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報告書&レポート

2009年9月10日 企画調査部担当審議役  神谷夏実
2009年45号

中国の隣国、モンゴル、アフガニスタンにて大規模銅プロジェクトが動き出す― モンゴル・Oyu Tolgoiプロジェクト、アフガニスタン・Aynakプロジェクト ー

 中国は、国内の銅資源が不足しており、大量の銅鉱石を輸入している。日本と並んで、世界の2大銅精鉱輸入国となっており、両国の銅精鉱需要は、世界の銅精鉱市場において大きな地位を占めている。最近、中国の隣国であるモンゴルとアフガニスタンにある二つの大型未開発銅鉱山プロジェクトについて、開発に向けての動きが見られる。これらプロジェクトが開発されると、中国への銅精鉱供給に大きく貢献し、日本の銅精鉱供給状況の好転にもつながる可能性がある。本稿では、これら二つのプロジェクトについて動向をまとめた。

1. モンゴルOyu Tolgoi銅プロジェクト
1-1.Oyu Tolgoiプロジェクトの概要
 Oyu Tolgoi 銅・金鉱床は、首都Ulaan Baatar(ウランバートル)南方約550km、中国との国境から80km に位置する(図1)。

図1. Oyu Tolgoiプロジェクト位置図(Ivanhoe社webより)
               図1. Oyu Tolgoiプロジェクト位置図(Ivanhoe社webより)

 Southwest Oyu、 Central Oyu、 Hugo Dummett(North、South)の4 鉱体から構成され、埋蔵量は9.3 億t(品位 Cu 0.5 %、Au 0.36 g/t)とされている。1996 年にMagma Copper(マグマ・カッパー社、1996年BHPBに吸収合併)が最初に探鉱を開始し、その後1997 年からBHPの探鉱を経て、2000 年にIvanhoe Mines 社(本社:Singapore、以下”Ivanhoe”)が権益を買収し、探鉱を再開した。Ivanhoe社の探鉱により、世界レベルの規模の銅鉱床になるまでに至った(図2)。

図2. Oyo Tolgoiプロジェクト断面図 (Ivanhoe社webより)
図2. Oyo Tolgoiプロジェクト断面図 (Ivanhoe社webより)

 Ivanhoeは、2003 年末に探鉱権から採掘権に変更し、銅鉱山開発の準備を進めている。2006 年10 月には、Rio Tintoが開発への参加を表明し、Ivanhoe株式の9.95 %を取得した。将来的にRio Tintoは、Ivanhoe 株式を40%まで保有するオプション権を有している。モンゴル政府は、Ivanhoeに対し、銅製錬所をモンゴル国内に建設することを要求しているが、現在のところ、Ivanhoeは、鉱山開発を優先し、銅精鉱を出荷する計画である。また、鉱山開発に当っては、石炭鉱山開発、火力発電所、鉄道建設等のインフラ整備も必要とされている。
 なお、現在、モンゴルではErdenet銅鉱山が操業しているが、2008年のモンゴルの銅精鉱生産量は129千t(金属純分)、中国の銅精鉱輸入量(グロス)は531千tであった。Erdenetの銅精鉱品位は27%程度とされており、同鉱山の銅精鉱のほぼ全量が中国に輸入されていると考えられる。

