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報告書&レポート

2009年1月15日 企画調査部 白鳥智裕報告
2009年03号

2008年世界鉱業の回顧

  2008年の世界鉱業は、当初は2006年から高騰した金属価格水準が維持されると見られ、資源メジャーを代表する、BHP Billiton(以下”BHPB”)、Rio Tinto、Anglo American、Vale、Xstrataの5社を代表する資源企業における2008年上期の売上高や純利益は軒並み増加すると見られた。近年の大型の企業買収の動きは、2007年11月世界最大の資源メジャーBHPBがRio Tintoに対して総額1,400億$に及ぶ買収提案となった。この結果、関係する各国規制当局、業界団体から資源供給の寡占化を懸念する警戒の声も聞かれ、特にEU、日本の独禁当局の動きが注目された。
 また、高騰した非鉄金属価格を有利な材料として、GrasbergやEscondidaのような主要銅山を経営する資源メジャーとの買鉱交渉において、日・中・韓をはじめとする各国のカスタムスメルター、企業は不利な買鉱条件を強いられた。
 しかし、米国発のサブプライム・ローン問題に端を発した9月の米国投資会社リーマン・ブラザーズの破綻は、それまでの状況を一変させた。コモディティ市場からの投機資金の撤退等により、石油などの他のコモディティの例に漏れず、主要な非鉄金属価格が急落、また、金融危機から非鉄金属の需要落込み、操業中の鉱山会社のプロジェクト等の中には延期もしくは停止したものもある。また、BHPBはRio Tinto買収を断念した。一方、2009年積み銅買鉱交渉では、スメルター側が鉱山側に対して、強気の姿勢に出るなど状況が一変した。
 9月以降の世界金融危機の影響が鉱業界に具体的にどのような影響をもたらしたかについては各社のアニュアルレポートや国際非鉄研究会各種統計等の公表を待たなければならないが、新年に当り、2008年の鉱業界を総括する。

1. 金属価格の推移
 銅、鉛、亜鉛、ニッケルは、2007年から引き続き、高い価格水準から始まった。ニッケル、鉛、亜鉛については2006年の価格最高値から価格は下がり続けた。Cuについては7月に最高値を記録するまで高い水準で推移していたが、その後価格下落に転じた。特に9月以降、リーマン・ブラザーズの破綻によって、米国のサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機に本格的に突入し、資源価格は全面的に下落基調となった。
 2008年の各非鉄金属の平均価格(()内は、2007年平均価格)は、銅6,952US$/t(7、128US$/t)、ニッケル21,027US$/t(37,224US$/t)、亜鉛1,870US$/t(3,254US$/t)、鉛2,085US$/t(2,595US$/t)となるが、これを12月の平均価格で見ると、銅3,072US$/t、ニッケル9,686US$/t、亜鉛1,101US$/t、鉛963US$/tとなり、その下落率の大きさがより明らかとなる。

表1. LME平均価格の対前年比較(US$/t)

  A B C D 下落率
(C/A)
下落率
(D/B)
参考
2007年 2008年 2008年予想平均価格
(ロイター)
1~12月 12月 1~12月 12月
7,128 6,580 6,952 3,072 -2.5% -53.3% 4,475~9,925
亜鉛 3,254 2,351 1,870 1,101 -42.5% -53.2% 1,510~3,197
2,595 2,598 2,085 963 -19.7% -62.9% 1,102~3,307
ニッケル 37,224 25,968 21,027 9,686 -43.5% -62.7% 22,046~35,273

図1. LME銅のLME価格推移(2007~2008年)

図1. LME銅の2008年各月の対前月増減比(%)

図1. 亜鉛のLME価格推移(2007~2008年)

図1. 亜鉛の2008年各月の対前月増減比(%)

図1. 鉛のLME価格推移(2007~2008年)

図1. 鉛の2008年各月の対前月増減比(%)

図1. ニッケルのLME価格推移(2007~2008年)

図1. ニッケルの2008年各月の対前月増減比(%)

