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報告書&レポート

2011年6月2日 ロンドン事務所 萩原崇弘
2011年22号

国際非鉄研究会参加報告(3)2011年春季国際銅研究会(ICSG)参加報告

 2011年4月14~15日、ポルトガル・リスボンにて、第19回一般総会を始め国際銅研究会(ICSG)の一連の会議が開催され、メンバーである22の国と地域の代表、業界団体、コンサルタント等70名ほどが参加した。日本からは、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課 和久津係長、三菱マテリアル㈱ 高梨ロンドン事務所長のほか、JOGMECロンドン事務所から3名が参加した。
 国際非鉄金属3研究会(ニッケル(INSG)、銅(ICSG)、鉛・亜鉛(ILZSG))は、メンバー各国からの拠出金で運営される政府機関であり、その最も重要な役割は、世界の需給及びそのバランスについて各国の代表から提出された数値を基に予想値を算出し、公表するなど、各金属需給の基本統計を作成することである。
 今回のICSGにおいても、2011年及び2012年の鉱山生産、製錬生産、消費、需給バランスの予想値などの需給見通しを始め、日本の震災の影響など不確実性の高まっている市場動向、最近の銅価格の上昇とETFとの関係などについて、各国代表、専門家を交えた議論が行われた。講演資料の一部は、以下のICSGのURLで公表されているので適宜参照していただきたい。
 http://www.icsg.org/index.php?option=com_content&task=view&id=86&Itemid=64

 次回のICSG会合は、例年どおりLMEウィーク直前の2011年9月26~28日にリスボンにて開催予定である。

写真1. 2011年春期国際銅研究会(ICSG)会合

写真1. 2011年春季国際銅研究会(ICSG)会合

1. 第37回統計委員会

 (1) 世界の2011/2012銅市場の需給見通し
 世界の銅市場の需給見通しについて、事務局から全体像の説明があった後、各国の生産予測の議論、修正等を経て、需給見通しの取りまとめを行った(表1~4参照)。
 2011年の銅の需給見通しについては、地金需要は対前年比4.1%増の2,010万t、鉱山生産は対前年比4.6%増の1,683万t、製錬での地金生産は対前年比3.5%増の1,972万t、需給バランスは37万7千tの供給不足と、前年よりも供給不足が拡大すると予想した。
 また、2012年については、銅の地金需要は対前年比4.3%増の2,097万t、鉱山生産は対前年比6.4%増の1,790万t、製錬での地金生産は対前年比4.9%増の2,069万t、需給バランスは引き続き27万9千tの供給不足と予想した。
 これらの背景として、需要面では世界の銅需要の約4割を占める中国等新興国の需要拡大が大きな要因である。しかし、中国の消費は実消費と在庫積増しを合わせた見掛け消費であり、その伸び率は2009年/2008年38%から2010年/2009年4.3%と大幅に鈍化している。銅価格の高値が続けば中国国内の在庫放出やスクラップ利用等の可能性もあることから、2011年/2010年6%前後と予想した。一方、供給面については、銅地金の高値水準を背景に、鉱石・地金等の生産拡大の動きが続くことが予想された。
 また、同委員会では、銅地金の需給に係る日本の大震災の影響について経済産業省 和久津係長から現状及び今後の見通しについて説明があった。具体的には、日本の大震災の影響を受け、供給面では、日本にある7つの銅製錬所のうち、東北・関東地方の3製錬所、生産能力ベースで日本全体の170万t/年のうち55万t/年に影響が出ているが、現在復旧作業を行っており、7月には2010年の生産量155万t並みの生産能力の確保は可能と考えていること、需要面では自動車等の生産減に伴う需要減と復興需要の高まりの両面の可能性があること、これらの事情から現段階では震災の影響を予想することは難しいとの説明がなされ、出席者から了承された。
 さらに、今回の需給予測の議論では、昨今の中東・北アフリカの政情不安、世界各国の貿易や為替に関する政策変更による不確実性に加え、中国が支配するアジア市場における予想不可能な銅の買い占めが不確実性を生み出すこと、これらの要因により銅の供給不足という予想が上下に振れる可能性について指摘があった。
 なお、上記議論に先立ち、産業界代表者から、2010年秋に統計委員会事務局が行った2010年銅地金生産の予測が実績値とほぼ合致したことに対して、不確定要素が多い状況下で本当に素晴らしい結果であるとの賛辞の声が寄せられていた。

