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報告書&レポート

2009年6月11日 企画調査部  渡邉美和
2009年30号

急増した電動自転車用鉛消費―中国の鉛需要動向

 世界最大の鉛の生産・消費国の中国は、世界的な景気後退の影響を受けつつも、経済成長とともに、順調にその消費量を伸ばしている。その伸びの大部分は、世界有数の自動車生産国としての自動車バッテリー用途であったが、新たな分野として成長してきたのが中国独特の電動自転車バッテリーである。本機構でも2006年来、注目してきた※1が、2007年、電動自転車用の鉛消費量は自動車(二輪車を含む)の消費量を逆転した。
 本稿では、中国における電動自転車用バッテリーの現況について概観すると共に今後の予想を試みる。なお、中国の電動自転車は、日本の電動アシスト自転車とは似て非なるものであり、その形態等については後述する。

1. 中国の鉛消費と電動自転車用バッテリー用途の鉛
 世界の鉛の生産量は2005年の7,632千tから漸増して2008年には14.4%増加し、8,753千tとなっている。消費量はこれに対して、11.8%増の8,719千tとなった。中国の2008年の生産量は3,206千t、消費量は2,701千tで、およそ世界の1/3を占めている。鉛の主要用途は鉛蓄電池(バッテリー)である。

表1. 世界の鉛地金(一次+二次)の生産量と消費量
(単位;千t)
 
2005
2006
2007
2008
生産量
7,632 7,925 8,122 8,753
消費量
7,801 8,071 8,189 8,719
(国際鉛亜鉛研究会資料による)

図1. 世界の鉛の生産量と消費量
表2. 中国:鉛地金(一次+二次)の供給量と需要量
(単位;千t)
 
2005
2006
2007
2008
生産 2,391 2,715 2,757 3,206
輸入 455 537 236 34
供給計 2,846 3,252 2,993 3,240
消費 1,970 2,240 2,430 2,701
輸出 488 571 305 109
需要計 2,458 2,811 2,734 2,810

 


図2. 中国:鉛の供給量と需要量

 中国の鉛の主消費の内訳は表3のとおりである。
 鉛消費の代表である自動車用バッテリーは、中国の自動車産業の成長に伴い増加した。2008年の対2005年増は+142千t、増加率は+52.8%である。なお、ILZSGによる2001年の蓄電池用消費量は456.0千tで、2008年を2001年と比較すると、量では1,674千t増となり急成長の様子が確認できる。

表3. 中国:鉛消費量の用途別内訳

(単位;鉛量は千t、〔参考〕生産台数は万台、1人当りGDPはUS$)
 

2005
2006
2007
2008
2009(見込)
割合(2008)
増減率(’08/’05)
鉛バッテリー(小計)  1,386 1,685 1,866 2,130 2,376
80.4%
1.54
  電動自転車 212 350 490 612 721
24.4%
2.89
  無停電電源装置 315 343 399 448 493
16.7%
1.42
  自動車 269 315 361 411 471
15.9%
1.53
  二輪車 97 100 110 119 129
4.4%
1.23
  その他車両 173 180 184 190 195
6.6%
1.10
  輸出 320 397 322 350 367
12.4%
1.09
合金及び鉛材料 159 176 183 184 189
6.4%
1.16
鉛塩・酸化鉛 405 359 361 367 369
12.5%
0.90
その他 20 20 20 20 20
0.7%
1.00
合計 1,970 2,240 2,430 2,701 2,954
100.0%
1.37
  〔参考〕              

電動自転車生産台数  1,211 1,950 2,130 2,110
+74.2%
自動車生産台数  570 728 889 935
+64.0%
  (参考)1人当たりGDP  1,741 2,070 2,592 3,267
+87.7%

(一人当たりGDP・自動車生産台数は中国国家統計局、為替はIFS年末値、2008年は統計局発表US$値)
(電動自転車生産台数は2001~2004「電動自行車発展戦略」(郭力文,中国営銷網2007)、以降は中国自行車協会統計)
(鉛消費量はJOGMECの発注による北京安泰科作成資料による)

