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報告書&レポート

2007年9月27日 メキシコ事務所 小島和浩 Tel:+52-55-5280-1099 e-mail:jogmec@prodigy.net.mx
2007年89号

メキシコ・エル・アルコ銅プロジェクトの開発状況

 メキシコは世界第10位の産銅国であり、国内鉱山から年間約40万tの銅を生産している。メキシコの銅生産の中心はソノラ州であり、その生産量はメキシコ全体の産銅量の85%を占めている。しかしながら、同国バハカリフォルニア半島(バハカリフォルニア州及び南バハカリフォルニア州)も高い銅資源ポテンシャルを有することが知られており、今後の銅鉱山開発が期待されている。今般、バハカリフォルニア州のエル・アルコ銅プロジェクト(グルポ・メヒコ社保有)の開発現場を訪問する機会を得たので、同プロジェクトの現況について紹介する。また、同プロジェクトが自然保護区内に存在することから、連邦政府及び州政府の環境法規について簡単に紹介する。

1. エル・アルコ銅プロジェクトの概要

  図1 エル・アルコ銅プロジェクト位置図
  図1 エル・アルコ銅プロジェクト位置図

(1) 位置
 エル・アルコ銅プロジェクトは、バハカリフォルニア半島の中央部、バハカリフォルニア州南端の南バハカリフォルニア州との州境部に位置する(図1参照)。最寄りの町はゲレロ・ネグロ(Guerrero Negro:南バハカリフォルニア州)またはサンタ・ロサリータ(Santa Rosalita:バハカリフォルニア州)である。なお、本プロジェクトは自然保護区である「Desierto Central de Baja California(Valle de los Cilios)自然公園(Parque Natural)」内に位置する。
 
(2) 経緯
 エル・アルコ鉱区周辺では1930~40年代に米企業がカルマニ(Calmalli)鉱山という小規模銅山の操業を行っていた。1968年にグルポ・メヒコ社の前身であるアサルコ・メヒカーナ社が本鉱区の権益を獲得後、1970年から本格的な探鉱活動が開始され、現在までに約300孔(総延長約90,000m)のボーリング探査が実施されている(写真1にプロジェクトサイトを示す)。1975~1976年には酸化鉱を対象としたリーチング試験、1995~1997年にはパイロットプラントを用いた選鉱試験を含むFSを実施している(写真2に試験用リーチングパッド、写真3にパイロットプラントの一部を示す)。
 

写真1 エル・アルコ銅プロジェクトのプロジェクトサイト
写真1 エル・アルコ銅プロジェクトのプロジェクトサイト

写真2 試験用リーチングパッド
 
写真3 パイロットプラント
写真2 試験用リーチングパッド
 
写真3 パイロットプラント

 
(3) 地質・鉱床概要
 エル・アルコ鉱床は下部白亜系の変成火山岩中に胚胎する斑岩銅鉱床である。鉱化作用はカリウム質変質作用を受けた花崗閃緑斑岩及び安山岩に集中し、その周りはプロピライト化した安山岩質溶岩に囲まれている。鉱床の上部は厚さ50m程度の酸化鉱であり、厚さ9~10mの混合鉱を経て、下部には硫化鉱が賦存する。酸化鉱の主要鉱物はクリソコラ、硫化鉱の主要鉱物は黄銅鉱及び斑銅鉱であり、混合鉱中には輝銅鉱、自然銅がみられる。
 1995年に行った鉱量評価(銅価格を0.85US$/lbに設定)によると、埋蔵量は1,160万t(酸化鉱380百万t、硫化鉱780百万t)、平均品位はCu 0.6%、Au 0.2g/tであり、その他に微量のモリブデンを含む。現在までに行ったボーリング調査では、深度500mでCu品位0.75%程度の鉱化作用を把握しており、深部に探鉱余地が残っている。
 
