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報告書&レポート

2009年1月7日 ジャカルタ事務所 小岩孝二報告
2009年1号

インドネシア新鉱業法について

 3年7か月に亘って国会審議されてきたインドネシア新鉱業法(鉱物石炭鉱業法)が2008年12月16日に国会本会議で承認された。今後、大統領の署名を経て公布、施行される。当ジャカルタ事務所では国会で承認された法案を入手したので、新法の概要を紹介する。

1. 新法のポイント
(1)鉱業権は、国または地方政府から発給される鉱業事業許可制度に一本化され、これまで外国からの投資に活用されてきたCOW(鉱業事業契約:Contract of Work)制度は廃止。
 ①鉱業事業区域(WUP)における鉱業事業許可(IUP)と特別鉱業事業区域(WUPK)における特別鉱業事業許可(IUPK)に分類。その他に、個人・小規模事業者を対象とした市民鉱業区域(WPR)における国民鉱業許可(IPR)がある。
 ②探鉱許可と生産許可の2段階制。
 ③許可取得可能者はインドネシア法人または自然人に限られるが、内国資本、外国資本の差別無し。

(2)既存COWは契約期限内有効。ただし1年以内に新法に適合させる。

(3)インドネシア国内での生産物高付加価値化(製錬・精製)義務。既存COWには5年間の猶予期間を与える。

(4)新たに10%の新ロイヤルティ(Net Profit Royalty)を追加。

(5)外資インドネシア法人による鉱山開発の場合、生産開始5年後に国、地方政府、インドネシア民間企業等に一部資本移転義務。

(6)政府に生産量、輸出量をコントロールする権限を付与。

(7)大統領の署名を持って公布、施行。国会通過後30日以内に署名されない場合は自動的に発効。

(8)政省令は1年以内に制定。それまでの間は旧政省令を矛盾しない範囲で適用。

2. 鉱物石炭鉱業法
(1)鉱業地域
 ①インドネシア国土内に鉱業を実施することができる地域として“鉱業地域(WP)”を国が設定。
 ②WPは、さらに“WUP(鉱業事業区域)”、“WPN(国家保護区域)”及び“WPR(市民鉱業区域)”に分かれる。また、WPNの中に“WUPK(特別鉱業区域)”を設けることができる。WPRは個人の小規模事業を対象とし、IPR(国民鉱業許可)が与えられる。
 ③WUPKは、国家利益にかなう特定物資の国家的確保のために設定され、その採掘には国会の承認が必要。

(2)IUP(鉱業事業許可)
 ①位置:「WUP(鉱業事業区域)」内
 ②対象者:企業体、共同体及び個人。
 ③認可者:単一県内であれば県知事、複数の県に跨れば州知事、複数の州にまたがれば国。
 ④認可方法:入札。ただし探鉱IUP保有者には生産IUP移行を保証。
 ⑤期間(金属の場合)
  イ)探鉱(FS含む):最長8年間
  ロ)生産(建設含む):最大20年間。10年間の更新が2回可能
 ⑥面積(金属の場合)
  イ)探鉱:最大10万ha
  ロ)生産:最大2.5万ha

(3)IUPK(特別鉱業事業許可)
 ①位置:「WUPK(特別鉱業事業区域)」内
 ②対象者:国営企業、地方公営企業、民間企業。ただし、国営企業、地方公営企業優先。
 ③認可者:国
 ④認可方法:民間企業の場合は入札
 ⑤期間:IUP(鉱業事業許可)と同じ
 ⑥面積:     〃

