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報告書&レポート

2008年2月14日 ロンドン事務所 竹谷正彦、オーウェン溝口佳美 Tel:+44-20-7287-7915 e-mail:(竹谷)takeya@jogmec.org.uk (溝口)mizoguchi@jogmec.org.uk
2008年14号

ロンドン「Mines and Money 2007」カンファレンス報告

 毎年、ロンドンで開催されている「Mines and Money」カンファレンスであるが、2007年は、11月21日、22日の2日間で開催された。190社を超える展示ブース、60以上の講演がなされ、鉱山企業、金融機関、投資家などの参加者2,500人以上を集めた。講演は、本会場ではテーマ毎に7つのセッションが行われ、別会場では、各鉱山企業による自社プロジェクトに関する講演が行われた。
 国際的な鉱山関係企業の本拠地として、また、世界的な資本・金融センターとして重要な拠点の一つでもあるロンドンを象徴し、本カンファレンスは、タイトルにも現れているように、2003年の第1回以降、一貫して、鉱業分野への投資をテーマとしている。そのため、内容は、他のカンファレンスに比べ、投資家向けの色彩が強い点がその特徴と言える。
 今回は、本カンファレンスも第5回目となり、4年前とは金属市場及び鉱山業界も大きく変わり、実際に、2007年の金属市場及び鉱山業界は、昨年にも増して活況であった。そのため、一般投資家も含め、この業界はより一層注目を集めていることは事実であり、それを反映して、カンファレンスの目的は時流に合ったものとなり、前年を上回る規模となった。
 2007年の講演課題は、中国及びインドの需要、世界の供給懸念及びアフリカの台頭、また、従来からの、金属市場動向、投資動向に加え、今後の業界におけるM&Aの動向、米国のサブプライム問題を起因する信用危機(credit crunch)の影響、資源ナショナリズムの強まり、資源開発の新たな投資先としてのアフリカ、ロシア及びそれに関連する各種リスクに関する講演や、鉱業が抱える人材不足などの諸問題をテーマとした講演、現在のコモディティーブームの持続可能性、世界の鉱山業界におけるBRICsの占める割合の拡大等がテーマとして取り上げられた。
 本稿では、Norilsk Nickelの主任エコノミストDavid Humphrey氏による基調講演『Four Years Later: the beat goes on』と題した、2003年からの4年間の鉱山業界の分析と今後の展望についての講演内容を、以下のとおり報告する。
 
 『Four years later : the beat goes on』
 Norilsk Nickel 主任エコノミスト、David Humphreys

1. はじめに
 2003年という年は、鉱山業界において回復基調が始まったばかりで、この傾向がどれだけ、また、どの程度続くかが議論されていた頃であった。それが、ここ4年間、史上今までにない金属価格高騰が持続され、Super-Cycleが始まった。これは、アナリストの予想を大きく上回るほどであり、何故ならば、『鉱山業界に未来はあるだろうか?』と題する講演をしていたこともそれほど遠い昔のことではないからだ。そして、4年後には、ロンドンFTSE100指数において鉱業分野は大きく貢献し、ロンドン証券取引所(LSE)のサブ取引場で新興株式市場であるAIM(Alternative Investment Market)においては、4年前は53社のみであったが鉱山企業が、179社にも増え、マーケットキャピタルは総額132億ポンドとなった。加えて、豊富な資金を抱えた鉱山業界においては、積極的な業界内のM&Aを引き起こし、代表的なM&Aは、Rio TintoのAlcan買収、Norilsk Nickel – LionOre Mining(加)、現在に至っては、BHP – Rio買収案も持ち上がっている。

2. 新しいパラダイムか(A new paradigm?)
 中国が最大の影響か、そうではないかの議論において言えば、イエスでもありノーでもある。無論、中国は、鉱物及び金属需要の強力な牽引役である。そもそも需要の性質とは、金属が製品化して実用性があることで、物理的に見えることで測定できることである。しかしながら、この4年を振り返ると、従来の性質と異なる点として挙げられるのは、投資家による金属現物を保持することに対する需要規模が大きく拡大してきたことである。
 鉱業分野における投機資金の流入は、アナリストたちの予想を大きく上回り、また、そのスケールの大きさも予想がつかなかった。また、リターンが株式や債券との相関性が高いことやインフレに対するヘッジとして、投資家向けの金融資産の多様化と相俟って金属保持が魅力的であるという認識が高まっている。これが良いことか悪いことかは別として、投機資金の流入は、金属・鉱業分野市場と金属価格形成に大きな影響をもたらしたといえよう。
 鉱業分野において新たなパラダイムが出現したとすれば、投機資金の流入である。投機の存在は今まで以上に我々の分野に影響をもたらしている。特に、金属価格の変動における影響が大きく変わり、短期的には価格上昇を支えるが、長期的なインパクトや投機資金の流入がどれくらい持続されるのかが重要で、これにより、プロジェクト投資への決断が左右されることになる。

