閉じる

報告書&レポート

2010年5月13日 サンティアゴ事務所  大野克久
2010年21号

チリの2009年リチウム生産・輸出動向及びリチウムに関する法制度の現状について

 チリ北部第Ⅱ州に所在する面積280 km²のAtacama塩湖では、Sociedad Quimica y Minera de Chile(SQM:本社・Santiago)及びSociedad Chilena del Litio(SCL:本社・Antofagasta,ドイツChemetallの子会社)の2社が世界生産の約40%のリチウムを生産し、世界各国に輸出している。
 近年の温室効果ガス削減に係る地球規模での取組みやリチウムイオン電池の性能向上等に伴い、2008年頃からHEV、PHEV及びEV※が注目され、2009年6月には三菱自動車、スバルからリチウムイオン電池を搭載したEVが発売された他、今後は中国、米国、欧州でもリチウムイオン電池搭載車の販売が予定されている。
 また、最近では次世代電力網としてスマートグリッドが提唱され、この分野においてもリチウムイオン電池の利用が期待されている。
 この様に電池向け需要拡大が見込まれているリチウム資源について、チリは銅、レニウムと同様に、世界第1位の生産があり、特にリチウムイオン電池の原材料として重要な炭酸リチウムについて、我が国は輸入の80%以上をチリに依存している。本稿においては、2009年のチリ・リチウム生産及び輸出動向について報告する。
 なお、USGS(米国地質調査所)が2010年2月に発行したMineral Commodity Summaries 2010によると、チリのリチウム埋蔵量は750万tで世界の埋蔵量990万tの約76%を占めており、今後チリにおける新規リチウム生産が期待されるところである。
 しかし、現鉱業法においてリチウムは対象鉱種から除外され、民間企業が単独で開発・生産できない鉱種となっていることから、チリのリチウム資源に係る法制度の現状についても本稿において概要を報告する。
 (※HEV:ハイブリッド電気自動車、PHEV:プラグインハイブリッド、EV:電気自動車)

1. リチウム生産及び輸出状況
(1)チリのリチウム埋蔵量
 USGS(米国地質調査所)が2010年2月に発行したMineral Commodity Summaries 2010(MCS 2010)によると、チリのリチウム埋蔵量は750万tで世界の埋蔵量990万tの約76%を占めている(表1)。
 ちなみに、ボリビアUYUNI塩湖においても世界最大といわれるリチウムの存在が確認されているが、現時点では正確な埋蔵量が確認されていないため記載されていない。

表1. 世界のリチウム埋蔵量(金属量)
国 名 埋蔵量
千t
チリ 7,500 75.8
アルゼンチン 800 8.1
豪州 580 5.9
中国 540 5.5
ブラジル 190 1.9
カナダ 180 1.8
米国 38 0.4
ジンバブエ 23 0.2
9,900 100.0
出典:Mineral Commodity Summaries 2010

(2)生産
 2009年のリチウム生産について、現時点でCOCHILCO(チリ銅委員会)より公表されていないが、炭酸リチウム25千t、塩化リチウム2.4千tが生産されたと推定される(表2)。
 2009年のこれら鉱産物の生産量は、2008年の50%程度の大幅減であったが、これはリチウムの主要用途が小型家電、携帯電話、釉薬、ガラス等景気動向に敏感に反応する製品向けが多く、2008年9月のリーマンショックによる世界的な景気低迷を受け、需要が減退したとともに、2009年前半はこれまでの在庫取り崩しで対応していた部分が大きいためと考えられる。

表2. チリ・リチウム鉱産物生産量、輸出量推移
表2. チリ・リチウム鉱産物生産量、輸出量推移
表3. リチウム鉱産物の主要用途
表3. リチウム鉱産物の主要用途

(3)輸出量
 チリのリチウム鉱産物輸出量は、炭酸リチウム、塩化リチウム及び水酸化リチウムに大別され、リチウムイオン電池用原材料等用途が多様な炭酸リチウム輸出量が最大であるが、2008年までは塩化リチウム及び水酸化リチウムの輸出量についても増加傾向となっていた。(表2,表4)

