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報告書&レポート

2009年7月23日 ロンドン事務所 フレンチ 香織 探査第2課長 久保田博志
2009年36号

プラチナ・パラジウム需給動向- GFMS社のシニア・コンサルタントPeter Ryan氏、貴金属アナリストAyako Furuno女史にインタビュー-

 2009年5月18~22日、毎年恒例のプラチナ・ウィークが開催され、ロンドンにPGM需給分析家やトレーダー等が多く集まった。その週の5月21日、当事務所においてGFMS社(英)のプラチナ需給シニア・コンサルタントのPeter Ryan氏、そして同社の貴金属アナリストのAyako Furuno女史と面談を行い、現在のプラチナ・パラジウム需給、そして今後の予想について専門家の意見を聴取した。Peter Ryan氏は、貴金属大手のJohnson Matthey社でシニア・エグゼクティブを29年以上勤めた経験があり、2004年にGFMSに入社。現在は、貴金属市場のシニア・アナリストとして活躍している。今回、GFMS社の許可のもと、今回のインタビュー内容を以下に報告する。

1. 2008年のプラチナ・パラジウム需給
Q1)先ず、2008年のプラチナ・パラジウムの需給動向は?

  • A1)GFMSの調査によれば、2008年のプラチナ需給は、鉱山生産はマイナス7%と激減したが、宝飾用プラチナと廃自動車触媒からのリサイクル供給が急増し、また、自動車触媒及び装飾のプラチナ需要が減少して、8.2tの供給過剰となった(ETF[Exchange Traded Fund]投資の在庫増減を除く)。一方、パラジウムは同年、リサイクルは増加したが、南ア、ロシアの生産減少が大きく影響し、19.9tの供給不足となった(ただし、パラジウム需給は、ロシアの在庫放出及びETFの投資増減を考慮すると、全体的に8.0t供給過剰)。

     プラチナ・パラジウム需要に関しては、その約50%が自動車触媒に利用されており、自動車触媒用の需要は北米、欧州、日本が上位を占めている。
    ・北米:2008年後半以降の世界的な経済不況が自動車産業に大きな打撃を与え、北米の自動車生産は2008年、前年比19%減の自動車生産(10.55百万台)となり、同国の自動車触媒用のプラチナ需要は同比25%減(16.6t)、同パラジウム需要は、同比20%減(41.6t)となった。
    ・欧州:2008年の軽乗用車生産は、前年比4.6%減(21.2百万台)で、欧州の自動車触媒用のプラチナ需要は6%減(58.6t)、パラジウムの需要は同比1%減(38.4t)となった。

 このように、北米では経済不況が直接影響し、自動車触媒用のPGM需要は激減した。欧州でも、2008年はDPF(Diesel Particulate Filter)の強化によって、PGM需要の増加が予想されていたが、同理由で需要の減少が見られた。また、これは、過去10年間で初めての自動車触媒用プラチナ需要の減少であった。

表1.2007、2008年の世界全体におけるプラチナ・パラジウム需給(単位:t) (単位:t)
  2007年 2008年
プラチナ供給 250.3 250.7
プラチナ需要 247.6 242.4
需給バランス 2.7 8.2
  2007年 2008年
パラジウム供給 254.6 241.3
パラジウム需要 265.5 261.3
需給バランス -10.9 -19.9
  (2008年4月、GFMS調べ)  

注:ETF投資の在庫増減を除く。また、パラジウムはロシア政府の備蓄売買を除く。

図1. 2008年、プラチナ供給源 図2. 2008年、世界のプラチナ需要占有率
   
図1. 2008年、プラチナ供給源 図2. 2008年、世界のプラチナ需要占有率

図3. 2008年、パラジウム供給源 図4. 2008年、世界のパラジウム需要占有率
   
図3. 2008年、パラジウム供給源 図4. 2008年、世界のパラジウム需要占有率
   
(図1,2,3,4 GFMS出版 Platinum & Palladium Survey 2009のデータより作成)

2. 今後のプラチナ・パラジウム需要予想
Q2)今日、プラチナ・パラジウム需要の約50%が自動車触媒を占めている。世界経済の減速を踏まえて、自動車産業のプラチナ・パラジウム需要は今後どのように変化していくのか?