図1. 鉱業地域、鉱業権概念図
図1. 鉱業地域、鉱業権概念図

表1. 鉱業権の形態とその内容

  新法 旧法
形態 IUP
鉱業事業許可
IUPK
特別鉱業事業許可
COW(Contract of Work)
鉱業事業契約
KP
鉱業権
分類 探鉱IUP/生産IUP 探鉱IUPK/生産IUPK 単一 概査/探査/採掘/加工・精製/輸送/販売
対象者 インドネシア法人、自然人 インドネシア法人
国営企業、地方公営企業優先
外国資本インドネシア法人 内国資本インドネシア法人、自然人
発給者 原則地方政府 中央政府 中央政府 中央政府
(ただし2000年以降実態的に地方政府)
最大期間 探鉱:8年間
生産:20年間(+更新10年2回)
概査:1年(+更新1年)
探査:3年(+更新1年2回)
FS:1年(+更新1年)
建設:3年
生産:30年(+更新10年2回)
概査:1年
探査:3年(+更新1年2回)
生産:30年(+更新10年2回)
最大面積 探鉱:100,000ha
生産:25,000ha
制限なし 概査:5,000ha
探査:2,000ha
生産:1,000ha


(4)国内高付加価値化義務
 生産物については、インドネシア国内で製錬、精製を実施。他の生産IUP保有者に実施させることも認められる。

(5)税及び税外収入
 ①国:法人所得税、関税、間接税(付加価値税)、固定手数料、探鉱手数料、生産ロイヤルティ、情報提供料(詳細は今後制定される政省令で規定)。
 ②地方:地方税、地方手数料、その他法律等に基づく収入。
 ③新ロイヤルティ(Net Profit Royalty):生産開始後Net Profit(純利益(当期利益))の10%を上記に加え、国と地方へ納付。
(配分:国4%、州1%、所在県2.5%、同一州の他県2.5%)

(6)資本移転義務
 外国資本インドネシア法人による開発の場合は、生産開始後5年までにその資本の一部を政府、地方政府、国営企業、地方公営企業またはインドネシア資本企業に移転しなければならない(移転割合、方法、代償等の詳細は今後制定される政省令で規定)。

(7)生産量及び輸出量の統制
 政府は、国民、国家に対する利益を最大にするため、鉱種毎、州毎に生産量及び輸出量を割当てることができる。

(8)探鉱開発関係業務のインドネシア法人使用義務
 コンサルタント、計画策定、事業実行、機器テスト等において、インドネシア法人使用義務(地元企業、インドネシア資本法人を優先。採掘、製錬、精製の実行を除く)。

(9)今後のスケジュール
 ①新法は大統領の署名により公布、施行されるが、大統領が署名しない場合も国会通過から30日が経過すると自動的に公布、施行。
 ②新法を実施していくために必要な政省令は、公布、施行から1年以内に制定。それまでの間は、旧政省令を新法と矛盾が無い範囲で適用。
 ③大統領は新法に対し反対していないことから、2009年の1月中旬までには署名するものと考えられている。

3. インドネシア鉱業界の反応、その他の疑問点
(1)COWは、政府と外資の間で締結され30年間に亘る鉱業開発条件を事前に定め保証する特別法的性格のある契約であり、インドネシア鉱業界はこれまで同国鉱業を発展させ世界有数の鉱業国に押上げてきたCOW制度を高く評価してきた。新法では同制度が廃止され、鉱業事業許可制度となることについて次のような懸念から大型の新規鉱業投資は難しくなるであろうと表明している。
 ①COWにより税、ロイヤルティ等の条件が長期に亘って保証されていたが、今後は法律、政省令の改正の影響をその都度受けることになる
 ②インドネシア国内製錬・精製義務により、投資額が増大する
 ③生産期間が最大40年間(当初20年間+10年間2回更新可能)と短くなる
 ④最大鉱区面積が小さくなる

(2)一方で、外国資本企業も直接、鉱業事業許可を取得できるようになったため、中小規模の探鉱開発事業は投資し易くなるのではないかとしている。

(3)既存COWの移行については、新法内に矛盾するような規定があり、既存COWは尊重され、強制的な変更措置は取らないとしていた従来の政府コメントとの相違もあって、解釈、対応に大きな困惑が広がっている。具体的には、既存COWは有効期限まで有効(169条a)としながら、規定している次の3点である:
 ①新法施行後1年以内にCOWの条項を新法に適合(169条b)
 ②新法施行後5年以内に精製・製錬義務を適用(170条)
 ③新法施行後1年以内にCOW範囲全体の探鉱開発計画作成を義務付け、満たせない場合は鉱区面積をIUPに適合(171条)と、既存COWの条項を大幅に変更させる内容となっている。

