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報告書&レポート

2010年2月4日 調査課長  上木 隆司
2010年05号

世界経済減退期における日中間のベースメタル補完関係【亜鉛】

 2008年9月15日のリーマンショック以降の世界経済減退期においても、中国の金属需要は底堅く、世界市場を牽引した。
 一方、日本においては自動車産業をはじめとする製造業は、大幅な減産を余儀なくされ、それに伴い金属の内需は急激に落ち込み、非鉄製錬業も減産措置を講じたが、内需以上の余剰地金が発生した。その時期に、いち早く経済回復に転じた中国は、日本の国内余剰分を輸入により吸収した。その亜鉛の状況を以下にまとめた。

1.世界経済減退期にも伸張した中国の亜鉛消費量
 主要国・地域の亜鉛消費量の2008年1月以降の推移を図1に示す。中国の消費量は見掛消費量(国内生産量+輸入量-輸出量±在庫±備蓄※)である。2008年9月15日のリーマンショック以降の世界的経済減退期にあって中国の亜鉛消費量も2009年1月に向け落ち込んだが、1月に底を打ち、2月以降は急速に回復した。〔※2009年5月、ILZSG事務局に確認したところ、亜鉛・鉛の消費量は見掛消費量から、備蓄量(推定値)を差引いた値とされている。〕

図1.主要消費国の亜鉛消費量推移
(原データ:Lead and Zinc Statistics, ILZSG、日本の消費量:鉱山,日本鉱業協会)

 図2には、2008年1月を基準とした各月の消費量の推移を示すが、中国の亜鉛消費量の2009年2月以降の急速な回復、及び、日本はじめドイツ、韓国といった中国以外の主要亜鉛消費国の消費の落込み状況がより鮮明に判る。日本の亜鉛消費量は、2009年5月以降に回復基調となり、9~11月は2008年10~11月頃の水準に回復してきた。(意外に米国やその他諸国の落込みの度合いは小さい。)
 
 図3には同時期の消費割合を示す。世界経済減退期にあって、中国の亜鉛消費割合は、2009年3月以降に世界計の45%水準にまで高まった。(中国に日本、韓国、台湾を加えた極東アジアで50%を越える状況は、同地域が世界随一の製造拠点となり、一大経済圏をなしていると言える。)

図2.主要消費国:亜鉛消費量回復度の推移 〔2008年1月=1〕
(原データ:Lead and Zinc Statistics, ILZSG、日本の消費量:鉱山,日本鉱業協会)
図3.主要消費国の亜鉛月間消費量割合の推移
(原データ:Lead and Zinc Statistics, ILZSG、日本の消費量:鉱山,日本鉱業協会)

2.中国の亜鉛生産量と輸入量
 図4は、中国の亜鉛消費量の推移(赤色の折線グラフ)を、亜鉛地金の生産量と輸入量(積上棒グラフ)と鉱石生産量(黄色の折線グラフ)とを対比させて示したものである。

図4.中国の亜鉛地金生産量・輸入量
(原データ:Lead and Zinc Statistics, ILZSG、GTI)
図5.LME亜鉛価格と在庫の推移 (原データ:LME)

  図5にはLMEの価格と在庫を示す。図4に示される、中国の2009年2月以降の亜鉛消費回復期に亜鉛地金生産量に輸入量を加えた量は輸出量を差引いてもかなりの部分が、おそらく実需以上の量となり、その一部は備蓄された(既報道によれば亜鉛は503千t(『カレント・トピックス09-23号:中国の非鉄金属需要と備蓄の現況』JOGMEC,2009.5.8)ほか、一部はSHFE(上海期貨交易所)やLMEの倉庫に搬入された、あるいは消費されずに在庫として保管されてものと推定される。図6にはLME及びSHFEの亜鉛在庫の推移を示すが、一時的なマレーシアやシンガポールのLME倉庫、及びSHFE倉庫での増加が判る。

図6.LME及びSHFEの亜鉛在庫の推移 (原データ:LME、WMS)