  • A2)プラチナ・パラジウム需要は2008年、自動車産業からの需要減(特に下期)に大きく影響された。世界全体の自動車生産は2009年、前年比15%以上の割合で減少すると予想され、2007年の生産レベルに復帰するのは、2012~2013年まで無いと予想できる。よって、自動車触媒用途のプラチナ・パラジウム需要も、同時期まで回復しないと考えられる。

     また、プラチナ需要の成長は、ディーゼル車のパラジウム代替普及によって阻められるであろう。なぜなら、北米及び日本で主流であるガソリン車への自動車触媒には、パラジウム(ロジウムも含む)を高い割合で利用されることに加えて、欧州で占有率の高いディーゼル車に対しても、プラチナからパラジウムへの代替が進行しているからである。従来、ディーゼル車に対する自動車触媒は、プラチナに100%依存していた。しかし、現在はそのプラチナの10%以上が既にパラジウムに置き換えられ、プラチナ・パラジウムの複合が急速に増加している。加えて、GFMSは、今後の2012~2013年頃には、ディーゼル車への自動車触媒に利用されるパラジウムの代替は、30%に達すると予想する。よって、欧州は、ディーゼル車が生産される自動車の約50%を占めているため、この傾向がプラチナ需要に最も著しく影響する地域と考えられる。なお、上記のとおり、北米及び日本では、ガソリン自動車触媒用のパラジウム代替は既に進行しているが、特に日本では、今後もパラジウム代替比率の更なる上昇が予想されている。

 結論として、これまで経済不況による自動車の減産に伴って、需要は減少したが、経済の回復とともにプラチナの自動車触媒における需要は緩やかに回復し、一方、パラジウムは急速に増加に転じるものと予想される。

Q3)2009年のPGM価格予想は?

  • A3)価格に関しては2009年、プラチナが900~1,375US$/oz、パラジウムが170~325US$/oz程度と予想できる。

[補足説明:ガソリン車・ディーゼル車の普及背景]
 北米で、ディーゼル車の普及が進まない理由は、主に次の3点を挙げることができる。
[1]自動車触媒が普及する当初は、ガソリン及びディーゼル燃料価格は共に安価であるが、ディーゼル車の生産コストがガソリン車に比べて遥かに高かったため、燃費(mile/gallon)の点ではディーゼル車が優良であっても、総合的なコスト面からガソリン車の方が安かった。
[2](2008年のように)ディーゼル燃料価格が高騰し、大幅にガソリン燃料価格を超えたことによって、ディーゼル車を所有する上での経済性がさらに悪化した。
[3](主にカリフォルニアを中心として)排出ガス規制が厳格化されたことによって、ディーゼル車の購入価格が大幅に上乗せされたためである。
 これら3点の理由から、今日も、米国におけるディーゼル車の市場占有率は5%以下である。日本でも、環境規制が厳しいため、北米と同じでガソリン車が主流である。また、これから自動車需要の大きな伸びが予想される中国も、乗用車ではガソリンが主流となると考えられる。中国政府はディーゼル車よりもハイブリッド車を推進する傾向も見られ、ディーゼル燃料は農業機械または商業用乗用車(例えば、バスや運輸トラックなど)に利用されると予想できる。

 前述の説明のとおり、ディーゼル車は主に欧州で生産を伸ばしている。欧州におけるディーゼル車が占める割合は、10年前に20%であったが、現在は50%近くまでに達した。これは、[1]欧州では1990年代に温暖化対策による排気ガス低減に着目し始めて以来、ディーゼルが当時の技術開発で地球環境問題に対応し、また、[2]ディーゼル燃料がガソリン燃料よりもかなり安価であったためと考えられる。

