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報告書&レポート

2007年5月24日 バンクーバー事務所 宮武 修一 Tel:+1-604-685-1282 e-mail:miyatake@jogmec.ca
2007年49号

キューバ産ニッケル取り扱いSherritt International社と米国の対キューバ経済制裁

 去る4月20日に発表されたDynatec社の買収で注目されるカナダSherritt International社に焦点をあて、同社ニッケル事業の概要、キューバとの関係、今回のM&Aの内容などについて紹介したい。また対キューバ経済制裁を掲げる米国政府の姿勢、またトピックスとして同社の関係コメントについても触れたい。

1. Sheritt International社とキューバのニッケル生産
 カナダ・ニッケル生産中堅でキューバ産ニッケルを取り扱うSheritt International社(以下Sherritt社)とは、カナダ・アルバータ州に本社を置く非鉄金属、石油・天然ガス、電力、石炭の各生産を手がけるいわば総合資源エネルギー企業である。資産総額は約25億C$で、2006年度売上高は11億4,900万C$。2006年度は過去最高益となる5億4,000万C$の利益を上げた(EBITDA-税引き前利益、純利益は2億4,500万C$)。各ビジネスユニットのうち、キューバ産ニッケルおよびコバルトを取り扱う非鉄金属事業が同社の最大の柱となっており、同ユニットの売上は5億4,300万C$(全体の47%)、また利益は2億6,300万C$(EBITDA、全体の48.7%)である。従業員は800名である。
 Sherrit社の歴史は古く1927年にSherritt Gordon Mines Limitedとして創業された。のちブリティッシュコロンビア大学と共同で開発したアンモニアリーチの技術を基礎に、1954年にフォートサスカチュワンに同プラントを設立するなど、この種の技術では草分け的な存在である。1950年代から1980年代にかけて主に肥料生産を手がけていたが、1990年代になってCanada Northwest Energy社を獲得して石油・天然ガスの生産者として名乗りを上げた。その後1994年には、キューバのニッケル資源開発に参入。キューバ政府との50:50のJVにより現地生産会社General Nickel S.A.を立ち上げ、Moa Bay鉱山の生産、鉱石取り扱いを始めた。参入当時のMoa Bay鉱山の鉱量は6,000万t(proven+probable)、平均品位Ni 1.29%(Co: 非公表)で、当時Sherritt社は1億5,000万C$を投じてMoa Bayプラントの刷新を行った。1997年は本格生産に入った最初の年にあたり、地金ベースでニッケル28,300t、コバルト2,496tが生産された。その後ニッケル生産量は漸増しており2002年には3万tを越えるなど、生産は順調に軌道に乗った。2005年3月の統計によればMoa Bay鉱山の生産は33,000tであった。
 現在キューバ国内の3鉱山から地金ベースで年間75,000tのニッケルが生産されており、このうち最大の鉱山がMoa Bay鉱山である。他の2鉱山、ニカロ(13,000t/年)、プンタゴルダ(30,000t/年)はいずれもキューバ資本100%の鉱山である。なおキューバは現在世界第6位のニッケル鉱石の生産国にあたるが、ニッケル埋蔵量の上では世界第2位と目されており、その資源ポテンシャルは注目される。
 Moa Bay鉱山で採掘されるラテライトニッケル(NiO)は山元でPressure Acid Leach (PAL)法により硫酸ニッケルに転換、更に硫化水素を用いてミックスサルファイド(NiS、Ni含有量:60%)に処理されたのちカナダに運搬される。鉱山生産物はカナダのハリファックスまで海上運搬され、そこから鉄路でSherritt社のフォートサスカチュワン精錬所へと送られる。ニッケルサルファイドはアンモニアリーチによりコバルト地金およびニッケル地金へと精錬され、最終生産物としてニッケル粉末(Ni: 99.85%, Co: 0.10%)、シンタードニッケルブリケット(Ni: 99.87%)、製鉄用ニッケルブリケット(Ni: 99.6%)などが生産される。これらのニッケル地金は米国を除いた国々、主にヨーロッパ向けに輸出されている。なおラテライトニッケルの主要な一次処理方法として定着しているPAL法とは、キューバのMoa Bay鉱山で1950年代に開発された技術でもある。
 Sherritt社はニッケル事業以外にも、キューバ国内に石油・ガス、発電事業を有しており、カストロ政権と関係が深い。Sherritt社は、石油・ガスに関してキューバの北東海岸に位置する9つの生産井につき40~100%の権益を有しており、キューバ進出の外資の中では最大の石油・ガス生産者の地位にある。またキューバの電力会社で、ガス発電を行うEnergas S.A.の1/3の権益を間接的に保有する。なお、Sherritt社はキューバ産大豆の取り扱いも手がけていたが、2006年中に同ビジネスは処分された。

