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報告書&レポート

2011年1月27日 金属企画調査部 田原由美子 廣川満哉
2011年04号

米国エネルギー省のクリティカル物質戦略について

 2010年12月15日、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)は従前から作成していたクリティカル物質戦略(Critical Materials Strategy)に関するレポートを公表した。同日、ワシントンのCSIS(米戦略国際問題研究所)で開催されたレアアースに関するセミナーで、基調講演を行ったエネルギー省の政策・国際問題担当サンダロー次官補(Assistant Secretary for Policy and International Affairs)から本レポートの概要説明があり、エネルギー省はクリティカル物質(Critical Material)としてのレアアースについて[1]供給源(サプライチェーン)の多角化、[2]代替物質の開発、[3]リユース・リサイクルを他の米政府機関や諸外国のパートナーとともに推進し、リスクコントロールを進めるという説明とともに、レアアースの個別の鉱種(元素)の短期・中期の需給見通しについて報告があった。さらに2011年末までに、最新の情報に基づきクリティカル物質戦略のアップデートを行う予定である。
 今回公表されたレポートは、今後の我が国のクリティカル物質戦略や需給見通しの参考資料となることから、そのレポートの中から特に第4章の米国エネルギー省の政策プログラム、第6章の各国の物質戦略、第7章の需要予測を紹介する。

1. レポートの概要

(1)調査分析結果

 本レポートは、過去に実施してきたエネルギー省の調査結果に基づき、レアアースとその他の物質の役割を分析している。主な結論は以下のとおりである。

・  風力発電、電気自動車、太陽電池、高効率蛍光灯などいくつかのクリーンエネルギーには、短期的に供給リスクのある資源が用いられている。こうしたリスクは、中長期的には低減させることが可能である。

・  現在、クリティカル物質の世界消費の約20%が、クリーンエネルギーのために使用されている。今後、こうした技術が普及していくことにより、クリティカル物質の消費のシェアも増加していく。

・  クリティカル物質の中でも、レアアース5元素(ジスプロシウム、ネオジム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウム)、及びインジウムが短期的にも非常にクリティカルな物質であると評価される。ここでいう「クリティカル度」とは、クリーンエネルギー経済にとっての重要性と供給リスクの両方を勘案して評価されている。

・  レアアースは、実際はレアではなく、米国、カナダ、オーストラリアを含む多くの国に存在する。しかし、現在、レアアースの生産の95%以上は中国で行われている。新しい鉱山を稼働させるには、長いリードタイムと大規模な資金が必要となる。

・  クリティカル物質は、クリーンエネルギー技術のコスト全体のうちわずかな部分しか占めていないことが多い。このため、これらの物質の価格上昇は、最終製品の価格やクリーンエネルギー技術への需要に重大な影響を与えない。

・  力強い政策と戦略的な投資によって、特に中長期的な観点から、供給リスクを低減させることが可能である。

(2)今後のエネルギー省の政策

・  クリティカル物質に関する集中的な研究開発を促進する。

・  クリティカル物質に関する情報収集能力を強化する。

・  供給における脆弱性を低減し、戦略資源の必要性に対応するため、日本・欧州を含む国際的なパートナーとの関係を強化する。

(3)今後のエネルギー省の戦略

・  グローバルなサプライチェーンの多様化及び複数の資源供給源が供給リスクに対応するために必要であり、全世界からの供給を促進すると同時に、米国国内での採掘・加工・製造技術を向上させるべきである。採掘と加工は、環境に配慮した形で行われる必要がある。

・  代替物質・代替技術開発を推進すべきである。

・  リサイクルや再利用、利用量の低減技術によって、世界需要を低減させることが可能であること。

 以上の戦略は、[1]研究開発、[2]情報収集、[3]国内生産の許可、[4]国内の生産、加工に対する財政支援、[5]備蓄、[6]リサイクル、[7]教育、[8]外交、の8つの分野におけるプログラムを想定している。

