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報告書&レポート

2010年7月1日 ロンドン事務所  フレンチ 香織
2010年33号

INSG(2010年春季:定期会合)参加報告― 2010年、ニッケル供給過剰幅が縮小 ―

 国際ニッケル研究会(INSG)は、国際非鉄金属3研究会の中で国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に続いて2番目に設立された研究会で、1990年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在16か国が加盟しており、事務局はポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季と年に2回開催されている。
 2010年4月26~27日、リスボンにて、INSGによる春季定期会合が開催された。本会合には、INSG加盟国の政府関係者、また、オブザーバー国として中国、ベルギーの政府関係者、産業団体、企業関係者の総勢約60名が参加した。また、INSGの依頼を受けて、27日の環境委員会では、住友商事(株)の稲葉誠氏(Ambatovy Project部チームリーダー)が講演を行った。以下、本稿では本会合の概要について報告する。

1. 2010年ニッケル需給予想 *1 (INSG統計予測担当官、Sven Tollin氏)

1-1. ニッケル鉱石生産量 ~ 世界全体で、前年比9.7%増 ~
 2010年における世界のニッケル鉱石生産量については、前年比9.7%増の1,471.8千tと予想している。その主な理由としては、景気回復に伴う実需の回復を挙げていた。ニッケル鉱石生産の世界1位は依然としてロシアであり、前年比3.8%増の275千tと世界の約19%を占めると予想している。また、住友金属鉱山(株)が出資するGoroプロジェクトの操業開始を見込んで、ニューカレドニアは前年比10.5%増、カナダはSudbury鉱山ストの影響等で、前年比8.5%減と予想している。

1-2. ニッケル地金生産量 ~ カナダの減産をアジアの増産が相殺し、世界全体で前年比4.8%増 ~
 2010年における世界のニッケル地金生産量については、前年比4.8%増の微増の1,395.1千tと予想している。その主な理由としては、「供給量を現在の需要に合わせるため、地金生産の伸びが低く止まるであろう」という分析を示していた。
 2010年、中国のニッケル地金生産(銑鉄内のニッケル含有量を含む)は、前年比17.6%増の300千tと、ロシア(同比0.6%増の257千t)を上回って、世界第1位になると予想している。一方、ニッケル地金の大生産国であるカナダは、Sudbury製錬所でのストの影響等で、同比46.5%減と予想している。但し、このカナダの大幅な減産は、中国を中心としたアジアの増産で相殺されるであろうと分析していた。

1-3. ニッケル地金消費量 ~ 中国の逸脱した需要増により、世界全体で前年比14.3%増 ~
 2010年における世界ニッケル地金消費量 *2 については、前年比14.3%増の1,385.5千tと予想している。その主な理由としては、2009年上期はニッケル需要が極めて弱い状態であったが、下期にはステンレス鋼生産の明白な回復傾向が確認され、2010年も引き続きニッケル需要が回復するであろうとの予想を述べていた。特に、世界第1位の消費大国である中国について、2010年の消費量を前年比11.1%増の500千tと予想し、世界第2位の日本も同比12.9%増、第3位の米国も同比30.4%増と好調な回復傾向を予想している。

 注1) INSGが提示する上記データは、生産障害の可能性を除く。
 注2) INSGによれば、ニッケル地金消費量に係る本データは、LME ClassⅠのニッケル、LME ClassⅡのフェロニッケル、銑鉄内のニッケル含有量、また、(キューバのみは)酸化ニッケルのニッケル含有量を示す。INSGによるニッケル地金需要は、報告を受けた数値に基づいて、INSGが予想した「実需」を示すとされるが、本会合に参加した業界関係者の間では、本数値を「見掛け消費」と見る見方もあった。

表1. ニッケルの鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)
区分 鉱山生産量 地金生産量 地金消費量
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
2009年
実績
2010年
予想
欧州 304.6 342.2 454.5 486.2 294.2 347.6
アフリカ 73.3 83.0 36.4 38.0 32.0 34.1
南北米 318.0 327.5 238.4 188.0 118.8 153.3
アジア 386.1 440.0 433.0 515.6 764.4 847.8
   ※(内、中国) 81.1 90.0 255.0 300.0 450.0 500.0
オセアニア 260.0 279.1 169.5 167.3 2.6 2.7
世界計 1,342.0 1,471.8 1,331.8 1,395.1 1,212.0 1,385.5

