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報告書&レポート

2009年11月12日 サンティアゴ事務所  大野克久
2009年54号

チリの銅生産動向と2025年までの生産見通し

 2008年9月の金融危機に端を発した世界的な景気後退から資源価格は急落し、チリの主要輸出鉱産物である銅及びモリブデン価格についても、銅は2008年7月3日に8,985 US$/t(LMEスポット価格)の市場最高値から12月24日には2,770 US$/t、モリブデンは2008年8月の34 US$/lbから11月には8 US$/lb(酸化モリブデン価格)まで各々約70%下落した。
 チリは輸出の約60%を鉱産物に依存し、中でも銅は総輸出額の50%程度を占める重要な外貨獲得源となっている。輸出量は景気後退前後でそれほど変化は無いものの、銅価下落の影響から2008年H2の貿易収支は赤字に転じた。
 この様な状況の下、世界最大の銅需要国である中国では依然として銅需要が旺盛で、銅価下落に伴い、スクラップ利用から地金利用への切換え、中国物資備蓄局(SRB)による30万tの銅地金備蓄実施(市場報道)や世界各国での景気回復策等により、銅需要は、当初見込みより早く回復の兆しを見せ始めている。
 チリにおいても中国の影響は大きい。世界景気低迷にも拘らず、銅及びモリブデンの輸出量は2009年H1中国向けが拡大し、対前年同期比で2009年Q1以降は貿易収支も黒字に移行している。
 本稿においては、チリの銅について2008年H2~2009年H1の生産動向と2025年までの生産見通しについて概要を報告する。

1. 生産状況
1-1. 銅:精鉱・SxEwカソード生産
 2009年のチリ銅鉱石生産は、2008年後半からの世界経済後退及び銅価格下落にも拘らず、Michilla鉱山(Antofagasta)を除いて生産調整等は発表されておらず、全体として2009年1月~8月までの銅生産量は、対前年同期比78.9千t減(-2.2%)の3,454.4千tという結果であった(表1)。
 鉱山別では、昨年10月のEscondida鉱山Lagna Seca選鉱場SAGミル故障に伴い対前年同期比212.8千tの生産減が大きく、他の鉱山においても粗鉱品位低下に伴い若干の生産減が生じた状況であった。
 一方、CODELCOでは全ディビジョンで生産増を達成し、中でもGaby鉱山(2008年5月生産開始)操業が対前年同期比で大きく貢献(73.0千t/年)した他、2008年Q4にはLamos Bayas鉱山(Xstrata)の拡張工事が完了したことにより対前年同期比10.4千t/年(27.4%)増となったこと等、その他鉱山生産減の一部を相殺する形となっている。
 また、チリの月別銅生産推移(表2)について、2009年1月~8月までのSXEWカソード生産量が、対前年同期比128千t/年(+10.0%)増加しているのは、Gaby鉱山でのSxEwカソード生産の影響が大きい。
 2009年下半期について、Escondida鉱山では8月から通常操業に移行していること、Collahuasi鉱山の高品位鉱体採掘計画、Spence鉱山の増産※等により、チリ銅委員会(COCHILCO)では2009年の銅生産を2008年比79千t増(+1.5%)の5,407千tと見込んでいる。

Spence鉱山はチリ第Ⅱ州労働監督局による労使協定更改調整が不調に終わり、10月13日よりストライキに入り、11月9日現在、交渉は難航していることから、同鉱山の増産については不透明感が強い。

表1.チリ月別・鉱山別銅生産量推移(2008年、2009年比較)
表1.チリ月別・鉱山別銅生産量推移(2008年、2009年比較)

表2. チリ月別銅生産推移(2008年1月~2009年8月)
表2. チリ月別銅生産推移(2008年1月~2009年8月)

1-2. 銅:鉱山生産の長期見通し
 中国の経済発展に伴う銅需要増、振興市場国の銅需要見込みや銅価格高騰を背景として、チリにおいても操業鉱山の拡張計画や新規鉱山開発プロジェクトが進行中であったが、昨年後半の世界景気後退に伴い、Los Bronces、El Abra、Andina、Escondida各鉱山の拡張プロジェクトやEl Morro鉱山開発プロジェクト等の延期が発表された。
 しかし、現在では市況が回復の兆しを見せていることから、何れの鉱山拡張プロジェクトも事業を再開している(表3)。
 COCHILCOでは、本年8月下旬に今後の鉱山拡張及び新規鉱山開発プロジェクトを踏まえ、長期的なチリ銅生産見込みを発表している。
 これによると、開発可能性がある銅プロジェクトが順調に進捗する場合、チリ銅生産は2015~2020年でピークを迎え(2017年の7,628千tが最大)、2021年以降は銅生産量が漸減すると予測され(図1)、鉱種別では酸化鉱や二次硫化鉱を対象としたSxEwによる銅生産は2010年にピークを迎える一方、今後の処理鉱石は酸化鉱の下部に胚胎する一次硫化鉱が対象となると予測している(図2)。
(※現在、技術開発が進められている一次硫化鉱を対象とした湿式処理は考慮していない。)

