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報告書&レポート

2010年6月3日 シドニー事務所 原田 富雄 増田 一夫
2010年26号

豪州鉱業協会(Minerals Council of Australia)へのインタビュー

 2010年5月2日、連邦政府は豪州の将来の税制に関する政府方針「Stronger・Fairer・Simpler-A tax plan for our future」を発表、鉱業分野に関しては、これまで州政府の税収とされてきた資源ロイヤルティに加えて、連邦政府が課税する資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax、以下「RSPT」という)の導入や、探鉱投資への還付制度の創設などが提言された。また、これに関連して2010年5月11日には、「2010/11年度連邦予算書」が発表され、世界金融危機で生じた財政赤字をRSPTで穴埋めする構図が明らかとなった。
 これに対して、今後新たな税や制度の適用を受ける資源関連企業を中心として、企業の経営や、今後の資源開発を取り巻く環境変化に影響が生じるとして、提言内容の是正を求める動きが徐々に拡大するとともに、一部の世論調査ではRSPTに対する反対が過半数に達するものも見られるなど、連邦政府の予想を上回る反発の声が上がっている。
 これに呼応する形で野党自由連合もRSPT導入への反発を強めており、今秋にも予定されている連邦議会選挙を睨み、選挙の争点のひとつになることが予想されている。特に、2007年末に誕生したラッド労働党政権の政策の目玉であった地球温暖化対策へのイニシアティブについて、昨年12月にコペンハーゲンで開催された第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)での不調に併せ、国内の温暖化対策法となる炭素汚染防止法案(Carbon Pollution Reduction Scheme)が上院で否決、法案提出を2013年に先送りするなど、ラッド首相のイニシアティブに翳りが見え始めた中での税制改革だけに、今後の動きが注目される。
 こうした中で、大手資源会社を中心にRSPT導入へのネガティブ・キャンペーンをはる豪州鉱業協会1 (Minerals Council Of Australia、以下「MCA」という)に対し、RSPTに関する業界の考えや、今後の対応などにつきJOGMECシドニー事務所がインタビューを行ったので報告する。


1豪州鉱業の持続的発展と社会貢献を目的とした豪州最大の鉱業関連団体で、会員企業全体での鉱物取扱い量は豪州全体の85%以上を占める。連邦および州政府に対するロビー活動も実施する。

日 時:平成22年5月19日(於:豪州鉱業協会)
先 方:Brendan Pearson副事務局長(Deputy CEO)
インタビュアー:JOGMECシドニー事務所長 原田(増田副所長同席)

 (質問1)
 2010年5年2日にRSPTが発表される以前、MCAや資源大手は、今後開発されるプロジェクトに対しては、現在州政府が従量/従価ベースで課税しているロイヤルティに代わり、天然ガスなど海洋資源プロジェクトから得られる利益に対して課税している石油資源利用税(Petroleum Resources Rent Tax、以下「PRRT」という)の導入を支持していたと考えるが、まずこの点について伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 一言で言えば答えはYes。政府が発表した「Stronger・Fairer・Simpler-A tax plan for our future」の原案となった「Henry Tax Review」の検討委員会に対し、我々は利益に基づいた課税制度の導入について検討するよう意見書を提出したが、これにはいくつかの前提条件がある。例えば税率のあり方はもちろんのこと、新税制の適用は新規のプロジェクトのみに対しての適用が前提であり、また、課税対象となる鉱物の種類も限定することを条件として利益ベースの課税制度導入を支持したものである。

 (質問2)
 Henry Tax Reviewの検討委員会は、MCAも含めて多くの意見書をステークホルダーから受け取り、2009年12月、これらの検討結果をスワン連邦財務大臣に答申しているが、今月初めに発表されるまで内容が明らかになっておらず、いきなり資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax、以下「RSPT」という)という新たな税制導入をアナウンスされた印象であるが、公表内容について前もってMCAに相談はなかったかについて伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 検討委員会からのフィード・バックをほとんど受けておらず、一方通行の議論となってしまった。我々は、2009年12月からスワン連邦財務大臣に対して、新税制が鉱山会社に与える影響を政府が完全に把握するまでは、新税制に関するアナウンスを延期すべきだと要求していた。特に、MCAはPRRTをベースとした財務モデルを用い、新税制導入が鉱山会社に与える影響について、全ての鉱種について課税率を変動させた調査を行っており、連邦政府に対してその結果を提供する用意があることを伝えていたが、実際に用いられることはなかった。