1-2. 投資協定で政府承認遅れる
 モンゴル経済は一次産品、特に鉱業の依存率が高く、2007年の輸出金額の74%を金・銅・蛍石等の鉱物資源が占めており、鉱業は重要産業となっている。政府は、鉱物資源生産の促進と利益確保を目的として、2006年に新鉱物資源法及び鉱産物に関する超過利得税の徴収に関する法律を制定した。
 新鉱物資源法では、外資参入の促進を図るため、手続きの簡素化、監督官庁の明確化、鉱業権保有資格、探鉱権、採掘権の明確化等の法整備を行った。同時に、鉱業収益の確保を確実に行うため、2006年5月に超過利得税の導入を決めた。モンゴル政府は、資源開発促進のため金以外の鉱物資源に対する課税を低く設定してきたが、超過利得税は、鉱物資源の価格高騰時に税率を上げ、国家歳入を増やそうとするもので、対象金属は、金及び銅で、金価格が500 US$/oz、銅価格が2600 US$/tを超える場合、超過分の売上高の68%に課税をするものである。
 また、新鉱物資源法では、『戦略的鉱床』について、『国家安全保障上、経済・社会開発上インパクトを与えるポテンシャルがあるもの』と定義され、Oyu Tolgoiプロジェクトは戦略的鉱床候補としてリストアップされたため、政府権益50%が適用される可能性もあった。
 こうした政府権益、超過利得税の導入は、対モンゴル鉱業投資を行う側から見ると、プロジェクトの収益性に大きく影響を与えるもので、新たな投資リスクとなった。Ivanhoeも、モンゴル政府に対し、これらの新制度導入に反対する意見書を提出したが、政府内でも結論が持ち越され、Oyu Tolgoiプロジェクトの政府承認が大きく遅れることとなった。

1-3. エルベグドルジ新政権、開発に向けて投資協定を承認
 モンゴルでは、2009年5月の総選挙で、エルベグドルジ新大統領が当選し、新政権が発足した。エルベグドルジ新大統領は、旧政権化では野党民主党党首であったが、選挙の結果、当時のエンクバヤル大統領(革命党)を下した。エルベグドルジ新大統領の政治公約は、自由獲得、汚職・貧困撲滅、資源の権益拡大であり、ポピュリズムを背景に当選を果たした。発足当初は、資源ナショナリズムの観点から、外資による資源投資に強い姿勢を示す可能性があるとも見られていた。
 新政権発足後の7月、新政権は、Ivanhoe社と投資協定について再協議を行い、政府権益を34%とし、超過利得税は2011年に廃止、同課税をOyu Tolgoiプロジェクトには適用しないことで基本合意に達した。これを受けて、大統領、首相、国会議長が参加した国家安全会議(2009年8月11日開催)において確認、更に8月19~21日開催の臨時国会において最終議決が行われた。臨時国会では、一部の議員が超過利得税の廃止に反対したため結論が出なかったとされたが、8月25日になり、最終的に、政府権益34%、超過利得税を適用しないことが議決された。これにより、Oyu Tolgoiプロジェクトは、開発に向けて大きく一歩を踏み出した。

2. アフガニスタン・Aynakプロジェクト
2-1. Aynak銅プロジェクトの概要
 Aynak銅鉱床は、1974年、ソビエト連邦地質機関によって発見され、その後80年代にかけて調査が行われたが、1989年のソビエト連邦の撤退とその後の内戦で探鉱、開発が出来なかった。Aynak鉱床は、首都Kabul(カブール)南東方35kmのLogar県に位置しており、一帯では古くから銅鉱石の採掘が行われていた(図3)。

図3. Aynak銅プロジェクト位置図
   図3. Aynak銅プロジェクト位置図

 鉱床は、カンブリア紀の堆積岩中に胚胎する、鉱染状の輝銅鉱、黄銅鉱を伴うSEDEX(層準規制銅鉱床)で、Central Aynak(浅部、緩傾斜)、Western Aynak(深部、急傾斜)の2鉱体から構成され、ソ連邦時代に、試錐調査150孔以上、トレンチ70か所、竪坑9本が実施され、鉱床の厚さは210m、資源量は2.4億t(ロシアのC1、C2カテゴリー)という記録が残されている。開発対象地域はアルカイーダのキャンプに使われたいたこともあり、米軍の爆撃を受けたが、ソ連邦時代の調査資料はアフガニスタン地質調査所に保管されており、英国地質調査所が解析、再評価ならびに入札資料作成を行った。開発は、露天掘と坑内掘の組合せによって行われ、当初の年産量は、SxEwカソード220千t、銅精鉱100千t(金属純分)となる見込みである。

