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報告書&レポート

2008年5月22日 リマ事務所  西川信康報告
2008年40号

エクアドル、鉱業指令(Mandato Minero)成立で鉱業界に暗雲


1. はじめに
 エクアドルでは、コレア政権の誕生で、資源の国家管理が強まる中、4月18日、制憲議会において新鉱業法の骨格となるMandato Minero(以下、鉱業指令)が成立した。これは、休眠鉱区の権利取消しや鉱業権取得件数の制限、さらに、新鉱業法公布まで探鉱開発活動を凍結(零細鉱業を除く)することなど、鉱業活動を大きく制限するもので、鉱業界からは、これに反発する声が広がっている。 本稿では、本鉱業指令の内容と鉱業界の反応、さらに内容が明らかになりつつある新鉱業法の概要について報告する。

2. 鉱業指令の内容
 鉱業指令を巡る議論は、今年の2月より制憲議会の中の天然資源分科会で、鉱業法改正の準備作業として開始されたもので、エクアドル鉱業の将来ビジョンを打ち出すために、鉱山・石油省、大統領の支持政党であるAcuerdo Paisなどによる意見書をたたき台に審議されてきた。
 4月18日、制憲議会総会に提出された12条からなる鉱業指令が賛成95票、棄権25票で承認された。本法案の概要は、以下のとおりで、民間企業による鉱業活動を、大きく制限する厳しい内容となっている。(全訳は、巻末の参考に記載)
・2007年12月末時点で、探査活動を行っていない、または、環境影響評価書を提出していない、または、鉱区料を支払っていない全ての鉱業権を無効とする。(第1条、第2条)
・自然保護区、森林保護区、緩衝区内で認可された鉱業権を無効とする。(第3条)
・個人及び法人ともに、認可される権益数は、3件までとする。(第4条)
・新鉱業法発布まで、新規の鉱業権認可を停止する。また、手続中の鉱業権申請も却下する。(第6条、第7条)
・上記に含まれない全ての鉱業活動は、新鉱業法が発布されるまで、凍結する。但し、家内鉱業や共同組合鉱業などの零細・小規模鉱業は例外とする。(第8条、第10条)
・新鉱業法は本鉱業指令の発布から180日以内に発布する。(第9条)
・鉱業活動を総合的に管理する鉱山公社を設立する。(第1条)
・鉱業権益の無効、取消し、鉱業活動の凍結に対して、政府は一切の経済的補償の義務はない。(第12条)
 Chiriboga(チリボガ)鉱山・石油大臣によれば、現在、承認されている3,823件の鉱業権の内、今回の審査の対象となるのは、3,233件におよび、また、鉱業権申請中のものは、1,374件であり、これは全て却下される。現在、鉱業権は約2,300の個人や法人が保有しており、大手法人12社が全体の60%を占めている。但し、無効・取消手続は、鉱業権毎に審議し、精査する必要があり、相当の日数を要する見通し。また、同大臣は、各鉱業権の無効・取消しの行政命令を出す前に、鉱業権者に労働者雇用リストを提出させ、労働者の失業救済対策を図ること、現在、生産中の小規模金山であるLiga de Oro、Biva、Guasimi Alto、San Carlos、Sultanaは鉱業活動凍結措置の例外とすること、各法人・個人の鉱業権数が3件までとなったことで、活動中の大手鉱業開発企業に影響を与えることから、現行の1鉱区面積上限5,000haを変更することを検討していると述べた。さらに、鉱山公社ENAM(Empresa Nacional Minero del Ecuador)設立については、コレア大統領が署名すれば、直ちにその手続を開始するとし、ENAMは、先ず、政府投資案件としてセメントと無機肥料の事業に出資することを明らかにしている。

