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報告書&レポート

2007年7月19日 サンティアゴ事務所 平井浩二 Tel:+56-2-228-4025 e-mail:hirai-koji@jogmec.go.jp
2007年67号

CODELCOの経営改革を巡る動向

 チリでは2006年半ば頃から2007年にかけて、CODELCOの経営方式を変更するための議論が繰り返し行われた。これは、チリの国営企業であるCODELCOの運営を経営のプロに任せることにより、現在のコスト高の体制から脱却しようとするもので、CODELCOの改組、新たな資金調達方法、銅機密法の廃止等、様々な事項が検討課題となっている。CODELCOの改革案は2007年中に国会に提出される見込みで、チリ政府は早急に対策を実施したい意向である。
 地元各紙で報道されたこれら改革案の内容を総括し、CODELCOの経営改革を巡る最近の動向を以下の通り取り纏めた。

1. CODELCOの経営方式変更を巡る動きの背景
 CODELCOに関する経営方式変更の検討が繰り返し行われている背景には、以下の理由があると考えられる。

 
(1)
Chuquicamata、Salvador、Andina、El Teniente等、CODELCOの鉱山では鉱石品位の低下、鉱石採掘現場の深部化等、採掘条件が年々悪化しており、採掘に技術的な困難を伴う上、生産コストも上昇しており、こうした問題を根本的に解決するためには巨額な投資を強いられる(Chuquicamataの坑内掘り化計画、Andina の増産計画、El Tenienteの下部鉱床開発計画等)。また、Gaby、Alejandro Hales等の新規プロジェクトの開発にも多額の投資を行わなければならない。
 
(2)
CODELCOは国営企業として、その利益を全額国庫に納入することを義務付けられており、投資できる自己資金としては減価償却費以外考えられない。従って、投資額が減価償却費を上回る場合は、借入金または社債の発行に頼らなければならないが、こうした債務額が累増すると、会社の格付けランクが低下し資金調達コストが上昇するばかりでなく、国の格付けも低下して外国投資の誘致にも悪影響を与えかねない。
 
(3)
CODELCOが独自の資金調達を行えるようにするためには、民営化・株式会社化を行い、減価償却費・利益の再投資と借入金・社債の発行をバランスよく行なう必要がある。
 
(4)
現在は政府の影響力の強い経営審議会と実質的に大統領が任命する総裁(法律上は経営審議会が任命することになっているが、実際には大統領が指名し、経営審議会が形式的な任命を行なっている)がCODELCOの経営実権を握っているが、経営に透明性が乏しい上、時の政権の影響を強く受け政権が変わるごとに会社の方針も変わる。政治に左右されない経営のプロによる経営、透明性の高い経営を行なうためには株式会社方式を取る等、政府との過度な繋がりを断ち切る必要がある。
 
(5)
政府内部及び国民の一部に、銅機密法*による軍への納付金制度を廃止しないと、将来銅価格が以前の“正常”な水準に戻った時に、急増したCODELCOの生産コストを吸収することができず、国庫に利益を納付できなくなるのではないかとの危機感が芽生え始めている。また、CODELCOが軍に納付する金が軍備費に充てられていることやCODELCOの経営審議会に軍を代表する委員がいることに強い違和感がある。

 
 [* 註:1958年に制定された銅機密法(Ley No. 13,196)の規定に従い、CODELCOは輸出額の10%を軍に納入することを義務付けられている。また、同法は軍にCODELCOの経営審議会(株式会社の取締役会に相当)の委員1名を選出する権限を与えている。]

2. CODELCOの経営構造を変更する法案
 上述のような複雑な背景をもとに、政府は銅機密法を廃止し、併せてCODELCOの経営構造を大幅に変更する基本方針を取り決め、2006年からその具体的な実施方法を検討し始めていた。鉱業省と大蔵省が共同で法案を作成して、2007年の1月に大統領がこれに署名し、直ちに国会に提出する予定であると報じられた。
 この段階で、一時、CODELCOの民営化案が大きく取り上げられた。但し、完全な民営化(100%の民間会社化)論ではなく、国がマジョリティーを保持しつつも、CODELCOを株式会社化して株式の20-30%を一般に売りに出す方式や、年金基金に25%程度の資本参加を認める方式が主流であった。しかし、CODELCOを国営公社として維持して行きたいという民意も根強く、多数の与野党の国会議員がこれに反対したため、民営化路線は完全に立ち消え状態になった。
 CODELCOの民営化案に替わって出てきたのが、CODELCOの利益を資本化・再投資できるようにし、併せて経営の透明化を計る方法である。CODELCOを一般の上場株式会社同様、「証券・保険監督局 (SVS)」の監督下に置き、外部の独立した会計監査機関の監査を受けることを義務付けると共に、経営審議会の委員の選任方式を改正して独立系の委員を増やし、経営を経営のプロに託し、政府の直接的影響力を弱める構想である。
 政府はこの構想に基づき法案を作成し、今年2月に大蔵大臣が次のような内容の法案を公表した。