2. Sherritt社によるDynatec社の買収とカナダ・ニッケル中堅企業の再編
 去る4月20日、Sherritt社はカナダ・オンタリオ州のエンジニアリング企業でマダガスカル・Ambatovyプロジェクト権益を有するDynatec社の買収について双方合意に達したと発表した。買収は全て株式交換によるもので、買収総額は16億C$。Dynatec社一株当たりの提案額は、直近株価に19%のプレミアムを上乗せた価格に相当している。この買収提案が今後双方株主の承認を得て成立すれば、Dynatec社株主は一株あたりSherritt社0.19株およびFNX Mining社0.0635株を受け取ることになる。
 Dynatec社はマダガスカルに賦存する最大級のラテライトニッケル鉱床であるAmbatovyプロジェクトの40%の権益を有しており、このオペレータを努める。Ambatovyプロジェクトには住友商事および、KORESにより束ねられる韓国コンソーシアムがそれぞれ27.5%づつ参画しており、加えてプロジェクトファイナンスを担うモントリオールの設計施工会社SNC-Lavalin社が5%の権益を保有する。プロジェクトは現在ファイナンシングと政府許認可の段階にあり2007年央の建設着手が見込まれている。Ambatovyプロジェクトの鉱量は1億2500万t (proven+probable)、平均品位Ni 1.04%, Co: 0.099%、採掘期間は27年が見込まれる。Dynatec社は本プロジェクトのほか、主要資産のひとつとしてニッケル探鉱開発でサドバリー周辺にアドバンスド・プロジェクトを有するFNX Mining社の株式24.5%を保有している。
 Sherritt社CEO Jowdat Waheed氏は、「ステンレス需要は中国・インド以外でも高まりをみせ、ニッケル価格は長期的に堅調な推移すると見通され、またキューバ産鉱石とAmbatoby鉱石は極めて似通っており、処理上の相乗効果が期待でき、株主に大きな利益をもたらされる」などと延べた。またDynatec社CEO は「株主にとり良いプレミアム、両者の統合はAmbatovyプロジェクトの前進にとってもプラスになる」などとコメントした。Dynatec社株主にとっても、今回のSherrittによる買収は前向きに捉えられると考えられる。Dynatec単独では、2010年まで売上を生むことができず、また現状ではいわば単一アセットの企業であることからリスクもあり、Sherritt社との合併を通じて、財務や技術力、保有資産の点で厚みを増すことは望ましいからである。
 新Sherritt社のニッケル生産量とは、現在のところキューバMoa Bay鉱山のニッケル生産と等しく、地金ベースで33,000t/年であるが、将来的にはMoa Bay鉱山の拡張により16,000t/年が追加される見通しである。更に今回のDynatec社の獲得によりAmbatobyからの60,000t/年が新たに計上されることになる。(図1、年間生産量はいずれもSherritt社の権益比率を考慮しない鉱山生産量)


図1 新Sherritt社が権益を保有するニッケル鉱山生産の伸び
(地金ベース、権益比率を考慮しない鉱山生産量、
Sherritt社ファクトシートより転載)

 なお2006年カナダのニッケル大手を巡りドラマティックなM&Aが展開されたが、その後もニッケル生産者を巡っては、今回のSherrittのDynatecの買収にもみられるよう、中堅企業の買収や大手のよる囲い込みが継続している。2006年Falconbridge社を買収したスイスXstrata社は、2007年3月26日にカナダ・オンタリオ州の中堅Lion Ore Mining International Ltd.社を46億C$の全額現金により買収することを報じたが、5月2日には最大手のロシアNorilsk社からLionOre社への総額53億C$の対抗ビッドが発表されるなど、大手間のTOB合戦に発展する雲行きとなっている。また2006年Inco社を買収したブラジルCVRD社は、今後サドバリーにおける生産を見込むFNX Mining社に対して、鉱石オフテイク契約を締結したところと伝えられている。  