表1. 銅鉱山生産(千t)
  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び%
2012年予想 2012/2011
伸び%
アフリカ 1,315 1,428 8.6% 1,655 15.9%
北米 1,915 2,173 13.5% 2,433 12.0%
中南米 7,031 7,383 5.0% 7,617 3.2%
ASEAN10 1,089 863 -20.8% 844 -2.2%
その他アジア 1,661 1,750 5.4% 1,904 8.8%
(内、中国) 1,191 1,280 7.5% 1,395 9.0%
CIS 491 506 3.1% 532 5.1%
EU27 758 790 4.2% 812 2.8%
その他欧州 826 843 2.1% 857 1.7%
オセアニア 1,011 1,097 8.5% 1,250 13.9%
世界計 15,950 16,097 16,833 4.6% 17,904 6.4%

表2. 銅地金生産(千t)
  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び%
2012年予想 2012/2011
伸び%
アフリカ 857 1,082 26.3% 1249 15.4%
北米 1,690 1,843 9.1% 1,953 6.0%
中南米 3,893 3,997 2.7% 4,077 2.0%
ASEAN10 534 567 6.2% 601 6.0%
その他アジア 7,591 7,930 4.5% 8,620 8.7%
(内、中国) 4,573 5,000 9.3% 5,535 10.7%
CIS 413 463 12.1% 515 11.2%
EU27 2,613 2,706 3.6% 2,778 2.7%
その他欧州 1,053 1,072 1.8% 1,087 1.4%
オセアニア 417 499 19.7% 509 2.0%
調整項(注)   -439   -704  
世界計 18,253 19,061 19,725 3.5% 20,686 4.9%
(注)調整項は、精鉱不足に伴う一次製錬生産の減少及び過去5年間の推移からの調整

表3. 銅地金消費(千t)
  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び%
2012年予想 2012/2011
伸び%
アフリカ 285 277 -2.8% 303 9.4%
北米 2,182 2,270 4.0% 2,355 3.7%
中南米 632 652 3.2% 675 3.5%
ASEAN10 743 775 4.3% 806 4.0%
その他アジア 11,054 11,601 4.9% 12,196 5.1%
(内、中国) 7,426 7,850 5.7% 8,300 5.7%
CIS 96 100 4.2% 104 4.0%
EU27 3,332 3,429 2.9% 3,491 1.8%
その他欧州 856 865 1.1% 900 4.0%
オセアニア 128 132 3.1% 135 2.3%
世界計 18,090 19,314 20,102 4.1% 20,965 4.3%

表4. 銅需給バランス(千t)
  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び%
2012年予想 2012/2011
伸び%
生産 18,253 19,061 19,725 3.5% 20,686 4.9%
消費 18,090 19,314 20,102 4.1% 20,965 4.3%
バランス 163 -253 -377   -279  

 (2) 各国の銅の需給動向などの紹介

(a) 豪州の銅産業/豪州DITR(産業観光資源省)Ben Jarvis氏
 銅価格はリーマンショック後、急速に回復しており、2011~2013年は1万US$/tを超える水準で推移すると予想されている。
 こうした中、豪州の銅資源は資源量124百万t、埋蔵量23百万tで、資源寿命は90年とされる。生産量(2009~2010年6月)は、銅鉱石・銅精鉱330百万t、含有銅83万t、銅地金39万tをそれぞれ生産した。探鉱費(2009~2010年6月)は202百万A$となっている。輸出(2009~2010年6月)は銅精鉱193万t、銅地金27万tで、主にアジア(中国、日本、韓国、インド等)に輸出されている。
 豪州での銅精鉱生産量(2009~2010年)を企業別にみると、Xstrata、BHP Billiton、Oz Minerals社、Newcrest Mining社、Aditya Birla社、Staits Resource社となっている。また、今後2011年以降に生産開始予定のプロジェクトとしては、Oz Minerals社のAntakaプロジェクト(2011年生産開始、2.5万t/年)、XstrataのErnest Henry(2013年生産開始、5万t/年)、Kanmantooプロジェクト(2011年生産開始、1.7万t/年)がある。現在460社が1,600超の探鉱プロジェクトを推進しており、最近でも多くの銅鉱床が各地で発見されている。
 政策面では、鉱山の土地利用における様々な問題、技術者不足、インフラ整備、海外からの投資のあり方などが課題であると考えている。

