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報告書&レポート

2007年4月26日 ジャカルタ事務所 池田 肇 Tel:+62-21-522-6640 e-mail:jogmec2@cbn.net.id
2007年40号

インドネシア鉱業法改正の行方 その5

 1. はじめに

 2007年3月29日、ユドヨノ政権の最重要法案の一つである新投資法が、2006年3月の議会上程から1年を経て漸く成立した。新投資法には、内国企業と外国企業の差別を撤廃する内外無差別の原則や投資家に対する税、許認可サービスにおけるインセンティブの保障、投資分野における中央政府と地方政府の業務分担の明記、関係主管省庁から事業許認可を取得する際に投資調整庁(BKPM)をシングルウィンドウ(ワンドア統合サービス)機関の一つと位置づけ、大統領の直轄(現在は商業省)機関に格上げする規定などを盛り込み、インドネシアにおける内外投資の法的基盤が整備された。
 一方、鉱物石炭鉱業法案(RUU Pertambangan Mineral dan Batubara:(以下「新鉱業法案」という)は、新投資法案の審議に先立つ2005年5月に議会に上程され約2年を経た現在もなお議会において審議中である。
 本稿では、新投資法案のポイントと、同法案の成立が新鉱業法案の議会審議に与える影響を分析した。外国投資の全容を把握するには、新投資法に関連するすべての大統領令と関係省令の発行を待たなければならない。したがって、現時点で個々の鉱業投資に対し法律がどう適用され、運用されるかは不明(白紙に近い)である。以下の報告は、鉱業投資に関係する条項を抜粋し、新鉱業法案の審議に影響すると思料される事項について筆者の考えを紹介したもので、法律の解釈に誤りもある可能性もあるので、その点につき留意をお願いしたい。

2. 新投資法案(投資実施)の目的

 新投資法は、現行の外国投資法(1967年法律第1号)、内国投資法(1968年法律第6号)、外国投資改正法(1970年法律第11号)及び内国投資改正法(1970年法律第12号)を統一する法令である。18章40条からなり、第2条で「インドネシア共和国領域の全ての産業分野への投資に対して有効である」と規定し、第3条第1項では「投資は、法の確実性、開放性、説明責任、平等待遇、共同性、公平な効率性、持続性、環境への配慮、自立性、国家経済の統一と成長の均衡に基づき実施される。」と規定している。同条第2項では「投資実施の目的は、国家経済成長の向上、雇用機会の創出、持続的な経済開発の向上、国内企業の競争力の向上、国内の技術能力の向上、国民経済開発の促進、国内外の資金を用いて潜在的な経済力を現実のものとする、国民の社会福祉の向上である」と規定している。
 したがって、鉱業投資は第2条に基づき新投資法で規制され、第39条で「投資に関連するすべての法規は、本法に基づきその規定に整合する義務がある。」と規定される通り、新鉱業法案は、新投資法に整合する義務を負うことになった。

