの大規模鉱業法(LGIM:Madagascar’s Loi sur les Grands Investissements Minieres)に基づく正式認定書の受領が、2007年第2四半期中に、最終的なファイナンス契約への署名が予定され、その後、2007年半ばからの鉱山建設開始が計画されている。建設予定期間は32か月、2010年第1四半期に完了し、以後、生産に移行する計画である。
 
おわりに
 Ambatovyプロジェクトは、特に昨今のニッケル市場価格が高騰している状況下で、大規模プロジェクトであるという点で、十分に重要な位置付けとなるものであるが、加えて、非鉄業界において、特にニッケル業界は、昨今のM&Aの中心舞台となり、一層の寡占化が進む中、本プロジェクトが大手、既存企業ではなく、かつ、日本、カナダ、韓国企業による国際的な共同資本によるものである点においても、ニッケル業界の中では特殊なものとして捉えることができ、この点、非常に興味深いプロジェクトである。
 さらに、日本企業による新規鉱山開発案件の投資対象としては、近年疎遠であったアフリカ地域において、今回の日本企業の資本参加は、非常に意義のあるものであると同時に、これまで鉱業生産活動がほとんど皆無であった、マダガスカルにおける初の大規模鉱山開発案件であるということも、同国における探鉱・鉱山開発への投資の活性化に繋り得る重要な位置付けのプロジェクトであると言え、今後の開発・生産動向が注目される。
   
 (参考資料等)
 ・Dynatec Corporation資料ホームページ:www.dynatec.ca/home/index.php他
 ・住友商事(株)ニュースリリース他
 ・Mining Journal誌 ”Madagascar” A Mining Journal Supplement 、他

 

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