図1. 鉱業地域、鉱業権概念図

 鉱業界においては、2007年7月の米国サブプライム・ローン問題が噴出した頃から、各金属に関する需要の減退が懸念され始めていた。亜鉛、ニッケルなどは、2007年6月頃から価格の高騰が下落に転じ、その後、LME在庫も上昇していった。鉛は、08年当初に価格の上昇がみられたもののその後一貫して下落傾向が続いている。金融市場に対する疑義記事が出始めたのは、米国投資会社オスプライ・マネジメントが旗艦ファンドのOsprie fund(投資運用額28億US$)を閉鎖した頃(9月2日)からである。
 そして、2008年9月15日、米国大手投資銀行及び証券会社リーマン・ブラザーズは、ニューヨーク州の破産裁判所に米連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻した。LMEは、カテゴリーⅡメンバー(*)であるリーマン・ブラザーズのLME電子取引市場での取引を停止した。リーマン・ブラザーズの破綻そのものが直接金属市場に影響を与える可能性は低いと見られたものの、米国政府に救済申請する程に悪化した米国3大自動車企業の経営難問題もあり、世界経済の後退が急激に進み始めた。世界経済の混乱とともに、この数年、投機を目的とした資金流入により、実需以上に上昇した金属価格が、ヘッジファンドの換金売りや実需の先細り懸念により売りに転じたため、図1に示すとおり主要非鉄金属の価格は急落した。
(*カテゴリーⅡメンバー:LMEの取引所での取引には参加できないが、LMEの保証のある取引(LME契約)をすることが出来る準会員のこと。LMEメンバーはカテゴリーⅠ~Ⅴまでに分けられており、カテゴリーⅡメンバーは、カテゴリーⅠに次ぐ。Associate broker clearing membersともいう。)

2. 資源メジャーの動向
(1)財務状況から見る2008年前半の資源メジャー
 この数年間、非鉄金属価格の高騰を背景に各資源メジャーは、前年を上回る財務結果を発表してきた。
 主要資源メジャーの2008年上期(1~6月)の財務レポートによると売上高順にBHPB(339億US$)、Rio Tinto(272億US$)、Vale(190億US$)、Xstrata(160億US$)、Anglo American(145億US$)である。特にBHPBは、2008年6月期の通期決算で594億7,300万US$と石油、銅、鉄鉱石などで過去最高の生産量と価格の上昇を受けて、7年連続で売上げを更新した。また、鉄鉱石等の生産量や販売量の増加もあり、Valeの2008年上期の利益率は37.1%と高水準であった。
 2008年下期については、Valeが2008年Q3報告として売上高121億US$(前期11.2%増)、純利益48.2億US$(同50億US$、3.8%減)を発表しており、金融危機の影響はまだはっきりと現れていないようである。しかし、9月以降の経済不況の影響で、Rio Tintoが従業員1万4千人の削減と資産売却等によるコスト削減策を発表し、BHPB、Anglo American等の資源メジャーも追随する構えを見せている。各社の2008年アニュアルレポート、2008年下期の財務結果が公表されるのは2009年の1月末から2月であるが、金融危機の影響等で業績の悪化が予想される。

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

図2. 資源メジャーの売上高、純利益、売上高利益率(2006年上期~2008年上期)

(2)世界における資源メジャーの企業買収
 ここ数年の金属価格高騰を背景に、鉱業界ではM&Aが活発に行われ、資源メジャーの再編が進んでいたが、2007年11月、非鉄金属において世界最大の資源メジャーBHPBが第2位のRio Tintoに対して、買収提案を行ったことは鉱業界に大きな衝撃を与えた。BHPB側は、合併の効果として、中国やインドなどの需要増加によって、高騰する金属価格をしっかりと捉え利益を上げること、合併の相乗効果によるコスト削減(鉄鉱山に関わる鉄道や港湾の利用・整備など)が期待できるとした。
 合併が実現すれば、株式時価総額3,500億US$、売上は800億US$(2007年の財務報告書ベース)に達し、Valeの331億US$(同)、Anglo Americanの255億US$(同)など他の資源メジャーを大きく上回り、従業員数10万人以上の巨大資源メジャー誕生となるはずであった。また、銅、鉛、銀、鉄鉱石、アルミナ、ボーキサイト、ダイヤモンド、チタン鉱、ウラン、マンガンの生産量についても世界で最大の資源メジャーとなる(2007年生産量ベース)。そのため、寡占化を懸念する買鉱側業界団体からも反対の声が発せられていた。
 しかし、2008年9月以降の世界経済の混乱と金融危機、Rio Tintoが2007年11月にAlcanを買収した際の負債約400億US$のリスクが合併後のBHPBの株主にとって有益ではないなどからBHPBは、11月27日買収を断念した。また、欧州公正取引委員会から鉄鉱石部門の分離独立の条件掲示なども買収提案撤回の大きな要因になったものと見られる。これによって、BHPBの株価は15%上昇したが、Rio Tintoの株価が45%下落した。