(4)レポートの構成

本レポートは、以下の第1章から第9章により構成される。

1章 はじめに
2章 クリティカル物質を多量に使用し、今後消費の増加が見込まれる4分野([1]永久磁石(風力発電・電気自動車に使用)、[2]先進電池(電気自動車に使用)、[3]太陽電池薄膜(太陽電池に使用)、[4]蛍光物質(高効率照明に使用)でのサプライチェーンの検証
3章 レアアース9鉱種(元素)を含む14鉱種のクリティカル物質の供給・需要・価格に関する時系列データ
4~6章 DOEや他の連邦省庁、各国が現時点で実施している関連プログラムの概要
7章 需給予測
8章 クリーンエネルギー経済にとっての重要性と供給リスクの両方を勘案して算出した「クリティカル度」の評価
9章 リスク削減のためのプログラム及び政策の方向性

2. エネルギー省の現行プログラム<第4章>

 データ・情報プログラム、研究開発プログラム、金融政策プログラムには、クリティカル物質の採掘等に直接関するものはないものの、レアアース及び他のキーとなる物質に関するものが存在する。現行のプログラムでは、部品及びサプライチェーン内の最終用途技術に注目し、クリーンエネルギー部門における経済分野・イノベーション分野へ取り組んでいる。

(1)データ・情報プログラム

 経済政策と研究開発の優先順位付けのための情報は、Energy Information Administration(EIA:DOE内の独立機関であるエネルギー情報局)で収集している。

・  レアアース供給、クリーンエネルギー技術分野でのレアアースの消費、レアアース使用による技術コストとパフォーマンスへの影響について調査を実施中であるが、クリティカル物質を使用した技術開発についてモニタリングを行う現行の調査に関しては、今後改善を行う予定である。

(2)研究開発プログラム

 エネルギー省は、図1の通り、基礎調査から大規模な技術開発及び、低リスクから高リスクのプログラムまで支援している。プログラムは、エネルギー全分野のイノベーションに関連するものから特定の物質に関するものに及んでいる。

 2010年度は、レアアース及び磁石の代替物質についてOffice of Science、Office of Energy Efficiency and Renewable Energy (EERE)、ARPA-Eが合計約1,500万US$の支援を行う。

図1. エネルギー分野のイノベーションに係わる組織やプログラム等
図1. エネルギー分野のイノベーションに係わる組織やプログラム等
(出典:US DOE「Critical Material Strategy」 2010年)

1)Office of Science(科学局)

 基礎科学研究を中心とする機関であり、関連機関と支援内容は以下の通りである。

・  The Materials Sciences and Engineering (MSE) Division(物質科学・工学課):広範囲に渡る基礎材料調査を支援している。2010年度は、年間500万US$レベルの資金支援を行う。

・  Ames Laboratory(エイムズ研究所):物質合成及び加工、現象論的挙動調査と特性評価など研究の大部分を支援している。磁場をかけることにより温度、形状または電気抵抗が変化可能なレアアースについての研究に重点を置いている。

・  Materials Preparation Center(MPC)(材料調整センター):高純度金属、金属化合物、難溶性物質、非有機化合物、特殊合金の研究開発のために1981年設立。エイムズ研究所のプログラムにおいて主要な役割を担っている。

2)ARPA-E:Advanced Research Projects Agency – Energy(先進研究計画局:エネルギー)

 フィージビリティ調査、技術開発、実践を通した応用研究を中心とする。

・  レアアース磁石の代替物質開発を目標とする2つの初期プロジェクトを支援している(支援額合計660万US$)。

○  現状流通している最強のネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石の2倍に及ぶ磁性エネルギー密度を持つ次世代永久磁石の開発(440万US$)

○  クリティカル・レアアースの含有率が低い次世代永久磁石の開発(220万US$)

・  Batteries for Electric Energy Storage in Transportation (BEEST)(輸送のための電力貯蔵バッテリー)プログラムへの融資:新バッテリー及び貯蔵性質、構造、技術についての初の実証試験(3,500万US$)

3)Office of Energy Efficiency and Renewable Energy (EERE)(エネルギー効率・再生可能エネルギー局)

 基礎科学研究を中心とする機関であり、関連機関と支援内容は以下の通りである。

 バッテリー、太陽電池、照明の研究開発への財政支援を中心とする。

・  エイムズ研究所における、内部永久磁石ローターの牽引として使用する、高パフォーマンスで高い費用対効率の永久磁石に注目した応用磁石調査プロジェクトを支援(200万US$)している。また、初の異方性磁石の開発に取り組んでいる。

