閉じる

報告書&レポート

2010年3月4日 ロンドン事務所  萩原 崇弘
2010年11号

LMEコバルト・モリブテン上場セミナー

 2010年2月22日(月)、LME(London Metal Exchange)は、コバルト、モリブデンの上場・取引を開始した。これに先立ち、2月9~10日、ロンドンにおいて、 LME及び Metal-Pages社共催によるコバルト・モリブテン上場レセプション及びセミナーが開催された。
 レセプションは、LMEのリング(立会場)において、資源メジャーやモリブテン・コバルトに関係する貿易商社、探鉱会社等、200名を超える業界関係者を招いて行われた。日本からは商社や鉱山関係企業が参加した。
 多くの招待客を前に、LME最高経営責任者のMartin Abbott氏は、「リングにこれ程多くの人がいるのを見たのは、初めてである」と笑いを誘いつつ、2週間後に迫ったモリブテンとコバルトの先物取引開始について、「重要性が高まったため上場することとしたが、本当のビジネスに結び付くかは不明であり、LMEとしてはチャレンジである。しばらくの間は色々なことがあると思うが、関係者に役立つように努力したい」とスピーチした。
 参加者からは、「コバルト・モリブテンの取引価格は、これまでMetals Bulletinが数社からのヒアリングにより価格を提示してきたが、LMEでの価格は透明性が確保される」との声がある一方、「投機資金の流入により価格が乱高下する懸念がある」や、「コバルト・モリブテンの上場に関する業界としての関心は決して高いものではなく、今後数か月は様子を見守っていきたい」などの声が上がっていた。
 以下、セミナーの内容について紹介する。なお、講演者の説明資料は、以下のLMEのURLから入手可能であるので、適宜参照されたい。
 http://www.lme.com/8498.asp

1. セミナー概要
(1)コバルト・モリブテンLME上場に際しての基調講演
 Mr. Martin Abbott, LME Chief Executive

  • ・LMEへのコバルト・モリブテン上場のメリットは、LME取引の世界的規模である。2008年のLMEにおける取引高は10兆US$を上回り、LMEにおける公式価格や指標は、全世界の95%に及ぶ金属現物取引(physical delivery)において指標として使われている。
  • ・また、LMEは、レアメタル取引に対処する特別委員会(minor metal committee)を設けるとともに、アジアで拡大するビジネスに対応して2010年4月にシンガポール駐在員事務所を開設予定である。
  • ・こうした世界的規模での取引の広がりは、一部地域の偏在要素を排除することにつながり、より公正な価格形成に寄与することになる。また、地域的な広がりのみならず、LMEへの上場は、多数かつ多様な市場参加者の参加が可能となる、つまり限られたプレーヤーに市場が左右されることがなくなるというメリットがあると考えている。また、取引の大規模化に伴う流動性の増大により、金属市場取引に付きものである価格ボラティリティの軽減作用もある。
  • ・また、先物を通じたヘッジにより、ビジネスにおける先行きがより透明となることで事業計画を立て易くなるというメリットもある。もちろんヘッジした後で、予期せぬ事態の発生はあり得るが、その時点で事態に応じたヘッジを適応させることは可能である。
  • ・相対取引から市場取引へ移行することで、相対取引に伴うカウンター・パーティ・リスク(※)を緩和する一方、取引所という特定参加者を優遇することの無い公の場で取引は、誰にも明白な透明かつ独立した価格を形成することになる。
  • ・2月22日の上場後、当面のコバルト及びモリブテンの市場の見通しについては、しばらくは比較的混乱の小さい静かな期間になると予想している。他の金属の上場時の例を見ると、混乱の小さな時期は、数か月から2年間程度続く可能性がある。
  • ・例えば、アルミや亜鉛は、上場後、それぞれ旧ソ連の崩壊や欧州市場の大幅下落により、上場市場への関心が大きく増大し、上場や先物のメリットが見直されたという経緯がある。このように、コバルト及びモリブテンについても、何らかの事象が原因となって、LMEでの取引が本格化するものと予想している。
    (※注:取引の相手方が債務不履行を起こすなどして損害が発生する危険性。)

(2)市場において守るべき法規制と透明性
 Mr. Diamuid O’Hegarty, LME Deputy Chief Executive)