 業界内では、169条a項で既存COWの有効性が認められており、変更を求められても同条項を根拠に訴訟を起こすという意見もあり、業界の意見を集約して今後制定される政省令に解釈の明確化、既存契約の尊重を求めていく方針である。
 一方で、例えばSulawesi(スラウェシ)島でニッケル採掘、ニッケル・マット製造事業を行っているPT.Incoは、COW範囲約22万haの内、実際に活用されているのはそのごく一部であると地元州知事から非難されている。このため、既存COW(このPT.Incoの場合は2025年まで)で認可されている鉱区全範囲内に探鉱開発計画を示せなかった区域がある場合、その鉱区は取消され、新たに入札等により他社に付与されるため、他社にとっては有望鉱区獲得のチャンスと見る向きもある。

(4)新法には既存のKP(国内資本向け鉱業権)に関する移行規定が一切無い。既存KPはその有効期限まで有効なのか、または新法施行時に自動的にIUPに移行するのか、国内高付加価値化義務がいつから付され、いつまで猶予されるのか不明であり、詳細については政省令を待たなければならない。

4. 我が国への影響
 インドネシアは、銅精鉱、ニッケル鉱石及びニッケル・マットにおいて我が国製錬所への有数の原料供給国である。新法及び今後制定される政省令によりどの段階までの国内製錬・精製が義務付けられるか現時点では不明であるが、仮に原料輸出ができなくなると、その影響は大きい。
 なお、ニッケル鉱石は原鉱のままの輸出であり、またインドネシア政府も予てより鉱石のままの輸出には否定的であったため、輸出継続には難しいものがあると考えられる。しかし、我が国へニッケル鉱石を輸出している国営企業PT.Antamは、ニッケル価格の大幅下落によりフェロ・ニッケル製造については赤字状態であって2009年は減産の予定であり、収入源である鉱石輸出(※)を直ちに停止できる状況にはない。このため、少なくとも3~5年は輸出を継続できるよう政府に要請することが考えられる(PT.Antam関係者から聴取)。

(2007年のPT.Antamのニッケル輸出実績額はフェロ・ニッケル610百万US$、ニッケル鉱541百万US$計1,151百万US$相当であり、ニッケル鉱が47%を占める。)

表2. 我が国のインドネシアからの主要原料輸入状況

(1)銅精鉱
国名 輸入量(千t) 比率
チリ 2,148 42.5%
インドネシア 714 14.1%
ペルー 708 14.0%
豪州 458 9.1%
カナダ 384 7.6%
世界計 5,051 100.0%
推定銅純分28~32%
(2)ニッケル鉱石
国名 輸入量(千t) 比率
インドネシア 2,077 48.3%
ニューカレドニア 1,135 26.4%
フィリピン 1,087 25.3%
世界計 4,299 100.0%
推定ニッケル純分2.4~2.5%
フェロ・ニッケル製造原料
(3)ニッケル・マット
国名 輸入量(千t) 比率
インドネシア 95 87.2%
豪州 12 11.0%
中国 2 1.8%
世界計 109 100.0%
推定ニッケル純分73~78%
ニッケル地金、酸化ニッケル製造原料

5. 終りに
 人権尊重、地方分権、鉱業からの国家、地方収入の極大化等を目指した鉱業法改正であるが、2005年5月の法案国会提出以後、金属価格の未曽有の高騰、進出外資企業の莫大な利益獲得を目の当りにし、また2009年の国会議員選挙、大統領選挙を前にして、より一層の国内利益至上の法律となって成立した。しかし、法律そのものは一般原則的な規定も多く、その運用については政省令に委ねられている部分も多い。既に金属価格は大幅に下落し、世界同時不況も囁かれる中、新たな投資を呼込み、目論見どおりの成果をインドネシア国民、地方、国にもたらせられるか、今後制定される政省令が正念場となる。 なお、新鉱業法の詳細については、金属資源レポート2009年3月号にて報告の予定である。

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