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報告書&レポート

2010年7月8日 バンクーバー事務所  大野 隆幸
2010年34号

カナダのCSR関連法案(C-300法案)の概要

 カナダは、石油・ガス採掘(抽出)産業及び金属鉱業(以下、鉱業界という。)における探鉱、採鉱、研究開発において世界的リーダーであり、鉱業界はカナダ経済にとって極めて重要な産業となっている。カナダ統計局発表、産業別国内総生産2009年データ(http://www40.statcan.gc.ca/l01/cst01/prim03-eng.htm)によると、鉱業界が産業全体のGDPに占める割合は約4.3%(約515億C$)となっており、雇用面でも、350千人以上のカナダ人を直接雇用している。
 また、カナダの鉱物資源は年間輸出総額の約19%(約946億C$)を占める。主な輸出品目としては、アルミニウム、ニッケル、銅、金、ウラン、カリウムとなっている。
 このように、鉱業界は、カナダ経済の中心的産業という位置づけであることから、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)分野においてもカナダ国内におけるリーダー的存在であることは多くが認めているところである。カナダ政府も、鉱業界と共にCSRへの取り組みを行い、CSR課題が前進するよう国内外で働きかけているところである。
 一方で、世界からのカナダ鉱業界全体に対する評判は必ずしも良いとは言われておらず、海外で操業しているカナダの採掘企業による人権侵害、環境破壊などに対する非難の声も聞かれることも事実である。
 そのような状況の下、2009年2月にBill C-300(Corporate Accountability for the Activities of Mining, Oil or Gas Corp. in Developing Countries:鉱業、石油またはガス会社の発展途上国における活動のための企業の説明責任に関する法律(案)」(以下、C-300法案または法案という。)が国会に提出された。
 この報告書では、この法案の概要、国会審議状況及び法案賛成派と反対派、双方の意見の要旨を提供し、この法案が鉱業界に与える影響について概説することとした。

1. C-300法案の概要
 1-1 背景
 C-300法案は初めて、政府が鉱業界とCSRに関しての規制を明確にしたものとして、2009年2月9日に国会(下院)に提出された議員立法法案(提出者:自由党議員で枢密院委員1 でもあるJohn Mckay議員)である。
 2009年4月22日、法案は下院ではかろうじて可決され、現在は、上院の外務国際開発常任委員会(Committee on Foreign Affairs and International Development)で審議されている。その後、同委員会で可決されれば上院で審議されることとなる。上院での審議結果で承認された場合は法案成立となり、否決されれば上院の修正案付で下院に差し戻しとなる。
 
 1-2 C-300法案の概要
 C-300法案は、海外で操業するカナダの採掘企業に対し、環境及び社会的影響に関するより大きな説明責任を求めている。この法案の趣旨は、石油・ガス・金属鉱物などの採掘活動を行い、カナダ政府から援助を受けているカナダ企業に、国際環境ベストプラクティス(International Environmental Best Practices)及びカナダが深く関与する国際人権基準(International Human Rights Standards)に従って行動してもらうことを目的としている。
 また、海外で操業しているカナダの採掘企業向けの「企業の説明責任」を明確にするための指針として、社会環境維持に関する国際金融公社(IFC)政策、社会環境維持達成基準、環境衛生安全一般指針、安全保障及び人権に関する自主的原則、企業が国際人権基準に従った操業を確約する人権条項及び国際人権基準に従った基準を盛り込むことを要求している。指針は、外務国際貿易大臣(以下、大臣という。)が作成し、法律が発効してから12か月以内に公表するとされている。
 なお、「企業の説明責任」は、内部告発形式による苦情処理制度の下で行われ、苦情は、大臣に提出される。提出された苦情が受理され、苦情の内容が誠実で訴権を濫用したものでないと認められた場合、大臣が、当該企業の取り調べを行い、8か月以内に結果報告書が作成される。大臣による調査の結果、違反が認められた企業には、カナダ年金制度(CPP)からの投資やカナダ輸出金融公社(EDC)からの借入金など、カナダ政府からの援助は受けられなくなる。
 