3. 米国の対キューバ経済制裁とSherritt社、外資によるニッケル投資
 1959年のキューバ革命勃発に伴い、親米バティストラ政権は倒れ、キューバ国内の米国資産はカストロ社会主義政権により没収された。このため1961年より長らく米国とキューバの外交関係は断絶したままである。資源関係では、没収された米国個人・法人の6鉱区の合計は5,911鉱区に上ると見積もられており、Sherritt社が操業を行うMoa Bay鉱山施設もまた1959年に米国Freeport社が建設したものであり、これに含まれると考えて良い。
 Sherritt社がキューバに参入した2年後、1996年2月に起こった米国民間機撃墜を契機に両国の緊張は高まり、クリントン政権は同年3月にキューバ自由民主連帯法(ヘルムズ・バートン法)を成立させた。この法律はカストロ政権に没収された米国資産を獲得した外資に対する厳しい取り扱いを明記しており、この第三項により、革命により没収された米国民の資産を用いてビジネスを行う外国個人・法人に対して米国民は米国裁判所において損害賠償請求を行う権利があること、また第四項により、同資産を有する外国法人の関係者・家族が米国に入国することを禁じている。
 第三項の場合、果たして米国内法により、海外に投資する外国事業者に損害賠償を問えるのかといった論点がある。現在に至るまで歴代大統領はこの項目を「休眠」させる判断を下してきており、第三項に基づく米国民による権利行使というものは行われていない。仮にブッシュ政権がこれを発動する場合、EUは直ちにWTOに提訴することは疑いなく、大きな混乱を招くことが予想される。他方、フロリダ州に多いキューバ系市民はカストロ排斥の急先鋒でもあり、第3項を発動させることは、こうした市民に対する有効な選挙対策にもなるとみられている。
 また第四項は、Sherritt社社員に対して始めて適用された。米国キューバオフィスなる組織は特別調査チームを組織して各社のキューバにおける活動内容の調査を行っているが、Sherritt社は始めてこの調査対象に指定された外国企業であるという。
 
 2005年3月、Sherritt社はカストロ議長とMoa Bay鉱山のニッケル生産拡大協定を締結し、地金ベースで16,000tの生産能力のアップに合意した。また2005年9月には、中国・五鉱集団公司がキューバに現地法人を設立し、6億US$を投じてニッケル鉱山、製錬所、発電所建設への投資を行うことが報じられるなど、ニッケル価格の高騰に伴い、キューバ・ニッケル資源への大型投資が顕在化している。
 このような中、2006年7月には、ブッシュ政権はキューバ産ニッケルを厳しく取り締まるという方針を発表した。これはカストロ政権を抑圧しキューバの人道的援助を行うことを目的とした政府任命の委員会、”Commission for Assistance for a Free Cuba”の進言を踏まえてのことである。同委員会は、カストロ政権が得る外貨所得の半分近くがニッケルの輸出によるものと指摘。これはキューバ国民の利益として反映されておらず、カストロ政権の保全や反米運動の資金源、また人道援助の妨げになっていることから、キューバ産ニッケルを取り締まるために、新たなタスクフォース機関の立ち上げを勧めている。
 現状、キューバ産ニッケル精鉱の約50%はカナダのSherritt International社が精錬を手がけていることから、Sherritt社はいわば名指しでブッシュ政権から批判を浴びた格好になった。こうしたブッシュ政権の意思表示に対し、Sherritt社の会長Ian Delaney氏は、「なにも新しいことではない。アメリカの共産国に対する禁輸措置は無意味なことだ」などのコメントを発表している。
 その後もキューバへのニッケル投資は継続しており、2007年3月にはベネズエラとキューバ政府の間でフェロニッケル生産に関する協定を締結。今後ベネズエラから5億2,100万US$の対キューバ投資がなされることになる。米国の対キューバ経済制裁、ニッケル取り締まり強化のアナウンスにも関わらず、大型投資が次々に現れる状況に米国政府は神経をとがらせているものと推察される。
 かつて一部の英国紙に、今日キューバに投資を行っていない国とはもはや米国のみであり、対キューバサンクションとはカストロ政権にダメージを与えておらず、真の犠牲者とは米国入国がかなわないSherritt社社員とその家族のみであるという見方が掲載された。米国の対キューバ制裁のスタンスについては、様々な見方が存在するようである。
 
参考資料
 権藤 浩, 2006, 金属資源レポートvol.3:キューバの投資環境 pp.57-62
 五十嵐吉昭, 2002, カレント・トピックス 02-25, p.5
 JOGMEC海外事務所, 2005-2007, ニュースフラッシュ:メキシコ事務所、北京事務所、バンクーバー事務所
 Kirwin, Susan, 2007, Northern Miner vol.93-10: Nickel frenzy continues with Sherritt takeover to Dynatec.
 Metal Economics Group データベース
 Ryle, Sarah, 2002, Guardian, June 3: Banned in the USA…
 Sherritt International社: プレスリリース、2006年次報告書、ほかホームページ
 高橋健一, 2007, カレント・トピックス07-25、p.7

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