表2. BHPBによるRio Tinto買収表明から断念までの主な経緯

年月日 内容
2007年 11月   BHPBがRio Tintoの買収を表明
2008年 2月 6日 BHPB株3.4対Rio株1で買収を英国独禁当局に公式提案(買収総額1,640億US$)
7日 Rio Tintoが買収案を拒否
ヨーロッパ鉄鋼協会がEU競争政策当局に提訴
5月 30日 BHPBがEUにRio Tinto買収を正式通知
7月 4日 米国法務局、貿易委員会が承認
EU当局がEU合併規則に基づく詳細調査開始
8月 1日 中国商務省が1日から施行の独占禁止法に基づき本格的な調査に入る見通しであることが中国紙・上海証券報で公表
9月 3日 日本公正取引委員会が独占禁止法に基づき正式審査開始
10月 1日 豪州競争委員会が承認(市場競争力に影響はないと判断。)
23日 南ア競争委員会が条件付で承認
(12ヶ月以内にRio TintoのCoegaアルミ精製所を売却すること)
11月 4日 EU当局がBHPBに正式な異議告知書を送付
6日 日本公正取引委員会による公示送達措置
14日 BHPB、日本公正取引委員会に買収計画などの書類を提出、公示公達
27日 BHPB、Rio Tintoの買収を断念したことを発表


表3. 2008年の主な買収の動き

発表月 内容
2月 ChinalcoがRio Tintoの株式9%取得(8月に豪政府が11%の取得を承認)
3月 OxianaとZinifexが対等合併を発表。Oz Mineralsとして7月に合併完了。
ValeによるXstrataの買収交渉が決裂
4月 UC RusalがNorilsk Nickelの株式25%+1株式で買収完了
8月 XstrataがLonminの買収を提案したが、金融危機に対する不確実さ不安と買収に伴う銀行からの借入金がXstrataにとって、利益にならないとして10月1日に買収断念を発表。

3. 買鉱交渉
 2008年1月、2008年積み銅買鉱交渉において、日本の製錬企業とBHPB、Freeport-McMoranとの間でTC/RC(溶練費/精錬費)を45US$/4.5¢とすることで合意した。2006年以降、鉱石市場がタイトになり海外鉱山側は強気の姿勢に出ており、銅の買鉱条件は銅製錬メーカー側にとって厳しい条件となっている。
 その上、2008年に入ってからも銅価格の上昇に加え、BHPBがRio Tintoの買収が成功した場合、銅鉱石市場における影響力が格段に増加するため、銅の買鉱条件が更に悪化することが懸念されていた。
 しかし、9月の金融市場の混乱等から2009年積みの鉱石買鉱交渉において、9月の金融市場の混乱等から銅需要に対する先行き不安が高まったこと、銅地金の在庫レベルが大幅に上昇したことから、銅製錬メーカー側が鉱山側に対して強気の姿勢に転じている(09年1月現在$75/¢75レベルで合意したと報道)。

表4. 2008年の買鉱条件の動き(銅、鉄鉱石)

