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報告書&レポート

2007年4月12日 ロンドン事務所 及川 洋 Tel:+44-20-7287-7915 e-mail:oikawa@jogmec.org.uk
2007年33号

胡錦濤中国国家主席のアフリカ訪問について

 中国の胡錦濤国家主席が、本年1月30日から2月11日までの間、アフリカ8か国(カメルーン、リベリア、スーダン、ザンビア、ナミビア、南アフリカ、モザンビーク、セーシェル)を訪問した。胡主席のアフリカ訪問は就任以来3度目、2006年4月(ナイジェリア、ケニア、モロッコ)に続き2年連続であり、また、2006年6月には温家宝首相がアフリカ7か国(エジプト、ガーナ、DRC、アンゴラ、南アフリカ、タンザニア、ウガンダ)を訪問、同11月には北京において第3回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を主催し、アフリカ43か国の首脳、5か国の代表を招聘するなど、この一年足らずの間の中国による対アフリカ外交は極めて活発である。
 最近の中国の攻勢の趣旨は要すれば資源確保にあると多くの報道等において概ね一致しており、かつ、アフリカでの利害が衝突する欧米からのみならず、現地アフリカ諸国の中からも、安い中国製品(繊維など)の流入で国内産業が市場を奪われつつあること、中国からの投資が期待したほど経済的、社会的メリットをもたらさないことに起因して「警戒論」ともいえるような世論が台頭してきている。こうした中で実施された今般の胡主席の歴訪は、総括すれば、成否は別として「資源確保」という目的は前面に出さず、アフリカ諸国との対等かつ互恵的な関係(貿易関係)強化の指向を示し、また、スーダンでの首脳会談におけるダルフール問題に対する発言に見られるように、従来の内政不干渉のスタンスを若干転換して国際社会が求める役割にも意を配ったものであったといえよう。
 本稿では今回の胡主席の8か国訪問の内容及び現地の反応等について主として現地発の報道から紹介することとしたい。

1. 今回の歴訪における各国との合意事項

 今回の胡主席の8か国歴訪においては、経済(債務免除、資金供与含む)、教育、医療、福祉等々の分野で50項目以上の協力協定(案件)に署名したといわれている。
 それぞれの訪問国での主な合意事項は概ね以下のとおりである(訪問順)。
(1) カメルーン
 ・経済、技術関係プロジェクトへの5.1百万$の供与と3.9百万$の融資
 ・通信インフラへの45百万$の融資
 ・債務免除
 ・学校建設、病院への医療機器供与、病院建設への協力  等
(2) リベリア
 ・技術・経済協力に関する合意
 ・対リベリア債務の10%の免除
 ・マラリヤ薬提供(マラリア対策として1.3百万$の供与)
 ・2大学の近代化、3学校建設への協力
 ・中国向けリベリア製品への関税免除
 ・新外務省庁舎の建設      等2年間で25百万$以上の規模の支援
 
(3) スーダン
 ・首脳会談時のダルフール紛争解決への要請
 ・バシール大統領宮殿建設資金12.8百万$の無利子融資
 ・各種プロジェクトへの5.1百万$の供与
 ・ダルフールへの人道支援、物資提供(40百万元相当)    等
 
(4) ザンビア
 ・インフラ整備、農業、資源、人材育成に関する共同声明
 ・経済、技術、教育、文化等8分野の合意
 -61百万$の債務免除
 -ジンバブエ製品の0関税品目の拡大
 -カッパーベルト地帯でのアフリカ最初の経済貿易協力区設置(中国企業の輸出関税、付加価値税免除。同地域に800百万$相当の中国からの鉱山投資を想定)
 -農業技術センター、2学校、病院、マラリア対策センターの建設協力    等
 
(5)ナミビア
 ・経済・貿易分野での協力に係る共同声明(鉱業、農業、観光、製造業、人材育成含む)
 ・各種プロジェクト(詳細は不明なるも学校建設、中国からの観光事業促進、人材育成等と推測される)への4.2百万$の資金供与、4.2百万$の無利子融資   等
 
(6)南アフリカ
 ・二国間の政治、経済協力関係に関する共同声明
 ・資源エネルギー分野での協力合意(中-南ア間での資源エネルギー個別分野での協力のための委員会設置)
 ・経済・技術協力に関する合意
 ・中-南アの貿易、経済協力に関するWebサイトの開設
 ・African World Heritage Fundへの1百万$の拠出       等
 そのほか、胡主席はプレトリア大学で中国-アフリカ関係についての講演を実施。その中で、アフリカの学生への中国留学枠を2,000人/年から4,000人/年に倍増することを表明。
 
(7) モザンビーク
 ・新たな戦略的パートナーシップに関する共同声明
 ・経済、技術、農業等8分野での合意
 -1980年以降の約20百万$の債務免除
 -農業、保健、教育分野への155百万$の融資
 -農業技術センターの設立支援
 -2010年の南アでのFIFAワールドカップのウォームアップ施設となることを念頭に置いたナショナルスタジアム建設のための15百万$の無利子融資
 -学校建設支援
 