2-2. 中国企業が政府入札で落札
 アフガニスタン政府は、BGS(英国地質調査所)の支援を受け、過去の調査記録の再評価を行い、2007年6月に入札を公告し、2008年11月に入札結果を発表した。
 入札には、Phelps Dodge(米)、Kazakhmys(カザフスタン)-Strikeforce(露)JV等を押さえ、中国企業JVが落札した。中国企業JVは、中冶科工集団公司(75%)、江西銅業公司(25%)から構成される。中国企業JVは、インフラ整備を含む30億US$を提示し、20億US$程度を提示した他の応札者を大きく引き離すこととなった。
 政府によれば、入札当時、アフガニスタンに対する外国企業による投資総額は、ソビエト連邦撤退後の6年間で総額40億US$であり、Aynakプロジェクトは、同国最大の投資事業となる見込みである。また、鉱山開発と共に、中国からタジキスタン経由のルートによる鉄道建設計画もあり、アフガニスタンは、今後、中国にとって戦略上の重要拠点になると見られる。
 Aynakプロジェクトの開発計画は、2009年7月建設開始、3年程度の建設期間を経て、2013年頃操業開始となっている。最終的な投資額は44億US$程度になる見込みとなっている。また操業開始後は、アフガニスタン政府に4億US$/年のロイヤルティ支払いが行われることとなっており、同国の経済復興にも大きく貢献すると見られる。

2-3. Aynakプロジェクト開発の意義
 中国企業が政府入札によりAynakプロジェクトを獲得し、2009年7月から建設を開始したが、アフガニスタンは依然として、テロ対策の最前線にあり、治安が回復しているわけでなく、今後、同国の治安回復がプロジェクトの進行に大きく影響を与える。米国は、治安維持のための軍の派遣を行っているが、オバマ政権は、今後、対テロ作戦の中心を、イラクからアフガニスタンにシフトさせようとしており、同国の治安回復は予断を許さない状態である。8月20日には、大統領選が行われ、現職のカルザイ大統領が再選されたが、選挙は滞りなく行われたようである。

写真1. Aynakプロジェクトサイト(英国地質所webより)
写真1. Aynakプロジェクトサイト(英国地質所webより)
写真2. Aynakプロジェクト建設起工式(2009年7月9日)(中国有色網ウエブより)
写真2. Aynakプロジェクト建設起工式
    (2009年7月9日)(中国有色網ウエブより)

 Aynakプロジェクトは、操業開始に至れば、同国の経済復興に大きく貢献するが、それ以上に、中国にとって、アフガニスタンの治安回復、経済復興は大きな意味を持つを考えられる。アフガニスタンは、6か国と国境を接する内陸国であり、中国ともわずかであるが国境を接している。国際的に見た場合、タリバン、アルカイーダ掃討のための対テロ対策最前線となっており、カルザイ政権を軸に治安維持と復興事業が国際的支援の下に行われている。
 また、中国から見た場合、アフガニスタンの戦略的価値は以下のものがあると考えられる。
つまり、対インド政策上、アフガニスタン、パキスタンとの同盟関係の維持が必要であり、アフガニスタンを通じて、西方の中東地域(イラン、イラク等)との関係を維持できる。中国国内のイスラム対策、麻薬流入阻止からもアフガニスタンの治安安定が不可欠である。冷戦時代から、反ソ連の観点から、中国、アフガニスタン両国は良好な関係を維持してきた。
 以上のように、中国にとってアフガニスタンは地政学的な要衝となっており、中国はその安定を必要としている。このような状況下、復興期のアフガニスタンにおいての銅鉱山開発を行うに当り、中国は技術、投資を提供する替わりに、米国は安全を保障するという互恵関係が出来上がっていると見られる。もちろん、中国にとっては、長期的にはアフガニスタンからの米軍撤退が不可欠であるが、当面の利害が一致している状況と見られる。

