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報告書&レポート

2009年8月6日 企画調査部  神谷夏実
2009年38号

中国、外貨準備金を使い、国外資源権益獲得を活性化

 2009年7月、中国政府系ファンドである中国投資有限責任公司(CIC:China Investment Corporation)がカナダ資源大手Teck Resources(以下Teck)に総額15億US$の出資を行うことで、両社が合意したことが伝えられている。中国は、金融危機下にもかかわらず、国外の資源権益買収の動きを加速しているが、本件は、中国企業による世界的資源大手企業への出資としては、2008年のRio Tintoへの出資に次ぐもので、その背景には中国政府の潤沢な外貨準備金がある。以下に、Teckが中国企業からの支援を受け入れるに至った経緯ならびに中国の国外資源権益投資戦略について述べる。

1. Teck Resourcesはカナダを代表する資源大手
 Teckは1913年創業のカナダを代表する資源大手企業であり、2001年に別の資源大手企業Cominco社と合併しTeck Comincoとなり、2009年、社名をTeck Resourcesに変更している。現在の本社はバンクーバーにあり、2008年の売上げは約69億US$、純利益約6.6億US$(利益率約9.6%)である。主な事業は、亜鉛、銅、金、石炭の開発、亜鉛、鉛の地金生産で、カナダ、米国アラスカの他、ペルー、チリで事業展開を行っている。主要事業は以下のとおりであるが、Red Dog亜鉛・鉛鉱山(米アラスカ、世界最大の亜鉛鉱山)、Antamina銅鉱山(ペルー、世界第8位)等大規模鉱山の開発を行っている。銅鉱石生産は世界第15位、亜鉛鉱石生産は世界第3位、鉛鉱石生産は世界第5位(以上2007年ベース)を占めている。
 Teckはもともとベースメタルを主体として事業展開を行ってきたが、開発鉱種の水平展開(Diversify)を図り経営の安定化、拡大を行う戦略を持っており、エネルギー資源(石炭、オイルサンド)分野も含め経営体制を強化してきた。また、住友金属鉱山㈱と共同でアラスカのPogo金鉱山の探鉱開発を1990年代から行っており、1998年には住友金属鉱山㈱が当時のTeckに対し資本参加も行った。住友金属鉱山の株式保有は議決権が普通株(Class B)の100倍ある優先株(Class A)が主体となっており、議決権ベースでのシェアは約25%となっている。
 またTeckは、エネルギー資源の開発のための経営拡大戦略として、2005年にオイルサンド事業への出資を行い、2008年には共同で石炭開発を行ってきたFording Canadian Coal Trust社を完全子会社化した。いわゆる資源メジャー企業は、鉄鉱石、非鉄金属、石炭、工業原料等への分散投資、積極的M&Aによる経営拡大、経営安定化を図っているが、Teckも、非鉄金属にエネルギー資源を加えた分散型のポートフォリオの形成を進めるとともに、投資先もカナダから、アラスカ、南米に拡大する等の戦略を推し進めてきた。

2. 世界金融危機の勃発、債務増による経営圧迫
 2008年10月、Teckは共同でElk Valley鉱山(加アルバータ州)の石炭開発を行ってきたFording Canadian Coal Trust社が保有していた権益40%を買収した。
 この買収により、Teckの2008年の石炭生産量は前年の10.6百万tから23百万tに増加した。しかしながら、この買収にかかる費用として有利子負債が膨らみ、2008年末時点で、長期、短期の負債総額は約140億US$(Teckバランスシートによる)となった。前年の2007年の負債総額は約28億US$であったので、負債額は約5倍に増加したことになり、資源大手の中ではRio Tintoと並んで、負債額が突出した存在となった。こうした負債の増加、世界金融危機、経営圧迫という状況に見舞われた企業にとって、緊急的な資金調達が必要となるが、現下の状況では、潤沢な投資資金を持つ中国が、こうした企業に対する買収攻勢を活発化させ資源獲得を推進している。

3. 中国投資有限公司(CIC)がTeckに資本参加
 2009年7月、中国政府系ファンドである中国投資有限公司と間で、Teckが新株を約15億US$で発行し、これをCICが取得し資本参加をすることについて合意がなされた。国外の資源権益の獲得を加速させている中国であるが、資源大手企業ヘの出資としては、今回のTeckへの資本参加は、2008年2月のRio Tintoへの出資(出資比率約9%)に次ぐ規模のものである。CICの出資は、主にTeckの普通株を取得したもので、出資比率は17.2%、議決権6.7%程度となる。出資比率はマイナーシェアであり、Teckの経営に影響力を持つものではないとみられる。
 また、これまで日本企業は、住友金属鉱山によるTeckへの出資を除くと、資源大手企業の本体への出資ではなく、JVプロジェクトへの参加という形で投資を行ってきたことに対し、最近の中国企業は、資源大手企業の本体への出資を行っており、その戦略の違いが明らかとなっている。
 Teckにとって、CICからの出資を受けることは、まず債務削減のメリットがあるが、原料炭に関し、今後中国向け輸出が促進される効果があるとみられる。また、今後の銅鉱山(南米)、オイルサンドプロジェクト(加アルバータ州)等の開発において中国企業との共同開発の道が開かれる可能性もあり、今回のCICとの連携は、Teckの将来にとり大きな意義があるとみられる。