表4. チリ・企業別リチウム鉱産物輸出品
企業 輸出品
SQM 炭酸リチウム、水酸化リチウム
SCL 炭酸リチウム、塩化リチウム
  出典:Prochile

 炭酸リチウムの輸出について、2009年は2008年比19.9千t(47%)減少した(表2)。2009年の輸出先では、日本、韓国、中国、米国、ドイツ及びベルギーの6か国で約90%を占めている。
 また、日本、韓国及び中国の3か国の炭酸リチウム輸出量に占める割合は、2005年は32%であったが、2009年は54%に上昇している。
 日本向けについては、2006年に米国を抜いて第1位の輸出先となり、チリ輸出量の約25%(日本から見た場合、80%以上がチリからの輸入)を占めているが、近年は韓国向け輸出割合の上昇が顕著である(図1)。一方、中国向けについては、青海省及び四川省等中国国内において、リチウム生産が開始されていることに伴い減少傾向になっているものと考えられる。
 四半期毎では、2009年Q1に輸出量が激減しているものの、その後の世界景気回復基調を反映し、炭酸リチウム輸出量も徐々に拡大している傾向である(図2)。
 ちなみに2010年の1~2月の炭酸リチウム輸出量は4,366tで、2009年11~12月の4,301tと比較して1.5%増加している状況である。2010年は、GM、日産がEVの市場販売を予定しており、2013年にはフォルクスワーゲン、BMWもEV生産を開始する予定であることから、炭酸リチウム需要は堅調に拡大していくことが予想される。
 塩化リチウムについては、米国向けが殆どであり、2007年から輸出規模が拡大している傾向にあり(図3)、水酸化リチウムについては、ベルギー向けが輸出量の50%以上を占めているのが特徴的である(図4)。

図1. チリ・炭酸リチウム輸出量(国別,年別)

図1. チリ・炭酸リチウム輸出量(国別,年別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは生産割合を示す

図2. チリ・炭酸リチウム輸出量(国別,四半期別)

図2. チリ・炭酸リチウム輸出量(国別,四半期別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは生産割合を示す

図3. チリ・塩化リチウム輸出量(国別,年別)

図3. チリ・塩化リチウム輸出量(国別,年別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは生産割合を示す

図4. チリ・水酸化リチウム輸出量(国別,年別)

図4. チリ・水酸化リチウム輸出量(国別,年別)

出典:Servicio Nacional de Aduanas
※折線グラフは生産割合を示す

2. チリにおけるリチウムの取扱い
(1)鉱業法での位置づけ
 現在のチリ鉱業法では、リチウムは炭化水素及び海底資源と同様、鉱区設定ができない鉱物と規定されている(第7条)。
 これは、リチウムが放射性物質(核融合物質)として取り扱われている(注(1975年「核物質であるための条件規則」)ことによるもので、その後の法令第2886号(1979年11月14日)で、[1]所有権が既にありかつその登記が既になされているもの、あるいは[2]法令の発布日以前一年以内に登記手続きがなされていたもの以外について、リチウム生産及び開発については全てCCHEN(チリ核エネルギー委員会)の許可が必要とされている。
 また、鉱業法第7条規定外の鉱物で鉱区取得し、探査、採掘或いは採掘鉱区に由来する物質の処理段階で鉱業法第7条規定鉱物が存在する場合は、チリ政府への届け出義務がある(第9条)。更に、技術的及び経済的に分離・濃縮できる場合は、チリ政府へ譲渡しなければならず、無断で売却した場合は、売却価額及び罰金として売却価額の1/4を国へ納付しなければならないことが規定されている(第9条)。
 なお、鉱業法第7条規定の鉱物の探鉱及び採掘について、国或いは、国有企業によって直接実施する、或いは大統領が事例毎に最高令で定める条件の適用を受ける管理鉱区、もしくは特別操業契約を通じてのみ実施できることが規定されている(第8条)。
 従って、現状の鉱業法では、銅、モリブデン、金等と同様の手続きで、リチウム資源の探査、開発を行うことができず、鉱業省と直接調整することが必要となる。

 注)リチウムの放射性物質としての取扱い
 自然界には、2種類のリチウム同位体が存在し、このうちリチウム6(陽子3、中性子3:存在量7.42%)は、核融合温度が他の物質よりも低いことから、核融合の原料物質として取り扱われている場合が多く、チリにおいても放射性物質として取り扱われている。
 リチウム6を原料物質とする核融合反応は図5に示すとおりで、核融合で100万kWの発電所を建設した際、必要となるリチウム6は、年間160 kg程度と言われている(石油の場合では年間約130万tに相当)。
図5. 核融合におけるリチウムの反応