・  車両技術プログラム(Vehicle Technologies Program)(合計140万US$)

・  Oak Ridge National Laboratory:レアアース永久磁石を使用しないモーターの設計

・  永久磁石モーターに匹敵する磁束結合(flux coupling)モーターの開発

・  その他の車両技術プログラム:リチウムイオン車両バッテリーのリサイクル施設建設(950万US$)

・  高磁束密度磁石の開発による磁石サイズの縮小プログラムの支援(39万8,000 US$余り)

(3)金融政策プログラム

 DOEは、クリーンエネルギー普及のための財政支援プログラムを実施しており、クリティカル物質を使用する部品(永久磁石など)の国内生産を支援しているものもある。

1)債務保証プログラム(LPG)

 2005年エネルギー政策法第17章の下でプログラムを設置し、クリーンエネルギー部品生産及び最終用途技術を支援している。

・  例:CIGS太陽光電池セル生産:Solyndra (5億3,500万US$)、風力発電におけるレアアース永久磁石の使用:Kahuku Wind Power (1億1,700万US$)、フライホイール・エネルギー貯蔵プラント:Beacon(4,300万US$)

2)先進技術車両生産(ATVM)のためのインセンティブ・プログラム

 自動車生産または自動車部品生産会社が、米国内で先進技術車両または部品生産を行うため、また、関連のエンジニアリング統合に係わるコストのため、製造設備を変更、拡大、新設する際の融資プログラムを実施している。これらは、ニッケル水素またはリチウムイオン電池とネオジウム鉄ボロン(NdFeB)永久磁石モーターの需要に影響を与える可能性がある。

・  例(金額):Ford Motor Company(59億US$)、Nissan North America(16億US$)、Tesla Motors(4億6,500万US$) Fisker Automotive(5億2,900万US$)

3)税額控除

 クリーンエネルギーのための国内製造設備を新設、拡大、変更する際の投資は、税額控除される。税額控除が適用される関連分野として、太陽電池薄膜、LED照明、風力発電部品、電気自動車が挙げられる。

3.米国以外の各国の物質戦略について<第6章>

資源政策は国により異なるが、各国の政策目標、研究方針、関心のある物質等を以下に一覧表で示す(各国の内容は本レポートに従う)。

各国の政策目標、事業方針、研究開発方針、関心のある物質

国名 目標 事業方針 研究開発方針 関心のある物質 その他(表6に本文より追加)
日本

国内産業のため、原料の安定供給を確保する

– 国際的鉱物探査への資金面での支援
– 高リスクの鉱物プロジェクトへの債務保証
– 備蓄
– 情報収集

– METIとMEXTの資金提供による代替物質調査
– JOGMECの資金提供による探査、採掘、製錬、安全性調査

Ni, Mn, Co, W, Mo, V

– 政策:METI、実施:JOGMEC, JBIC
– JOGMECの活動内容
– 事例:ベトナム(豊田通商)、カザフスタン(住友商事)
– 調査プロジェクトへの資金面での支援:METI, MEXI, NEDO

EU

物質の潜在的な供給不足による欧州経済への影響を制限する

– 国際的な公開市場についての鉱物貿易方針
– 情報収集
– 土地許可の合理化
– リサイクル規制の推進

– 応用による物質効率の向上
– 代替物質の特定
– 製品回収とリサイクル・プロセスの向上

Sb, Be, Co, Ga, Ge, In, Mg, Nb, REEs, Ta, W, 蛍石、グラファイト、(PGMs)*1

– 供給不足の影響を制限するため、欧州委員会はRaw Materials Initiativeを立ち上げ。同イニシアチブの3本柱は以下の通り。
・国際市場での原材料へのアクセスを維持:WTO貿易方針などの強化
・原料の持続可能な国内供給促進のためのEUの枠組み構築
・原料使用の削減のため、資源効率とリサイクルの増加
– 最近、クリティカル物質の評価調査を公表。41物質のうち14物質を特定。
– 欧州委員会は、深海鉱業、代替物質、critical物質のリサイクルと回収に関して、少なくとも3,450万US$の資金提供を求める予定