 
(1)
CODELCOは国営公社のままとする。
 
(2)
経営審議会の委員の選任方式を次のように変更する。

現行法による経営審議会委員選任方式

法案に盛り込まれた新しい選任方式

鉱業・エネルギー大臣(審議会会長)
(Karen Poniachik氏)

政府が任命する委員=4名
(大臣は任命されない)

大蔵大臣
(Andres Velasco氏)

大統領が選任する委員
(Jorge Bande氏)

大統領が選任する委員
(Nicolas Majluf氏)

軍が選任する委員
(Eduardo Gordon氏=警察軍司令長官)

公共機関運営管理審議会が指名する3人の候補者の中から大統領が選任する独立系委員=2名

労働組合連合会が選任する委員
(Raimundo Espinoza氏)

労働者が選任する委員=1名

管理職労働組合が選任する委員
(Jorge Candia氏)

 
(3)
大臣、政党の役職者、労働組合の役職員を経営審議会の委員に選任してはならない。但し、労働者が選任する委員は、労働組合の役職員であっても構わない。
 
(4)
委員に選任できるのは、公営又は民間の企業で経営者として5年以上働いた経験を有する者に限る。
 
(5)
経営審議会会長は委員の互選により選出する。総裁も経営審議会が選任する。
 
(6)
委員の任期は3年とし(現行は4年)、3年に1度半数を改選する。
 
(7)
経営審議会の会長、委員には、株式会社法により取締役に与えられるのと同じ権限を付与し、取締役と同じ責任・義務を負わせる。
 
(8)
CODELCO経営の透明度を高めるため、CODELCOに株式会社と同じ報告義務を負わせる。また、独立した第三者機関の監査を受けた財務諸表を証券・保険監督局に提出しなければならない。

 2月上旬に法案を公表した大蔵大臣は、直ちに大統領の署名を取り付け国会に提出すると発言していたが、この法案が国会に提出・審議された形跡はない。地元各紙も報道しているとおり、政府は現在、首都圏交通問題や教育基本法案、中小企業振興法案等の審議で多くの問題を抱えており、このCODELCO改革法案が国会で審議されるのがいつ頃になるか、見通しを立てにくい状況である。また、銅機密法を廃止する法案が国会に提出されたのか否かも報道されていない。  

3. CODELCOの投資資金調達方式
 上記法案が公表されてから間もなく、大蔵省はCODELCOが2006年に挙げた利益の内、3億13百万US$を2007年に再投資すること、更に、別途予備積立金制度を設けて同利益の中から4億US$を積み立てることを承認したと発表した。
 4億US$の予備積立金については、大蔵省はCODELCOの生産コスト削減の進捗状況に合わせて、その一部又は全部を取り崩して再投資することを許可して行く方針であるといわれている。生産コストの削減を促進するためにプレッシャーをかける意向のようである。
 CODELCOはこれまで投資を行うために毎年5-6億US$の社債を発行しており、2000年頃10億US$であった債務累積額が、最近は58億US$に達していると言われている。今回大蔵省がとった措置はCODELCOの2007年の投資予想額18億US$に比べると少ない金額ではあるが、CODELCOは利益を投資に充てることを許可されたこと自体を評価しているようである。Arellano総裁は、「このようなことが承認されたのは初めてのことで、大蔵省の決定を歓迎する。予備積立金と併せると7億US$に昇る金額になるが、社内にはほぼこれに見合う金額の原価償却費もあるので、これらの資金を併せて使えば、残りの投資額も借入し易くなるし、会社の格付け低下も心配せずに済む」と語っている。
 地元各紙の報道によると、格付け会社の一つ、Fitch RatingsはCODELCOを最高級のA+に格付けしている上、今回大蔵省が利益の一部を再投資することを承認したこともあり、CODELCOの格付が低下する可能性は遠退いたと考えられる。