 (質問3)
 政府がRSPTを公表してから、資源業界を中心として導入を問題視するニュースが連日報道される中、MCAや会員企業である鉱山にとっては今回の新税制に関し、どういった問題を含有していると考えるか伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 新税制の発表内容は我々の予想より悪く、非常に失望している。RSPTの税率は、PRRTから持ってきたものであろうが、鉱業はあらゆる点で石油、天然ガス事業と異なっていることを理解する必要がある。石油、天然ガスは生産開始までの投資額が大きいものの、生産開始後は比較的少なく、キャッシュフローが良い。一方、鉱業は生産開始までの投資額も大きいが、生産開始後も継続して投資が必要になる点で異なっている。したがって、我々は40%の税率が石油、天然ガスには適用できても、鉱業に対して適用すべきでないと主張してきたが、連邦政府はこの点について取り合わなかった。
 我々が指摘する別の問題点として、メディアでは取り上げられていないが新税制が既存の操業プロジェクトだけでなく、既存の鉱区にも適用される点である。異なる鉱区の新規プロジェクトは当然ながら、同一鉱区内の既存操業と新規拡張に関しても新税の適用を明確に分けて考えるよう求めたが、連邦政府はこの点についても考慮しなかった。

 (質問4)
 連邦政府は2012年の法制化を目指し、2010年中には法案の骨格を示すスケジュールを提示しており、RSPT導入に影響がある企業は、別途設置された協議の場(コンサルテーション・パネル)において意見陳述するよう求めているが、MCAとしてどういった対応を今後予定しているか伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 我々は、先週木曜日(5月13日)にコンサルテーション・パネルのメンバーと面談した際、同パネルは、[1]RSPTであるべきか(是非について)、[2]課税率が40%であるべきか、[3]既存プロジェクトに適用すべきか、の3点については議論しないと言ってきた。そこで我々は、鉱種別の課税率の設定、及びRSPT控除率の適用レート(10年国債利率)の変更について問題提起したが、これらの点についてもこの場で議論をすることをしなかった。また、我々の中での最も大きな問題は、課税率40%と、既存プロジェクトへの適用であると主張したが、これらの重要な問題についても議論されず、満足のいくものではなかった。
 我々は、これらの重要問題について議論するよう連邦政府を説得、あるいはプレッシャーをかけなければならないと考えている。これに併せて、コンサルテーション・パネルが我々の主張を取り扱わないのであれば、コンサルテーションのプロセスからは有益な解決策は得られないという広告を行わなければならないと感じている。また、会員企業である一部の鉱山大手は、株主に対して政府の新税制制度導入に対し反対姿勢を示す会社の取り組みに理解を求める書簡を送付したり、既存、新規を問わずプロジェクトの無期限延期を表明することで、政府への対抗姿勢を示し始めており、我々も鉱業セクターへの経済的影響調査や、個別企業に関する影響調査を大々的に行っていく予定でいる。

 (質問5)
 鉱業界の今後の取り組みについてお聞きしたが、資源ブームによる資源価格の高騰で資源業界が利益を独り占めしており、これを国民全体で広く享受するといった政府の取り組みに理解を示す声も一方で聞かれる。一部の労働者組合はこうした連邦政府の取り組みを支援すると表明し、資源会社と対決姿勢を示すとの報道もあり、経営者側と労働者側の対立の構図が生まれてきたのではないかと考えるが、この点について意見を伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 確かに労働者組合が我々の活動に対して反対する向きもあるが、活動が限られており、我々とはキャンペーンの規模が違う。労働者組合のキャンペーンは広範囲には行われておらず、メディアへの露出も限られる。従業員組合は、政府労働党とリンクしており、ある意味で象徴的でもあるが、彼らの活動についてあまり気にしていない。
 一方、我々が心配しなければならないのは、今後、連邦政府が莫大な費用を投じるであろう広告キャンペーンである。連邦政府は、資源ブームの果実を鉱山会社が独り占めし、巨大な利益を上げていると批判し、政府は税収という手段で持って課税し損ねた点について広告という手段を用いて、鉱業界とは縁のない有権者の支持を集めようとするだろう。一度こうした広告キャンペーンが開始されれば、連邦政府にとってみれば、我々に税制の内容について修正や譲歩をすることは難しくなると思われ、この点を懸念している。

