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報告書&レポート

2009年5月28日 ロンドン事務所  フレンチ 香織
2009年26号

INSG(2009年春季:定期会合)参加報告(1) ― ニッケル需給の予想 -

 2009年4月23~24日、リスボンにてINSG(国際ニッケル研究会)の総会及び定期会合が開催された。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。本研究会の会合には、INSG加盟15か国、EU本部、オブザーバー5か国(中国、カナダ、スペイン、ドイツ、ポーランド)、企業関係者で合計約60名以上が参加した。本会合は、常任委員会、統計予測委員会、産業アドバイザリーパネル、環境経済委員会によって構成され、前日22日午後には3研究会合同の気候変動セミナーも開催された。なお、本会合での講演資料は、INSGの公式HPから入手可能である。(http://www.insg.org/presents_2009.aspx)

1. INSGの需給予測
(※下図の数値は、青色が2008年実績値、赤紫色が2009年INSG予想値を示す。)
1-1. ニッケル鉱石生産量:カナダ、豪州の大幅な減産、アジアは微減
 2008年の世界ニッケル鉱石生産量は、前年比4.8%減の1,510.8千t、2009年は同比12.8%減の1,317.2千tと2年連続の減産が予想された。この減産は、2008年後半からの深刻な不況が主因で、特に2009年に大幅な縮小が見られるのは、鉱山生産世界第2位のカナダ(前年比23.7%減)と、世界第4位の豪州(前年比29.5%減)である。一方、2009年も世界1位であるロシアは、前年比7.0%減の265千tと他の先進国に比べると減産規模は小さく、依然として欧州の約84%、世界の約20%を占めると予想されている。アジアに関しては、世界不況にあっても需要増が注目されている中国が、前年比17.0%増の80.0千t(フィリピンと同等)との予想が報告された。インドネシアは2009年、同比11.3%減と予想されているが、豪州の激減により、世界第3位に留まる。結論、アジアは全体的に前年比3.9%の微減が予想されている。


図1. ニッケル鉱石生産量

1-2. 一次ニッケル生産量:全体的に減産
 2008年の世界一次ニッケル生産量は、前年比2.6%減の1,381.8千t、2009年は前年比8.7%減の1,262.0千tと経済不況に影響を受けた2年連続の減産が予想された。2009年の一次ニッケル地金生産量は、世界第1位がロシア(前年比5.4%減)、第2位が中国(同比10%減、180千t)、第3位がカナダ(同比14.7%減)で、この3か国のみで世界全体の45%を占める。また、INSGの予想で顕著な変化が見られたのは、ドミニカ共和国と韓国である。ドミニカ共和国はXstrata保有のFalcondoニッケル鉱山・製錬所の操業停止により、2009年の地金生産は2008年の18.8千tから0tへ、韓国は2008年10月開始の韓国POSCOとニューカレドニアのSMSPとのJV事業により、2009年は前年に比べて約10倍の22千tと大幅な増産が予想される。但し、INSGの統計には、公式には報告されていないが起こり得る生産停止が考慮されていないために予想値は楽観的との指摘もあり、今後も統計データが更新される予定である。


図2. 一次ニッケル生産量

1-3. ニッケル地金の消費量:先進国を中心に需要減、中国、台湾、韓国は増加と予想
 2008年の世界ニッケル消費量は、前年比1.2%減の1,290.2千t、2009年は同比8.6%減の1,179.4千tとの見通しが発表された。新興国の経済成長により、2002~2006年は年間3%の割合で需要増加を示していたが、2007年中期以降はニッケル価格の高騰により中国でニッケル含有量の低いステンレス鋼の使用が急増し、また、ニッケル系ステンレス鋼の生産が世界全体で低減したため、ニッケル需要は減少基調であった。これに加えて、現在は世界不況に陥り、2009年の消費量は世界第2位の日本、第3位の米国、第4位のドイツの各国において前年比約20~25%の大幅な需要減少が予想されている。一方、世界第1位のニッケル消費国である中国は、景気刺激策によって今後のインフラ投資も期待され、2009年は前年比6.4%増の447.0千tとの見込みである。また、台湾も同比12.7%増、韓国も同比3%増と予想されている。


