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報告書&レポート

2007年8月16日 リマ事務所 西川信康 Tel:+51-1-221-5088 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2007年78号

国家管理を強めるボリビアの鉱業政策

 1. はじめに
 ボリビアでは、5月に発表されたボリビア鉱山公社(COMIBOL)の管理・権限を強化する内容の大統領令に続き、税制強化を柱とした鉱業税制改正法案が、8月上旬下院を通過し、鉱物資源の国家管理を強める姿勢が鮮明になってきた。本稿では、これら法案の概要とこのような動きに対するエチャス鉱業冶金大臣の見解を聴取する機会を得たので、その内容を報告する。

2. COMIBOL権限の強化
 5月1日、モラレス大統領は、新たな鉱区はCOMIBOLが管理し、民間企業単独による鉱業権取得は認めないとする内容の大統領令を公布した。その骨子は以下のとおり。

1)
過去に契約された鉱業権以外の全ての鉱区はボリビア国家の所有となり、これらの開発、管理の権限、権利は全てCOMIBOLのもとに行われる。
2)
地質鉱山技術局(SERGEOTECMIN)が全国土の調査及び探査を実施し、そこで抽出された有望地域は、COMIBOLが鉱区を設定し、管理する。
3)
民間または個人の鉱業権取得は現在手継続中のも含め今後一切権利を交付しない。
4)
現在、鉱業権をすでに保有し、活動している鉱山や探鉱開発案件は、今後も引き続き権利を保障する。

 なお、上記3)については、国内外の民間企業の反発もあり、申請中の鉱区については、鉱業権が認められる方向となっている。また、4)について、マリオボ鉱業冶金次官は、現在、鉱区全体の70%で活動が行われておらず、またその多くにおいて鉱区税も支払われていないため、今後、このようなケースに関して法律に則り厳正に対処すると発言している。
 従って、本法令により、今後の新規鉱区での鉱山活動は、すべてCOMIBOL単独あるいはCOMIBOLと国内外の民間企業とのジョイントベンチャーが基本になる。なおジョイントベンチャーの権益比率について、COMIBOLのミランダ総裁は、50:50が基本だが、個別案件毎に交渉していくとしている。また、現在、COMIBOLは、CoroCoro銅カソード生産プロジェクトやCatavi廃さい回収プロジェクト、Vinto製錬所近代化プロジェクトなど17件の鉱山開発・製錬所再生投資プロジェクトの推進を計画しており、今後、広くパートナーを求めていく方針であると語っている。
 一方、COMIBOLが鉱産物の輸出管理を強化するという点について、同総裁は国として生産量や輸出量の統計上の数字をしっかりと管理・監督するという意味で、San Cristabal鉱山と日本のスメルターとの買鉱契約等、現在、進められている民間ベースの契約は尊重すると明言している。

3. 鉱業税制改正の概要
 鉱業税制改正法案は、モラレス政権発足直後から、鉱業冶金省を中心に検討が進められてきた。その過程で一時、ICM(鉱業補完税:鉱業ロイヤルティに相当)の税率を大幅にアップするなどといった草案が浮上するなど(これは、特に、共同組合を中心とする国内業者の猛反発に遭い、撤回)の局面があったが、最終的に、国内外の鉱山会社との調整のもと、6月中旬に、政府案として議会に提出された。
 本法案では、まず、鉱業税制改正の正当性について、

ボリビアは、隣国チリやペルーに比べ、探鉱開発投資が遅れている。これは、国が持続的な鉱業振興に向けて探鉱活動の推進や地域住民への配慮を怠ってきたことに原因がある。
今回の鉱業税制改正は、この反省にたち、国の管理を強化し、税制の仕組みを改めることで、鉱業の立て直しを図るものである。なお、こうした取り組みは、鉱業の発展に不可欠な新規投資を疎外するものではない。

 と明記した上で、改正内容に触れている。
 主な改正の概要は以下のとおり。

現行では、所得税とICM(鉱業補完税)どちらか高い方を納税すればよいが、改正案では、一定の金属価格以上(表1参照)になれば、所得税と鉱業ロイヤルティ両者の納税が義務付けられる。
さらに、上記と同様、金属の高価格時には、追加法人税として、12.5%が課税される。但し、Cooperativas(共同組合系鉱山)など国内鉱山会社は免除される。また、地金等の付加価値製品を生産する企業については、追加法人税は12.5%の6割(7.5%)に緩和される。

表1 金属高価格時の定義

400US$/oz以上

アンチモン

2802US$/t以上

5.55US$/oz以上

タングステン

80US$/MTU以上

亜鉛

0.53US$/lb以上

1.04US$/lb以上

0.30US$/lb以上

ビスマス

3.50US$/lb以上

2.90US$/lb以上

*その他の金属は適宜発表。

従来の売上高に対するICM(鉱業補完税)が鉱業ロイヤルティ(Regalia Minera)に名称を変更。税率については、鉱種毎、価格毎に設定され、大きな変更はないが(金が最高で7%、銀が6%、それ以外は概ね最高5%)、新たに、ビスマスやアンチモン、インジウム等のレアメタル、また、精鉱中の銀などの品目が追加された(表2参照)。なお、国内取引の場合、ロイヤルティは規定の60%の税率に緩和される。
徴収された鉱業ロイヤルティの80%は、鉱山が位置する県や市町村に配分され、その分配率は以下のとおり。使途は主に、教育、保健等の社会開発や道路、電力等のインフラ整備等。
1)
鉱業ロイヤルティ額が、200,000US$/月以下の場合
  県 50%、鉱山が位置する市町村 25%、
当該県内のその他市町村(人口、貧困度に応じて) 25%
2)
鉱業ロイヤルティ額が、200,000US$/月以上の場合
  県 70%、鉱山が位置する市町村 10%、
当該県内のその他市町村(人口、貧困度に応じて) 20%
鉱業ロイヤルティの残りの20%は、鉱山冶金省が管理・運用し、探鉱、鉱業再生、鉱害対策を対象とした基金とする。