3. 供給における制約(Supply Constraints)
 この4年間のサイクルにおいて最も特徴的なことは、生産が需要に追いつかないことである。供給不足においては、2つの見方が考えられる。一つ目には、周期的であること。つまりは見通しが立つということだが、今回の周期において言えるのは、供給制約の強さとその長さだ。また、生産障害も周期的な傾向であると言え、供給不足のときに悪化するものである。これには、価格高騰という状況下、生産企業は良い業績を出そうとし、迅速な生産成果を出そうと余計なプレッシャーが掛かると共に、鉱山で使用する機械や部品といった生産要素の投入に関する集中的な競争を生み出し、これらによるプロジェクトの遅延を引き起こす。
 二つ目には、開発すれば資源は減耗枯渇するという鉱山業の構造によるもので、この場合は、長期に亘る生産遅延が生じる可能性がある。現在、生産が開始される見込みのあるプロジェクトにおいて言えば、今までよりも鉱床が深く、また、鉱床へのアクセスが困難で、かつ低品位のものが多数存在する。これらの鉱床からの生産には時間を有し、コスト高となるだろう。
 また、1960年代、1970年代と同様に、生産が堅調な需要に追いつかない状況を思い浮かべるが、この時期の鉱山企業の規模は小さく、資本市場も現在ほど大きくなく、現在はグローバルコミュニケーションが発達している点が大きく異なっているといえる。

4. 政治的リスク(Political Risk)
 現在、鉱業分野において、1960年、1970年代と同様に考えられる大きな点は、4年前(2003年)のMines & Moneyでも大きく取り上げられた課題でもある、「鉱業の政治問題化(politicisation)」で、今後は政治的リスクに起因する供給不足が予想されるとの議論が行われた。
 1960年代および1970年代における鉱業分野への政治的関与は、主に鉱山企業の国有化であり、現在の政治的なチャレンジとは異なったものであった。現在において言えば、探査・採掘権などの制度上の複雑さ、環境規制、ロイヤルティ等の税制、地域コミュニティへの社会的・経済的貢献、鉱業法の改正等である。
 また、多くの鉱山企業は、様々な戦略を考慮してリスク軽減対策を行っている。現地の鉱山大手企業と共同プロジェクトを行うなどしており、一例を挙げると、ロシアにおけるRio TintoとBHP BillitonによるNorilsk Nickelとの共同探鉱プロジェクトである。
 一方で、アフリカ、旧ソ連等の政治的リスクが高いとされる国における探鉱活動が復活してきており、その多くは探鉱ジュニア企業による活動である。また、政治的リスクの高いとされる地域における探鉱費の増加も見られる。このほか、政治的な制約により、知識不足、資金不足で、今までは自国の領域内に留まって探鉱活動を行ってきた新興国の鉱山企業による探鉱も目立つ傾向にある。Raw Materials Groupの調べによると、世界の鉱山企業からの収益の4割を占めるのは、新興国の鉱山企業、すなわちOECD諸国以外の国を拠点とする鉱山大手企業であるという。ロシアのNorilsk NickelやRusalは、自国内のみでの資源確保に限らず、米国、欧州、豪州、アフリカ等における資源資産の買収に活発であると言える。
 このように、新たな動きとして、天然資源における外国による直接投資の新しい流れは、従来の先進国から途上国という北から南に向かうものであったものが、南から南、ないしは南から北へと変化している。これは、国連貿易開発会議(UNCTAD)の2007年World Investment Reportの主要課題としても取り挙げられた。

5. 過渡期間(Period of Transition)
 以上の状況を踏まえ、また、今後も堅調な需要が予想される中、コモディティー市場はどうなるのか。2008年において言えば、世界経済成長の減速が予想されており、この減速経済もどの程度深刻なのか、また、地域毎にどの程度のインパクトなのか、エコノミストたちの間で議論が起こっている。この議論の中でも重要なのが、金融市場における影響とOECD諸国における経済減速と新興国の経済成長への影響である。IMFが2007年10月に発表した2008年の世界経済の成長率は、主にOECDの成長率が弱いことと、米国の住宅市場の冷え込みによる悪化、また、信用危機の実質経済へのインパクトが不明確であることであるが原因となり、成長率は僅か0.4% – 4.8%と予想している。
 また、新興国の経済成長は、世界経済に今までにない大きな影響をもたらし、これらの国は、この経済減退があっても、黒字経常収支に加え外貨準備高により、以前よりも経済減退による影響は大きくない。これは世界経済のリバランスであるとはいえ、世界の経済成長は、米国経済が牽引役の時代は終り、米国や米国の消費率に依存しない新しい経済体制へ移行しているということだ。
 また、中国の経済成長のパターンも懸念される。通常、経済ブームというのは、需要過剰からおこるものだが、中国の場合は、対照的に低賃金労働、低資本、生産過剰および投資過剰といった供給過剰から成っている。中国の純輸出の過度の急増は、生産品が市場で吸収されず経済的不能となった結果である。この状況は、世界経済成長が減退し、余剰生産品の吸収能力が益々減少していくという観点からすると、健全であるとはいいがたい。

6. おわりに(Conclusion)
 4年前の2003年の講演では、主な課題として中国やインドの新興成長市場経済の強い需要について我々は議論し、この根強い需要は金属鉱業分野にとって非常に好意的であると確信した年であった。4年後の2007年の一年間を振り返れば、供給が強い需要に追いつきつつある年であったといえ、よりバランスのとれた、また、持続可能な状態に達したと言えるのではないだろうか。また、世界経済は、多極化した経済体制に移行しているが、この過程において問題が発生している。一方、ドル安、政治・金融的懸念、更にはインフレーションに対する懸念から、貴金属は非鉄金属と比較して、今後も強気の傾向が予想されるだろう。また、世界市場において、不動産等の投資先よりも金属商品への投資が、今後も続くことが予想される。供給状況は、金属の種類によって異なるが、需給バランスが落ち着きつつある銅については、供給障害によって、そのバランスが容易に崩れる可能性もある。最後に、投機資金の流入によって金属価格が支えられてきたが、今後は、長期投資インデックスファンドの役割がどのように変化するのかに注目していく必要があると言えよう。

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