 なお、自動車触媒用のプラチナ需要70~75%は、ディーゼル車向けであるが、世界のディーゼル車対ガソリン車の総生産台数の比率は、1:3とディーゼル車の占有率が低い(図5参照)。

図5 世界の自動車生産、自動車触媒に利用されるプラチナの使用量
図5 世界の自動車生産、自動車触媒に利用されるプラチナの使用量
(出典:2009年4月、GFMSプレゼンテーション資料をもとに作成)

Q4)地球温暖化対策に向けて、世界的に排出ガス低減規制の強化が進んでいるが、PGM需要は今後どのように影響されていくのか。

  • A4)一般的には、世界的な排出ガス低減規制がさらに厳格化されれば、自動車触媒の増強が必要となり、よって、PGM使用量が増加することが想定できる。しかしながら、エンジン低燃料化や、自動車触媒デザインの開発(例えば、日産やマツダが発表したナノ・テクノロジーなど)によって、必然的なPGM需要の増加は制限されると考えられる。

     排出ガス低減規制の動向については、米国、日本、欧州が先進しており、中国や他の国々は、一歩遅れて、それらの規制を追う傾向がある。例えば、欧州では2005年からEuro4基準が適用されているが、2009年(9月予定)には、EUのディーゼル車及びガソリン車を対象とした排出ガス基準が強化されたEuro5が導入される予定である。一方、北京では2008年にEuro4レベルの新排出ガス規制が導入されたばかりである。

     その他、オバマ米大統領は2009年5月19日、2009年の目標であった走行距離25.3mile/gallonから、2016年までには35.5 mile/gallonの更なる低燃費、CO2排出量低減を目標に掲げた。今後、米国では小型乗用車へと移行し、1車につき白金属の適用量は少なくなると予想できる。

Q5)最近、自動車産業では、電気自動車またはハイブリッド車が今後のCO2低減、省エネ対策として期待されているが、これによって今後はディーゼル車、ガソリン車の占有率は著しく減少するのか?

  • A5)ハイブリッド車は人気があり、現在注目されているが、これからも数年間は、車産業シェアは”Modest(控えめ)”な状態が続くと考えられる。また、純正の電気自動車(EV)は、現在も技術の開発段階であると考えられ、普及するまでには時間がかかると予想できる。例えば、20年前から燃料電池適用車(Fuel cell car)は未来であると言われていたが、未だ量産には辿り着いていない。よって、今後も内燃エンジン車(ディーゼル及びガソリン)が、生産シェアの大半を占め、新技術の開発とともに、より燃費が低く、環境に優しいスタイルへと進化していくと予想している。

3. 今後のプラチナ・パラジウム供給予想(鉱山生産)
Q6)PGMは、南アのブッシュフェルト岩体からの生産が大きな割合を占めるが、その他の国でも今後、生産増加が期待できるのか?特にジンバブエはどうか?

  • A6)南アは、2007年、2008年とPGMの生産にとっては、悪い年となったが、2009年は、2008並のまずまずの状況で、2010年には徐々に上向きになると予想できる。一方、ロシアは、Norilskが2008年12月に減産を発表したため、暫くは生産が回復しないと考えている。

     ジンバブエのPGM生産量は2008年、ムガベ大統領による選挙の騒動にもかかわらず、僅かに増加しており、鉱山操業は堅調であった。PGMの産出する国は限られているが、ジンバブエのグレートダイクは、南ア以外のPGMのポテンシャルが高い。政治的な問題は未だ解決されておらず、ムガベ大統領に対しては世界的な批判もあるが、いずれは改善するだろう。

Q7)南アの供給障害の原因となった、電力、鉱山災害、ストライキ、熟練技術者不足等の問題は、解決されたのか?