表2 主な鉱種の鉱業ロイヤルティ率

鉱種

価格

率(%)

鉱種

価格

率(%)


($/oz)

700以上

7

アンチモン
($/t)

3,800以上

5

400~700

0.01(CO)

1,500~3,800

0.00174(CO)-1.6087

 

400以下

4

 

1,500以下

1


($/oz)

8以上

6

タングステン
($/MTU)

240以上

5

4~8

0.75(CO)

80~240

0.025(CO)-1

 

4以下

3

 

80以下

1

亜鉛
($/lb)

0.94以上

5

ビスマス
($/lb)

10以上

5

0.475~0.94

8.43(CO)-3

3.5~10

0.6154(CO)-1.1538

0.475以下

1

3.5以下

1


($/lb)

0.6以上

5

Concentrate

4

0.3~0.6

13.4(CO)-3

Pallet

3

0.30以下

1

Iron

2

($/lb)

5以上

5

インジウム

5

2.5~5

1.6(CO)-3

レニウム

5

2.50以下

1

その他の金属:1~7%


($/lb)

2以上

5

0.70~2

3.0769 (CO)
-1.1538

0.70以下

1

注)CO:金属価格

4. ボリビア鉱業冶金大臣の見解
 7月26日、JOGMECリマ事務所が、エチャス鉱業冶金大臣に、これら一連の国家管理強化の動きに関する見解を聴取した。
 まず、鉱業税制改革法案について、同大臣は、法案はすでに国会に送られており、近く審議される見通しであること、付加税(Sur Tax)については、現在、政府内で議論しているとしながらも、最近、炭化水素分野で廃止されたことを受け、鉱業分野も導入されることはないだろうとのこと、また、輸出税の還付廃止問題についても、還付制度は存続する見通しであること、従って、鉱業税制としては、現在の高価格水準では、所得税(25%)、特別税(12.5%)、鉱業ロイヤルティとなり、実行税率は50%程度になるとの考えを示した。新鉱業法案については、8月中にも、国内外の鉱山会社と話し合いの場を持ち、調整を図っていくと述べた。
 また、新規の鉱区での活動は実質COMIBOLとのJVになるとした大統領令と、従来から大臣が主張している外国企業を呼び込み投資を活発化させたいとする考えとは矛盾するのではないかとの指摘に対し、同大臣は、民間企業がCOMIBOLと提携することで、法的な保証が得られるとし、必ずしも、民間投資が減退することはない、また、鉱業税制度の改正でCOMIBOLへの予算が増加し、今後組織強化が図られ、信頼できるパートナーとして再生していくだろうとの見方を示した。さらに、2007年2月に国有化したVinto製錬所のケースは、前大統領の不正取引疑惑に絡んだ例外的な措置であることを強調した。
 一方、San Cristobal鉱山から供給される亜鉛精鉱は、今後我が国の亜鉛精鉱輸入量の10%強を占めることから、日本としても、本鉱山の動向を注視していると述べたところ、エチャス大臣は、同鉱山が、地域住民に対する社会開発やインフラ整備等で、地域コミュニティに多大な貢献をしていることを評価するとともに、ボリビアにとって、今後の鉱業振興の象徴的なプロジェクトでもあり、早期のフル生産開始を期待していると述べた。

5. おわりに
 2006年来から懸案であった鉱業税制改正法案については、8月初旬に下院を通過し、上院に送られた。今後、上院での審議の行方を見守る必要があるが、上院は、野党保守勢力が過半数を占めており、その成立までには紆余曲折が予想される。また、Sur Tax問題や輸出税還付廃止問題について、エチャス鉱業冶金大臣は楽観的な見通しを述べているが、本税制度は、財務省マターであり、特に、輸出税還付制度については、モラレス政権が掲げる‘資源の工業化’政策の促進に向けて、付加価値製品の輸出は維持されるが、精鉱原料については、廃止されるとの情報もあり、予断を許さない状況である。
 従来から、ボリビア政府首脳は、ボリビアの鉱業振興には、外国投資が必要不可欠であり、国、地域コミュニティ、企業3者のWin-Winの関係の構築に向けた鉱業制度の仕組みを目指すと繰り返し主張していたが、今回明らかになった一連の措置は、明らかに国の管理・権限を強め、企業の投資意欲を減退させるような内容となっていると言わざるを得ない。こうした状況に、今後、投資家が果たしてどのようなリアクションを起すのか、また、最近までの民営化政策で弱体化したCOMIBOLの建て直しが、シナリオ通り順調に進んでいくのか、じっくりと観察する必要がある。 いずれにしても、ボリビアでは、このような高いカントリーリスクのもと、我が国企業による投資案件がすでに進行しており、JOGMECを含めた官の役割がますます重要になると思われる。今後、我が国民間企業の円滑な活動に向けて、政府要人との継続的な対話及び鉱山開発に伴う戦略的な経済協力、技術協力等を積極的に検討、推進していく必要があろう。

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