  • ・市場は、なぜ法律により規制されているのか、市場を管理する法規制のメリットを含めて説明したい。
  • ・LMEは、言うまでもなく、英国やその他の国際的な関連規則を遵守している、公認投資取引所(RIE-Recognised Investment Exchange)である。これは、LMEが、 取引価格、取引高の透明性、監査体制において、全て合法的な取引を行うことを示している。
  • ・また、LMEは、英国の法律により以下を保証することを求められている。
    [1]業務上の財務安定性
     財務安定性の維持は、主として、FSA(UK Financial Service Authority)により法制化された各ブローカーに対する資本金ルールと中央決済システムによって担保されている。先物取引を行うためには、将来の取引の履行を保証することが必要であり、LMEでは独立した清算機関としてクリアリング・ハウス(LCH. Clearnet)を設置している。クリアリング・ハウスにより、仮に、あるメンバーが業務破綻に陥ったとしても、そのメンバーからの先物取引の売買ポジションの履行は保証されており、先物取引の破綻リスクが排除されることになる。
    [2]透明性
     LMEの価格形成過程は、透明であることに加え、市場取引での決定価格は価格変動リスクを移転したものとなっている。また、日々のLMEの公式価格(official price)、終値(closing price)に加え、日毎に各メタルの在庫、マーケット・メーカー(トレーダー)により提出された価格は公表される。
    [3]秩序ある市場
     LME等取引所は、国の法令により秩序ある活動展開を義務付けられている。LMEでは、関係法令遵守のため、独自のコンプライアンス部門を設け、監視体制を設けている。LMEの先物取引に基づく現物の受渡しは、LME Warrant(倉荷証券)の保持者のみに対してなされる取引方法で、LME独自の認証体制によって秩序を維持している。
    [4]人為的操作が無い市場
     LMEでは、各ブローカーが日々におけるLMEのポジションを報告すること、取引契約の履行権限はLME Warrant保持者のみにあり、ある市場参加者が他の参加者より大きな権限を持つことは無いこと、等により、人為的操作のできない市場となっている。なお、”Lending Guidance”と呼ばれるシステムにより、かなりのポジションを持つ市場参加者は、LMEの要請があれば、あるポジションを市場に貸出す義務がある。しかし、こうしたLMEによる貸出行為は予め市場に知らされており、市場として織り込む時間があり、FSAが公認する市場活動の一つである。

(3)LME倉庫について
 Mr. Chris Evans, New Product Manager, LME

  • ・2009年におけるLME倉庫内のメタル在庫総量は、6百万tに上り、認可倉庫は世界14か国、総数は550に及んでいる。その内、150の倉庫は、2009年に新規に追加されたものである。
  • ・LME認可倉庫は、LMEにより、厳格な質、サービス、安全基準を満たしたものと認可された倉庫である。まず、所在地は、政治、経済的に安定した国や地域に限られる。加えて、主に、関連金属の消費量が高い地域、または現物引渡しに際して輸送に便利な場所に所在している。なお、LME認可倉庫は、経営上はLMEから完全に独立した個別事業体である。倉庫の登録ブランド数は、450に上るが、LMEの詳細な基準に合ったものが認可を受け、登録されている。
  • ・LMEの主要なサービスは、[1]参考価格提供、[2]現物売買受渡し、[3]ヘッジであるが、これらが三位一体となって機能している。LMEの取扱市場は、現物と先物の二つであるが、現物は全取引の1%で『保険』としての先物取引が主流となっている。現物取引は、割合としては非常に小さいものの、現物と先物の価格が最終的に収束するというメカニズムにおいて、極めて重要な役割を果たしている。
  • ・もし、将来の先物と現物との取引価格に差異が生じた場合、市場参加者は、LMEを通じて自分に有利となる価格を利用して売買行為を行うことができる。また、関連産業における各事業者の在庫レベルが過多、過少であればLMEを通じて現物売買を行い、適切な在庫レベルに調節することができる。現物取引の場合、業者にとって最寄りのLME認可倉庫から対象金属の払い出しを受けることになるが、金属の受取・引渡しの際には、全て取引内容の詳細を明記するLME Warrantが必要となる。
  • ・また、LME登録倉庫からのメタルの借入れも可能である。モリブデンは一日45¢/t、コバルトは55¢/tにて貸し出し可能である。
  • ・LMEは、毎日LME認可倉庫の在庫レポートを出しており、このレポートは市場の需要・供給状況を示す一指標をして見なされ、市場関連業者が日々の価格動向を探る上で大きな役割を果たしている。
  • ・経済危機に見舞われた2009年において、銅を例に取ると、LME Warrantの平均期間は1年足らずで、LME認可倉庫の在庫レベルは1~6百万tの間で動き、480万tが倉庫に上積みされ、225万tが倉庫から払出されたこととなった。