3. 鉱業界の反応
 これに対し、鉱業界は、一斉に反発、混迷が深まっている。
 コレア大統領は、4月24日、エクアドルで鉱業権を保有する代表的なカナダ企業8社(Corriente Resources、Aurelian Resources,、Cornerstone Capital Resources、Dynasty Metals & Mining、Ecometals Limited、IAMGOLD、International Minerals Corporation、Salazar Resources)と会談し、今回の鉱業指令の主旨説明を行った。企業側は、3,000件に上るとされる鉱業権無効・取消の決定及び半年間の鉱業活動の凍結措置に不満を表明するとともに、鉱業指令の法的根拠と、株主を納得させ得る追加情報の提供を求めたが、コレア大統領からは、個々の企業への対応に関する具体的な言及はなく、責任のある鉱山会社のみがエクアドルでの鉱山ビジネスを展開できる旨を繰返し述べたに留まった。
 この決定を受けて、各社は相次いで、鉱業活動の停止を発表している。39件の鉱業権を保有するAurelian Resourcesは探鉱活動を停止し、約360名を解雇したと発表した。また、同国内6州に鉱業権を保有するDynasty Metals & Mining Inc、さらに、南部のMacara地区に4件の鉱業権を保有して、米国のNewmont Miningと共同事業を実施しているCornerstone Capital Resourcesも探鉱活動を停止したと発表した。Junin銅プロジェクトを保有しているAscendant CopperのVeintimilla社長は、鉱業指令が適用されれば、同社は8.5億US$の損害を被ることになるとして、政府を激しく非難している。
 鉱業指令の波紋は、ジュニア企業の元で働く地元労働者にも広がっている。Condor山脈周辺に住む約6,000人のShuar族のうちCorriente ResourcesやAurelian Resources等の企業で働く約1,000人の地元労働者は、鉱業指令が発布されたことにより、自分たちの生活基盤を失う恐れがあるとして、4月25日、地元新聞に一面広告を掲載し、アコスタ制憲議会議長に対して鉱山地域住民を救済するため、即時、鉱業指令の一部修正を求めた。また、5月6日には、鉱業指令により失業・休業した鉱山労働者など3,000人が、大統領官邸前に集合し、政府に対して労働の保証を求める抗議運動を行った。これに対してコレア大統領は、鉱業指令の見直しは不可能であり、鉱業活動停止により失業した労働者に対しては地方インフラ工事や住宅建設等の臨時雇用で救済すると言明した。
 一方、エクアドル鉱業協会エスピノサ会長は、本鉱業指令について、1)各鉱業権者の保有できる権益数の変更、2)保護地域の探査活動の認可、3)未投資の鉱業権消滅の見直し、4)関連省元職員の保有する権益の無効条件の見直しの4点を修正するよう制憲議会に求めている。

4. 新鉱業法の行方
 鉱山・石油省は、同省作成の新鉱業法の草案について、同草案の章毎に12の委員会を設け、5月より鉱山会社、鉱山労働者代表、自然保護団体との間で話合いを開始し、5月末までに最終草案を完成したいとしている。5月12日、カナダジュニア企業と会談したChiriboga鉱山・石油大臣は、「新鉱業法草案作成を5月末までに終了させ、出来るだけ早い時期に発効に持込むべく努力する」と述べ、企業に対して平静を保つよう申し入れた。
 新鉱業法草案の柱は、ロイヤルティ制度の導入、鉱山開発と環境保全の両立、地域住民との事前合意、鉱業権維持費の見直し、小規模金採掘業・石灰採掘業の分離、不法採掘の取り締まり強化等となっており、現在のところ、明らかになっているのは以下。なお、地域住民との事前合意問題について、制憲議会は、天然資源開発決定には地域社会の住民投票の賛成が必要との条文を入れる方向で検討しているとされるが、コレア大統領は、地域社会に国の資源開発決定権限を与えることは認められないと発言しており、具体的な住民との合意方法について、意見が分かれている模様。
<新鉱業法草案の概要>
・新規鉱業権益申請料:1件100US$で変更なし
・鉱業権益維持料:1~16US$/鉱区ha(ヘクタール)で変更なし
・ロイヤリティ:生産された鉱産物の売上げ価格によって決まる

1~5,000万US$ 3%/年
5,000万US$~1億US$ 4%/年
1億US$以上 5%/年


・鉱業権益の有効期間:探査権 20年(現行30年)延長不可
           :採掘権 20年(現行30年)更に延長可能
・鉱業権益の消滅:鉱業権益の取得日より2年間に1鉱区ha当たり100US$以上の投資義務があり、不履行の場合は権益が消滅
・鉱業管理局(Direccion de Fiscalizacion y Control Minero)を設立し、鉱業活動全体の管理・監督を行う。
・鉱山公社(Empresa Nacional Minero)を設立し、国家レベルで鉱山開発事業を推進する。
・国家鉱業局の下部組織として、鉱業登録(Registro Publico de Mineria)と鉱業公報(Gaceta Minera Nacional)を設置し、鉱業関係業務を集計し、分析し、その結果を毎月鉱業公報誌で報告する。
・生計維持のための小規模鉱業や骨材を対象とした小規模鉱業(鉱区面積1,000鉱区ha以下、粗鉱量25t/日以下)は、本鉱業法の対象外とし、別途鉱業施行細則令にて規制を設ける。