 最近の特徴は電動自転車用途の急伸で、2008年には612千tに達している。また、鉛バッテリーの内訳を図示すると図3になる。電動自転車バッテリーに用いられる鉛消費量の増加分が、自動車・無停電電源装置等の用途よりも全体を押し上げている。


図3. 中国のバッテリー用鉛消費量〔種類別〕

2. 中国の電動自転車生産
 中国の電動自転車は、1995年に年産1万台にも満たない生産台数で登場し、2001年には58万台であったが、2007年には2,130万台に達した。2008年は2,110万台となり、わずかに前年比減少したものの2,000万台を維持している。2001年以降の推移を図4に示す。なお、日本の電動アシスト自転車の生産台数は、(財)日本自転車産業振興協会によれば2008年に27.4万台であり、比較すると中国の膨大な電動自転車の生産台数がわかる。中国内では電動自転車運転免許は不要であり、自転車と同感覚の気楽さが普及のきっかけと見られるが、現在では、法制度・交通・環境・産業政策などの点から地方政府毎に規制も見られる。2007年に生産台数の鈍化が見られるのは、この規制による結果とも、あるいは需要の一巡とも言われている。一方、地方政府によっては、地場産業の振興面から逆に普及策が採られている例もあり一様でない状況は後述する。
 電動自転車の生産台数の推移を、自動車生産台数と一人当たりGDPと比較して図4に示す。


図4. 中国の電動自転車・自動車生産台数と一人当りGDP

 自動車生産台数がGDPとほぼ同じ伸びの傾向を示しているのに対し、2002~2006年間の電動自転車生産台数の伸びは、それを上回って急増した。
 これは、電動自転車が安価であることが大衆に受容れられた結果と見られるが2007年以降、頭打ちとなった状況が、今後、どのように推移するのか注目される。

 中国の電動自転車は、文字通り電気を動力源としてモーターで駆動する自転車である。非常用にペダルは付いているが、日本の電動アシスト自転車とは大きく異なり、電動モーターバイクとでもいうべきものである。自転車の形が基本であったが、現在では、スクーター的形態も多くみられるなど、独自の進化を見せている。
 写真1に示す”簡易型”ではまだ自転車であ
るが、写真2の”スクーター型”は、最早、
自転車の形態から脱皮している。
〔両写真は(財)日本自転車産業振興協会提供〕

 日本のJISに相当する中国の国家標準“GB”により、次のように規格が定められている;
 [1]定格出力250W以下のモーター
 [2]アクセルで自走する機能
 [3]最高速度は時速20㎞
 [4]一回の充電での走行距離は最低25km
 [5]バッテリーは48V以下
 [6]その他


写真1. 簡易型電動自動車

写真2. スクーター型電動自動車

 
 バッテリーは、一時期、Ni-Cdバッテリーも使用されたようであるが、現在では殆どが36Vまたは48Vの鉛蓄電池である。近年、展示会では3割程度がリチウムイオン電池モデルとなっているが、高価格が普及のネックとなっている。
 電動自転車の価格は、1999年頃は2,500元(31千円)前後であったが、徐々に低下し、2008年時点で鉛電池型1,400元(22千円)、リチウムイオン電池型3,000元(47千円)程度となっている。交換用鉛バッテリーの価格は、300元前後(4千円) とされている。(「再論電動自行車産業発展前景」、中国自行車協会「中国自行車」、2009年2月号)
 前述のように多量に普及しつつある電動自転車に関し、地方政府による対応は次のように異なる(データは2007年)。
・北京市(人口1,213万人):登録(中国では自転車も登録が必要)を規制。
・上海市(人口1,379万人):地場産業の育成から規制が緩やかでむしろ振興。
・江蘇省蘇州市(人口230万人):最も普及している都市の一つで、自転車と電動自転車の割合がほぼ等しく、共に90万台前後とされている。

 日本国内にも、少数ではあるが、輸入されている。しかし、日本国内では法制上、排気量50cc以下の原動機付自転車に分類され、ナンバープレート取得のほか、方向指示器、ナンバープレートランプ、前照灯などの改造が必要で、運転には免許を要する。