4. 中国政府系ファンドの実態
 今回Teckへの資本参加を行った中国投資公司は、2007年設立の政府系ファンド管理企業である。資本金2000億US$で、主に米国債中心の運用を行っていたが、最近は内外企業への資本投資を積極化させており、特に世界金融危機後に経営が傾いた米投資会社ブラックストーン、モルガンスタンレー等に出資を行ってきたことで知られている。
 CICの投資原資は、中国政府が保有する外貨準備金であり、その管理、運用を行うことが主な役割となっている。当初は、中国国有金融機関への出資、管理が主な任務であったが、最近は国外の企業への投資を活発化させている。
 CIC傘下には、主に国有金融資産管理のために創立された中央匯金投資有限公司(CHICL)や国家開発銀行(CDB)があり、これらのCICグループが、今後国外の資源開発を含む様々な分野への投資活動を活発化させていくとみられる。

5. 中国、潤沢な外貨準備金の運用を積極化
 急激に拡大した中国経済は、安価な工業製品の輸出拡大によって急成長してきた。急激な輸出拡大は、貿易黒字を拡大、さらに、為替政策により中国通貨“元”高を阻止したことが、中国の外貨準備金を大幅に増加させた。中国の外貨準備高は、2兆US$を突破した(2009年6月)といわれ、日本の外貨準備金約1.1兆US$の2倍の外貨を保有するに至った。中国政府は、適正な外貨準備高を7,000億US$程度としており、余剰の外貨を効率的に運用する余裕がある。これまで中国の外貨準備金は、主にUS$国債によって運用され、中国は世界最大の米国国債の保有国となっているが、米国発経済危機は、中国政府に大きな衝撃を与えたに違いない。中国政府は、US$の将来に大きな不安を抱いており、今後、保有US$の運用多様化、US$離れを加速する可能性がある。その際、国外のエネルギー、鉱物資源事業への投資が、大きくクローズアップされるとみられる。
 他方で、こうしたCICのこれまでの投資成績については、世界金融危機前の投資案件の場合、大きな評価損が発生しているとの批判もされている。また、政府からの借入金に対し、投資効率10%以上のリターンの確保等、厳格な運用が求められているも言われている。また、設立間もない金融ファンドとして人材不足を懸念する声も聞かれている。しかし、金融危機下、投資案件の買収価格自体も下がっており、将来に向けた投資を行うには絶好の機会とも言え、今後CICの投資活動は益々重要性を増し、その真価が問われることになるだろう。

6. 温家宝主席、外貨準備金による海外進出後押しを公式表明
 中国の経済政策の中心となっている、第11次5カ年計画では、中国国外への中国企業の進出を後押しする「走出去」政策がある。2009年7月20日、温家宝主席は、在北京外交官に対するスピーチの中で、「走出去」政策の推進のために外貨準備金を積極的に使うことを公式に表明したと報道されている。外貨準備金を使った投資において、長期的視点、投資先多様化、金融危機下の効果的投資の観点が重要となるとみられる。特に、金融危機下、主要先進地域の企業経営が圧迫される中、投資資金、事業資金の不足が大きな問題となっている中、中国は潤沢な外貨準備金を使うことが可能である。
 外貨準備金を使った国外投資として、具体的には、ペトロチャイナ、中国アルミ(Chinalco)、中国テレコム、中国銀行等の大型中央企業の名前が挙がっている。
 折りしも、ペトロチャイナによるイラク・ルメイラ油田開発権獲得のニュースが流れている他、2008年2月の中国アルミによるRioTinto株取得(約140億US$)では、CDBの融資が使われたとされている。今後、中国は、外貨準備金を使い、資源エネルギー権益確保にフォーカスして、中国企業の国外進出を後押しするとみられる。