3. 投資規制対象業種(ネガティブリスト)の作成

 第12条第3項では、「政府は大統領令に基づき、保健、道徳、文化、環境、国防・治安、その他国益の基準に基づき、国内投資及び外国投資に閉鎖されている事業分野を定めるものとする。」と規定。ネガティブリストは大統領令によって別途定めるとしている。
 第12条第5項では、「政府は、国益の基準に基づき、条件付きで開放される事業分野とは、天然資源保護、零細・中小企業及び協同組合の振興保護、生産及び流通の監督、技術能力向上、国内資本の参加並びに政府指名の事業体との協力を定める」と定義、限定している。
 旧ネガティブリストは、大統領令2000年第96号及び大統領令2001年第127号により定められている。その業種は次のとおり。
 <大統領令2000年第96号>
 (1) 内外の民間投資を禁止する業種(11分野:鉱業関連では放射性鉱物の採掘)
 (2) 外国からの投資を禁止する業種(8分野:合弁形式での参入も禁止)
 (3) 外国資本と国内資本との合弁形式での参入を認める業種(9分野)
 (4) 条件付で開放する業種(20分野:天然資源開発関連では石油・ガス採掘サービス)
 <大統領令2001年第127号>
 (5) 小企業のために留保する業種(19分野:エネルギー鉱物分野として地域鉱業を指定)
 (6) パートナーシップを条件に大・中企業に解放する業種(16分野:エネルギー鉱物分野として地域鉱業を開放)
 旧投資法の下では、鉱業投資は特別法である鉱業法(1967年法律第11号)を基本法令とする。鉱業法では、外国資本が設立した会社(PMA:Penanaman Modal Asing)が鉱業権を保有することは認めていない。そのため、その扱いは上記②の外国からの投資を禁止する業種に該当する。一方、鉱業事業契約(COW)制は外国投資家に鉱業投資の機会を認めているため、石油・ガス採掘サービスと同様に④の範疇に分類されると推察される。
 新鉱業法案は、新投資法の内外無差別の基本方針を反映。国内企業(PMDN:Penanaman Modal Dalam Negeri)に限定してきた鉱業権の保有をPMA法人にも拡大。商業省によれば新たなネガティブリストは、関係省庁との協議を踏まえ1か月をかけて作成される計画である。鉱業投資が、完全に、あるいは条件付けで開放されるのかは今後の推移を見守る必要がある。
 新鉱業法案では、鉱業事業契約(COW)制度を廃止し、鉱業事業はすべて事業許可制(Izin Usaha)へ移行する。放射性鉱物の開発は、エネルギー鉱物資源省大臣が国営企業あるいは州営企業に委託する委託鉱業事業(PUP:Penugasan Usaha Pertambangan)となる。外国投資家はコントラクターとしてのみの参加が許される。その他の鉱物資源の開発は、鉱業事業許可制(IUP:Izin Usaha Pertambangan)に変更となる。現在、議会審議において鉱業界が事業契約(COW)に類似する制度としてその導入に期待を寄せている鉱業事業協約(PUP:Perjanjian Usaha Pertambangan=Mining Business Agreement)は、政府指名の事業体との契約(協力)に該当するため、第12条第5項に整合する。したがって、鉱業投資は、国益に基づき、条件付きで開放される事業分野に該当すると思料される。当然のことながら、最終判断は新ネガティブリストの発行を待たなければならない。

4. 投資家の義務(環境修復基金の拠出)

 第17条では、「再生不可能な天然資源事業を行う投資家は、環境妥当性基準を遵守した原状回復のために、段階的に資金を割り当てることが義務付けられ、その実施は、法規に基づくもの」と規定している。したがって、新投資法は、石油・天然ガス・鉱物資源・石炭などの投資について環境修復のための資金の確保を義務化したことも特記できる。
 ちなみに、鉱物資源開発に係る鉱害防止積立金制度は、エネルギー鉱物資源省令2003年第45号に規定される。鉱山活動に係る土地の再生は、環境破壊・汚染の防止・管理に関するエネルギー鉱物資源省令No. 1211.K/M.PE/1995により規定されている。鉱山会社は同省令により再生計画を策定し採掘地域の再生を行うことになる。土地再生の担保金は、鉱業総局長(Director General of General Mining)(現在の鉱物資源石炭地熱総局長)の通達(Decision Letter)No. 336.K/271/DDJP/1996により、鉱山会社は、採鉱、生産活動の開始と同時に土地再生担保金の積み立てを開始する。土地再生担保金は、定期預金、引当金、または第三者保証等いずれの形でも可能となっている。ただし、土地再生担保金の形式は、鉱物資源石炭地熱総局長の承認が必要である。
 また、森林用地を借用/利用する鉱山会社は、森林省令No.146/Kpts-II/1999に基づき、借用/利用した森林内の採鉱現場の再生と再生期間、再生金の支払い、再生を実施する組織の設立などを明記した再生計画書の提出義務を負う。土地の再生は採鉱終了後6か月以内に実施しなければならず、また、鉱山会社は、再生が終わった森林を森林省へ返還し、返還から3年間はメンテナンスの義務を負う。現場修復の完了評価は、コミュニティの土地森林環境修復総局長(Director General for Rehabilitation of Community Land and Forests)が設立した中央チーム(Central Team)によって実施される。
 新鉱業法案には、鉱山会社に対し、鉱山開発のあらゆるステージにおける環境管理の徹底と、環境修復の保障(環境修復担保金及び閉山担保金(鉱害防止事業基金))の積み立てを義務化しており、これらも新投資法に沿ったものとなっている。