オランダ

世界的不足を防ぐための“管理緊縮”による物質消費削減

– M2i Instituteを通じた物質政策に関連する政府産業連携

– 豊富な物資または再生可能物質の代替
– 枯渇物質のリサイクル・プロセス
– 方針の結果としての消費パターンの調査

Ag, As, Au, Be, Bi, Cd, Co, Ga, Ge, Hg, In, Li, Mo, Nb, Nd, Ni, Pb, Pd, PGMs, REEs, Re, Ru, Sb, Sc, Se, Sn, Sr, Ta, Te, Ti, V, W, Y, Zn, Zr

– 原料枯渇への懸念から、産官学の連携による独自のレアメタル戦略を作成中
– The Netherland Organization for Scientific Research (NOW)は、代替物質開発、金属リサイクル・プロセス、消費パターンに関する政策影響の社会科学調査なども含めた調査テーマを立ち上げ、今後4年間で1,000万US$を調査の初期予算として割り当てている。

中国

産業強化、過剰生産緩和、違法貿易の削減を通した国内利用のための原料の安定供給維持

– レアアース輸出への関税と割当
– 海外企業のレアアース採掘禁止
– 産業強化
– 価格枠組みの統一化
– 生産割当
– 2011年中頃まで新規鉱業権の一時停止

– レアアース分離技術と新レアアース機能素材の模索
– レアアース冶金;レアアースの光学、電気、磁性特性、レアアースの基礎理化学

Sb, Sn, W, Fe, Hg, Al, Zn, V, Mo, REEs

– レアアース業界への管理を強化している一方、違法採掘、密輸など数多くの課題が残っている。
– 環境及び鉱業規制は地域によって異なり、レアアース鉱山に関連し重大な環境悪化につながっている
– 中国政府は、国内資源保護のため、相当量の備蓄を計画中。2010年10月、Bautou Steel社が今後5年間で300,000tのレアアース獲得計画を報告。
– 1950年代よりレアアースの研究開発を支援し、現在2つの主要な国家調査プログラムと4つの州研究所を支援

韓国

韓国主力産業にクリティカル物質の安定供給確保

– 海外鉱山での韓国企業への資金面での支援
– 資源豊富な国々との自由貿易協定またはMOU
– 備蓄

– 最終製品のリサイクルリサイクル性のデザイン
– 代替物質
– 生産効率性

As, Ti, Co, In, Mo, Mn, Ta, Ga, V, W, Li, REEs

– 「レアメタルの安定調達計画」という政策計画では、レアメタルの国内鉱山開発と1,200tのレアアース確保のため、2016年までに1,500万US$を費やす予定
– 韓国では、11種の「戦略的にクリティカルな鉱種」を含め、56元素を関心がある鉱種として特定
– 4つのアプローチを通じて、輸入原料への高依存を減らそうとしている
– KORESは、2010年、海外鉱山の開発に2億8,520万US$を費やす予定
– 研究開発に関しては、最終製品からのレアメタル回収が特に重要とされている。

豪州

国有資源の枯渇に対して公平に課税する一方、鉱業業界への投資維持

– 採掘資源の価値への課税低減
– 鉱業利益への課税増加
– 鉱物探査への税金還付
– 土地許可申請の迅速化

– 鉱業分野での持続可能な開発の促進

Ta, No*2, V, Li, REEs

– 国家経済の7%が鉱業による。資源・エネルギー・観光省が鉱業政策担当。
– 鉱業政策において主要な問題は、税制、許可、情報収集、鉱物埋蔵量の備蓄
– 鉱業部門への課税に対し還付金を設定
– 豪州は、最も許可期間が短い国として評価されている。

カナダ

持続可能な開発と持続可能な鉱物金属資源の利用促進、環境と健康の保護、魅力的な投資環境の確保

– リサイクル業界の促進と、リサイクルの製品デザインの組み込み
– 環境パフォーマンスと鉱物スチュワードシップ(責任)についての責任要求
– 鉱物管理・利用に関し、ライフサイクルを基にしたアプローチを使用