  • A7)南アの供給障害の原因は、2007年は鉱山保安、熟練労働者の不足、労働争議などが、2008年は電力供給障害があげられる。現在も鉱山保安は課題のひとつであり、当局の鉱山保安に関する規制は強化しつつある。南アでは現在、鉱山事故の死亡が発生すると、生産の一時停止が余儀なく課され、増産を妨げる要因となっている。但し、鉱山保安基準の強化は、事故率の低下につながり、結果的に生産の向上に寄与するべきと視ている。また、南アでのPGM生産量は2009年、既存の鉱山の生産が頭打ち(減少)に対して、新規鉱山(Platinum Australia社等)、既存鉱山の拡張などがカバーして2008年並、2010年は緩やかに増加すると予想している。

Q8)南アの大統領の交代は、今後のプラチナ生産に影響があるか。また、BEE制度はどのような影響を及ぼしているか。

  • A8)2009年5月に大統領や鉱山関係大臣の交代があり、新しい政府の組織構造には変革の動きが見られつつあるが、プラチナの生産量には大きく影響していない。今年は鉱業憲章のBEE見直しの年とされているが、こちらも今のところ影響を及ぼしていない。

4. 今後のプラチナ・パラジウム供給予想 (リサイクル)
Q9)PGMのリサイクルが行われているが、供給に占めるリサイクルの割合今後どのようになるのか?

  • A9)2008年上期はPGM価格が高騰し、自動車触媒、そして(特に日本を中心に)宝飾からのPGMリサイクル量は増加したが、2008年下期は価格の下落に伴ってリサイクルも減速した。なお、2009年上期は、自動車触媒のリサイクルは徐々に回復し、現在は、通常のリサイクル生産レベルに復帰しつつある。また、宝飾品のリサイクルは価格に大きく影響されるので、今年は減少すると予想できる。

[補足説明:自動車触媒からのリサイクルに関する背景]
 日本では、1970年代から自動車白金触媒の使用が始まり、リサイクル技術も進んでいる。一方、欧州は1990年代に入って自動車白金触媒の使用が進み出した。2008年の自動車触媒向けのプラチナ需要は118.6tであったが、そのうち31.0tはリサイクルからのプラチナ生産によって満たされた。なお、現在利用されているプラチナのリサイクル用の多くは、10年以上前に製造された廃棄自動車からの資源である。今日では欧州(特にドイツ)で自動車スクラップ回収のインセンティブ(車の代替に対する奨励金の補助)を実践する動きが見られるが、現在回収されている自動車スクラップは、2009年及び2010年のリサイクル資源材となる。なお、近年はパラジウムの使用増加を予想すると、将来はパラジウムのリサイクル回収割合が増加すると考えられる。

5.さいごに
 総じて、2008年の世界的な経済不況は大きく自動車産業を影響した。2009年6月1日には、米自動車最大手であるGMが破綻を発表し、米政府は再建支援を打ち出しているが、同社の大幅な規模縮小は予想でき、今後は年間の自動車販売規模を現在の835.6万台から、600万台程度へと縮小する計画を立てている。他社の減産計画も考慮して、近い将来は、排気ガス低減規制の強化に拘らず、PGM需要が減少することが予想された。但し、南アの新規鉱山の増産及びPGMのリサイクル供給によって、PGMの供給は右肩上がりに推移すると予想され、PGMの生産側は今後の景気回復をポジティブに予想していることを推察できる。また、自動車触媒は、ディーゼル車におけるパラジウムの代替が進んでいると考えられ、景気回復後はパラジウムの需要増加が予想できる。

 最後に、Ryan氏は、2008年のPGM市場に対する日本の大きな貢献について述べた。例えば、2008年前半に、南アでの鉱山生産が減少し、需給不足が懸念されていたが、その減少分は日本の宝飾用プラチナのリサイクルによる供給が相殺した。また、2008年後半はプラチナ需要が減少し、価格が大幅に減少したが、一般的な日本の投資家によるプラチナ買いが急増し、価格下落の衝撃を緩和した。このように、日本は2008年、プラチナ市場に大きく影響を与えたと述べ、今後も日本はプラチナ市場で重要な役割を持つと考える。

参考資料:
・Ryan氏によるプラチナ・パラジウム需給のプレゼンテーション資料(2009年4月23日)
・GFMS出版『Platinum & Palladium Survey 2009』(2009年4月23日発行)

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