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報告書&レポート

2008年11月13日 ロンドン事務所 及川 洋報告
2008年76号

欧州委員会主催「Conference-Trade and Raw Materials」会議の概要


1. はじめに
 2008年9月29日、ベルギー・Brusselの欧州委員会本部にて、欧州委員会貿易総局主催による“Trade and Raw Materials”と題するシンポジウム形式の会議が開催された。
 本会議は、資源産出国が次々と導入している輸出税や輸出数量規制の現状やこの問題に対してEU諸国あるいは欧州委員会として取るべき対応につき、幾つかのテーマ毎にワーキンググループ(以下“WG”とする)を設置し、それぞれ産業界(コモディティのユーザー)、政府、研究者等によるパネルディスカッションを中心に、会場の参加者も交えて議論を行う形式を採り、また、対象となったコモディティは、非鉄金属のみならず、鉄、木材(紙・パルプ原料)、皮革、化学品など、現在、欧州の産業が何らかの形で影響を受けている分野を網羅するものであった。
 係る関係分野の広さを反映し、参加者は主催者発表によれば、日本など欧州以外も含む各国政府代表(外交団)、NGO、企業、業界団体代表など200名以上が参加していたが、本会議で、いわば攻められる側である、中国、ロシアなど輸出規制策を導入している政府関係者の参加が非常に少なかったのが対照的であった。

2. 背景等
 EUの産業構造は、所謂サプライチェーン・エコノミーであり、金属のみならず食料なども含めコモディティの7~8割を輸入に依存し、これの付加価値を高め輸出する構造となっている。
 近年、中国、インドなど新興国における各種コモディティ需要の増加による一次産品価格の高騰、更にはこうした国々やロシアなどにおける輸出規制の導入により、サプライチェーンの中間にある欧州産業界は多くの分野で、コモディティ確保・アクセスに支障をきたし始めており、こうした観点からコモディティ問題は、EU諸国・産業界において大きなアジェンダになりつつある。
 今回の会議は、この問題について広く関係者間で認識を共有するとともに本問題に対する欧州委員会として重視していく(いる)意思を示すものでもあった。
 また、会議では欧州委員会より、同委員会企業総局では、本問題についての初めての政策文書となるコミュニケーションを準備中であり、2008年11月にも公表する予定であることが紹介された。

3. 会議の概要
 会議の構成としては、最初に“プレナリー・セッション”として、欧州委員会貿易総局O’Sullivan局長、BHP BillitonのGrant社長ほかが基調となる講演、プレゼンテーションを行った後、以下の4つのテーマにつきWGを設置して議論が行われた。それぞれのグループでは、個別のコモディティを含む各分野の専門家がパネリストとしてそれぞれ従事している分野が抱える問題等につきプレゼンテーションを行った後、会場を交えての質疑応答・議論がなされた。
<WGの構成>

[1]経済問題: コモディティの輸出規制が欧州等消費国経済に与えるコスト影響
[2]論点: 対応策を考えるに当って何をプライオリティとすべきか
[3]規制: コモディティの輸出規制が正当化されうる事由とは何か
[4]手段:  貿易政策の中でどのような対応策が考えられるか

 上記[2]のWGには、経済産業省非鉄金属課の福田課長補佐が参加され、プレゼンテーションを行ったほか、非鉄金属関係では、[3]にスウェーデンのRaw Materials GroupのEricsson氏が、また、[4]には、Brusselベースの業界団体であるEurometauxのJones氏が参加した。
 WGの終了後には、再度、“プレナリー・セッション”が開催され、各グループの議論を総括した後、最後にMandelson欧州委員(通商担当)(当時)が演説を行い、会議は閉会した。

4. ポイント
 各セッションでの議論、各参加者(業界)の問題意識は、概ね下記5.で紹介するMandelson欧州委員の発言内容と共通する。そのほか、興味深かった点は以下のとおりである。

  • 特にBHP BillitonのGrant社長の講演の中に見られたが、同社はある意味、中国やロシアなどと同様、供給サイドにおいて支配的なポジションを有していることもあってか、寡占化の問題については言及せず、本問題(輸出規制)を公平な競争環境を阻害する要素とのみ捉え、公正な競争環境=コモディティへの公正なアクセスの確保の必要性を強調していたこと。
  • 過去のWTOなどのマルチ交渉の中では、関税、輸入規制など相手国マーケットへのアクセスが議論の焦点であり、本件のような輸出規制に関してマルチの法的枠組が作られて来なかったことに対する後悔の念と、現状、ドーハ・ラウンドが機能していないことなどから短期的に法的な解決を見出すのは困難であるという感覚が、概ね共有されていたこと。その上で、欧州として本件を今後長期に重要なアジェンダとして維持していく必要性が業界側、行政側(欧州委員会)双方の共通認識となったこと。
  • 個別の事例ではあるが、ロシアが導入し、フィンランド等欧州諸国が大きな影響を受けている紙・パルプ原料の輸出規制に関して、逆にロシアでの国内需要が付いて来ないが故にロシア国内林業にも収益・雇用面での悪影響が出ていることなどが紹介され、こうした規制が導入国経済にとっても必ずしもメリットとはならないことが例示されたこと。

 なお、非鉄金属資源関連では、Ericsson氏からは、新たな供給源確保という観点からもアフリカの開発、そのための全般的なキャパシティ・ビルディングへの協力の必要性が指摘された。

5. 欧州委員会としてのメッセージ
 以下に、会議最後に行われたMandelson欧州委員の発言のポイントを紹介する。欧州委員会としての問題意識、今後の対応の方向は以下に集約されている。