5. おわりに
 コレア大統領は、鉱業指令の狙いとして、「政府が目指すのは、経済的・社会的利益、環境への配慮が伴った責任のある鉱業であるとしたほか、新規則はインフォーマルな形で付与された鉱業権を取消すことを目的としており、新規の鉱区申請を阻むものではない」と強調するとともに、大型露天掘鉱山の開発についても、「自然環境破壊を最小限に食い止める方策を講じた露天掘鉱山を認めていく」と、環境保護派の元エネルギー鉱山大臣で、現制憲議会議長のアコスタ議長とは異なる見解を示している。また、Chiriboga鉱山・石油大臣も、「石油の可採年数は25年を超えることはない、従って、ポスト石油資源として、金属資源開発に国の将来を賭けているとし、大規模鉱山開発を国家プロジェクトとして推進していく」との考えを明確に表明している。なお、政府は2008年2月、石油依存から脱却するために、鉱業部門において、国家の最優先事業として以下の8プロジェクトを指定している。
[1]Mirador銅プロジェクト(Corriente Resources)
[2]Fruta del Norte金プロジェクト(Aurelian Resources)
[3]Rio Blanco金プロジェクト(International Metals)
[4]Quimsacocha金プロジェクト(IamGold)
[5]Amazonas石灰・粘土プロジェクト
[6]Unacota石灰・粘土・軽石プロジェクト
[7]Ishimanchi大理石プロジェクト
[8]Reventador燐灰石プロジェクト
 (なお、[5]~[8]は国家プロジェクト)
 こうした政府の鉱山開発推進の動きと今回の鉱業指令の内容には、明らかに大きな乖離がある。今回の鉱業指令は、今まで、軽率に与えてきた相当数の鉱業権益に係わる手続の乱用を正すことをそもそもの目的としているが、法的に正当に取得し、責任をもって鉱業活動を行っている企業も含めて対象としているところに、大きな問題点がある。これによって、多数の投資案件が停滞ないし後退することは間違いない情勢であり、今後、投資家を引き止めるための政府による追加説明、新鉱業法制定に向けての業界側との話合いの推移が注目される。とりわけ、同国初の本格的な鉱山として期待されるMirador銅開発プロジェクトの成功の如何が、エクアドルの鉱業振興の試金石となることは、内外の資源関係者の一致した見方であり、特に、同プロジェクトの行方を注視することが肝要である。

参考

官報No. 321 2008年4月22日

制憲議会総会
前文

 2007年4月15日の国民投票により、エクアドル国民は全権限を有する制憲議会の招集を承認した。
 制憲議会は、2007年11月30日、官報223補足により公布された制憲議会令No. 1第1条に従い、その全権限の行使についた。
 エクアドル国は、地下、河川・湖とそれらの河床湖底・流域、また国土のいかなるところでも、そこに存在する鉱物の不変且つ不可侵の所有権を有する。同様に、国益に応じて開発されるべきものである。
 その探査・採掘は、法的義務の厳格な遂行を条件としており、それには環境保護、及びこの活動に直接また間接的に係わる現地住民、アフリカ系エクアドル人、共同体の権利の尊重、また、法で定めるパテント、ロイヤルティ及び諸税の納付が含まれる。
 鉱業活動により引き起こされる環境に対する潜在的負のインパクトを軽減する必要がある。
 我が国における鉱業活動の発展には、投機的な行為や、少数の法人・個人による鉱業権の集中を呼び起さない、一貫性のある機能基準による安定し且つ公正な法制度を必要とする。 生計維持のための、また、骨材を対象とした家内鉱業活動は、労働と彼らの富の源泉であり、法規定及び環境、労働上、社会的保護を要する。
 枯渇資源も非枯渇資源も共に、短期・長期的観点で、国土整備、計画、土地利用の優先順位についての合法的なメカニズムを促進する必要がある。
 現行の行政規定は不完全で国益を反映していない。従って、国が求める発展モデルに一致する、安定且つ有効な施行細則を有する新鉱業法が施行されるまで、環境、社会及び文化への影響を抑えるために、緊急な改正が必要である。
 本権限の行使において、以下を発布する。

制憲会議令 No. 6(Mandato Mirero)