2月18日 新日鉄とブラジルのValeが鉄鉱石のベンチマーク価格65%の値上げで合意
6月    Rio Tintoが中国宝鋼集団との交渉で2008年度鉄鉱石価格を2007年度の最大96.5%増で妥結
7月    2008年央銅買鉱交渉で、BHPBと日本の銅スメルターが45US$/45¢をやや下回る条件で妥結したとみられる。BHPBは、35US$/¢を主張していた。
8月    2009年の銅買鉱交渉で、中国がTC/RC 45US$/4.5¢を要求すると見られていた。
9月    Valeが日本向け鉄鉱石価格の再値上げ(12%増)を要求
11月    Valeが日本向け鉄鉱石の再値上げを撤回
11月    中国銅製錬企業が2009年の銅買鉱交渉で75US$/7.5¢を要求する計画が報じられる。
12月    中国鉄鋼工業協会、豪州やブラジルなど世界の主要な鉄鉱石生産大手に鉄鉱石の大幅な値下げ(82%減)の方針



表5. 近年の日本の銅製錬企業の買鉱条件の変遷

  2005年 2006年 2007年 2008年
TC/RC 85US$/8.5¢ 95US$/9.5¢ 60US$/6.0¢ 45US$/4.5¢以下
プライス・パーティシペーション 基準価格
90¢/lb以上
基準価格90¢/lb以上(一時90~180¢があった) PP制度を撤廃

4. 中国の動向
 2008年前半はドル安・元高、エネルギー原材料の高騰、人件費の上昇(2008年1月1日からの労働契約法の施行)、1月の中部・西部地域の雪害及び5月の四川省大地震、電力単価の引上げ、ニッケル・亜鉛市況の下落で、アルミ、鉛・亜鉛産業の利益は対前年同期比で減少し、銅・ニッケル・その他レアメタル・レアアース産業の利益は対前年同期比増加となったが、その伸び率は縮小した。
 上記要因や政府のマクロ・コントロール政策、産業調整などの要素が非鉄金属企業の生産コストを押上げ、中国非鉄金属産業界にとって大きなプレッシャーとなっていた。これらの対応手段の一つとして、2007年来中国非鉄金属業界では専業鉱種に関係なく、企業の再編が進んだ。銅業界では、2007年、Chinalco(中国アルミ業公司)による雲南銅業公司、鉛・亜鉛業界では中国冶金化工集団公司による葫芦島有色公司の買収が行われた。また、2008年に入ってからタングステン業界では、五鉱集団公司による湖南有色集団公司の買収、厦門タングステン業公司への権益比率の拡大、レアアース業界においても、包頭鉄鋼公司によるチベット自治区中小レアアース企業の再編、江西銅業公司による四川省のレアアース鉱業権の買上げなどが行われている。
 9月末以降の銅価急落に伴い、製錬費(TC/RC)が低く抑えられていた銅製錬企業の経営がますます難しくなってきた。硫酸価格も急落(肥料の内需優先策としての100%輸出課税による輸出規制によると見られる)しており、硫酸の収入で製錬費の不足をカバーしていた状態が、一部地域では輸送コストを無視した硫酸販売や一部製錬所が減産または生産中止に陥っている。
 一方、中国政府は景気刺激策として11月に今後2年間で4兆元(57兆円相当)の投資を行うことを公表した(内訳は、4兆元のうち、1.8兆元を鉄道、道路、空港、電力網整備のため、1兆元を震災復興のため)。また、12月に開催された全国商務工作会議において、2009年の貿易課題として、輸出業への財政金融支援、輸出増値税還付率の見直し(引き上げ)、輸出構造の高度化(加工貿易依存の脱却、一般貿易の拡大)、輸出市場の多角化(米国依存の脱却)などの政策が打ち出された。4兆元の投資による景気刺激策に対しては、銅やアルミなどの需要増加を期待する一方、既に折込み済みの投資計画であり、新たな追加的需要は望み薄との見方もある。
 一方、中国国家備蓄局が、ベースメタル需要の落込みに対する国内金属生産企業救済のために、大量のベースメタルを国内で調達し備蓄量を積増しを行っている。
 世界的不況の中にあっても、中国は引続き金属需要増大の牽引役であることに変わりなく、今後も中国の動向が注目される。