図5. 核融合におけるリチウムの反応

(2)チリのリチウム開発に係る経緯
 先に述べたとおり、リチウムは鉱業法適用鉱種から除外されているため、民間企業のリチウム開発生産にはチリ政府との調整が必要となるが、現在Atacama塩湖でリチウム生産を行っているSQM及びSCLはともに民間企業である。この経緯について、以下に述べる。
 1970年代前半、チリ政府はAtacama塩湖のカリウム、リチウム、マグネシウム、ホウ素、硫黄の効率的開発を目的に、リチウム開発、カリウム塩及びホウ酸開発の2プロジェクトを立ち上げた。
 リチウム開発については、大規模投資と技術導入が必要との認識から、CORFO(チリ経済開発公社)経由で、当時世界最大のリチウム生産企業であった米国のFoote Mineral(Newmont Mining子会社)と1975年に基本契約を締結した。1977年にCORFOがAtacama塩湖の大部分の所有権を獲得した後、1980年にCORFOとFoote Mineralが各々45%及び55%の出資比率でSCLを設立し、1984年から操業を開始した。
 その後、1988~1989年にかけてCORFOの45%出資分をFoote Mineralが15.2百万US$で購入し、SCLはFoote Mineralの100%子会社となった。Foote Mineral自体は、1987年にCyprus Mineralsが買収後、1998年にChemetallに買収されたことから、現在SCLはChemetallの100%子会社となっている。
 一方のカリウム塩及びホウ酸開発について、CORFOは1983年に国際競争入札を通じてAmax及びMolymetとコンソーシアムを形成し、調査研究を実施した後、1986年にCORFO 25%、Amax 63.75%及びMolymet 11.25%の出資比率で、カリウム、リチウム及びホウ酸塩の生産を目的として、Sociedad Minera Salar de Atacama(MINSAL)を設立した。
 その後、Amaxは1992年にMINSAL株自社権益全てをSQMに売却、1993年にはMolymetもSQMにMINSAL株自社権益全てを売却した。CORFOも1995年にサンティアゴ株式市場でMINSAL株を売却し、SQMが約7百万US$で購入、現在に至っている。
 以上が、SQM及びSCLがAtacama塩湖でリチウム生産を行っている経緯であるが、法令第2886号(1979年11月14日)において、リチウムの生産及び開発については、CCHENの許可が必要となっており、両社ともCCHENとの契約で、操業年数及びその間のリチウム総生産量の上限(金属リチウム換算)が設けられている。

3. 今後のリチウム政策について
 今後、HEV、PHEV、EVおよびスマートグリッド等での充電池向け需要拡大が確実視されるリチウムについて、チリ政府部内でも、政府の他COCHILCO、SERNAGEOMIN(チリ地質・鉱業サービス局)、CIMM(チリ鉱業冶金研究所)の4つの政府機関で構成されるリチウム委員会が設立され、リチウム政策の在り方について、技術面、法制度面等からの検討が開始されたところである。
 2010年3月に発足したPinera政権のLaurence Golborne鉱業大臣についても、チリにおけるリチウム探査・開発について、民間企業の参入について検討したいとの意向であると報道されており、今後のチリ政府の対応が待たれるところである。

4. まとめ
 チリには現在操業が行われているAtacama塩湖以外の塩湖等においてもリチウム資源が期待されているが、現在の鉱業法の枠組みの中では民間企業単独での探査・開発には、チリ政府と直接調整することが必要である。
 リチウムは、地球温暖化ガス排出削減に貢献する資源として世界的にも注目され、探査開発活動も活発化している状況にある。
 チリは投資環境も整備されており、カントリーリスクも低い国であることから、チリ政府部内でのリチウム政策の進展次第で民間企業の探査開発参入機会の創出が期待される。
 しかし、2010年2月27日に発生したチリ大地震の復興資金捻出及びその対応が喫緊の課題とされ、この中で現行の鉱業ロイヤルティ(鉱業特別税)見直しが予定されていることから、チリ政府がリチウム政策を打ち出すには、暫く時間を要するものと考えられる。

ページトップへ