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報告書&レポート

2007年10月25日 リマ事務所 西川信康 Tel:+51-1-221-5088 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2007年99号

ペルー・地元住民との対立で揺れるRio Blancoプロジェクト

 ペルーの大型銅開発案件の一つRio Blancoプロジェクトが地元住民との対立問題で暗礁に乗り上げている。9月には鉱山開発の賛否を問う住民投票が行われ、圧倒的多数で否決された。この結果に、法的拘束力はないものの、本プロジェクトは、ペルーの持続的な鉱業発展に向けた象徴的なプロジェクトであるだけに、今後の行方に、大きな関心が集まっている。本稿では、最近の一連の騒動と背景について報告する。

1. Rio Blancoプロジェクトの概要
 本鉱床は、ペルー最北端部Piura県の中心都市Piura市の東方約150kmのエクアドルとの国境付近に位置するポーフィリー型銅・モリブデン鉱床である。本鉱床は、1994年にNewcrest Miningによって金鉱床として発見されたのを発端に、1996年に参入したCyprus Amaxが銅鉱床を発見、2001年にはMonterrico Metals(英国)がオプション権を獲得し、本格的な探鉱活動が始まった。その後、多くの企業の参入が噂されたが、今年2月に、中国の産金大手である紫金鉱業集団公司(Zijin Mining)が主導するコンソーシアム(紫金鉱業、銅陵有色金属公司、複合投資企業のXiamen C&D)が、約186百万$でMonterrico Metalsを買収すると発表、さらに、9月には、韓国のLS-Nikkoに、Zijin Miningが保有している株式89.9%のうち、10%を約20百万$で売却することを明らかにし、現在、アジア資本が本プロジェクトの実権を握っている状況である。
 同プロジェクトは、現在、F/Sを実施中で、2007年内の終了を予定している。2007年2月に明らかにされたF/Sの中間結果によると、同鉱床の鉱量は、カットオフ銅品位0.4%で、鉱量1,257百万トン(銅0.57%、モリブデン0.0228%)。初期投資額は14.4億$で、初年度、銅224,000t、モリブデン1,800tを生産する計画。2010年あるいは2011年の生産開始を目指しているとされる。
 しかしながら、Majaz社(Monterrico Metalsの現地法人)による探査活動が本格化した直後から、周辺河川の汚染を理由にした近隣住民による反鉱山開発運動が活発化し、2005年8月には、警官隊との衝突で住民側に多数の死傷者が出る惨事に発展するなど、地元住民との対立が深刻化している。
 

Rio Blanco 位置図(Monterrico Metals ホームページより)
 Rio Blanco 位置図(Monterrico Metals ホームページより)

 
2. 現在の状況
 9月16日、Rio Blancoプロジェクト開発への賛否を問う住民投票が、本プロジェクトの影響下にあるEl Carmen区、Ayabaca区、Pacaipampa区の3つの集落で、20余りの国際NGO組織の監視のもと、行われた。その結果、9割以上の住民が、鉱山開発に反対の意思を表明した。
 投票は、「あなたは地区内におけるMajaz社の鉱業活動に賛成しますか?」との問いに対し「Si」か「No」と答えるもので、投票結果は以下のとおり。
<El Carmen区>
投票数3,053票(投票率59.26%)
 ・反対2,825票(得票率92%)
 ・賛成73票(得票率2%)
 ・無効/白紙 155票
<Ayabaca区>
投票数8,873票(投票率50.09%)
 ・反対8,294票(得票率93%)
 ・賛成176票(得票率2%)
 ・無効/白紙 403票
<Pacaipampa区>
投票数6,091票(投票率71.47%)
 ・反対5,914票(得票率97%)
 ・賛成36票(得票率0.6%)
 ・無効/白紙 141票
 
