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報告書&レポート

2009年10月15日 メキシコ事務所  小島 和浩
2009年50号

米・破産法第11章(Chapter 11)適用下のAsarco再建問題-Grupo MéxicoとSterlite Industriesによる買収合戦-

 米・産銅大手であったASARCO LLC(以下Asarco)は、1999年に元来同社のメキシコ子会社であったGrupo México(以下GM)に買収された。2005年8月にAsarcoは、環境汚染に対する巨額の賠償金問題等を理由に連邦破産法第11章(Chapter 11)の適用を申請し、会社再建手続きに入った(2005年12月に米・破産裁判所が独立役員会を選任し、GMはAsarcoの経営権を喪失)。同社の再建は遅遅として進まなかったが、2008年にインド第1位の非鉄金属会社であるSterlite Industries Ltd.をスポンサーとする再建計画をAsarcoが提出したことを契機とし、経営権回復を目指すGMが対抗再建計画を提出する等、激しい巻き返し策を講じることとなった。
 現在、管轄の連邦地方裁判所において、再建計画の審査が進められているが、本稿では、Asarco再建問題の経緯・背景・今後の展望について述べる。

1. 連邦破産法第11章による会社再建手続きの概要
 連邦破産法第11章(Reorganization, Title 11 of the U.S. Code u0013 Bankruptcy、以下“Chapter 11”とする)は、再建型倒産処理手続きを規定したものであり、債務者自身による再建計画作成が可能な点から日本の「民事再生法」に相当すると言われている。本手続きの主要目的は、再建計画(reorganization plan)に従って債権者と債務者の株主の権利を変更した上で、債務の返済を行い、事業を再建することである。
 Chapter 11に基づく会社再建手続きは、債権者または債務者の申請によって開始される。本手続きにおいては、債務者である旧経営陣が管財人と同様の権限を持って事業を継続することが可能であり、この場合の旧経営陣を占有債務者(DIP:debtor in possession)という。ただし、旧経営陣に詐欺的行為があった場合等には、破産裁判所が管財人の選任命令を下す。
 手続の開始後120日間(破産裁判所の判断により最大18か月まで延長可能)は、債務者のみが再建計画を提出できるが、それ以降は債権者・株主等の利害関係者の再建計画提出が認められている。提出された再建計画は、債権者委員会による承認を得た後、破産裁判所がChapter 11の定める要件を満たしているか否かを審査した上で認可を与える。再建計画に基づく義務を果たせば、債務者は倒産状態から脱却したとみなされ、通常の企業として事業を継続することとなる。

【参考1:破産に関する立法権と司法権】
 米国では、憲法の規程により、破産に関する事項は連邦議会の専権立法権に属するとされており、各州議会には破産に関する立法権は認められていない。また、破産に関する事案は破産裁判所(Bankruptcy Court)が扱うことになっており、破産裁判官(Bankruptcy Judge)は連邦地方裁判所(US District Court)の補助裁判官と規定されている。

【参考2:債権者による再建計画承認の要件】
 債権者は債権の内容・性質によってグループ分けされる。再建計画はグループ毎に債権者の過半数かつ債権額にして2/3以上の賛成により承認され、原則として全てのグループの承認を得なければならない。ただし、再建計画によって権利の内容が変更されないグループや債権全額が即時に支払われるグループ、すなわち利益を害されないグループの承認を得る必要はない。また、利益を害されるグループの不承認があっても、裁判所の判断により再建計画が認可される場合もある。

図1. Chapter 11による会社再建手続きの流れ
図1. Chapter 11による会社再建手続きの流れ

2. Asarcoの連邦破産法第11章適用申請後の経緯
 Asarcoの連邦倒産法第11章適用申請後の経緯は以下のとおりである。

2005年8月: 環境汚染に対する巨額の賠償問題、高年金負担、ストライキの長期化、企業格付けの低下等を理由として、Asarcoが連邦倒産法第11章の適用を申請。
2005年12月: 破産裁判所が独立役員会(independent board of directors)を選任し、Grupo México (以下“GM”とする)はAsarcoの経営権を喪失。
2007年2月: Asarcoが2003年に譲渡した旧SPCC〔(Southern Peru Copper Corp. 、現SCC(Southern Copper Corp. 〕の株式の返還を求めてAMC (Americas Mining Corp.:GMの鉱業部門統括子会社)を提訴。
2008年3月: 破産裁判所がAsarcoの提案した会社再建のための資産売却入札を承認。
2008年5月: 入札の結果、Sterlite Industries Ltd.(以下“Sterlite”とする)が26億US$でAsarco資産を落札。両社は資産売却に関する合意書を締結。
2008年7月: AsarcoがSterliteへの資産売却を骨子とした再建計画を破産裁判所に提出。
GMが再建計画の対抗案を破産裁判所に提出。
2008年10月: Sterliteが金融危機及び銅価低迷を理由として資産買収額の引下げを提案。Asarcoはこれを受け入れず、資産売却合意を破棄。
2008年12月: GMが7月に提出した再建計画を取り下げ。
2009年3月: AsarcoとSterliteが新たな資産売却合意書を締結。売却額は17億US$。
2009年4月: 新資産売却合意に基づく再建計画をAsarcoとSterliteが共同提出。
2009年4月: 連邦裁判所がSCC株式の譲渡を不当取引と判断し、譲渡株式のAsarcoへの返還と配当金・利息に相当する現金支払いを命令。
2009年4~5月: GMとHarbinger Capital Partners(※注1:以下“Habinger”とする)が各々、独自の再建計画を提出(その後Asarco+SterliteとGMは繰り返し再建計画の見直し案を提出)。
2009年8月: Habingerが独自の再建計画(Asaro買収)を断念し、Sterliteによる買収案を支持。
2009年8月31日: 破産裁判所がGM提案の再建計画を承認するよう連邦裁判所に勧告。(勧告が出された時点での各再建計画による負担額は、GM24.8億US$、Sterlite21.4億US$)
2009年9月11日: SterliteがGM提案を上回る買収額(25.7億US$)を再提示。
(※注1) 米・投資会社。Asarco社債の大口引受者。