(8) セーシェル
 ・投資保護協定締結を含む5分野での合意
 -具体的には国会議事堂、学校建設への協力
 -1.5百万$の資金供与、300百万元の融資            等
 

2. 今回歴訪の特徴

(1) 中国の意図
 今回の歴訪は、形としては、2006年のFOCACのフォローアップ、特にその際の合意事項を具体的な実施に移すステップとしての位置付けであるが、冒頭記したように、最近の中国の対アフリカ資源外交攻勢に対して、欧米諸国からは、スーダンのような人道問題を抱える国に対しても内政不干渉を原則に支援を行っていること、あるいはパリクラブメンバーがアフリカ諸国の持続的発展を意図して対外債務免除を行ってきている一方で、各国の持続的な発展の支障となりうるような融資を行っていること等を切り口とした批判が高まっている。また、支援を受ける側であるはずのアフリカ諸国においては、例えばザンビアの鉱山労働者の賃金労働環境の問題や、安価な中国製品の大量流入により国内産業がダメージを受けていること(極端な貿易のインバランス)などに起因する中国への警戒感、メディアの言葉では「新植民地主義」とも表現されるような批判が高まってきている中での訪問であり、こうした欧米、アフリカ諸国の世論を相当考慮した内容であったと思われる。各国での合意事項も、資源のみならず、相互の貿易促進(中国側の輸入拡大)、教育、文化まで広く包括したものが多く、行く先々での発言には、「対等」、「互恵」、「相互発展」、「win-winの協力」、「発展への支援」といった言葉がちりばめられている。
 その端的な例は、胡主席が南アフリカ・プレトリア大学で学生等を前に行った講演の中に現れている。この講演の中で、胡主席は次のような発言を行っている。
 
 「中国国民とアフリカの人々は、これまでも対等で、互いに信頼と誠意をもった友人であり、双方の利益となる協力のパートナーであり、また、困難な時期にもともに助け合う兄弟であったし、今後ともそうあり続けたい。」
 「(FOCACにおいて)中国政府は、アフリカへの実質的な支援を強化し、アフリカの発展を支援するための8つの政策を発表した。これらは中国の対アフリカ支援の拡充、債務免除、アフリカへの中国市場の開放、経済・社会分野での協力を含んでいる。中国とアフリカの密接な協力は、アフリカの平和と発展に対する国際社会の注目を高めつつあり、国際社会におけるアフリカの地位を向上させるものである。」
 「中国は、中国-アフリカ間の貿易不均衡、投資の不均衡を強く意識しており、アフリカ各国とともに、この問題に対処するための実効的な対策を講じ続けるつもりである。こうした努力により、中国-アフリカの協力関係は、着実な進歩を続けると信じている。」
 
 また、「新植民地主義」という批判に対しては、明の時代にアフリカ東部を訪れた鄭和(Zheng He)の例や中国自体過去に植民地として支配された歴史があること、中国自身が未だに発展途上段階にあること等に触れつつ、その懸念、批判を払拭しようとしている。具体的には以下のような発言があった。
 
 「600年前、中国の有名な航海士であった鄭和(Zheng He)は、大きな船団を率いて4回に亘り海を越えアフリカ東岸を訪れた。彼らは、銃や刀、略奪や奴隷制を持ってきたのではなく、平和と親善のメッセージを携えてきた。」
 「中国の近代史の中で、中国国民は、アフリカの多くの国がそうであったように、100年以上の間、植民地支配、外国からの圧制の下に置かれていた。」
 「中国国民は、植民地主義、圧制、奴隷制に最も強く反対する。」
 「中国は、決して他国に我々の意思を押し付けたり、不平等な行為を行ったことはないし、これからもない。アフリカやアフリカの人々の意思に対して害をなすことは決してしない。」
 
(2) アフリカ各国での報道振り
 このような、中国側の意図が額面どおり、各国各層に受け入れられたのか、という点については、総じて、かつ、当然のことながら各国政府首脳ベースでは、胡主席の来訪、コミットメントを歓迎する発言が多い。他方、必ずしも各層の意見を代弁しているとも言い切れないが、メディアは、ややネガティブな評価をしているものが多いようである。
 