  • 欧州経済は、コモディティの70~80%を輸入し、これを域内で最終製品化し、輸出するサプライチェーン・エコノミーであり、それ故、欧州の対外経済政策の基本は市場の開放である。
  • 新興経済国が世界の経済秩序に与えつつある変化を考えるとき、コスト効率の悪さは産業発展の制約となることを認識することが必要。特にこの点は、急激に、かつ、資源集約的な成長をしている中国、インドに当てはまる。
  • ここ数年の間、一次産品価格は急上昇した。この価格上昇は、多くの産品に対する輸出規制の増加により引き起こされた部分がある。現在、世界では、金属、木材、皮革、セラミクス、化学品、繊維製品、エネルギーなどのコモディティに対して少なくとも450の輸出規制措置が課されている。例えば、ロシアにおけるアルミ・スクラップ、アルゼンチンにおける皮革、インドにおける鉄鉱石、中国における黄リンやコークスに対する輸出税などである。
  • 欧州の競争力は、こうしたコモディティの供給・コストによって大きく影響を受ける。平均的には欧州内で生産される製品のコストのうちコモディティは約1/6を占める。プラスチックや化学品、紙などに関してはコモディティ・コストは優に1/3を超える。こうしたコモディティへの輸出税は、欧州企業を一夜にして市場から追い出すことにつながりかねない。例えば、欧州企業が中国から輸入する黄リンが中国企業が国内で調達するものよりも高ければ、欧州企業は競争できるわけがない。
  • このような輸出税は、いわば間接補助金的に機能する。過去60年にわたる貿易自由化の取組みの中でこの問題は殆ど取り上げられてこなかった。ドーハ・ラウンドにおいても輸出規制を導入している加盟国は、交渉の対象から除外してきている。
  • 輸出規制は、例えば高い国際価格の中で国内需要に対して、安く供給するために、あるいは国内生産者向けのコモディティを確保するために、といった理由で導入される。また、価格上昇分は、ウィンドフォール・タックスとして自国輸出業者にも課される。一見すると有効な政治・経済政策であるように見えるが、メリットよりもコストのほうが大きくなりうることを理解する必要がある
  • 輸出規制は、長期的に世界経済の大きなリスクとなる。輸出規制は、企業の効率化や競争力向上を促す価格シグナルを遮断する。また、サプライチェーンの最上部にあるコモディティに対する人為的な助成は、サプライチェーンの末端まで非効率と低生産性を転嫁していくことになる。当初のメリットは、やがては国際市場でのシェア低下や獲得できる外貨の減少という形で失われていく。
  • 輸出規制を正当化する政治的理由として、幼児期の産業の保護や、政府としての財源確保が言われる。しかし、経済的には輸出規制はこうした限られた目的に対処する手術用のメスというより、ハンマーのようなものである。
  • さらに構造的に問題なのは、こうした輸出規制が、非生産的な報復のサイクルを招きがちであることである。
  • それゆえ、欧州の貿易政策のゴールは、必然的に、いかなる歪曲もない、開かれた、エネルギー・コモディティのグローバル・マーケットを作ることにある。そのためには、どうすればよいのか?
  • 短期的解決策が存在しないことは明らかである。また、輸出規制を扱う国際的な枠組や、これを作ろうとする動きも存在しない。このため、我々はさまざまなレベルで取組を行っている。第一には、欧州が結ぶFTAの中に、コモディティの自由貿易を明記することである。最近締結したメキシコとチリとのFTAには盛込まれており、また、現在交渉中の韓国とのFTAにおいても同じ条項を議論している。これに続くインドや他の国々との交渉においても同様に取組むつもりである。
  • 第二には、WTOへの加盟交渉において輸出規制について同様のコミットメントを取付けること、そして、法的位置付けを与えることである。ロシアが行おうとしている鉄・非鉄スクラップに対する輸出税の強化は、ロシアのWTO加盟交渉時のコミットメントに反するものであり、現在、ロシアとの間で議論を行っている。
  • 中国も加盟時のコミットメントを遵守することが求められる。私自身、繰返し中国に対してこの問題を提起している。米国が中国のコモディティ輸出規制をWTOに提訴する可能性について報じられているが、EUが同様の措置をとる可能性を排除しない。自国産業保護のために輸出税を行い、結果としてダンピング価格で製品を欧州に持込む国については、欧州の貿易保護措置としての監視を受けることとなる。
  • 最後に、我々は世界経済が相互依存関係にあるという原則の下、輸出規制撤廃と開かれたコモディティ市場作りをサポートし続ける。このために、G8やOECDの場においても本問題を提起し続け、米国や日本とも戦略的対話を行っていく。
  • また、各国との投資対話の中で、欧州のコモディティ産業への投資家のために、より開かれ、より透明な条件を確保すべく取組んでいく。また、私は、各国の貿易大臣との会談の中でも本問題を提起し続けるつもりである。この問題は、中国との貿易経済対話においても重要アジェンダと位置付けられることになる。必要あらば中国のコミットメント遵守をWTOの調停に持込むことはあり得るが、本問題は必ずしもWTOの場でなければ扱い得ないものではない。やがては、本問題は、中国とEUが長期的に、建設的に協働すべき分野と考えている。
  • 透明で、開かれた市場のみが成長する世界経済によるコモディティ供給へのプレッシャーに対応する途であり、資源ナショナリズムは、単に経済のシステムを政治的に不安定化させるだけでなく、資源非効率を招く。
  • 欧州のコモディティに関する貿易政策は、即効的なものはないが、我々が持っているレバレッジを認識し、これを活用していく。そのために欧州として結束が必要である。今後も本問題を重要アジェンダとして位置付けていく。

 なお、本会議でのプレゼンテーションの内容は、下記のEUのホームページから参照可能である。
http://trade.ec.europa.eu/doclib/confcomp/form.cfm

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