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報告書&レポート

2007年4月19日 バンクーバー事務所 宮武 修一、ロンドン事務所 高橋 健一 Tel:(バンクーバー)+1-604-685-1282 Tel:(ロンドン)+44-20-7287-7915 e-mail:(宮武)miyatake@jogmec.ca (高橋)takahashi@jogmec.org.uk
2007年36号

南アフリカ共和国のBlack Economic Empowerment


1. はじめに

 アフリカ地域への鉱業投資を促進する団体、Mine Africaは、2007年3月3日、トロントにおいてBlack Economic Empowerment(BEE)と題するセミナーを開催し、世界最大の鉱業大会であるPDACに参集する投資家向けに、新しい南アフリカ共和国(南ア)鉱業のステークホルダーが備えるべき条件について幅広く紹介を行った。セミナーには南ア政府関係者、南アおよびカナダの鉱山会社・探鉱企業、エンジニアリング企業関係者を中心に約60名が参加、8つの講演と2つの討論会を通じてBEEが開発者に課す新しい義務、課題と見通し、基本的な政府の姿勢、企業の実践的な対処法などにつき約8時間にわたり幅広く紹介された。JOGMECバンクーバ事務所はロンドン事務所と連携しつつ、ここ数年変化が著しいBEEに関する最近の動きを概観する目的でこのセミナーに参加した。以下セミナー中、とりわけ重点がおかれたBEEを巡る現状、主に探鉱ジュニアカンパニーを対象にした外資の参入方法について簡単に報告したい。
 

2. BEEとは

 1994年に発布された南ア新憲法によりアパルトヘイトが撤廃され、南ア中央政府は数の上で圧倒的多数を占める黒人により運営されることになった。2000年にはPolicy Flamework Actの成立により地方政府の構成においても黒人比率が原則80~90%程度を占めるよう改められ、中央・地方共に黒人主体の政権運営がなされるようになった。このような「歴史的に(1993年以前に)不利益を被ってきた南ア人」(Historically Disadvantaged South African: HDSA)が各種権利を回復する動きは広くprocurementと呼ばれている。本稿の「Black Economic Empowerment (BEE)」とはこうしたprocurementの一部であり、人口の大多数を占めるHDSAらが南アの経済上のキーセクターに参加して応分の位置を占めることを促進するための政策を意味する。BEEとはアパルトヘイトによる黒人たちの歴史的ダメージを回復するキーポリシーとしての役割を担っているのである。
 資源分野は無論南ア経済のキーセクターに相当し、1998年に示されたMinerals and Mining Policyによって、これまでの南アの鉱業制度が抜本的に再構築されることになった。Minerals and Mining Policyは、それまで一体であった地上権と鉱業権の分離、政府ロイヤルティの徴収、HDSAらの鉱業への参入障害の撤廃などを定め、この方針に沿って以下のBEEに関係する法律が逐次整備されてきている。2002年に制定、2004年5月に施行されたMineral and Petroleum Resources Development Act (MPRDA)は、単に鉱業権をHDSAに付与することに留まらず、HDSAの権利回復プロセスを擁護する企業に対してのみこれを認めると改められた。また2003年にはBroad Based BEE Actが施行され、HDSAのみならずBEEの裨益者を女性、労働者、障害者、傷病者、過疎地区住民など広義にとらえるよう新しく定義した。更に2004年にはMining Charter(鉱業憲章)も制定され、既存鉱業権者の見直しとBEE裨益者への権益譲渡の加速化が図られることになった。今回のセミナーの中心的な話題とはこの鉱業憲章が定めるところの鉱業権申請の方法や手続き、また外資による南アへの具体的な参入方法など、外資のための実務的な内容が主であり、これらについて章を改め簡単に紹介することにしたい。
 