 3区合計で投票権を持つ31,388人のうち、実際に投票を行ったのは57%にあたる17,941人。このうち反対票を投じたのが17,033人(全体の95%)という圧倒的多数を占める結果となった。
 投票にあたって、多くの周辺住民が6時間以上歩き、投票所が開くまでの間、町なかの広場などで仮眠をとった。RioBlanco村から徒歩12時間かけて投票したある村民は「私は自分自身の意思で投票をしに来た。一企業が村の規律を守らずに侵入することは許されない」とプロジェクトの中止を強く訴えた。
 本住民投票について、デル・カスティージョ首相は、「この住民投票には、選挙管理委員会(JNE)、選挙過程事務局(ONPE)などの公的選挙機関は、一切関与していない。住民投票で投資の是非を決定することはできない。」と、住民投票結果には法的拘束力がないと判断する一方で、「今後、政府として住民と鉱山の対話交渉を推進していく。」と述べ、問題解決に向けて政府が積極的に関与していく姿勢を示している。
 また、ガルシア大統領は、一連の反対派の対応について、「投資を誘致するための規則を定める法律が遵守されるよう努めるのが国家の役割であり、これは一部の反対派によって阻止される性質のものではない。一方、環境保全を保証するのも国家の努めである。豊富な鉱物資源を有する領土は一部の農民コミュニティーの所有物ではなく、2千8百万人のペルー国民全体に帰属するものである。反鉱山運動の裏では、資本主義が貧困層の敵であると未だに信じている共産主義者や悪質な環境NGOが扇動している。」と述べ、鉱山反対派を激しく非難している。
 一方、反対派グループの一つAyabaca区農民コミュニティ連盟のカリオン代表は、同区の住民らは無事投票を終えたことから首相との対話に応じる考えを示しつつ、地域コミュニティの土地所有権や生存権、また、地域発展モデルを自分たちで決定する権利が尊重されるべきだと主張している。
 

 

3. 住民による反対運動の経緯
 本プロジェクトを巡る反鉱山開発運動は、Majaz社が本格的に調査を開始し、本鉱床の経済規模を発表した直後から始まり、その後、断続的に発生している。
 
2004年4月
 4月19日、Majaz社が、同鉱床を2007年より産銅規模20万トン/年の銅山として操業開始の予定と発表。その直後の4月21日、現地サイトにプロジェクト中止を求める1,000人規模のグループが押し寄せ抗議運動を実施。なお、この反対グループの中に近隣のTambograndeプロジェクト反対派も含まれていたことが判明。
 
2005年8月
 8月1日、探鉱活動による周辺河川の汚染を理由に、プロジェクトの中止を求める近隣住民約1,000人が、プロジェクトサイトを占拠すべく過激行動に及んだことから、警官隊と衝突し、住民側の少なくとも1名が死亡し、双方に数十人の負傷者が出る惨事となった。
 これに対し、政府は、鉱山次官を現地に派遣し、話し合いによる解決を試みたが、鉱山次官自らも負傷するなど、対話による解決を断念した。エネルギー鉱山省は、本プロジェクトは未だ探鉱段階で周辺河川の汚染はなく、今回の過激な抗議行動は、鉱山開発に反対する環境NGO、左翼系組織、さらに麻薬密売組織等が背後で煽動しているとの認識を示した。
 さらに、8月18日には、反対運動が、周辺の町村各地に飛び火し、数千人規模の住民ストに発展。これらのストに伴い各所で道路が封鎖され、物流等に影響が出た。
 その後、反対派リーダーたちとの話し合いが進展し、政府、会社、地元の代表者よりなる協議会を設置することで合意、争議は、沈静化の方向となった。一方、APCI(国際協力庁)は、この一連の騒動を煽動したとするCONACAM(全国鉱山事業被害住民連盟)を同庁の登録リストから抹消するという制裁措置を実行。
 
2006年8月
 地元オンブズマンが、Majaz社が本地区の探査許可を政府から不正に入手した疑いがあることを指摘。最高政令で土地の立ち入りに関し、農村コミュニティとの合意形成(コミュニティの2/3の承認)が必要と定められているにもかかわらず、エネルギー鉱山省の登録台帳には記載がなく、同社は一部の住民代表の了承しか得ていない可能性が高いというもの。
 これに対し、Majaz側は、一部の住民代表が発行した許可証のみで、探査活動を開始したことを認めた。
 