3. SCC(旧SPCC)株式譲渡問題
 Asarcoの再建を巡る現経営陣とGMの対立には、GM支配下にあったAsarcoからAMCに譲渡されたSCCの権益問題が大きく関連している。
 2003年3月に旧SPCCの全権益の54.18%に相当する株式がAsarcoからGMの鉱業部門統括子会社であるAMCに譲渡された。Asarcoの独立役員会は本株式譲渡が不当取引であり、同社の経営に大きな打撃を与えたとして、2007年2月に譲渡株式の返還を求めて訴訟を起こした。2008年8月、米・裁判所は株式の譲渡が不当であったと認定し、2009年4月にGMに対し、SCC全株式の約30%に相当する2.6億株(時価総額78億US$:2009年9月25日)の返還とこの間の配当金・利息に相当する13.8億US$の現金支払命令を下した。GMは本命令を不服として控訴している。
 GM提出の再建計画が認可された場合には、同社はAsarcoの経営権を取り戻せる。このため、上記判決が確定したとしても、SCC株式の返還及び賠償金の支払いは実質的に子会社間の資産移転となり、GM全体としては損失を被ることにはならない。一方、Asarco(独立役員会)提出の再建計画が認可された場合には、GMはAsarco権益のみならず、ペルーとメキシコに鉱山・製錬所を保有するSCCの権益30%を失う可能性が大きくなる(現在の権益保有率は79.8%)。なお、Sterliteは同社の買収提案が米・連邦裁判所に承認された場合には、株不正譲渡に関連するGMからの支払額を9億US$以下に抑えるとの文書を2009年9月21日付けで破産裁判所に提出している(※注2)。

(※注2) SterliteはGMの真の関心はAsarco資産ではなく、SCC権益であると見ており、GMの譲歩を引き出す狙い。

4. 利害関係者の立場
 Asarcoは、米・連邦政府及び11の州政府から総額60億US$に上る環境汚染損害賠償請求(※注3)を受けたほか、総額10億US$を超えるとされるアスベスト関連の訴訟95,000件を抱えている。これらの環境関連訴訟がChapter 11の適用申請を行った最大の理由であり、訴訟の原告がAsarcoの主な債権者である。
 連邦及び州政府は、GMは過去に詐欺的な行為を働いているため、信用できないとし、Asarcoが提案した再建計画を支持している。さらに、米・司法省等は、環境汚染に対する損害賠償の減額を目的としてChapter 11の適用申請を行う企業が頻出するのではないかとの懸念を表明している。また、Asarcoの最大労組(従業員2,500名中1,700名が加盟)であるUnited SteelworkersはGM配下の経営陣と対立していた経緯があるため、GMが経営権を取り戻した場合はストに入ると表明し、現経営陣提案の再建計画を支持している。
 これに対して、アスベスト関連訴訟の原告から構成される債権者グループは、賠償額で勝るGM提案の再建計画を支持している。

(※注3) 交渉により賠償額は18億US$まで減額された。

図2. Asarco再建を巡る利害関係者相関図
図2. Asarco再建を巡る利害関係者相関図

5.今後の展望
 8月末に破産裁判所が資金の裏付けがより確かであるとしてGM提案の再建計画を支持する勧告を下した時点では、GMがAsarcoの経営権を取り戻すとの見方が強かった。しかしながら、Sterliteが9月11日にGM提案を上回る買収額を新たに提示したため、破産裁判所が勧告の見直しを行うか否かが新たな焦点となっている。
 連邦地方裁判所の最終判断は11月末に下される予定であるが、破産裁判所の勧告見直しの如何を問わず、米連邦・州政府が指摘しているGMの過去の経営姿勢、労働組合との対立等が問題とされ、Sterliteによる買収を骨子とした再建計画が承認される可能性も否定できない(※注4)。

(※注4)破産裁判所は2009年9月24日、Sterilteの増額提案を却下した(NF No.09-37参照)。

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