3. 今後の電動自転車用途の鉛需要
 中国において電動自転車市場は急速に拡大し、生産台数は2004年に自動車生産台数を上回り、電動自転車バッテリー用途の鉛需要量は、2005年に自動車用バッテリー用途の鉛需要量を凌駕した。
図4に示すように生産台数が頭打ち状態になった電動自転車であるが、2009年以降5か年間、2013年までの推移の可能性について検討を行った。
(1)前提条件
  ・耐用年数6年
  ・バッテリー寿命1年
(2)設定条件
楽観的から悲観的な条件まで、次のように3ケースを設定。
  ケース1〔楽観的〕
   ・中国全土の自転車(7億台)の2割(15,000万台)が電動自転車に買い替え。
   ・リチウムイオン電池搭載がその10%。
    →電動自転車の保有台数は2013年で約14,000万台で、まだ余地あり。
   【参考】”電動自行車行業発展戦略”、郭力文、中国営銷網2007.12
    『中国の全自転車(7億台)の2割までは拡大の可能性』
  ケース2〔中間〕 
   ・都市部(人口約5.9億人)の自転車(1.17台/戸)の5割(蘇州での実績)が電動自転車に買い替え(12,000台まで増加)。
   ・リチウムイオン電池搭載がその10%。
    →電動自転車の保有台数は2013年で約11,000万台になり、更に伸びる。
   【参考】中国電動自行車ネット記事等
    『都市部の自転車が電動自転車に置き換わって行く』『電動自転車の普及率の高い蘇州では全自転車の約50%』
  ケース3〔悲観的〕 
   ・新規購入者が一巡し電動自転車の買い替えのみで生産台数現状維持。
   ・新規生産分及び交換バッテリーの30%がリチウムイオン電池となる。
   →電動自転車の保有台数は2013年で約10,000万台になる。
   【参考】(財)日本自転車産業振興協会”アジアレポート”等
    『減速感が強まる中、メーカーは部品生産に活路か、展示会では3割がリチウム電池で今後鉛は徐々に代替されるか』

 これら3ケースに基づく、電動自転車の生産台数の予想を図5に、そのバッテリー用途の鉛需要量の推移を図6に示す。


図5. 電動自転車生産台数〔実績と予想〕


図6. 電動自転車用途鉛消費量〔実績と予想〕

 この推計の結果は次のとおりである。
[1]楽観的なケース1の場合、電動自転車生産台数は2012年に3,400万台に達し、2013年は横ばいとなる。そのバッテリー用途の鉛需要量は2013年に1,100千tに増大する。
[2]中間のケース2の場合、電動自転車生産台数は2012年に2,700万台に達し、2013年は横ばいとなる。そのバッテリー用途の鉛需要量は2012年に850千tに増大し、2013年は横ばいとなる。
[3]悲観的なケース3の場合、電動自転車生産台数は2007年の2,100万台で横ばいとなる。そのバッテリー用途の鉛需要量は2011年に730千tに増大しピークとなり、以下漸減傾向となる。

4.今後の動向のまとめ
[1]2003年以降、中国において電動自転車生産台数が急伸し、この用途の鉛消費量も急増している。2006年、同用途消費量350千tは、自動車用途の315千tを上回り、2009年の721千tは自動車用471千tの1.5倍と見込まれる。
[2]今後の電動自転車の伸びには見方が分かれるが、交換バッテリー需要も見込まれることから、電動自転車用途の鉛消費量は、今後とも2009年並から横ばい、ないしは増加傾向になるものと予想される。
[3]電動自転車用途の鉛需要については、生産台数や制度の継続的な注視が必要である。※2

1) 平成18年度情報収集事業報告書『ベースメタル国際需給動向2006(第2分冊②)―中国消費構造分析2006-』
2) ネオジムでは既に2007年に次のようにコメントされている。
 「(中国の)全需要のうち15~20%とも3割弱ともいわれる電動自転車の需要も、これまでの急成長が鈍化している。(中略)これまでの急成長が見込めないとの見方がある。」(「レアメタルニュース・アルム出版社刊、2007年10月24日号)

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