5. 主要資源国の資源開発環境動向
(1)鉱業政策
 主要資源国では、鉱山会社に対する管理強化が見られた。
(ボリビア)
 2007年よりボリビア鉱山公社(COMIBOL)の管理・権限強化の大統領令、鉱業税制改正法の成立に引続き、2008年には鉱区売買禁止法案の議会への提出、鉱物輸出登録サービス局の設置などが行われた。
(エクアドル)
 Mandeto Minero(鉱業指令)が成立し、休眠鉱区の権利取り消し、新鉱業法公布まで探鉱活動を凍結するなど鉱業活動が制限された。新鉱業法(2009年1月3日公布)でもロイヤルティの引上げなどが明記されている。

(アルゼンチン)
 Tucuman州等7州で金属鉱業における露天採掘禁止、シアン・水銀の使用の禁止などが盛込まれた鉱業活動を制限する規則が制定された。

(ペルー)
 環境適正計画や閉山法が制度化し、鉱害対策、金の不法採掘の規制強化などに取組んでいる。また、余剰利益税法案を国会に提出する動きもあるが、ペルー政府は、法的安定性を保証し、投資を促進する立場を強調している。

(インドネシア)
 2005年5月20日に初めて、エネルギー鉱山省が議会に上程した新鉱業法が3年以上に亘る議会審議を経て12月16日に成立した。内容は、COWの廃止等利益の4%が連邦政府、6%は地方政府に納税、採掘権の有効期間は20年などとしているが、インドネシア鉱業協会は外国企業による投資が減少するだろうとして新鉱業法を批判している。

(2)供給障害
 この数年間、鉱山生産活動に影響を与えるものとして、鉱山生産活動における環境問題、利益配分を巡って地元住民との問題、また鉱業界の活性化による人材不足問題などが注目されてきた。最近では、経済発展等による電力需要の増大により鉱山生産活動における電力供給不足問題も、鉱山生産に影響を与えるものとして認識されてきた。

[1]労働・住民争議等
 ここ数年の急激な物価上昇、貧富の格差拡大、環境汚染の広がりなどから2008年も引続き、各地で社会争議が発生した。

(チリ)
 CODELCOのAndina及びSalvadorディビジョンで下請従業員によるストが発生し操業が停止した(4月)。

(メキシコ)
 労働省がCananea銅山のストを違法としたことに対する抗議行動として全国鉱山冶金労働組合(STMMRM)が全国ストを召集(1月)、労働組合総会で選出されたGomez委員長を含む執行部の承認を労働省が拒否したことでストが発生した(5月)。

(ペルー)
 地元住民による反鉱山運動や労使対立に留まらず、カノン税や鉱山労働者への利益配当の配分問題を巡る地方対地方、地方対鉱山労働者といった国内社会問題に発展しており、複雑化、混迷化が進んだ。6月に発生したペルーMoquegua県での暴動は、Moquegua県とTacna県の間のカノン税の配分を巡っての2万人規模の抗議行動で、一時的に供給不安が広がり、銅の国際価格に影響を与えるほどのものであった。また、同月に利益配当を巡る全国規模の鉱山労働者ストがおき、利益配当金上限の撤廃、早期退職制度や年金制度の確立など、労働環境や労務制度の改善を組み込んだ利益配当改正法案に対し、鉱山が存在する地方の県知事や地方出身の国会議員らは、県に対する余剰利益の配当機会が失われることを理由に本法案に対して強く反対したことによるものであった。

[2]電力供給問題等
(ペルー)
 経済が発展するにつれ、電力需要が増加したが、供給設備の増強が追いつかず、深刻な電力不足に陥った。加えて、降雨量の低下、天然ガス発電の頭打ちで鉱山会社独自の電力事業への投資計画が相次いでいる。エネルギー鉱山省によると、今後7年間にわたる鉱山開発プロジェクトで2,600MWの追加電力が必要とされている。同様に、南アでも、国内での電力需要が急速に増加し、主要鉱山をはじめとする多くの企業が操業停止に追い込まれているなどしており、電力の割当制を導入する法律を早急に用意しようとしていると2008年1月に発表するなど、電力公社Eskomが発電能力の拡張計画を発表するなどした。一方、Anglo Americanなども戦略的協力に関するMOUを締結(9月)などもされた。