5. 土地の権利

 第21条では、「政府は、第18条の便宜の他に、投資会社が、a.土地に対する権利、b.入国管理サービスの便宜、c.輸入許認可の便宜を取得するためのサービス及び/又は許認可の便宜を供与する。」と規定している。第22条第1項では、「第21条aの土地に対する権利サービス及び/又は許認可の便宜は、事業権(HGU:最長95年)、建設権(HGB:最長80年)、利用権(HP:最長70年)の形態により、事前に延長分まで一括して供与することができ、投資家の申請に応じて再更新も受けることができる。」と規定されている。第22条第2項では、「同条第1項に対する権利は、「投資分野に応じ投資回収に長期間を要するリスクレベルにある投資や国有地に対する権利を利用する投資などに供与できる」と規定している。
 したがって、鉱物資源開発についても、一定の条件を満足する場合、長期間安定した土地使用が認められると思料される。しかし、この条項が鉱物資源開発に一義的に適用されるかどうかはBKPMに確認する必要がある。
 一方、第22条第4項では、「政府は同条第1項、第2項の土地に対する権利や再更新などを行う場合、投資会社が土地を放棄し、公益を害し、土地に対する権利付与の意図と目的に応じない土地の利用又は活用及び土地分野の法規違反を行った場合には、これを停止又は取り消す。」と規定している。鉱山会社としては違法・目的行為の定義には一定の尺度がないため法律の運用、乱用が気になるところである。

6. 投資業務の所管

 第30条では、第1項で「政府及び/又は地方政府は、投資実施のために事業の確実性と安全性を保証する。」、第2項で「地方政府は、政府が管轄する投資業務を除き、自らの権限となっている投資業務を実施する。」、第3項で「地方政府の権限下にある投資分野の業務は、外部性、説明責任及び投資活動実施の効率性の基準に基づき決定する。」、第4項で「投資範囲が州をまたぐ投資の実施は、政府の管轄となる。」、第5項で「投資範囲が県/市をまたぐ投資の実施は、州政府の管轄となる。」、第6項で「投資範囲が一つの県/市にある投資の実施は、県/市の政府の管轄となる。」、第7項で「政府の権限となっている投資分野の業務は、a. 環境破壊のリスクが高い再生不可能な天然資源に関連する投資、b. 国家規模で優先度の高い産業分野の投資、c. 地域間の統一、連結機能に関連する、又は州をまたぐ範囲の投資、d. 国防及び治安戦略の実施に関連する投資、e. 政府及び他国政府との契約に基づき他国政府の資金を利用する外国投資及び投資家、f. 法律に基づき中央政府の管轄となっているその他の投資分野。」、第8項で「第7項にある政府の権限となっている投資分野の業務は、政府がそれを自ら実施するか、政府の代理として州知事に委譲又は県/市政府に委任するものとする。」、第9項で「投資分野の政府の業務分担に関する規定は、詳細を政令で定めるものとする。」と規定されている。
 これまでのカレントトッピクス(インドネシア鉱業法改正の行方シリーズ)で紹介した通り、新鉱業法案では鉱業事業許可(IUP)の発行主体は、探鉱許可(IU-Explorasi)については「環境に対する影響が全国レベルになると予想される場合は所轄大臣が発行し、同影響が特定地域に限られる場合は、地方政府が発行する」としている。生産活動許可(IUP-Operasi Produksi)については、探査許可(EP)からの格上げと見なされ、その発行主体は探査許可の発行主体に準じる。「採掘および精製現場が2つ以上の州もしくは県・市の境界にまたがる場合、生産活動許可の権限は、大臣もしくは州知事が発行する」とある。これらの規定は、いずれも採掘および精製現場が2つ以上の州にまたがる場合は、生産活動許可は大臣が発行し、同現場が2つ以上の県・市にまたがる場合は、その上位の州知事が発行する」と規定しており、これらも新投資法に整合するものとなっている。