(4)LMEに対する生産者としての見解
 Mr. Gonzalo Cuadra, Managing Director, Chile Copper

  • ・2004~2010年の間におけるモリブデンの価格動向を見ると、既に上場している他の金属と比較して、価格ボラティリティが極めて大きいことがわかる(以下のグラフ参照(CODELCO説明資料から抜粋))。
図1. 主要金属の推移(2004年1月~2010年1月)
図1. 主要金属の推移(2004年1月~2010年1月)
  • ・上場のメリットとしては、供給側として、生産した金属を最終的に売却できる場が確保されること、先物によるヘッジ、(長期契約による固定価格では無い)価格の柔軟性などが挙げられる。
  • ・また、上場により、取引がより多数の者に開かれ、取引量が拡大し、流動性が増大すれば、ボラティリティを緩和する効果もある。これにより、投機筋にとって旨味が減り、市場から退去する投機家も出現することとなり、その結果として、実需給をよりはっきり反映する一層効率的な価格が形成されるようになる。
  • ・また、上場により多くの市場分析レポート等が出されるようになり、市場参加者は、より質の高い情報を基に取引できるようになる。先物においては、『信用貸し』という金属購入に際しての借入れも可能となる。このように、金属商品の上場は、情報面、金融面からのメリットも市場に享受することになる。
  • ・こうしたことから、金属を含むコモディティ市場の発展段階は、以下のようにまとめることができると考えている。
表. コモディティ市場の発展段階
  市場状況 情報開示
発展段階の新市場 ・限られた市場参加者
・独占的市場支配者の存在
・一年以上の契約は固定価格
・BID/OFFERのスプレッドが大きい
・不公平な市場構造による”被害者”の存在
・公に開示される情報は皆無
・取引出版物は皆無
成熟市場 ・市場参加者の多数化
・独占的市場支配者の消滅
・年別、スポット、両者契約の存在
・固定価格と公式ベースの価格
・BID/OFFERのスプレッドの縮小
・取引業者の協議会の存在
・情報開示
・取引出版物
成熟市場 +
  取引所 (Exchange)
成熟市場の上記要素に加え:
・更なる市場参加者の増加
・取引高の増大
・更なるBID/OFFERスプレッドの縮小
卓越した以下の要素
・システム
・法令制度
・メディア

(5)LMEに対する需要家としての見解
 Ms. Deborah Stott, Purchasing Director, UK & Europe, Firth Rixson Ltd.

  • ・金属のような価格が大きく上下し得る市場において、需要家がヘッジを行う理由は、[1]リスクの縮小、[2]価格の確定、[3]透明で公正な参考価格の使用、というのが主なものである。
  • ・新たな金属がLMEに上場されることにより、以下の点を認識する必要がある。
    [1]売買双方によって使用される価格モデルが存在すること。
    [2]先物売買において、いかなるリスクが発生し得るか予め認識しておくこと。
    [3]有効なヘッジ対策は、LMEの清算価格(settlement price)を使うが、これは米国GAAP等の国際的会計法にも合致するというメリットを持つこと。
    [4]LMEでの取引を行うブローカーについては、需要家のニーズ、ヘッジ対策を十分理解しているところを選択することが重要である。例えば、先物取引における証拠金の算定、または、逆に行う証拠金からヘッジ額の算出など、需要家はブローカーとの緊密な連携が必要となる。
    [5]先物取引では、必然的にロング、ショートなどカバーしていないポジションを持つことになり、そのサイズを把握する必要がある。
  • ・一方、LMEの先物取引がもたらし得る『落とし穴』として、以下の点に留意する必要がある。
    [1]マージン・コール(時価変動に伴う証拠金調整)は市場が急激に変動した場合、早急に多額の現金を入金する必要性が出てくる。
    [2]先物は、将来のニーズ予測を基になされるヘッジであり、購入者の予定変更、キャンセルなどが生じた場合、先物自体の変更、キャンセル必要が出てくる。
    [3]例えば、コバルト、モリブデンの先物の価格は、3か月までは毎日、3か月以降6か月まで週単位、6か月以降、月単位でなさせるがこれは顧客必要な具体的な日程に合わない場合も出てくる。
    [4]先物買いにおいて、ブローカーからの信用貸し金額が極めて限られていることが多く、借入れ可能な額を予め理解しておく必要がある。
  • ・また、一方、LME取引の利点は、以下のとおり要約できる。
    [1]ヘッジ対策を打ち出し、実際にその対策を使用できること。
    [2]リスク算定において、国際会計法基準に応じた記載ができること。
    [3]需要家のリスク管理が容易となること。
    [4]スクラップ商品購入の際にも、LMEの上場価格の存在により価格リスクを低減することができること。