3. 鉱業憲章が定める権益比率とスコアカード

 BEEの基となる南ア鉱業憲章は2004年8月13日付けの政府官報として公布、同日施行された。これにより、鉱業権はHDSAに対して優先的に付与されなければならないとした理念が、実際の手続きとして明確化されることになった。鉱業憲章は、HDSAの確保すべき権益比率とその猶予期間の明示、鉱業権申請者の適性審査として新たにスコアカードの提出義務づけを定めている。
 HDSAが確保すべき権益比率は、HDSAの各探鉱開発事業への参加の仕方によって異なっている。仮に単独の事業者が鉱業権の保有を望む場合、HDSAに50%プラス1株以上の権益比率がHDSAに存在し、HDSA側に経営権が握られていなければならないとされている。またHDSAが第三者との戦略的JVを組織する場合、HDSAに対しはミニマムの条件として25%プラス1株(26%)の権益確保がなされていなければならない。他方、消極的な参加であり、HDSAがプロジェクトの経営に関心がない場合であっても26%の権益持ち分というものは最低確保されなければならない水準とされている。このため外資が南アにおいて探鉱を計画し、自身がオペレータとして事業を行う場合、まず現地の適当なHDSA組織を探し出し、事業パートナーとして迎え入れる必要があるのである。パートナーには最低26%の権益を与えなければならず、この権益はいわば探鉱資金負担を求めないフリーキャリーとなると考えて良い。なおBEE関係者の表現によく注意すると、26%の確保というものがempowermentと呼ばれることは無く、empoweredとして明確に区別されているようである。 51%の持ち分をしてempowermentであることから、BEEの理念とはあくまでもHDSAによる経営権の回復であることがわかる。
 BEEの下、HDSAらへの権益移転を促進するため、鉱業憲章施行後、全ての登録済みの鉱業権は更新手続きを行い、鉱物・エネルギー省省(Department of Minerals and Energy:DME)の審査を経て新しい鉱業権として登録し直さなければならなくなった。更新にあたっては期限も切られ、2009年5月1日までに完了することと定められている。既存鉱山の全ては無論これに従うが、権益譲渡については中間目標が設けられており、2009年までには最低でも15%の譲渡を達成することが必要で、またその後遅くとも2014年までに26%の権益譲渡を完了しなければならないとされている。
 また更新の際には、鉱業権申請者(更新者)のBEEへの取り組みの程度を示すスコアカードを新たに添付することが定められた(別表)。スコアカードとは、職業訓練、雇用機会均等、地域社会への還元、住宅の提供、権益持ち分など9の大項目についてそれぞれ申請事業者がBEEについての達成度、5年後、10年後の目標を書き込むことになっている。スコアカードは事業者による提出後、DMEにて審査され、それぞれの項目につき採点が行われる。各項目の達成度が採点された後、あらかじめ定められた各項目の重み、例えば権益保有20%、雇用・職業訓練15%などが加味され最終的なスコアというものが算出される。このスコアは BEE Recognition Levelとしてレベル1(135%)、レベル2(125%)から8(10%)までに区分され、更に100点満点に換算され、申請事業者のBEE到達度(BEE status)というものが明らかにされる。当落の基準は明確ではないものの、あまりに得点が低い(目安として60点未満)申請事業者には鉱業権が認められないという事態になりうる。またさほど到達度が高くない場合、ペナルティとして鉱区当たり25ランドの鉱区税が加算されるという。逆に高いBEE 到達度を示した事業者の場合、税クレジットが与えられるなど当該事業者は厚遇されるという仕組みである。こうした大胆な採点制度はあまり類例がないが、南アに展開する各社の間では戦々恐々といった噂もあり、いわゆる鉱業関係のBEEイシューへの取り組みというものは、このスコアカードに凝縮して現れると考えて良い。
 既に多くの更新手続きが行われている模様で、セミナーにおけるDMEの発表によれば、現在までに、探査権19,000件、採掘権1,800件の新規および更新の申請があったとのことである。現時点でこのうち探査権については60%、また採掘権に関しては82%が処理済みであるという。なお2006年9月には、DMEは鉱区申請を審査する期限を定めると明言し、申請書受理後、探査権について6か月、採掘権について1年以内にそれぞれ結論を出すとしている。
 