図3. ニッケル消費量

1-4. ニッケル需給バランス:供給過剰は緩やかに逓減、価格の低迷は続く
 2009年も供給過剰が見込まれている(表1参照)。ただし、景気の底入れを期待する需要家サイドの在庫調整が進んでいることや、ニッケル鉱山の大手企業が生産規模の縮小、鉱山稼働の中止、新規プロジェクトの延期を発表していることから、2009年の供給過剰の拡大は、前年よりも歯止めが掛かると予想されている。

  表1. 世界のニッケル需給バランス (単位:千t)
 区分 2006年
実績
2007年
実績
2008年
実績
2009年
予想値
増減
2008/07
増減
2009/08
 ニッケル供給合計(①) 1,345.6  1,419.3  1,381.8  1,262.0  -2.6%  -8.7% 
 ニッケル消費合計(②) 1,400.3  1,306.5  1,290.2  1,179.4  -1.2%  -8.6% 
 需給バランス量(①-②) -54.7  112.8  91.6  82.6   

 2009年4月後半のLME在庫に関しては、過去14年間で最高水準の110千tに達している。今後、LMEワラントのキャンセル(地金の引出し)やステンレス鋼の減産予想なども考慮すると、2009年後半の景気回復予想時期までは、LME在庫は高水準に推移すると想定される。また、中国の需要増によって、LMEニッケル価格は若干の回復を見せているが、INSGでの講演者からは、2009年は全体的に10,000US$/t前後で低迷すると予想された。


図4. LMEニッケル価格及び在庫の推移

2. ニッケル産業に於けるアナリストの講演
 本委員会では、産業界のアナリストが、ニッケル産業に影響する主な課題に関する講演を行った。

2-1. ニッケル需要:ステンレス鋼、大幅な減産
 今日、ステンレス鋼の製造はニッケル需要の66%を占めており、ステンレス鋼生産がニッケル需給の前途に大きく影響している。2008年後半以降、先進国では、自動車及び住宅建築産業からのステンレス鋼需要が激減したことから大幅なステンレス鋼の減産が見られ、また、2008年11月には、中国最大の鉄鋼メーカーBaosteelが80%の生産能力を削減すると発表したことからも、アナリストは本会合でネガティブな見解を示した。国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)のPeter Kaumanns氏によれば、2008年の世界ステンレス鋼生産(粗鋼ベース)は、前年比6.8%減の約25.9百万tで、2009年も合わせて3年連続の減産基調を予想する。なお、2008年の中国のステンレス鋼生産は世界の27%を占めたが、3.6%減の6.9百万tと報告された。加えて、世界のステンレス鋼需要に関しては、同氏は2009年9.5%減、2010年は3%増と予想する。

(出典:ISSF、Paul Kaumanns氏のINSGプレゼンテーション資料

図5. 世界のステンレス鋼生産(粗鋼ベース:2001~2008年)

【※補足説明】
 日本鉄鋼連盟が4月20日に発表した2008年度の粗鋼生産量は、前年比13.2%減の105.5百万tと戦後最大の減少を示した。また、2009年は、100百万tを大幅に下回るとの予想もある。その他、世界鉄鋼協会は4月21日に鉄鋼生産実績を発表しているが、世界66カ国の2009年Q1の鉄鋼生産実績は前年同期比22.8%減の263.65百万t(但し、中国は1.4%増の127.44百万t)と報じている。報道では、現状で需要の減少は底打ちとの見方も報じられているが、INSG会合では「未だ見通しが悪い。」と現況での予測の困難さが強調された。

2-2. ニッケル需要:中国のニッケル銑鉄、低コストの電気炉で生産漸増か
 2007年中期のニッケル及びステンレス鋼の価格高騰が原因で、中国ではニッケル銑鉄(平均Ni含有量1.5~1.8%)が増産したが、現在の不況により、ニッケル銑鉄生産業者の経営困難が浮き彫りになっている。Macquarie ResearchのMax Layton氏によれば、中国のニッケル銑鉄生産会社は2007年に100社以上あったが、現在は約30社へと減少した。なお、生産を継続する30社は、電気炉や小規模な溶鉱炉を利用してコストを削減し、また、ニッケル価格の低下からニッケル含有量を増加させる傾向が見られる。