(6)価格形成とLME
 Mr. Chris Evans, New Product Manager, LME

  • ・取引所価格の特徴は、全参加者に対して[1]中立的、[2]透明的、かつ[3]公正であることである。市場という多数の不特定参加者の売買行為は、特定参加者を優遇することの無い中立的なものであり、リング上での競売取引及び電子取引は共にごまかしのきかない透明かつ公正なものである。加えて、取引所での売買には、法規制に基づいて行われ、上記の3点の原則を厳格に監視する体制にある。
  • ・LMEでは、日々リング上での競売取引価格を基に公式価格(official price)と終値(closing price)を出している。公式価格とは、リングメンバーによる取引の内、12時20分の終了時点の最終ビッド、オファー価格であり、世界的なベンチマーク価格となる。終値とは時間外取引であるKerb Trading(カーブ取引:LMEの非公式なリング取引で1時15分に始まり3時10分に終了)の最終のビッド、オファー価格でマージンの算定にも使用される。コバルト取引はニッケルと同様4時45分に、モリブデンは銅と同様に4時55分に終了する。なお、清算価格(settlement price)とは最終の現金オファー価格である。
  • ・LMEには、ビッド・オファー制度、買手・売手双方が希望価格を出せる気配相場の存在、電子市場取引などがあり、これらがLME価格が公正に形成さえる土台になっていると言える。
  • ・金属等の価格の歴史的発展段階は、以下のとおりである。

図2. 金属等の価格の歴史的発展段階
図2. 金属等の価格の歴史的発展段階
  • ・調査価格に基づく価格指標は、取引所での上場前に使用されるものである。これは、何と言っても人間的なものであり、個人的な偏った見解が含まれうること、調査対象数が不十分となり得ること、あくまで口頭での調査であること、実際に関係当事者が売買行為を通じていない価格であること、時として起こる誤りなどから、実態を反映しない場合が多々あると言える。
  • ・上場後の自然な価格発展として、プレミアムを持つ商品(例えば、ニッケルであればカソード加工等)は、Metal Bulletin社などが LME価格を基に別途に価格を出すようになるのが普通である。
  • ・今後、コバルト、モリブデンのLMEでの価格が、市場においてどのタイミングで参考価格として受け入れられるかであるが、上述のとおり、LME価格が調査価格に対して明らかに公正であることに加え、取引所には必要システムが整っていること、法規制があることといった物理的・知識情報インフラ面で見ても、今後より多くの取引が取引所を通じてなされるのは、必然的で逆行できない動きであると言える。コバルト、モリブテンについては、今後の先物取引高を注視していくことになるが、LMEとしては、2010年10~11月頃から取引が増加し、2012年には参考価格として広く受け入れられると予想している。

2. おわりに
 LMEの取引開始の初日、公式価格(3か月、15か月)は、それぞれコバルトが39,950~40,000 US$/t(17.82~18.14 US$/lb)、39,000~39,500 US$/lb、モリブテンが37,500~38,500 US$/t(17.01~17.46 US$/lb)、36,500~37,500 US$/tといずれも逆ザヤ状態となり、出来高は5.7百万US$(コバルト3.6百万US$、モリブテン2.1百万US$)と、LME CEOのAbott氏の予想どおり静かなスタートとなった。
 LMEのコバルト・モリブテンの上場には、様々な議論があったと聞いている。鉱山とユーザー企業間の相対取引を糧としてきた欧米の中小商社業界の中には、強硬に反対した企業も多かった。加えて、市場が極めて小さいコバルト・モリブテンを上場すれば、投機的な投資による価格ボラティリティの増大により、実態取引への影響は否めない。
 しかも、これらのレアメタルのユーザーは、ほとんどが日本、中国、韓国を始めとしたアジア市場である。
 そうした中、LMEは、市場における取引の透明性という錦の御旗の下、2年にも亘る検討を経て、株式会社としてはリスクのある取引量の小さいコバルトとモリブテンの上場にこぎつけた。
 LMEの積極的な新規展開の背景には、上海市場の存在感の急速な拡大が見え隠れする。LMEは、世界規模で取引に活用されていると自負するものの、シンガポールに事務所を設置予定であるなど、アジア市場の動向を注視している感がある。
 英国は、1760~1830年代、産業革命の拠点であったが、現在は世界の金融市場のルールメイキングの拠点である。英国の金融産業としては、世界の金属市場での価格決定メカニズムをロンドンに維持し続けることがきわめて重要である。
 LMEが、国内のマイナーメタルの産業団体の反対を押し切ってまで、世界に先駆けてマイナーメタルの新規上場を成し遂げたのは、拡大する新興市場、特にアジア市場への影響力を維持するためであったと考えられる。
 今後、LMEは、さらなる新規の金属の上場を模索していると言われており、コバルトとモリブテンの上場後の取引動向を含めて、今後ともその戦略的な動きに注視してまいりたい。
 なお、昨今のロンドンにおいて、東京市場のことはほとんど話題に上らない。日本の関係者からは、このままでは世界市場から取り残されるという焦燥感が漂っている。現在の金属価格ボラティリティ増大は、日本企業に上流へ進出せざるを得ない状況を作りつつある。日本が依然として巨大な金属市場であることは間違いなく、こうした状況の下、金属価格決定メカニズムに対して、日本から世界に先駆けた動きが起こり、世界市場で影響を及ぼすことを期待するばかりである。

ページトップへ