4. 外資による探鉱開発投資とヨハネスブルグ証券市場の取り組み

 外資企業、とりわけ資金調達の多くをエクイティファイナンスに依存している探鉱会社が、南アで探鉱事業を行う場合、同国の諸規制の要求と実際の資金調達を両立させるため、海外本社と現地法人、またパートナーとするHDSA企業間の最適構造というものをよく考える必要がある。外資が南アへの探鉱投資を行う場合、現地法人の設立が必要とされる。南アに非居住(non-resident)の事業者はShare-marked Reserve Bank (SARB)なる商業銀行に口座を開設しヨハネスブルグ証券市場の第二部(Secondary Listing)に上場する。南アの非居住(Non-resident)企業は、南アの居住(resident)企業に比較して、例えば株主構成の変化、送金などの報告義務が存在しないなど、証券規則は細かく適用されず、より簡易な管理下で活動できる。他方、ヨハネスブルグ証券市場を通じた株式発行による調達資金額は、必要総額の50%までと定められており、同額の南ア国内における「借り入れ」が求められるなど、市場から大きな資金を得にくい構造になっている。このため外資が南アにおける探鉱開発を行うためには、カナダなど本国や第三国において資金調達を行うことが不可欠であり、この資金を南アに持ち込むようなオフショアを経るループ構造の構築が必要になる。しかもBEEの要求から、国内で別途パートナーを得なくてはならないことから構造は複雑化し、図1に示されるような基本構造の下、外資による探鉱開発が行われているのが現状である。

  図1 外資が南アにおいて探鉱開発を行う場合の構造例
 図1 外資が南アにおいて探鉱開発を行う場合の構造例
 

 ヨハネスブルグ証券市場の使い勝手の向上は一つの課題になっているようであるが、最近の南ア国内のいわゆる探鉱ジュニアカンパニーの増加を踏まえて(現在約60社)、フロースルー株式制度の導入が本格検討されているという。フロースルー株式制度とは、国内の資源開発促進のため国内探鉱を行う事業者を優遇し、投資家がその探鉱企業が発行するフロースルー株式を購入する場合、購入代価の一部を経費として認めるという制度で、カナダで開発され定着を見せている。カナダの場合、州により異なるものの投資家にとって、実質的に代金額の30~50%の支払いにより100%額面の株式が得られるということから、資源分野への関心の増大も相まって人気が高く、他方事業者側にとっても資金調達が容易になるなど相互にメリットが大きい。
 
5. おわりに

 南アで現在進行しつつあるBEEとは、不可逆的な流れという見方が固まっている。またBEEイシューは広くアフリカ全土へと緩やかに伝搬しつつあり、ナミビア、ナイジェリア(石油・石炭)では具体的な動きがあるという。こうした変化の兆しは、アフリカ鉱業に対して中長期的な変化をもたらすという指摘もあるようである。
  南アでは、BEEの導入初期段階では、とりわけ権益の譲渡について事業者側からの反発も大きく、失望からHDSAグループとのJVをいったん形成するも、直後に事業を精算し海外に転ずる動き(cash out)や、またHDSAの中に極端な富裕層が現れてしまうなど、本来の制度主旨とは異なる結果も多く現れたという。他方Lonmin社のようにBEEを十分に受け入れている企業として政府に認知されている企業も少なくなく、南ア鉱業界の理解も深まるなど徐々に浸透をみせているという現状のようである。
なお、JOGMECでは、今回報告したBEEの内容も含めた、南アフリカ鉱業全般に亘る投資環境レポートを近々刊行予定であり、興味のある方は、そちらの方も参照していただきたい。

(別表 鉱区更新、申請に伴い提出が義務づけられるスコアカード)(別表 鉱区更新、申請に伴い提出が義務づけられるスコアカード) (別表 鉱区更新、申請に伴い提出が義務づけられるスコアカード)

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