1-4. ニッケル需給バランス ~ 2010年はニッケル供給過剰幅が縮小、全体として均衡した市場 ~
 2010年におけるニッケルの需給バランスは、9.6千tの供給超過と見込んでいる。2009年は119.8千tの供給超過であったが、2010年には中国を中心としたステンレス産業の回復が予想され、市場は均衡した状態に戻るとの見通しを示していた。但し、同研究会としては、「現状も経済不安は解消されていないため、国際市場にはある程度の不確実性が残っている。」と言及していた。

表2. 世界のニッケル需給バランス (単位:千t)
区分 2007年
実績
2008年
実績
2009年
実績
2010年
予想値
増減2009/08 増減
2010/09
ニッケル供給合計([1]) 1,437.7 1,381.9 1,331.8 1,395.1 ▲3.6% 4.8%
ニッケル消費合計([2]) 1,309.9 1,287.3 1,212.0 1,385.5 ▲5.8% 14.3%
需給バランス量([1]-[2]) 127.8 94.6 119.8 9.6

1-5. LMEニッケル在庫と価格 ~ 在庫は減少基調、価格は投機筋に影響 ~
 2010年2月初旬にLMEニッケル在庫は、史上最高水準の166,476tに到達したが、その後は減少基調である。市場分析家等は、この傾向について好調な需要回復の証しであると見ていた。
 一方、LMEニッケル価格は、投機筋に影響されて変動が止まらない状況が続いている。ギリシャ問題が絡む通貨に対する信用不安により、投機筋の買いが増え、2010年4月30日には26,300 US$と、2年ぶりの高値を付けた。しかし、その後の5月上旬には20,000 US$/t台に急落している。この背景としては、[1]需要の核となるステンレス産業の生産が期待より回復が遅れていること、[2]中国でのニッケル銑鉄増産が今後予想されること、そして、[3]カナダSudburyニッケル鉱山・製錬所での労働スト終結の兆しが見られたこと、と分析していた。
 5月25日現在、LME在庫が減少基調にあることから、LME価格は21,145 US$/tにまで回復しているが、ユーロ安による欧州不安、そして中国の金融引き締め観測が原因で、非鉄全体における投機筋の売り圧力が高まっており、4月末の26,000 US$/t台までには上昇していない状況である。

図1. LMEニッケル価格及び在庫の推移 (出典:Mining Journal誌)
図1. LMEニッケル価格及び在庫の推移 (出典:Mining Journal誌)

2. 産業アナリストによる基調講演
2-1. 第32回産業諮問委員会にて (4月26日14:30~17:00)

[1] 講演『世界のニッケル需給状況』(CRU市場コンサルタント、Vanessa Davidson女史)
 (※具体的な数値の公開許可が下りなかったため、以下、数値を省いて報告を行う。)

(伸びるニッケル消費の将来)
・ 今日、ステンレス産業は世界のニッケル需要の2/3を占めるため、ステンレス産業の前途がニッケル需要の将来を左右している。景気回復とともに、2011年には2006年レベルに復帰すると予想し、2010年、2011年ともに世界のステンレス生産は30百万t台が予想された。なお、内訳として、中国はその約1/3を占有する見通しで、ステンレス鋼300シリーズはその約半分を占めると予想された。
・ ステンレス鋼はリサイクル率が良いためにスクラップ利用が多いが、1992~2006年の間にスクラップ消費が年々5%の割合で増加したことにより、過去18か月は、ニッケルスクラップが不足している。従って、ステンレス鋼に対する一次ニッケルの消費が増加すると予想している。

(過大評価されているニッケル供給の将来)
・ 前年に引き続き2010年も生産障害の可能性、また、新規プロジェクトの遅延が予想され、ニッケル価格が回復しても、急速な増産は予想できないと分析している。また、過去の実績から、HPAL製錬プラントの生産は成功率が低いことは考慮すべき点である。
・ 2009年のニッケル銑鉄(NPI)生産は、ニッケル地金の減産を相殺したが、2008年のニッケル価格高騰時の生産量に比べて、40%減であった。2010年も、中国でのニッケル銑鉄の生産能力は増強が予想されるものの、石炭の値上げ等でコスト増が見られること、また、ステンレス鋼300シリーズの人気によって、ニッケル銑鉄よりも従来のニッケル地金の需要が高まると予想されることから、2010年は急激な増産は予想されない。