表2. 中国におけるニッケル銑鉄の現況
生産量の割合 製造業者数 Ni品位 製錬法 生産企業例
40% 5社以下  2.0%以下  溶鉱炉  Shandong
30%  15社以下  4~6%  小規模な

溶鉱炉

 Shandong, Jiangsu, Zhejiang & Henan
30%  10~12社  10%以上  アーク電気炉  Shandong, Ningxia, Sichuan & Anhui provinces

 ELG社のBe
o Kratz氏によれば、ニッケル銑鉄の製造は、LMEニッケル価格が18,000US$/t以下の場合はコスト割れである。また、Macquarie ResearchのMax Layton氏も、Ni市場価格は2009年4.50US$/lb(9,921US$/t)、2010年は5.00US$/lb(11,023US$/t)と予想し、Ni価格の4~5US$/lb(8,818~11,023US$/t)が続けば、ニッケル銑鉄生産量は30~40千t台/年まで落ち込むと予想する。しかしながら、直近のNi価格が回復途上にあるため、ニッケル銑鉄生産のアーク電気炉による生産が再開しつつある。例えば、Tsingshan Stainless Steel は、15千t/年のNi含有10%以上のFeNiプラントを2009年10月に完成する予定である。よって、もしNi価格が6~7US$/lb(13,228~15,432US$/t)にまで回復すれば、中国は6~9ヶ月間でNi銑鉄の生産を150~200千t/年までに急増できる。
【※補足説明】
 Brook Hunt (A Wood Mackenzie Company)社による2008年11月の調査によれば、資本集約度(Capital Intensity)は、硫酸ニッケル処理が年間28,200US$/Ni-t、フェロニッケル処理が49,900US$/Ni-t、ヒープリーチング40,500US$/Ni-t、HPAL 53,400US$/Ni-t、ニッケル銑鉄が18,500US$/Ni-tと、ニッケル銑鉄の生産は遥かに低コストで、中国企業が着手しやすい。しかし、5月18日の中国工業情報化部の発表によれば、中国各地の市場需要を考慮しない鉄鋼企業の増産を規制するために、地元の商業銀行の貸し付けを減額または中止するよう指導したり、20t以下の電気炉や1000m3以下の高炉に対する電力料金制度を推進したりする動きもある。

2-3. ニッケル需要:2008年と2009年、ステンレス鋼スクラップ貿易の規模縮小
 INSGの分析結果によれば、2008年下期からのステンレス鋼需要減により、ステンレス鋼スクラップ貿易も縮小している。
 ステンレス鋼スクラップ輸出:2008年は欧州からのステンレス鋼スクラップ輸出量が激減し、ロシアは大幅縮小の前年比54%減の90,843tであった。一方、ステンレス鋼スクラップの輸出が増加基調にあるのは米国で、2008年も前年比12.6%増で924,851tを記録した。これは、2008年上期のフィンランド、日本、韓国、台湾のステンレス鋼スクラップ需要増加が原因とされる。
 ステンレス鋼スクラップ輸入:中国の2008年のスクラップ純輸入量(輸入量-輸出量)は18.8%減の307,569t、韓国の純輸入量は47.2%減の142,325tであった。一方、2008年の台湾の純輸入量は前年比28%増の337,084tを示した。これは、2008年上期の日本、オランダ、ロシア、米国からの輸入が増加したと考えられる。なお、日本は2008年、ステンレス鋼スクラップの輸入量が激減し、逆に総輸出量(輸出量-輸入量)が95千t増加した。
 ステンレス鋼スクラップの消費量: Heinz H. Pariser社は、2008年の世界のステンレス鋼スクラップ消費量(CrNiとCrMn)は合計で前年比5.8%増の約7.5百万tと推定する。また、2009年は同比20.2%減の約5.9百万tと予想する。そのうち、日本のCrNiスクラップ消費量は前年比34.4%減と最大規模の縮小が予想された。なお、2008年の中国のCrNiスクラップ消費量は前年比28.2%増、906千tとされているが、2009年は同比5.8%減の853千tと予想された。