 図4において、2008年の亜鉛地金の生産量と輸入量の合計は、亜鉛地金消費量(赤色折線、プロット:菱形・白抜き)とほぼ近い数値となっているが、2009年においては、亜鉛地金生産量と輸入量の合計から輸出量を差引いても、亜鉛地金消費量を上回って推移していることが判る。これは、備蓄や在庫、あるいは一部がSHFEやLMEの倉庫に搬入されたものと見られる。
 ILZSGの亜鉛消費量は、前述のとおり見掛消費量であり、中国の実需に基づく実際の消費量ではなく、その把握は課題としてあるものの、実需の2009年2月以降の回復は、自動車生産台数、鉄鋼生産量等(※巻末のグラフ参照)の経済指標に裏付けられる。

 亜鉛地金輸入量増大の要因は次のように報じられている:
  (1)亜鉛価格の低迷期に国内鉱石生産量及び、亜鉛地金生産量が減少したこと〔図4参照〕
  (2)中国国内のインフラ投資、汽車下郷(1600cc以下の小型車の重量税減税による販売促進優遇策)等により底堅い実需見通しがあること。
  (3)SHFE価格がLME価格より高いこと〔図7参照〕を利用したアービトラージ(裁定取引)により亜鉛地金の輸入量が増大したこと。

図7.LME、SHFEの亜鉛価格及び、LMEとSHFEの差額推移
(原データ:LME、SHFEホームページ ※為替月間平均値で元をUS$換算)

3.日本の亜鉛消費量と輸出量の推移
 日本は、リーマンショック以降の世界経済減退の影響を強く受けた国の一つである〔図2、8参照〕。図8には日本の亜鉛地金の内需と輸出量の推移を示す。
本図は次の事項を示している。
 (1) 日本の亜鉛地金の内需は、2008年11月以降、2009年2月に向け急減し、2~4月の間は底入れ期間となり、5月以降に回復基調に転じた。この回復時期は中国の2009年1月に底を打ち、2月から早々と急速に回復に向かった状況から3か月遅れた。
 (2) 2009年2、3月は内需が輸出量以下あるいは同等量まで減少した。
 (3) 内需減少分は輸出に回り、中国向けの比率が2、3月に高まった。
   〔図8参照 ※2009年2、3月には58~62%に達した。〕

図8.日本の亜鉛の内需と亜鉛地金輸出量の推移 (出典:鉱山(日本鉱業協会))
図9.日本の亜鉛の内需の内訳推移 (出典:鉱山(日本鉱業協会))

図10.中国の輸入に占める日本からの割合・日本の輸出に占める中国向け割合の推移 
(原データ:鉱山(日本鉱業協会)、GTI)

4.まとめ
(1) 自動車向け亜鉛めっき鋼板を主要な用途とする亜鉛は、2008年9月15日に発生したリーマンショック以降の世界経済減退期において、主要な消費国・地域の消費量が急減した。2009年上期から中国以外の主要消費国は緩やかな回復基調にある。
(2) 中国の亜鉛見掛消費量は、2009年1月に底を打ち、2月以降は急速に回復した。
(3)日本の内需の急減による国内の余剰分は、中国主体に輸出に回し対処された。2009年2、3月の輸出量に占める中国の割合が60%内外に急上昇した時期は中国に自動車生産台数の急増〔参考図1参照〕及び亜鉛消費量の回復時期〔図4参照〕に一致する。日本の亜鉛内需の回復が中国より3か月遅れ2009年5月となったことは日本の自動車生産の回復時期と一致する。
(4) 鉱産国では鉱石や地金の減産が相次いだが、中国においても同様で2008年後半は、亜鉛価格の下落により中国国内の亜鉛の鉱石及び地金生産量が減小した分は輸入により補完された。
(5) 中国の同時期における輸入増は、SHFEの亜鉛価格がLME亜鉛価格を上回っている価格差を利用したアービトラージ(裁定取引)が一つの要因として挙げられる。
(5)中国経済の急成長過程における銅、亜鉛はじめベースメタルの消費量の増加基調は、当面、世界の金属市場に与える最大要因である。
JOGMECとしては、中国の消費量について公表値のほか、実需に伴う消費量の把握を課題として情報収集に努めたい。


【参考】
参考図1.中国及び主要国の自動車生産台数の推移 
(原データ:中国国家統計局、日本自動車工業会)
〔※亜鉛消費量-自動車生産台数の相関係数: 中国0.745、日本0.858〕

参考図2.中国の鉄鋼生産量の推移 (原データ:中国国家統計局、日本鉄鋼連盟)
〔※亜鉛消費量-鉄鋼生産量の相関係数: 中国0.748、日本0.868〕

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