(ニッケル市場バランスは供給不足へ)
・ ステンレス産業需要の回復が予想される一方、ステンレス鋼スクラップ不足、及び今後の生産障害が予想されることから、ニッケル市場は4年ぶりの供給不足と予想している。但し、「ニッケル銑鉄の増産に応じて、今後2、3年後は供給過剰に反転する可能性は残っている」と指摘している。

[2] 講演『ステンレス鋼スクラップの貿易調査』(INSG統計委員会担当官、Sven Tollin氏)
・ 2009年は、欧州、日本及び韓国でSSスクラップ純輸入(輸入量-輸出量)が急減した。他方、中国の純輸入は、前年に比べて61千t増の369千tとなったとの推測が示された。
・ 2009年Q1は、ステンレス鋼(SS)産業の低迷のためSSスクラップ在庫は十分な量となっていたが、Q2以降は、景気回復とともにスクラップ需要も増加し、SSスクラップ市場は逼迫した。

[3] 講演『Ni & FeCrの都市鉱山事業』(ELG社及び国際クロム開発協会、Benno Kratz氏)
 ELG社のSSスクラップ事業、及びフェロクロム市場について説明がなされた。不況により、2009年における南アのフェロクロム生産は大幅な減少が見られ、2010年Q1もフル生産能力までには回復していない。フェロクロム市場はタイトな状態は続くと予想される。(※データ公開不可のため、省略。)

[4] 講演『今日のステンレス鋼スクラップ市場』(Heinz H. Pariser社社長、Heinz H. Pariser氏)
・ 2000年以来、世界全体のステンレス鋼(SS)スクラップ消費は3.8%/年の割合で増加している。その約8割は外部から購入したSSスクラップ、2割は冶金工程等で発生した内部からのSSスクラップである。なお、2010年は世界及び中国ともに、SSスクラップ市場は逼迫するとしていた。
・ 2010年における世界全体のSS生産は30.6百万tで、そのうち購入したSSスクラップ消費量は8.6百万t、リサイクル率は28%と予想している。他方、中国では同年、SS生産が10.7百万tに対して、購入したSSスクラップ消費は1.8百万tと、リサイクル比率は約17%と依然として低いと推測している。
・ 2025年のSSスクラップ埋蔵量は2010年比1.5倍増の257百万tと推定できるが、近年は軍用機の各部に利用される特殊用SSのように、ニッケル含有量に差異が大きいSSが増加し、”混合”SSスクラップが増加しているため、将来のSSスクラップの利用可能量は、リサイクル施設の能力にかかっているとのことであった。

2-2. 第14回統計委員会にて (4月27日9:00~12:00)
[1] 講演『マダガスカルのAmbatovyニッケルプロジェクト』

(住友商事株式会社Ambatovy Project部チームリーダー 稲葉 誠氏による講演)

写真1. INSGでの稲葉氏によるご講演
写真1. INSGでの稲葉氏によるご講演

(プロジェクト概要)
・ Ambatovyプロジェクトは、住友商事(権益27.5%、供給確保50%)、カナダのSherritt社(同40%、オペレーター)、韓国のKORES公社(同27.5%、供給確保50%)、カナダのSNC-Lavalin社(同5%)の4社によって構成される巨大資源開発プロジェクトである。初期投資額45億US$のうち21億US$は、国際協力銀行(JBIC)、韓国輸出入銀行(KEXIM)、カナダ輸出開発公社(EDC)、欧州投資銀行(EIB)、アフリカ開発銀行(AfDB)等が参加する国際コンソーシアムによって調達され、2007年には「欧州、中東、アフリカの(ベスト)鉱業取引」と称された。
・ 本プロジェクトでは、地金生産まで一貫生産を行うこととなり、具体的には、Ambatovy鉱山から鉱石を採掘した後、スラリー状のラテライト鉱が、鉱山から220 km長のパイプラインを経由して、Toamasina港に隣接する製錬プラントへ搬入される大規模なシステムが設計されている。推定・確定資源埋蔵量は125百万tで、年間ニッケル地金(LME Class Iニッケル準拠)6万t、コバルト地金5,600t、硫安約21万tを、27年以上生産する予定。2010年3月時点で、鉱山と製錬プラントの建設はすでに70%完了しており、2010年内には試運転を開始し、2013年迄にはフル生産能力に達する予定である。