7. 中国の資源進出に対する動向
 以上のように、中国は潤沢な外貨準備金を使い、国外の資源権益確保を加速していくと見れるが、こうした動きに対する抵抗圧力がも存在する。最近の例では、ご破算になった中国アルミによるRio Titnto支援計画がある。Rio Tintoは、Teckと同様に、世界金融危機発生前の大型買収による債務の増加しが経営圧迫要因となり、緊急的に資金調達が必要となった。債務削減のためには、借入金の返済リスケ、新株発行等による資本注入、資産売却等の方法があるが、2009年当初にRio Tintoが選んだのは、中国アルミによる支援であり、その内容は、転換社債の発行と一部事業資産(鉄鉱石、銅、アルミニウム)の売却であった。当初、Rio Tinto社内では、中国企業からの支援受入れに反対し、新株発行による資金調達を指示する意見も出された模様であり、これが原因となり、当時次期会長候補であった役員が辞職する事態に発展したが、結局は、現職の会長、社長の意向が反映され、中国企業からの支援受入れが決定された経緯がある。
 Rio Tintoの支援を巡る議論の中で、中国の進出に対する抵抗勢力としては、二重上場しているロンドン及びオーストラリア証券市場における既存投資家の抵抗、また、外国政府が直接関係する投資に対する豪州政府の懸念等がある。Rio Tintoが中国企業の支援を決断した2009年2月当時は、世界金融危機後、株式市場が最も落込んだ時期であり、確かに投資家の反応が悪い時期であったと考えられる。その後、株式市場の回復が見られ、既存投資家において、自らが保有するRio Tinto株式持分の希薄化に対する不満が高まり、2009年6月、ついにRio Tintoは、中国企業の支援受入れを撤回するに至った。また、豪州政府も、中国政府が直接バックアップする投資に対し大きな警戒感を持っていた。Rio Tintoは、もともと、英国RTZ社、豪州CRC社が1996年に合併したものであるが、豪州側には、豪州企業としてのアイデンティティーが存在するとの認識が強く残っており、中国企業の進出に敏感となっている。また金融危機発生後、資源価格の下落、需要の落込みは豪州の資源企業の業績を直撃しており、こうした弱った資源企業に中国企業が猛烈な買収攻勢をかけている。これに対し、豪州政府による外資投資審査が行われるが、最近では、中国Minmetals社による豪OZ Mineralsの買収提案に対し、豪州政府が条件付けを行った例がある。豪州としては、国家的財産である鉱物資源が適切に値決めされ輸出されることにより、外貨収入を確実に確保する必要があるが、資源開発企業の資本に、資源消費国政府が直接的に出資し、経営に参加することは極力避けたいはずである。Rio Tintoへの支援計画において、当初、中国側から2名の非常勤役員の派遣が含まれていたが、豪州側としては中国が企業経営に加わることも避けたかったはずである。Rio Tintoへの中国企業の支援に対する豪州政府の審査の結論が出される前に計画が撤回されたため、豪州政府の対応は明らかになっていないが、豪州政府は厳しい対応を用意していた可能性はあると考えられる。
 中国政府は、こうした国外進出について、資源の獲得と外貨準備金の効率的運用であるとし、資源企業の経営に参加する意図はないとの説明を繰り返しているが、今後さらに中国の投資が加速し、参加シェアが増加し、企業経営により大きな影響力を持つ可能性も否定できない。

8. 金融危機下の資源投資の意義
 世界経済は未曾有の金融危機に見舞われ、資源需要減退、資源価格下落という事態になっており、資源業界は大きく経営が圧迫されている。現在の危機は大きくても、景気は循環すると考えれば、いずれ需要の回復、資源の獲得競争が激化することは明白であり、資源を消費する国としては、将来への資源確保の投資を怠ってはならないと考える。この点において、現在の状況は、優良な資源権益が安価に獲得できる時期であり、投資資金を確保し、将来に投資しておくことは極めて重要である。しかし、多くの経済圏において、投資資金の不足という現実が大きくのしかかっている。特に、資源投資は、初期の探鉱段階であるほど投資リスクが高く、投資資金確保が難しい。探鉱投資は最もリスクが高いが、同時に探鉱投資なくしては将来の埋蔵量は確保されない。こうした状況において、世界で唯一潤沢な投資資金を持っている中国は、着実に将来への投資を行っているといえる。
 最近の中国の資源投資は、上記のように豪州に集中する傾向があるが、同時に、アフリカ(南ア、ザンビア、ジンバブエ等)、アフガニスタン等のリスクが高い地域への進出にも挑戦している。こうしたハイリスク地域では西側企業が進出を躊躇している間に、中国企業の一人舞台となってしまう可能性もある。こうした中国の資源投資は長期的視点に立ったものとも言えよう。
 国外資源の供給に依存する日本にとっても、現在の状況は将来への資源投資の好機であることは確かであり、この機会を確実に生かすために、リスクマネーの確保と投資が求められている。

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