表3. チリ主要銅鉱山開発・拡張プロジェクト表3. チリ主要銅鉱山開発・拡張プロジェクト

図1. チリ銅生産見通し
図1. チリ銅生産見通し

図2. チリ形態別銅生産見通し
図2. チリ形態別銅生産見通し

2.輸出に占める銅の割合
2-1. チリ経済における銅の重要性
 2008年のチリ経常収入447億US$の内、銅関連収入は、51億US$(13.7%)であり、チリにとって銅は、財政的にも極めて重要な割合を占める (表4)。
 チリ鉱産物輸出額は、総輸出額の約60%を占める重要な外貨獲得源であり、鉱産物輸出額の80%程度が銅関連であることから、鉱産物輸出額はLME銅価格と高い相関を有している(図3、4)。

          表4. チリ政府財政収支推移 (金額単位:億US$)

表4. チリ政府財政収支推移

図3. チリの総輸出額・鉱産物輸出額の推移
図3. チリの総輸出額・鉱産物輸出額の推移

図4. チリ月別鉱産物輸出額の推移
図4. チリ月別鉱産物輸出額の推移

2-2. 銅:精鉱輸出状況
 チリの銅精鉱輸出量(グロス)は、月によって輸出量のバラツキが認められるものの、2009年H1の銅精鉱輸出量については、対前年同期比で242千t(-7.2%)と減少しており、中でも韓国向け輸出で88.2千t(-31.7%)と大きく減少している一方、日本及びドイツでは、逆に各々95.9千t(+10.1%)、72.2千t(+34.8%)増加している点が特徴である(図5、表5)。

図5. 月別・主要輸出先別銅精鉱輸出量(グロス)推移
図5. 月別・主要輸出先別銅精鉱輸出量(グロス)推移
表5. チリの銅精鉱主要輸出先推移
表5. チリの銅精鉱主要輸出先推移

2-3. 銅:地金輸出状況
 先に述べたように、鉱産物輸出額はLME銅価格に大きく左右され減少しているものの、2009年H1の銅地金輸出量については逆に前年同期比で158千t(+11.3%)増加しており、銅価格下落以後は中国向け輸出で334千t(+95.3%)と大きく伸張しているのが特徴である(図6、表6)。
 これは、他国向け輸出が世界的な景気後退で減少する一方、中国における堅調な銅需要やそれまでのスクラップ利用から銅地金利用への切換え、SRBの銅地金備蓄を背景として供給余力のあるチリからの輸出が増大したことによるものと考えられる。
 特に世界最大の銅生産企業であるCODELCOにとって、この時期に銅地金を購入する中国の存在は大きく、Jose Pablo CEOは4月28日に開催されたチリ鉱業技術者協会におけるスピーチで「世界経済危機にも拘らず、CODELCOは中国でのマーケットシェアを拡大した。経済危機後もCODELCOは新興市場国、特に中国との間で更なる関係強化が図られるであろう」と発言している。
 2009年H1、多くの鉱山が粗鉱品位低下等の理由で減産している中、CODELCOの全ディビジョンで増産できたのは、中国向け輸出契約があったためと考えられる。

図6. 月別・主要輸出先別銅地金輸出量推移
図6. 月別・主要輸出先別銅地金輸出量推移
表6. チリの銅地金主要輸出先推移
表6. チリの銅地金主要輸出先推移

3. まとめ
 2009年上半期のチリ銅産業は、昨年後半のリーマンショックを契機とした世界的な景気後退による資源価格下落の影響から貿易収支的には一時的に赤字に陥ったにも拘らず、中国の旺盛な銅需要により銅生産自体には大きな影響を及ぼさなかった。
 世界最大の銅消費国である中国の経済成長は依然として堅調で、世界銀行の11月発表では、中国の2009年GDP経済成長率は8.4%に上方修正されている等、今後も銅需要の伸張が期待される。また、2014年ワールドカップ、2016年オリンピックを控えるブラジルにおいても新たな銅需要が期待されることから、今後のチリ銅産業は、引き続き堅調な伸びを示すものと予想され、これら新興市場国の銅需要状況の継続的な注視が肝要と考えられる。

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