2. エル・アルコ銅プロジェクトの現状及び開発計画
 1995~1997年に実施したFSによるエル・アルコ銅プロジェクトの開発計画の概要は以下のとおりである。酸化鉱処理量は35,000t/日、硫化鉱処理量は100,000t/日を予定している。選鉱工程にはコルテス海(カリフォルニア湾)からパイプラインで輸送する海水を使用し、電力供給のため、200MWの発電プラントを新設する。生産された銅精鉱は、プロジェクトサイト約220km南東のサンタ・ロサリア港(南バハカリフォルニア州)から対岸(ソノラ州)のグアイマス港を経てソノラ州のナコサリ精錬所まで輸送される。
 現在エル・アルコ銅プロジェクトでは、鉱山開発許可を得るための環境影響評価報告の準備、浸出工程用水、洗浄水、飲料水等として必要となる水資源獲得のためのボーリング調査、土地使用・売買の契約交渉等を行っている。環境影響評価の前提となる開発計画は、1995~1997年に実施したFS結果を基礎とし、各種の見直しを行いつつ策定されているところである。主な検討課題は、電力供給方法(発電所の新設 or 買電)、銅精鉱積出港(新港の建設)の検討、選鉱工程で用いる海水の供給方法(太平洋からの取水を検討)等である。
 水資源調査は、2007年9~10月頃に完了する予定であり、その後、国家水委員会(Comisión Nacional de Agua)に水使用のためのコンセッションの申請を行う。また、2007年中に土地契約交渉を終了し、2008年中に環境影響評価報告を提出する予定となっている。開発のための建設工事を2009年に開始し、2012年から生産を開始する見込みである。初期投資額は1,800百万US$と見込まれている。
 
3. 連邦及び州政府の環境法規
 環境問題の主務官庁は環境天然資源省(SEMARNAT:Secretaria de Medio Ambiente y Recursos Naturales)である。メキシコ合衆国の環境関連の法的枠組みは、1988年1月に公布された(その後、数次にわたり改正されている)生態系均衡環境保護一般法(Ley General del Equilibrio Ecológico y la Protección al Ambiente)によって規定されている。同法は環境保護の基本原則、政府・各省・地方自治体の協力、環境政策の権限と基準の定義、科学的・技術的根拠、それに基づく環境基準、法的手続き等を定めている。また、生産活動の調整、税制優遇措置、融資制度等、より広い意味での開発のための政策についても言及している。
 同法では、鉱業活動に対する環境影響評価を義務付けており、その要点は以下のとおりである。

 
鉱業法に規定された探鉱、採掘及び選鉱の各活動を実施しようとする者は、それらの活動が生態系に与える可能性がある影響について記述した環境影響評価報告をSEMARNATに提出し、その承認を得なければならない。(第28条及び第30条)
 
SEMARNATは、環境影響評価報告を受理した日から60日以内に裁定を下さなければならない。(第35条付属条項)

 メキシコ各州政府は環境に関する州法を制定しているが、その内容は上記連邦法に則ったものとなっており、各州独自の環境行政を定めようとするものではない。州別環境保護法は、環境行政を連邦政府から州政府に移管していくことを目的としている。バハカルフォルニア州は、1992年2月に「バハカリフォルニア州生態均衡及び環境保護基本法(Ley de Equibrio Ecológico y Protección al Ambiente del Estado del Baja California)を公布している。環境影響評価報告を承認する権限は連邦当局のみが有しているが、州は連邦当局に対して意見具申を行う。
 メキシコの自然保護区は、一般に核地区(Zona Núcleo)と緩和地区(Zona de Amortiguamiento)に区分けされている。核地区ではいかなる開発も認可されないが、緩和地区内では国家自然保護区委員会(CONANP:Comisión Nacional de Áreas Naturales Protegidas)と協定を締結することにより、鉱業を含む開発が認められる。
 
4. おわりに
 エル・アルコ銅プロジェクトの開発が順調に進めば、5年後にメキシコに年産銅量20万tクラスの大規模銅山が新たに誕生することになる。また、同プロジェクトを保有するグルポ・メヒコ社はカナネア銅山(2005年の産銅量は175千t)の生産量倍増プロジェクトを進めている。これらプロジェクトからの新規銅生産により、近い将来、メキシコの年間銅生産量は現在の35万t程度から約70万tに倍増する計算となり、同国の銅供給源としての重要性が大きく高まるものと考えられる。

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