(チリ)
 主要銅山が集中しているチリ北部に電力を供給するSING(北部電力連結システム)を操業しているGAS ATACAMA社に対しアルゼンチンからの天然ガス供給が停止された。燃料コストのかかる重油に切替えたが、破綻寸前まで追い込まれたところを、CODELCOやBHPBが救済した。アルゼンチンは、高まる国内需要のため、天然ガスの供給を国内へ供給することを優先していた。

表6. 2008年の主な電力関連の出来事

国名 内容
1月 南ア 電力不足による緊急事態の発表(設備の不具合や燃料炭供給ネック)マンガン、クロム、バナジウムなどの製錬生産に影響。ナミビアにも影響。
(Lonmin:プラチナ減産(860→775千oz)、AngloGold Ashanti:ウラン出荷予定日を調整)
1月 チリ 北部での操業鉱山に対し、電力供給を制限
1月 中国 大寒波のため、電力消費量が増加。鉱山操業活動等に影響。
1月 ザンビア IMFの報告により、ZESCOが27%以上引き上げ検討
4月 DRCコンゴ 電力供給が停止。送電線が1,800m盗難。OMGのBig Hillコバルト 鉱山でのコバルト生産に影響
5月 チリ Gas Atacama社の破産を大手鉱山会社が救済。
6月 チリ チリ銅委員会、電力消費量増(8.4%)が銅生産量増(7.2%)を上回ると報告
8月 ペルー ETEVENSA発電所のタービンをメンテナンス。全国の8鉱山会社に対して2日15:00~22:00までの間の電力使用を制限
10月 ペルー ペルー中央銀行が、2008~2018年間は電力供給不足と指摘

6. 今後の動向
 急激に変化した鉱業界を取巻く状況について、2009年の鉱業界の動向はどのようであろう。
 国際非鉄研究会の予測(図1)では、次のように予想されている。

(銅)
2009年の銅鉱石生産量は17.4百万tで、新規鉱山開発、生産能力増強で伸びる。銅地金生産量も20.5百万tと伸びるが、銅精鉱生産量以上にSxEw生産量が伸びるため、銅精鉱が不足し、銅地金生産量の大きな伸びは期待できない。
また、銅地金消費量については、中国の伸率(%)が低く、日米欧では減少し、18.9百万tである。

(鉛)
 鉛鉱石生産量は4.0百万tで、ボリビア、中国、ロシアで増産され、メキシコでも新規鉱山が開山する。鉛地金生産量は9.0百万tで、カナダ、中国、カザフスタン、マレーシア、韓国、米国、英国で増加が見込まれる。鉛地金消費量は9.0百万tで、中国、米国、インド、インドネシアで増加するが、欧州では、1994年以来の落込みが見られる。

(ニッケル)
 ニッケル鉱石生産については明らかにしていないが、ニッケル地金生産量は1.6百万tについては、ブラジル、韓国、ニューカレドニアなどで増加し、ニッケル消費量は1.4百万tと主に中国で増加する。
 Valeは10月23日付けのQ3報告で、9月の経済成長率の鈍化は、2001年の経済不況以来で、世界経済は更に減速すると述べると共に、経済成長率が徐々に回復するのは2009年の後半からで、長期トレンド回復は2010年からと予測し、Rio TintoのCEOは、中国の経済成長刺激策は、今後2~3か月間で効果が現れ、原料需要予測は2009年内に回復を始めるだろうと述べている。
 一方、Mining Journal誌(10月31日付)はErnest&YoungとCredit Suisseのコメントとして、2009年は世界鉱業にとって、厳しい年と予想されることを紹介し、プロジェクト創設よりもM&Aが顕著になるとし、Metal Bulletin誌(11月27日付)は、世界的不況のセンチメントが支配する限り、ベースメタル価格は下落し続けるだろうと予測している。

図3. 国際非鉄研究会による銅の生産、消費予測

図3. 国際非鉄研究会による亜鉛の生産、消費予測

図3. 国際非鉄研究会による鉛の生産、消費予測

図3. 国際非鉄研究会によるニッケルの生産、消費予測

図3. 国際非鉄研究会による銅、亜鉛、鉛、ニッケルの生産、消費予測

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