3. 両プロジェクトの銅鉱石市場への大きな影響力
 図4に、今後5年程度で開発が予定されている新規の主要銅鉱山の規模(資源量+埋蔵量)と生産能力の関係を示す。これによると、Oyu Tolgoiプロジェクトの銅量約33百万t(資源量+埋蔵量ベース)、Aynakプロジェクトの銅量約11百万t(同)は、現在計画されている新規プロジェクトの中でも大規模であることがわかる。
 両プロジェクトとも、まだ開発に至るまで紆余曲折が予想されるが、仮に操業を開始しした場合、フル稼働後、年産銅量750千tを生産することができる。また、中国との関係では、両プロジェクトとも、最も近い位置にある巨大市場、中国へ精鉱の鉄道輸送が可能である。
 中国にとって、Aynakプロジェクトへの投資は、治安が回復していない現状では大きなリスクを伴うが、その戦略上の重要性、銅供給の安定化のためのハイリスク、長期的投資ということができる。またOyu Tolgoiプロジェクトについても、今後の開発段階で、中国企業が参加する可能性も考えられる。いずれにしても、中国は、豊富な政府資金を使い、戦略的な資源確保を行っている。
 2008年の中国の銅地金生産(約380万t)の内、160万t(金属純分)程度を輸入鉱石に依存しているが、両プロジェクトの銅生産量は、中国の精鉱輸入量の50%弱に相当する。世界の銅精鉱市場はおよそ500万t程度(金属純分)と推定されるが、日本と中国の銅鉱石輸入量はそれぞれ25%程度を占め、2大輸入国となっている。
 このため、Oyu Tolgoi、Aynak両プロジェクトがフル生産に入ると、中国を含む銅精鉱市場の需給バランスは大きく緩和され、日本にとっても、より有利な立場での銅精鉱獲得が可能となるかもしれない。両プロジェクト産の銅精鉱は、地政学的な要因から、日本にとって直接的ではないが、間接的に良い影響を与える可能性がある。

図4.新規銅プロジェクトの銅量(資源量+埋蔵量ベース)と銅生産能力
図4.新規銅プロジェクトの銅量(資源量+埋蔵量ベース)と銅生産能力

参考ウエブ
・Oyu Tolgoiプロジェクト
 http://www.ivanhoe-mines.com/s/IDP.asp(Ivanhoe社webサイト)

・Aynakプロジェクト
 http://www.bgs.ac.uk/afghanminerals/
  (英国地質調査所webサイト経由、アフガニスタン地質調査所webサイト)
 http://www.bgs.ac.uk/afghanminerals/docs/afghan_supp_final.pdf
  (Afganistan、Mining Journal Supplement、2006)

<Oyu Tolgoiプロジェクトの概要>
・位置:首都Ulaan Baatarより南方580km、中国国境から80km
・鉱床:斑岩型銅・金鉱床     
・埋蔵量+鉱物資源量:33億t(品位 Cu 0.949 %、Au 0.298 g/t、
金属量Cu 31.3百万t、Au 980t)
・採掘方法 : 坑内掘及び露天掘          
・生産物:生産規模 : Cu 450千t/年、Au 10t/年(硫化精鉱)
・鉱山寿命:約70年
・初期投資金額:30億US$
・権益:Ivanhoe(59.4%)
     Rio Tinto(6.6%)
     モンゴル政府(34%) 

<Aynakプロジェクトの概要>
・位置:首都Kabulより南南東35km
・鉱床:層準規制鉱床(SEDEX)
・埋蔵量:7.05億t(品位 Cu 1.56%、銅量 11.0百万t)
・採掘方法 :坑内掘及び露天掘          
・生産規模 :Cu 320千t/年(硫化精鉱100千t/年、SxEwカソード220千t/年)
・鉱山寿命:約34年
・初期投資金額:44億US$
・権益:中冶科工集団公司(MCC)(75%)、江西銅業公司(25%)

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