2-4. ニッケル価格の変動:価格変動率の低減で、産業リスクを回避
 ニッケル価格の月変動は1991~2009年で平均24%と、主要メタルの中で鉛の次に高いと言われている。ISSFのKaumanns氏は、2009年4月のニッケルの1日における価格変動は+9~-7%であり、この変動率の高さでは需要家の購入意欲を促進できるのかと懸念する。また、企業の収益計上にも大きな誤算を招くこととなり、ニッケル価格の急落は生産計画にも大きく影響している。
 よって、McKinsey社のBenedikt Zeumer博士は、ニッケル産業のリスク回避のためにも、価格の安定化を勧めた。同氏は価格が変動する理由として、以下の考えられる要因を挙げた。
[1]需給バランスの不安定さ
(過去10年間にほぼ一定で供給不足となったのは、1998~2007年の間、Ni産業は将来の需要成長を過小評価したからと考えられる。)
[2]ニッケル供給チェーンの統合性の欠如
(Ni産業は大きく拡張しているが、ニッケル生産企業が、ステンレス鋼またはニッケルの主なエンドユーザー市場と統合していない。よって、需要供給の最適法[Optimum Scheme]を想定するのが困難である。)
[3]小規模な市場
[4]非商業的な売却が多いこと
(個人的な投資家やヘッジファンドまたは投資用の金融機関の買いがある。この非商業的な売却は2007年、LMEの10%を占め、価格上昇時期に在庫の棚卸しが予想外に増加し、供給赤字幅を拡大した。)

 よって、価格の急増を避ける対策は、[1]の理由から、供給赤字が続く状態を避けて、長期的な利益を求めるのであれば、長期の需要を満たす適切な拡大計画を実行すべきと同氏は述べる。また、[2]から、供給チェーンの統合性を図り、産業需要の透明性を促進すべきである。[4]に関しては、価格変動率が低いと非商業投資が減るため、[1]、[2]によって需要供給バランスを安定化することが、リスク回避に繋がると同氏は解説した。

2-5. ニッケルの他の用途:電池、工業用鋼へのニッケル需要増の期待
 INSG環境経済委員会は、ステンレス鋼以外のニッケル用途は今後も増加すると述べる。INSG統計によれば、世界全体で2007年、ニッケル 38,900tが電池製造に適用され、世界全体のニッケル消費の約3%を占めた。2009年は、経済不況による電池自体の減産や、リチウムイオン電池の増産により、電池向けのニッケル消費量はやや減少すると考えられるが、1)リチウム価格が高いこと、2)NiMH(ニッケル水素電池)搭載のハイブリッド車の増産が期待できること、3)電池式ポータブル製品ではNiMHが依然として主流であることから、2020年にはニッケル 400~700千t/年が電池に使用されると想定できる。加えて、Heinz H. Pariser社のGerhard C. Pariser博士は、ニッケルを含有する工業用鋼の需要増を予測する。
 現在は、不況で一時的な需要減は逃れないが、世界中で注目されているエネルギー保全策によって、水力発電機の巨大な鍛造ギアに利用する表面強化鋼(Ni含有率1.5%)や、処理設備のシャフトに利用される調質鋼(Ni含有率0.5~1.5%)、LNGタンカーや二酸化炭素の貯留設備に利用する低温用鋼(Ni含有率0.7~9.0%)などの工業用鋼の需要増が期待できる。

3. 常任委員会(第38回)
 本委員会では、財務報告のほか、研究会のメンバーシップ、本事務局に関する活動及び等についての報告がなされた。常任委員会の役職者が以下のとおり選出された。
議長:Helen Clarke氏
(豪州 資源・エネルギー・観光事業省:Department of Resources, Energy and Tourism)
第一副議長:福田一徳氏(経済産業省製造産業局 非鉄金属課 課長補佐)
第二副議長:Carlos Nogueira da Costa Junior氏(ブラジル鉱物エネルギー省)

4. 2009年秋季会合の日程
 次回、INSGの2009年秋季会合は、2009年10月5~7日に、リスボン(ポルトガル:事務局本拠地)にて開催される予定である。また、10月7日午後には、『経済危機後の金属産業:今後の変化』と題した3研究会合同セミナーが設けられる予定である。

< 2009年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >

  10月5日(月)~7日(火) INSG及びICSG (場所:事務局本拠地、リスボン)
  10月7日(水)午後 3研究会合同セミナー
 『経済危機後の金属産業:今後の変化』
 (場所:Altis Hotel、リスボン)、レセプション
  10月8日(木)~9日(金) ILZSG (場所:Altis Hotel、リスボン)

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