4. CODELCOのコスト削減計画
 2月19日、CODELCO のArellano総裁は記者団に対し、CODELCOの経営は順調に推移していると述べ、(1) 各事業所における労働協約改訂交渉の終結、(2) Codelco Norteの鉱石運搬坑道の崩落事故による生産減少問題の早期解決、(3) 経営改革法案の大統領への提出、(4) 政府による2006年度利益の内7億13百万US$を投資に充てる許可、(5) 2006年の国庫納入予定額90億US$等を経営の成果として強調した。しかし、CODELCOが抱えている最大の課題は生産コストの削減であるが、この点に付いては未だ何ら成果は上がっていない。
 CODELCOの生産コストは2001年に0.61US$/lbであったものが、2006年には1.13US$/lbになっており、最近5年間に83%も上昇した。政府はこの生産コストの急上昇を懸念し、将来銅価格が2US$/lbを割る水準まで低下しても採算性が保てるような生産コストの削減計画を立てる旨、CODELCOの経営審議会に要望したと言われている。政府の意向を受けた経営審議会が、Arellano総裁の率いる執行部に至急コスト削減計画を立てるよう指示したが、計画は未だ出来上がっていない模様だ。
 経営執行部は、生産コスト上昇の主な原因は、(1) 石油価格の上昇とアルゼンチン産天然ガスの供給不安によるエネルギーコストの上昇、(2) 最近の銅価格高騰中に行なった労働協約改訂による労務費の上昇、(3) 副原料の価格上昇、(4) ドル安によるペソ建てコストの上昇、(5) 鉱石品位の低下、採掘条件の悪化等で、民間鉱山会社も同様のコスト上昇に苦しんでおり、CODELCOだけの問題ではないと主張している。多くの地元紙が、具体的且つ効果的なコスト削減策を盛り込んだ計画を早い時期に提出するのは困難ではないかとの否定的見通しを報道している。
 CODELCO労働組合の幹部は、生産コストが上がったのは過去に投資プロジェクトの失敗や経営ミスを重ねてきた経営幹部の責任であると非難している。労働組合幹部が指摘している過去に失敗したプロジェクトとは、2003年から実施されたTeniente開発計画とChuquicamata電解工場の近代化計画である。同幹部の説明では、Teniente開発計画とはTeniente事業所の生産増とコスト削減のため10億US$を投じて採鉱、インフラ、技術革新、経営システム等を含む総合的改革計画であったが、特に鉄道による鉱石運搬能力増強計画の中の車両自動運転計画は完全に失敗に終わったとしている。また、Chuquicamataの電解工場近代化プロジェクトでは、導入した鋳造設備がうまく機能せず、設備の半分を近代化したのみで、残り半分の施設は手付かずの状態であるという。
 一方、チリ政府は、先に大蔵省が2006年度の利益の一部を投資に当てることを許可したが、予備資金積み立て制度を開始するに当たって、4億US$の予備資金は生産コスト削減計画の進捗状況に合わせて漸次取り崩しを許可して行くと語っており、CODELCOの経営執行部にコスト削減を早急に実行するようプレッシャーをかけたものと見られている。
 
5. おわりに
  CODELCOは世界最大の産銅企業で、その収益はチリの国庫収入の20%以上を占めている。最近の銅価格の高騰に支えられ、2006年の営業利益は前年比74.8%増の9,515百万US$、純利益も前年比87.6%増の3,339百万US$といずれも過去最高を記録、順調な経営を続けているように見える。しかしながら、CODELCOは利益は全額国庫に納入され、独自の判断による再投資が出来ないことや政府の影響力の強い経営陣による不透明な経営が生産コスト高を引き起こしていると批判もされている。
  チリ政府は現在の銅価格が下落した場合もCODELCOの採算性が保てるよう、CODELCOに生産コスト削減計画の策定を要求するとともに、CODELCO自体の経営改革の検討を行っており、2007年中に国会審議が行われる見込みである。
  最も問題視されている、CODELCOの生産コスト削減については、未だ成果は上がっていない状況で、実際にどの程度の生産コストが削減できるのか、Arellano総裁の手腕が問われるのはこれからであるといえる。

(2007年6月29日)

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