 ⅰ 南アフリカ
 例えば、ある南アフリカ紙では、「中国主席の甘酸っぱい訪問」と題して、次のような内容の記事を報じている。
 「胡主席は、アフリカに来て、「見た」が「征服」することは出来なかった。各国政府は胡主席が表明した経済支援等に満足したが、現場では物事はそう上手くは進まない。スーダンでは、ダルフール問題に関して中国はごく僅かなプレッシャーしか与えなかったことを、政府の役人たちはあざ笑っている。ジンバブエでは、カッパーベルト地帯の訪問予定があったが、講義デモの懸念からキャンセルされた。ナミビアでは、中国が進出してきてから犯罪が大幅に増加したと人権団体から攻撃を受けた。南アフリカでは、合意されたものは内容が乏しく、逆に中国は、新植民地主義への批判や貿易不均衡、輸出製品のダンピング問題などから自国を守らねばならなかった。」
 また、別な南アフリカ紙では、南アフリカと中国の経済関係に関して、「中国と南アの貿易は、2006年11月段階で対前年34.5%の伸びを示しているが、中国の支配拡大とインフラ関係プロジェクトが中国企業と中国人労働者に結びついていることへの批判が高まっている。南アの貿易関係労働組合は、「中国製繊維製品の輸入は、10万の国内の雇用を奪っている。両国政府は輸入制限措置に合意すべきである。」と述べている。」と報じている。
 
 また、これは、南アフリカのような外交的にも経済的にもある程度力をもった国ならではの記事であるともいえるが、ある報道紙では人道問題を抱える国々への中国支援に関して次のような内容を報じている。
 「中国の支援や、投資、貿易はもっとアフリカに貢献すべきものであるが、北京政府が内政への不介入主義を続ける限り、かえってアフリカにダメージを与えるおそれがある。」さらには、中国自体が抱える人道問題であるチベット問題を取り上げ、南アフリカは中国に対してチベット問題を正視するよう働きかけるべきである、とまでコメントしているものがあった。
 
 ⅱ ザンビア
 訪問の事実を淡々と述べたものを除き、南アフリカ以外の国から発信された解説的な情報は極めて乏しいが、胡主席のザンビア訪問に関して、ザンビア鉱山関係者のコメント等を報じているものがあった。
 ザンビアでは、2005年に中国が権益を持つChanbishi鉱山において、49人もの現地労働者が死亡する事故がおき、また、2006年は労働条件を巡っての騒乱で、現地従業員の射殺事件が起っている。当初、胡主席は前述のように、カッパーベルト地帯を視察する予定であったが、現地での抗議デモの懸念から、訪問がキャンセルされた。
 当該報道は、こうした状況を踏まえつつなされたもので、ザンビアの鉱山関係者の中国についての見方として、「最近の多くの中国系企業での劣悪な労働条件をみれば、このような中国の投資はザンビアの普通の人々にとっては、ほとんどメリットはない」とし、特にザンビアの鉱山労働者組合の会長の次のようなコメントを紹介している。
 「(ザンビア)政府の(外国投資優遇策などの)政策変更が無い限り、こうした(中国からの)投資はザンビアに裨益するものにはならないのではないか。中国は、ザンビアに何の付加価値ももたらさないまま、単に資源を持っていくだけだ。」
 他方、こうした世論に対し、「新たな中国からの投資は、労働者の労働条件を確実に改善するであろうし、ジンバブエの経済・社会発展にとって必要なものである。」、「中国からの投資が今後一層増えていくなかで、政府としてもこうした中国企業の労働環境を正すべく取り組んでいく。」との政府側の見解も併せて報じている。
 
 ⅲ その他
 同時期、今回の訪問国ではないが、タンザニア紙において、政治面1面を割いて、「中国は本当にアフリカの友人か?」と題して、胡主席の歴訪、各国へのコミットメントを論説しているものがあった。基本的には南アフリカ等での報道と同様、中国製品の流入による繊維や食品産業に対するダメージを取り上げるとともに、中国はアフリカを資源の調達先、それを自国でプロセスした上で輸出する製品のマーケートとしか見ていないのではないか、という論調のものである。

3. 最後に

 ここまで紹介した記事は、今回の胡主席の訪問をやや批判的に捕らえたものが多く、また、あまり肯定的歓迎的な解説をしたものが見られなかったことは事実であるが、必ずしもこれらが各国各層の最大公約数的な考え、世論を代弁しているとはいえないことは繰り返しておきたい。
 筆者は今回の胡主席の訪問に関して、いくつかのアフリカの企業、現地の日本企業の方々とも意見交換をしたが、アフリカといっても置かれている経済状況、発展段階には当然差異があり、これらによって中国の関与(支援)に対する見方、受け止め方には違いがある、というのが皆さんの一致した認識であった。要すれば、国によっては背に腹は替えられないということであろう。
 また、最近面談したあるアフリカ中堅国の政府高官は、最近の中国の動きについて、「中国の意図は、現時点では資源確保が重点だが、やがては食糧確保という意味でも中国にとってアフリカが重要になると考えているのではないかと思う。他方、我々は、インフラ建設でもその他の製品でも日本の品質が中国のものより優れていることは皆認識している。ビジネスの相手として日本への信頼は高い。アフリカには日本が入ってくる余地はまだ十分にある。」と述べている。

 

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