2. 法案を巡る賛成派及び反対派の論調概要
 2-1 賛成派
 C-300法案は、NPO団体、宗教団体、学者、政治家などから幅広く支援を受けている。NGOには、NGOの統括団体でありC-300法案を支援しているCanadian Network on Corporate Accountability(企業の説明責任カナダネットワーク)の一員であり、著名な人権擁護団体として名高いAmnesty International (国際人権救援機構)2 や鉱業政策団体であるMining Watch Canadaも賛成派として含まれており、法案の成立に向けてキャンペーンを実施している。
 賛成論者の法案に対する論理的根拠の基本にあるのは、現在の法律及び政策メカニズム(国内外を含む)では、カナダの採掘企業が世界中で操業している事業の過去や現在における環境面や社会的な違反行為に対する活動に十分対応できないと考えており、その多くは非難に値すると考えるものである。
 また、基本的に賛成論者は、カナダの採掘企業がCSRに関して世界のリーダーではないことを憂慮しており、C-300法案の成立によって、カナダの国際舞台での地位を高めて行けると考えている。これらのことを踏まえ、C-300法案が成立した場合のカナダの利益について、以下の点を挙げている。

[1] カナダの採掘企業の説明責任や競争力が向上し、評判も上がる。
[2] 発展途上国で選挙権をはく奪された人々に対し、発言権を与えることができ、CSRのリーダーとして仲裁メカニズムを途上国へ提供できる。
[3] その結果、究極的な目標として、カナダの採掘企業の社会的環境的違反行為を削減しながら、企業の社会的環境的活動を向上させることになる。

1カナダ枢密院は、閣僚経験者や著名なカナダ人で構成され、国にとって重要な問題(国家と憲法上の問題含む)について女王への助言を行う。
2Amnesty International…国際連合との協議資格を持つ国際的影響力の大きいNGO組織。

 2-2 反対派
 C-300法案は、採掘企業を会員とする業界団体、PDAC(Prospectors and Developers Association of Canada:カナダ探鉱開発者協会)及びMAC(Mining Association of Canada:カナダ鉱業協会)が先頭に立って非難している。2010年3月に行われたPDAC 2010においても参加者へのビラ配布や反対署名運動を行うなど激しく抵抗している。
 また、法律専門家、主要新聞社数社も反対派として社説や記事の中で批判しているものも含まれる。
 更に、政府機関の一つであるExport Development Canada(カナダ輸出入金融公社)も、外務国際開発常任委員会に対する所見の中で批判している。
 反対派の批判の本意は、鉱業界における企業の社会的責任を向上させるという法案の基本的な趣旨に異議を唱えているのではないとしている。
 その上で、鉱業界の代表企業による反対意見として外務国際開発常任委員会に提出された反対意見概要を以下のとおり紹介する。

[1] 法案は指針が曖昧で不明確であり、治外法権であり、厳しい制裁を科すことで発展途上国におけるカナダ採掘企業の国際競争力を弱める。
[2] カナダ企業(CSR実績のある企業でさえも)の評判を不当に落とす要因となる。
[3] 外資採掘企業のカナダ国外への流出が起こり結果的にカナダ経済に大きな損失を与えかねない。
等としている。

  
 また、C-300法案の法的正当性についてもPDACの代理人弁護士事務所による法的な詳細分析調査で、法案が成立した際の不備として以下の3点を指摘している。

[1] 他の主権国家の管轄区域において、その国家の領土内で行われている全採掘活動を規制することで、治外法権を制限する国際法に違反する行為である。
[2] 法案は、民間部門を拘束するという国際法の下では認められない基準を規定しており、カナダ企業の発展途上国への投資を躊躇させる可能性がある。
[3] 調査対象となる企業に対し手続き上の公正を十分に保証する必要があるものの、適切な手続き上の保護に必要な資金を充当することができない。

  
 以上3点の不備が、信頼できるカナダ企業の発展途上国への投資を躊躇させ、結果的に、持続可能な開発と国際的人権保護を奨励するという法案の趣旨に反することとなるとしている。
 
3. 今後の行方
 C-300法案は、現在の形式のまま成立した場合、カナダの鉱業界にとっては非常に影響が大きいと予想されている。各企業は、企業が政府の指針に違反していることが判明した場合、操業自体に大きな変更を余儀なくされるなど、その影響は計り知れないと考えている。意図されたものかそうでないのか、C-300法案は、既に鉱業界に影響を及ぼしており、C-300法案が公表されて以来、CSR及び鉱業界に関する公開討論は各地で盛んに行われ、賛成派と反対派は、その場で激論を交わしている。
 C-300法案が成立するかどうかは、現段階では明らかになっていないものの、カナダの場合、議員立法の多くは、通常、与党の支援がない場合は、法律として成立する可能性はほとんどないことから、C-300法案も野党議員の提出法案であることを鑑みれば、法案の成立は難しいと考えられている。
 しかしながら、法案提出者も予想以上に審議が進行したことを認めていることからも、今後の法案の成否に係わらず、CSRに関する政府や鉱業界の位置づけとしては、最重要課題の一つであることに疑問の余地はないようだ。

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