– 包括的地球科学情報のインフラを提供
– 鉱業プロセスにおける技術革新の促進
– 付加価値鉱物・金属製品の開発

Al, Ag, Au, Fe, Ni, Cu, Pb, Mo

– 世界で最大の鉱物・金属の輸出国であり、GDPの4%を鉱業が占める。カナダ天然資源省が鉱業政策担当。
– 世界的に競争力のある鉱業業界を保つために、金融政策と税制を組み合わせた政策、規制と投資効率、輸出促進を使用

(注)*1:欧州委員会のレポートによる
  *2:No →Nbと推定される

4. 需給予測<第7章>

 クリーンエネルギー技術の普及によって、レアアース及び他のキーとなる物質の世界的需給バランスの不均衡が起こる可能性について調査を実施している。

4.1 需給予測の概要

 以下、[1]と[2]ではそれぞれ需要、供給の予測方法について仮定を行い、その仮定を元に[3]から[6]において4つの技術分野で使用される各物質に関する短・中期の需給動向を予測した。更に[7]で市場へ影響を与える要因について分析を行い、[8]で結論を示した。

[1]キーとなる物質の将来的な需要予測方法
(a) クリーンエネルギー技術以外の分野(携帯通信機器、研磨剤、薄型テレビなど)でキーとなる物質の需要を予測した。2010年レベルを基準として需要の複合年間成長率を、2010年~2015年は3.3%、2015年~2025年は3%に設定(IEA「World Energy Outlook2009」参照)。
(b) クリーンエネルギー技術4分野(永久磁石、先進電池、太陽電池薄膜、蛍光物質)でキーとなる物質の需要を予測した。予測には、次の3要因を考慮:クリーンエネルギー技術の普及レベル、市場占有率、物質集約度。
(c) 2010年~2025年の需要予測に関して、将来的な需給不均衡のリスクを評価するために、クリーンエネルギー技術の普及率と市場占有率を組み合わせた市場浸透率について、高い/低い場合を想定し、物質集約度と組み合わせて4つのシナリオ(A-D)を想定(表1参照)。

表1. 需要についてのシナリオ
表1. 需要についてのシナリオ

[2]短中期のキーとなる物質の供給予測方法
レアアース及び他のキーとなる物質の短中期的な供給量を予測(2015年以前に操業開始する新規鉱山からの潜在的生産量、その他のキーとなる物質のリサイクルによる追加供給量を予測)。
[3]磁石技術におけるレアアースの需給動向
風力、電気自動車に使用する磁石技術:ネオジムとジスプロシウムの需給動向を予測
[4]電池技術におけるレアアース等の需給動向
電気自動車に使用する電池技術:コバルト、リチウム、ランタン、セリウムの需給動向を予測
[5]太陽電池薄膜発電システムにおけるレアメタルの需給動向
太陽電池薄膜発電システム:テルル、インジウム、ガリウムの需給動向を予測
[6]高効率照明システムのための蛍光物質におけるレアアースの需給動向
高効率照明システム:ユウロピウム、テルビウム、イットリウムの需給動向を予測
[7]レアアース及び他のキーとなる物質の価格と利用可能性に影響を与える市場力学
レアアース及び他のキー物質の市場力学は複雑であり、価格は不透明。予測は難しいが、将来的には供給不足や大きな価格変動が見られる可能性がある。ただ、その複雑性により、本調査ではキー物質の価格予想は行っていない。
[8]結論
クリーンエネルギー技術4分野での商業化、普及推進対策によって、需給不均衡に直面するリスクが増し、さらに需給不均衡によって価格不安定とサプライチェーンの混乱につながる可能性もある。リスクの性質とクリティカル度のレベルは、各レアアースとキーとなる物質によって異なる。
エネルギー省がリスクを低減・緩和する方法は数多く存在し、以下の章で、そのような方法については議論し、評価する。

4.2.各技術分野における需給予測詳細

 上記1. [3]~[6]の需給予測をまとめたものが表2である。以下に各技術分野の仮定条件と需給予測について詳細を記載する。

表2. 需給予測のまとめ
表2. 需給予測のまとめ

[1]磁石技術(風力、電気自動車)

2010年時点では、ネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石がハイブリッド自動車(HEVs)市場の高効率駆動モーター市場を独占しているが、予測では、同傾向が継続し、NdFeB磁石は全プラグイン・ハイブリッド電気自動車(PHEVs)と電気自動車にも使用されると仮定しているほか、レアアース永久磁石を使用した風力発電の市場シェアは、現在は小さいものの、今後大幅な拡大を見せるものと仮定している。