2007年6月
 環境NGO団体OXFAMの支援を受けた市民団体ペルーサポートグループは、同プロジェクトが数世紀にわたり環境被害を引き起こし、周辺住民の生活や農業に甚大な被害を及ぼす恐れがあるとした報告書を発表。これは、酸性坑廃水や廃さい堆積場からの浸透水が周辺の河川を汚染するというもので、この地方の頻繁な降雨によって危険が増大するとともに、下流部にあたるカハマルカ県への影響も指摘。また、Majaz社は、資金力が十分でないジュニア企業であることから、住民に対する十分な対応、情報提供を怠ってきたとし、政府が迅速で適切な対応を行わない場合は、ピウラは第2のカハマルカになりかねないと警告。
 
2007年8月
 Majaz社は、2007年中にF/Sが完了し、その後、EIA(環境影響評価調査)の中に中和プラントによる酸性水処理対策と周辺地元住民に対し25年にわたって80百万$の社会基金を設立する考えを表明。
 これに対し、住民側の代表は「人々の健康はお金と引き換えにできるものではない上、鉱業活動はオーガニックコーヒーやマンゴなどの農産物の生産に悪影響をもたらす」と、この提案を拒否するとともに、政府の消極的な対応や鉱山会社寄りの姿勢を批判した。
 一方、Majaz社は、周辺地域社会は、NGO団体や政治的な思惑のある一部指導者によって操作されているとし、本提案は、コミュニティを形成する住民一人一人に周知していくことが重要だとしたほか、酸性坑廃水は中和処理プラントによって浄化し、河川に放流するため環境汚染は発生しないことを重ねて強調。

4. 問題の背景と今後の動向
 ペルーでは、探査事業を開始するにあたり、専門の社会コンサルタントを雇用するなどして、現地の政治・社会情勢を調査・分析し、現地の政治指導者、農村コミュニティ、住民指導者といった実力者の力関係を精査した上で、それらすべての勢力と合意形成を図ることが必須である。しかしながら、これらの手続きをしっかりと踏んだとしても、決して安心はできない。探査プロジェクトが、いつ環境NGOや反政府勢力のターゲットにされ、反鉱山勢力の台頭を許す事態に変化するかわからないからだ。この事態を未然に防ぐためには、合意後も、地元指導者との密接なコミュニケーションを継続し、常に、こちらの味方に引き込んでおくという状況を作り、反鉱山グループからのアプローチを許さないよう監視を怠ってはならない。特に、探査ステージが上がり、具体的な成果が出て、情報がオープンになっていけばいくほど、こうしたディフェンス体制を強化・徹底していくことが肝要である。
 Rio Blancoのケースは、企業側のこのような一連の基本的な取り組みが十分でなかったことが、これだけの住民を敵に回してしまった根本原因があるものと見られる。加えて、本地区では、違法採掘や違法森林伐採が横行しており、これらの既得権益を守ろうとする勢力もこの反対派の動きに拍車をかけたという指摘もある。さらに、政府の住民問題解決に対する消極的な姿勢にも批判の声が多い。
 かつて、近隣のTambograndeプロジェクトにおいても、同様の住民投票が行われ、99%の住民が鉱山開発に反対(背景には、周辺地区がペルー有数のレモンの産地であることに加え、鉱床が町の真下に発見されたことから、多くの住民が移住を迫られるといったことがあった)し、それが、引き金となって、最終的に政府が企業(Manhattan社)との開発オプション権を破棄し、その後企業が撤退するという最悪の事態に陥ったケースが思い起こされる。
 ペルー政府としては、本プロジェクトが頓挫してしまえば、好調な鉱業投資の潮目が変わりかねないという強い危機感を持っており、Tambograndeと同じ轍は踏まないとする強い意識のもと、政府の威信をかけて問題解決に取り組むものと見られる。まずは、政府の呼びかけで近日中に実現するとされる各集落の区長、農村コミュニティー等、地元指導者との話し合いの進展が注目される。

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