(プロジェクトの強み)
・ 本プロジェクトの強み(Uniqueness)は、マグネシウム含有量が少ないニッケル鉱床であること、また、副産物としてコバルトを生産できる理由から、競争力の高い、低コストの生産が期待できることである。また、一般的にHPAL製錬は成功率が低いと言われているが、[1]酸化の進んだウェットラテライト鉱で、均質な鉱体であること、[2]上記の良質な鉱石の特性から、硫酸消費量を低減できるテスト結果も得られていること、[3]オートクレーブやパイプなど品質選定に十分な注意を払っていること、[4]各設備は全て技術的にProvenなプロセスを採用し、かつ予備装置を備えることで、生産障害に即時対応できる環境を整えていること等から、本プロジェクトのHPAL操業では事前に出来る限りの対策をしている。
・ また、重要な強みは、マダガスカル政府および地元社会との良好な相互協力関係である。政府からは、2007年に同国の大規模鉱山投資法適用「第1号」の認定を受け、長期にわたる法制・税制面での安定的保証を得るなど最大限の支援を受けている。本プロジェクトによる地域経済への貢献を重視し、建設で約1万人超、生産段階でも約7,000人強の直接・間接雇用の創出を計画しているほか、職業訓練・技術教育プログラムを実施している。また、環境にも非常に配慮しており、鉱山1,400 haに対して、鉱山周囲には森林領域4,900 haと、更に鉱区から離れた場所で特別な保護地区11,000 haをそれぞれ保持し、万が一、動物等が鉱山サイトで発見された場合は保護地区に返すようにしている。同氏は、「本プロジェクトを通じて、地元住民の生存権を尊重しながら、共存共栄の関係を築き上げ、また、地元文化・自然の保護に重視しながら、持続可能な開発を実現したい。」と力強く述べ、会場では政府関係者等から賞賛の声が聞かれた。

[2] 講演『世界のステンレス鋼産業に係る動向分析』 

(国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)経済統計担当官Peter Kaumanns氏)

 Kaumann氏が本会合に出席できなかったため、INSGの統計担当官であるTollin氏より同氏の講演紹介がなされた。2009年における世界ステンレス鋼生産(粗鋼ベース)は24,572千t、そのうちの70%がアジアによるものと推定していた。また、ニッケル価格が低く、購入しやすい価格であったことも動機付けとなって、本生産のうちの約半分がニッケル高品位の300系オーステナイト鋼(CrNi)であったと紹介された。

[3] 講演『中国のニッケル銑鉄調査に関する概要』(INSG統計担当官、Sven Tollin氏)
 INSGが中国CBI Research & Consultingに委託していた『中国ニッケル銑鉄の市場分析』報告書がINSGにより2010年5月5日に発売され、Sven Tollin氏がその概要を紹介した。
 本報告書は有償であるためデータ詳細は公開できないが、2005年以来の中国ニッケル銑鉄の生産状況、ニッケル銑鉄の種類の一般定義、また、ニッケル銑鉄の中国ステンレス鋼生産における200 / 300シリーズへのニッケル代替率等が紹介された。今後は、中国政府の環境・エネルギー政策やニッケルの価格変動がどのようにNPI市場に影響するのかは不鮮明であるが、近い将来はニッケル銑鉄生産がニッケル市場に影響し続けるのではないかと予想していた。

2-3. 第25回経済環境委員会にて (4月27日14:00~16:00)
[1] 講演『世界コモディティフォーラム』

(UNCTAD コモディティ特別部門次長 Rouben Indjikian氏)