需給予測:ネオジム、ジスプロシウム

ネオジムは短期的にはシナリオD以外で十分な基本的供給量がある一方、中期的には、特に高市場浸透率シナリオ(C, D)で供給不足が顕著である。また、ジスプロシウムの場合は、供給予測は2015年までに12%増加のみで、新規の鉱山開発による追加供給量は相対的に少ない。短期・中期的にジスプロシウムは供給不足となる見込みで、全4シナリオにおいて、中期初めには世界需要は2015年世界推定供給を上回っている。
これは、クリーンエネルギー需要が拡大するためである。シナリオCでは、2025年のネオジム需要のうち40%が、風力発電と電気自動車によるものと予想されているほか、ジスプロシウムの世界需要のうち、クリーンエネルギーによるものは、2010年の16%から2025年には62%と急激に増加するとの見込みである。また、クリーンエネルギー需要の中でも、電気自動車用需要の割合は大きく、シナリオCでは2025年の電気自動車用ネオジム需要は、風力発電用需要の約5倍となっているほか、同様に電気自動車用ジスプロシウムの需要も風力発電用需要の4倍となるとの予想されている。
したがって、磁石と電池でのネオジムの使用量削減または代替物質の開発についての研究開発が必要とされているほか、風力発電のNdFeB永久磁石に対して競争力のある代替物となる可能性があり、ネオジムとジスプロシウムの需要削減にも貢献する可能性があるセラミック高温超伝導の開発も必要とされている。

[2]電池技術(電気自動車)

電気技術においては、全ハイブリッド自動車でニッケル水素電池を使用し、プラグイン・ハイブリッド車と電気自動車にはリチウムイオン電池を使用すると仮定している。

需給予測:コバルト、リチウム、ランタン、セリウム

短・中期的にコバルトの基本的供給は十分であり、2015年の推定供給量は、DRCコンゴの鉱山からの供給がなくとも需要を十分満たすものとなっている。一方、リチウム、ランタン、セリウムの供給量は短期的に十分であるが、中期的には不足する見込みである。これは2015年以降クリーンエネルギー需要が拡大するためである。ただ、コバルトに関しては、同様にクリーンエネルギー需要は拡大するものの、2015年の推定供給量において追加供給が多いため、供給不足となることはないと予測される。
また、電池技術に関して、[1]の磁石技術と同様にクリーンエネルギー需要の中でも電気自動車の急速な普及による需要拡大の影響が大きいと予測されている。シナリオCにおいては、2025年に1,300万台のプラグイン・ハイブリッド車と460万台の電気自動車が販売されると予測しており、リチウムのクリーンエネルギー需要が、電気自動車の普及により、2010年のほぼ0%から2025年には49%と劇的に増加するほか、電気自動車用電池のランタンの需要は、2010年の2%から2025年の19%に増加するとのことである。また、ニッケル水素電池用セリウムの需要は、2025年時点で、照明に使用する蛍光物質用需要の10倍になると予想される。
しかしながら、全4物質に関して2025年時点の各々の需要内訳を見ると、クリーンエネルギー以外の需要が50%以上を占めており、特にコバルトは90%以上、ランタン、セリウムは80%以上と大部分を占めている。また、酸化セリウムは、一般的にレアアース鉱体の中で高含有率で賦存するため、需給不均衡は起こらないと見込まれている。

[3]太陽電池薄膜発電システム

太陽電池(PV)薄膜発電システムにおいては、テルル化カドミウム(CdTe)及びCIGS(Copper Indium Gallium Selenide)を考慮に入れている。

需給予測:テルル、インジウム、ガリウム

テルルとガリウムに関しては、短期的には十分な供給量がある一方、中期的には供給不足になることが予想される。テルルについては、短期的には、銅アノードスライムからの回収増加により供給量が劇的に増加するため供給量は十分以上になる見込みであり、中期的にもシナリオD以外は2020年頃までは十分な供給量があるがそれ以降不足となる。ガリウムについても同様にシナリオD以外、2020年頃までは十分な供給量があるがそれ以降不足となる。インジウムについては、既に2015年時点において若干不足すると見られている。
クリーンエネルギー分野の需要は拡大することが予想されるものの、2025年時点でのクリーンエネルギー分野以外の需要は、テルル、インジウム、ガリウム共に50%以上となっており、特にインジウムとガリウムでは80%以上になると見込まれている。特に2015年以降、インジウムの不足と価格急騰を避けるためには、クリーンエネルギー以外の分野での需要削減が重要となる。