 (質問6)
 RSPTは、今秋にも予定される連邦議会選挙のひとつの焦点になると考えられる。野党自由党党首は既にRSPT導入に反対姿勢を示しているが、選挙との関係で連邦政府の対応をどのように分析しているか伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 仮定の話であるが、アボット野党自由党党首が勝てば、税制導入は見送られるだろう。一方、現政権が勝利すれば新税制がほぼそのまま導入されることになるが、その場合であっても、現議席を大きく失った場合、RSPT導入に関し譲歩が得られるかもしれないし、税制の制度変更を求め、ラッド内閣を失脚させるかもしれない。ただ我々がもっとも恐れるシナリオは、現政権が圧勝する場合であって、彼らの主張が国民の支持を得たものとして、彼らが何も譲歩しないことである。
 私自身は10月に選挙が行われると予想しているが、これから数ヶ月の間、資源プロジェクトが延期、もしくは撤退といった発表がいくつも行われ、連邦政府はこれに対処せざるを得なくなるであろう。コンサルテーション・パネルの場では、まず最初に、現時点で最終投資判断を行なおうとしている企業に対して関心を示すであろう。特に不満が大きい石炭層ガス(Coal Seam Gas)プロジェクトに関して譲歩するかもしれない。RSPT導入により問題を抱える全ての企業は、コンサルテーション・パネルに対して同じ反応を示し、声を上げ続けることが必要であるが、同パネルは解決策を提示することができず、将来的には政治的なレベルでの話になるであろう。
 我々は今年初めに、鉱業セクターでは90,000人の労働者の創出が可能と予測した。新税制導入により、既存プロジェクトが直ぐに停止することは少ないであろうが、新規プロジェクトへの影響は大きく、新税制は雇用機会の創出に大きな影響を与えると考えている。
 また、一部の州政府も既にRSPT導入の影響を懸念するとの声明を出しており、州政府を巻き込んだ取り組みも重要になってくる。一例を挙げれば、SA州Olympic Dam拡張プロジェクトは、同州の税収を左右する巨大プロジェクトで、BHP BillitonのクロッパーズCEOは既にプロジェクト停止を示唆している。SA州首相は懸念を表明し、新税制に反対の姿勢に転じている。

 (質問7)
 MCAや資源業界の取り組みについて説明いただいたが、日本を含めた需要サイドへの影響についてお聞きしたい。特に、豪州にとって日本は鉄鉱石、石炭の主要輸出先であり、価格を含めた市場への影響をどう見ているか伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 豪州はマーケット・パワーをさほど多く持っていないことから、多くの鉱種で価格が上がることはないであろう。また、需要家に(RSPT導入による)コストを転嫁できるとは思わない。

 (質問8)
 最後の質問であるが、外国政府も関心を示しているとの報道がある。一部の国では同様の税制を歓迎する向きもあり、逆に投資を呼び込もうと企業に課す税率の引き下げを考える国まで報じられているが、各国の反応について承知する範囲で伺いたい。

 (Pearson副事務局長)
 米国大使館は政府の発表後、直ちに問い合わせたようだ。中国政府も強く関心を持っている。特に、中国の政府系企業は、自国への資源の安定供給に関心があるため、課税額の大きさによって、投資判断を変えることは少ないだろう。
 権益参加という形でプロジェクトに参加する需要家サイドから見れば、RSPT導入により実効税率が上昇し、利益が減ることから市中銀行からの資金調達は困難となり、瞬間的には、これらの企業は支出を保つために利益を再投資に回すものと考えられる。一方、豪州の借入金利よりも有利な条件を持つ外国投資、特に中国の政府系企業による投資が増えるかもしれない。そうなれば、資金難にあえぐ豪州の鉱山会社は、これらの政府系外国企業に対して有利な条件を受け入れざるを得ないことになるのではないかと考える。

おわりに
 インタジューを通じ、RSPTの問題点について政府に是正を求める業界の動きが明らかとなったが、今秋にも予定される連邦議会選挙キャンペーンの焦点の一つに上がる可能性も見え隠れしており、野党を含め州政府をも巻き込んだ動きへと発展する可能性も否定できない。中国、インドを始めとした新興経済国を中心として資源需要が拡大する中で、資源開発への投資が鈍る事態は避けなければならず、安定した投資環境として信頼を得ている豪州資源分野の動向から目が離せない状況が続く。

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