 世界コモディティフォーラムは、UNCTADの新規プロジェクトである。本フォーラムの目的は、近年のコモディティ経済における頻発な課題を、政府間や産業界間で議論できる基盤を提供することである。第一回目のフォーラムは、採取産業を主題として、2010年3月23日に国連ジュネーブ本部で開催された。第一回目の会議には、欧米・中国・アフリカからの政府高官に加え、INSG等の国際研究機関、銀行やLME等から約400名が参加。議題は、[1]エネルギー、鉱物資源に係る政策の課題と今後、[2]価格変動のリスク回避、[3]流通に係る課題、[4]コモディティファイナンス及びリスク管理、[5]資源に係る法的課題、[6]持続可能な開発とされていた。
(詳細:http://www.globalcommoditiesforum.org)

[2] 講演『建築物に利用されるステンレス鋼』 

(国際モリブデン協会(IMOA) Technical Director、Nicole Kinsman博士)

 ステンレス鋼は「シンプルな外観」により、今日もモダン建築に多く利用されている。しかし、モリブデンが含有されていないステンレス鋼は、塩水・大気汚染・降雨等の原因で侵食されやすい。モリブデンは耐食性が強く、クロム12~18%にモリブデン1%を添加すると、クロムを3.3%加えた時と同様の耐食効果を示し、微量でもステンレス寿命を長くする必要不可欠な金属として紹介された。なお、IMOAは、建築家に対して、それぞれの建築に適したステンレス鋼の選び方を助言するプログラムを実施している。

[3] 講演『堆積浸出法(ヒープリーチング)に関する報告書』 

(Malachite Process Consulting社(豪)社長、Bruce Wedderburn氏)

 INSGが委託したレポート概要が紹介された。本報告書は、2010年5月5日に発売され、INSGより購入可能である。また、概要はINSG公式HPよりダウンロードが可能である。
 本報告書では、ラテライト鉱のさまざま湿式製錬方法が紹介され、特にいくつかの鉱山で既に採用されているHPAL(高圧硫酸浸出法)、及び試験的に導入されつつあるHL(ヒープリーチング)のコスト比較、利点・難点等が紹介されている。現状、HPALについては、生産コストの上限を超えたり、また、目標生産量に達していない等の失敗例が多いが、成功例として、住友金属鉱山(株)のCoral Bayプロジェクトでは、2009年4月に目標生産22千t/年を超えたことが紹介されていた。HLについては、資本集約度が低く、HPAL等に比べると容易な仕組みとされるが、酸消費量が多いこと等が課題として挙げられていた。なお、トルコのCaldagプロジェクトではHLが起用され、2010年中期に導入段階の操業が開始する予定とのことである。
 
[4] 講演『スペイン太陽光プロジェクトに於けるステンレス鋼の利用』 

(ACERINOX社R&D部門、Rafael Sanchez氏)

 スペインACERINOX社は、ステンレス鋼製造会社で、マレーシアでは日新製鋼(株)と共同でマレー工場を建設しており、世界全体の溶解工場の生産能力は3.5百万tに上る。
 2008年時点では、スペインでの再生可能エネルギーは一次エネルギー消費量全体の7.6%のみであるが、スペインは太陽光エネルギー開発の代表国として認識され、国内及びEUの支援により、太陽光エネルギー開発・増設計画が着々と進行されている。ステンレス鋼の特性(耐食性、強度、高リサイクル率など)を活かして、今後は低温エネルギー熱装置、集光型太陽光発電システム、太陽光エネルギー装置内の薬液注入ポンプへのステンレス利用が見られるであろうと期待していた。

[5] 講演『EHS調査に関する進捗報告』(INSG / ILZSG経済環境委員長、Curtis Stewart氏)
 ニッケルに影響する規制及びその他の課題として、ニッケルのREACH規制及びGHSの最新情報が報告された。REACH登録に関しては、その他の金属に先行して、ニッケル金属及びニッケル化合物の登録が2010年6月までには完了すると見込まれている。また、欧州委員会は現在、OECD準拠のRead-acrossアプローチ法(類似した水溶性による推測等)の幾つかを適用し、ニッケル化合物100種以上を、発がん性のある物質として『CMRカテゴリー1』に分類しているが、ニッケル協会は、科学的実験及び科学的正当性が無いとして訴訟を起こしている。本件の裁判は今後も継続し、2011年までは結論が出そうにないとのコメントがなされていた。
(2009年秋季会合:http://www.jogmec.go.jp/mric_web/current/09_63.html)