[4]高効率照明システムのための蛍光物質

蛍光物質には複数のレアアース元素(ユウロピウム、テルビウム、ガドリニウム、セリウム、ランタン、イットリウムを含む)が用いられ、特に高効率蛍光灯照明用の需要は、レアアース蛍光物質の世界的需要の85%を占めている。しかし、各レアアース元素に関して、全体量に占める蛍光物質の使用量は少ないものの、高効率の直管型蛍光灯(LFLs)と電球型蛍光灯(CFLs)の使用増加に伴い、蛍光物質の需要は増加すると予想されている。LED及び有機EL(OLED)を代替として用いることで2020年から2025年にユウロピウムとテルビウムの需要を減少させることが可能だと見られているが、その利用は限定されると想定している。

需給予測:ユウロピウム、テルビウム、イットリウム

短・中期的に(シナリオDを除いて)ユウロピウムの基本的供給量は十分にあるが、テルビウムの供給量に関しては短期的には十分、中期的には不足しており、イットリウムには更に短期・中期的とも供給不足になると予測されている。イットリウムに関しては、既に2010年の世界需要は現在の生産量を上回っており、2015年までには生産量が11%増加すると見られているものの、これは拡大する需要を満たすレベルではないと予測される。更に高温超電導体が永久磁石の市場を奪うようなことがあれば、イットリウムの需要はさらに急激に拡大するものと見られている。
供給量の増加に関して、ユウロピウムの場合、2011年操業開始予定の豪州Mt.Weld鉱山での生産によって世界の供給量は15%拡大する一方、テルビウムの場合、Mt.Weldと2012年操業開始予定の米国Mountain Passの両鉱山からの生産量は限られており、2015年までの供給量増加は主に豪州Nolans Bore鉱山の生産で支えられる。
需要の内訳を見ると、ユウロピウムの場合、クリーンエネルギーの蛍光物質による需要が大半を占め、短期・中期的とも世界需要の約2/3を占めているほか、イットリウムの場合でもクリーンエネルギー需要は約半分を占めている。更にテルビウムに関してはクリーンエネルギー需要が100%となっている。

5. まとめ

 ハイテク製品などの製造に不可欠な「レアアース」の輸出を世界最大の生産国である中国が制限するなかで、米国エネルギー省は、中国への依存から脱却し調達先を多様化する必要があるとして本レポートをまとめた。
 オバマ大統領が推進するクリーンエネルギー政策の中で、風力発電、電気自動車、太陽電池、高効率蛍光灯などには、短期的に供給リスクのあるクリティカル物質が用いられている。中長期的にこうしたリスクを低減させることは重要な課題である。
 4つのクリーンエネルギー技術(磁石技術、電池技術、太陽電池薄膜システム、高効率照明のための蛍光物質)に関して、ネオジム、ジスプロシウム、コバルト、リチウム、ランタン、セリウム、テルル、インジウム、ガリウム、ユウロピウム、テルビウム、イットリウムの12鉱種の世界的需給予測が行われているが、全体的には短期的(2010年~2015年)よりも中期的(2015年~2025年)に供給不足が拡大すると予測されている。短期においては、インジウムが若干不足するほか、ジスプロシウムとイットリウムに関しても供給不足になると予測されている一方、中期的にはコバルト(電池技術に使用)とユウロピウム(高効率照明用の蛍光物質に使用、シナリオD以外の場合)以外、対象となったすべての物質で供給不足が発生する見込みとなっている。これらクリーンエネルギー分野の需要拡大などによる供給不足を解決するためには、追加供給が必要となるほか、代替物質の開発などが必要とされる。
 今後、米国エネルギー省は、クリティカル物質の米国国内生産を強化するとともに日本や欧州と連携して代替物質の開発やリサイクルを進めるべきと指摘しており、この点でも今後の動向が注目される。

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