第1条 探査段階において2007年12月31日までに、プロジェクト進展に向けた何らの投資を行わず、或いは、環境影響評価報告を提出せず、或いは、事前協議を実行していない、または、行政手続が停止しているものも含めて、その全ての鉱業権は、いかなる経済的補償なく、無効を宣言する。
第2条 鉱業法で定める、即ち2004年から毎年3月31日まで、納付すべき鉱業権維持料を納付していない鉱業権益の無効を宣言する。
第3条 当該官庁により指定された自然保護区、森林保護区、緩衝区内で、また現源泉と水源に影響を及ぼす地域に認可された鉱業権益は、いかなる経済的補償なく、無効を宣言する。
第4条 一個人或いはその配偶者、或いは、法人及びその法人の直接関与する関連企業、また、第四親等と第二姻戚までの株主と近親者に認可された3件を超える鉱業権益は、いかなる経済的補償なく、消滅を宣言する。採掘中にある非金属の鉱業権益は除外する。
第5条 天然資源省、エネルギー・鉱山省、及び、鉱山・石油省の職員及び元職員に、或いは、その第四親等と第二姻戚までの近親者に、特権情報の個人的利益を利用して認可された全ての鉱業権益は、いかなる経済的補償なく、無効を宣言する。
同様に、現在第三者が保持し、最初に、天然資源省、エネルギー・鉱山省、及び鉱山・石油省の職員及び元職員、また、その第四親等と第二姻戚までに、認可された鉱業権が譲渡された鉱業権益は、いかなる経済的補償なく、無効を命ずる。
第6条 本制憲会議令の承認から、新憲法と新法の発効まで、新規鉱業権認可の延期を宣言する。それに従い、政府に、鉱山・石油省を通じて、手続中の新鉱業県申請を却下することを命ずる。財務省に、納付された手続料を申請者に還付するための必要財源の手当を命ずる。
第7条 本制憲会議令の1,2,3,4と5条に含まれない非金属及び建設材の鉱業ライセンスは、活動を継続できる。但し、活動を規制する新法令によるライセンスの再交渉の義務を有する。
鉱物資源の保有者としての国家は、環境施行細則及び鉱山・石油省が発布する規制を遵守しつつ、建設材の有効利用に関する権限を持つ。
第8条 1,2,3,4と5条の記述に含まれない全ての金属資源鉱業権における鉱業活動を規制し、また操業条件が再定義される新法令が承認されるまで停止とする。唯一且つ独占的に、現在採掘活動に入っていて、本8条の前節に含まれない金属鉱業権益については活動を継続できる、しかしながら、新法令の条件の基、ライセンスの再交渉の義務を負うものとする。
第9条 本制憲会議令で述べる新法令は、本令の発布の日付から180日以内に発布しなければならない。
第10条 本制憲会議令3条に中で示される対象に含まれない小規模鉱山、家内的鉱業、生計維持の鉱業、同業組合・協会が操業している鉱業権、及び法的に承認された共同体が操業する鉱山は鉱業活動を継続できる。
上記に述べるとは別に、小規模鉱山、家内的鉱業、生計維持の鉱業の個人及び法人の鉱業権者は、個々或いは全体として、採掘面積として150鉱区ヘクタール以上の権益を超える、或いは日産粗鉱150トン以上の採掘量を持つ鉱業権を保有することは出来ない。
第11条 政府は、鉱山・石油省を通じて、環境保全と国民の権利の尊重を基盤に、活動全般に介入する鉱山公社を設立する。
第12条 本制憲会議令に含まれる規定は、強制的施行義務である。その効力により、不平、反論、排斥行為、抗議、告訴、或いはいかなる行政及び法的行為は受け入れられず、また、補償の余地を与えるものではない。

最終規定

第一 本令の厳格な施行のために、鉱山・石油省に対し、規制正しい行政行為をもって遂行を命ずる。
第二 国民の健康と自然保護の最重要点を予防しつつ、保健省と環境省と連携して、塩(塩化ナトリウム)採掘に必要な法規制の制定を命ずる。
第三 活動を規制する新法令が、本令9条の中で規定する期間を経過した場合は、鉱山・石油省は、憲法精神に則り、8条に規定する鉱業権益ライセンスの再交渉を行う。
第四 本令は制憲会議官報と官報の公布日とは別に、本日より発効する。

2008年4月18日

Alfred Acosta
制憲会議議長

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