3. INSG各委員会のプロジェクト進捗報告
 産業アナリストからの講演発表の後、各委員会に関する活動内容報告、作業プログラムの動向と進行状況についての報告がなされた。特記事項のみ、以下に報告する。

3-1. 統計委員会
[1] 現在進行中のプロジェクト
 ・ INSG統計月間報告書の作成、年2回の会合のためのニッケル市場調査
 ・ (特に現在は、中国、スペイン、米国のニッケル市場調査に注目)
 ・ ニッケル鉱山・一次ニッケル製錬所の世界住所録の更新(2010年9月に完了予定)
 ・ ニッケルのエンドユース消費動向調査(ISSFと共同事業)
 ・ 一次ニッケル生産へのニッケルスクラップ利用率に係る調査
[2] 新規プロジェクト
 ・ 2009年4月の会合で承認されたプロジェクト2件が完了。プロジェクト1の『中国のニッケル銑鉄調査』で、中国CBI Research & Consultingにレポート委託を行い、2010年5月に発売。プロジェクト2の『世界のステンレ鋼スクラップ市場調査』では、Heinz H. Pariser社に調査を委託し、本会合で調査結果が発表された。
 ・ 2010年の春季会合では、新規プロジェクト案の『中国のニッケル在庫に関係する調査報告書』が承認され、今後、事務局が調査会社等の選定を行うこととなった。2010年10月にレポートが完了される予定である。

3-2. 産業諮問委員会
 特になし。

3-3. 経済環境委員会
[1] 完了したプロジェクト
 ・ 2009年5月の会合で承認されたプロジェクト『堆積浸出法に関する調査』で、豪州Malachite Process Consulting Pty社にレポート委託を行い、2010年5月に発売。
 ・ 会員限定のINSGインサイトニュースレターの発行(例:2009年6月「国連・持続可能な開発委員会(CSD)」、2009年7月「Mining Journal誌特集「2008年ニッケル市場」、2009年8月「低迷する経済とニッケル市場」、2010年3月「ニッケル在庫」など)
[2] 現在進行中のプロジェクト
 ・ ニッケルリサイクル率の調査
 ・ 経済危機のニッケル市場影響調査
 ・ INSG会員に対して、国連の持続可能な開発委員会の進捗報告
 ・ ニッケルの一次消費動向(ニッケル含有バッテリー市場、ステンレス鋼市場の調査など)
 ・ 国連一次産品共通基金(UN-CFC)プロジェクト
 ・ ニッケル産業に影響を及ぼす環境・衛生・保安(EHS)に関する規制動向調査の継続
[3] 新規プロジェクト
 ・ 中国のニッケル在庫調査
 ・ 中国に於けるスクラップ金属調査 (ILZSG、ICSGとの共同プロジェクト)

4. INSG総会(第20回)
 本委員会では、常任委員会の役職者が以下のとおり選出された。
議長:Helen Clarke氏
(豪州 資源・エネルギー・観光事業省:Department of Resources, Energy and Tourism)
第一副議長:大木 雅文氏 (経済産業省製造産業局非鉄金属課)
第二副議長:Carlos Nogueira da Costa Junior氏 (ブラジル鉱物エネルギー省)

5. 2010年秋季会合の日程
 次回の国際ニッケル研究会は、10月5日~6日午前の1日半で、リスボン(ポルトガル)にて開催予定である。また、国際鉛亜鉛研究会2010年秋季会合は、2010年10月7~8日の2日間、同じくリスボンで開催予定である。なお、次回の国際銅研究会については、9月27日の週にチリ・アントファガスタにてチリ独立200周年(9月18日が記念日)を記念して開催予定のCESCO(銅・鉱業研究センター)、COCHILCO(チリ銅委員会)の会合と併せて、9月28日に同じくアントファガスタにて開催予定である。

< 2010年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >

  9月28日 国際銅研究会(場所:アントファガスタ、チリ)
  10月5日、6日午前 国際ニッケル研究会 (場所:リスボン)
  10月6日午後 3研究会合同セミナー
(主題は『持続可能な将来への金属の貢献』)(場所:リスボン)
  10月7~8日 国際鉛亜鉛研究会 (場所:リスボン)

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