7. 紛争解決

 第32条第1項では、「政府と投資家の間で投資分野の紛争が生じた場合、両者はまず話し合いを通じて紛争を解決する。」、同条第2項では、「第1項にある紛争解決に達しなかった場合、法規に基づき、当該紛争解決の仲裁、その他の紛争解決方法又は裁判所を通じて解決する。」、同条第3項では、「政府と国内投資家の間で投資分野の紛争が生じた場合、両者の合意に基づき仲裁により紛争を解決することができ、仲裁による解決が合意に至らなかった場合、紛争解決は裁判所で行うものとする。」、第4項では「政府と外国投資家の間で投資分野の紛争が生じた場合、両者が合意した上で、国際仲裁機関を通じて紛争解決する。」と規定している。
 第32条第4項は、投資家に対し国際仲裁機関における紛争解決の道を残し、投資家とインドネシア政府との関係を平等かつ対等とした。これにより、新鉱業法案に係る最大の課題の一つである国際仲裁機関での紛争解決問題は、エネルギー鉱物資源省は難色を示しているものの対応次第では早期成立の可能性もある。

8. おわりに

 新投資法の成立を受けて同法案の成立が新鉱物法案の議会審議に与える影響を分析した。新投資法には、環境破壊のリスクが高い再生不可能な天然資源の投資は中央政府が所管すると定められ、小規模鉱山開発案件は、事業効率性、説明責任等の観点から従前の通り地方政府が所管する構図が描かれている。そのため、新鉱業法案の議会審議において、鉱業事業協約(PUP)制の導入の素地は整ったと言える。ただし、新投資法からは、鉱産物の付加価値化(精錬義務化)の議論は見えてこない。今後の国会審議は、鉱業事業協約(PUP)の導入から鉱産物の付加価値化問題へ移行し、対象鉱種の選定やこれらに関する細かな規定の議論が焦点になってくるのではないかと予想される。
 地元紙によれば、新投資法に対する各派の対応は、民主党(PD)、ゴルカル党(PG)、開発統一党(PPP)、国民信託党(PAN)、福祉正義党(PKS)、開発統一党(PPP)などが賛成票を投じ、民族覚せい党(PKB)と闘争民主党(PDIP)などが、外国投資家に対し土地事業権(HGU)を最大で95年間保障することは、他国に国土を譲渡するのと同等の意味を持つとして反対票を投じた。
 これら各派の対応は、新鉱業法案の議会審議においても、同様の様相を呈している。ゴルカル党(PG)は、鉱業事業許可(IUP:Izin Usaha Pertambangan)制に加え、鉱業事業協約(PUP)の導入を提案しているとおり、投資家寄りの立場にある。これに対し、民族覚せい党(PKB)と闘争民主党(PDIP)は、国民共有の財産である鉱物資源の開発、生産、販売について外国投資家に排他的権利を与える事業契約(COW)、鉱業事業協約(PUP)に反対を唱え、議論の対立が生まれている。
 各党が意見を対立させる中で新投資法が成立したことは、新鉱業法案も早期に可決される可能性が高まったと言え、5月からの議会審議の再開が注目されるところである。

 (なお新投資法の詳細は、ジャパン・ジャカルタ・クラブ調査部会(JETRO/Jakarta Center)が、http://www.jjc.or.id/JJC_corporate.asp?id_cat=6&id_content=212にて、インドネシア新投資法の改善点と課題、新投資法-解説、新投資法(邦文翻訳)、新投資法比較表(国会上程時(2006年3月)と法案と可決された法案の比較)を掲載しているので参考とされたい。)

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