(b) 銅の埋蔵量と資源量/USGS(米国地質調査所) Dan Edelstein氏
 USGSとしての資源量の定義は、「地殻の中や表面に存在する固体、液体、ガス状の物質の濃縮であって、コモディティを経済的に採取が可能または潜在的に可能性のあるもの。」となっている。また、埋蔵量の定義は、「その時点で経済的に採取または生産できると判定され、確定した(概測及び精測)資源量。ただし採取設備が装備されているかどうかは問わない。」となっている。
 一方、埋蔵量と資源量についての国際標準化については、1994年にCMMI(Council of Mining and Metallurgical Institutes :国際鉱業冶金学会協会)の下、現在のCRIRSCO(Committee for Mineral Reserves International Reporting Standards:国際埋蔵量報告合同委員会)の前身となる委員会が設置されて作業が進められた。1997年に資源量と埋蔵量の定義が合意され、1999年に国際的なCRIRSCO規定が決定された。2007年には、CRIRSCOはICMMと連携している。
 資源量、埋蔵量の定義の先駆けとしては、1989年に創設された豪州のJORC (The Joint Ore Reserve Committee:鉱石埋蔵量合同委員会)規定がある。JORC規定では、「鉱物資源とは、地殻の中や表面に、経済的権益を内包する物質の濃縮または存在であって、そうした形態、品位、量として存在する結果、経済的な採取に妥当な見通しがあるものである。鉱物資源の位置、量、品位、地質的特性や連続性は、特定の地質学的な証拠や知識から知られているか、推定されているか、または解釈されている。鉱物資源量は、地質学的信頼性の小さい方から順に、予測(Inferred)、概測(Indicated)、精測(Measured)と分類されている。」とある。
 また、「鉱石埋蔵とは、精測及び/または概測鉱物資源のうち経済的に採掘可能な部分である。それには採掘の際に起こる希釈物質及び減少した分も含まれる。適切に実施された評価及び調査は、現実的に推測した採掘、冶金、経済、市場、法律、環境、社会、政府といった要素を考察すると共に改良することが求められる。これらの評価は、報告の際に採取事業が無理なく正当化されることを証明するものである。鉱石埋蔵量は、信頼性の小さい方から順に、推定(Probable)鉱石埋蔵量、確定(Proved)鉱石埋蔵量と分類されている。」とある。
 豪州で新たに紹介されているEDR(Economic Demonstrated Resources:経済的実証資源量)は、JORC規定の確定埋蔵量と推定埋蔵量に加え、精測資源量及び概測資源量を加えたものである。2010年の豪州の銅EDRは、80百万t(現在の年間生産量の約95倍)であるが、JORC規定の埋蔵量は23百万tである。
 一方、USGSの埋蔵量データベースは、各国政府や地質調査所、各企業の情報などから構築されたものである。1996年以前は、米国鉱業局が取りまとめていた。USGSの埋蔵量データベースで1990年と2010年の銅の各国別埋蔵量を見ると、資源の枯渇への対応(探鉱開発の活発化)や銅価格の上昇などにより、図1のとおり340百万tから630百万tに大幅に増加している。
 このように、埋蔵量は、地質学的なものだけではなく、探鉱開発費や銅市場の状況により決まるものである。そのため、埋蔵量は、個々のプロジェクトごとには鉱山寿命を計る上で意味があるものだが、地域別には大きく変化するものであり、経済的な資源量の評価を反映した中期的な推計指標としての意味が大きい。

図1. 世界の銅埋蔵量(1990年と2010年の比較)(出典:USGS)
図1. 世界の銅埋蔵量(1990年と2010年の比較)(出典:USGS)
図1. 世界の銅埋蔵量(1990年と2010年の比較)(出典:USGS)

(c) 中国の銅供給の持続的成長の確立:鉱山生産とリサイクルの傾向/
 安泰科(Antaike)社 Li Yudheng 氏
 21世紀以降、中国の非鉄産業の発展は目覚ましく、2001~2010年の間で、銅精鉱生産は58.7万tから115.6万tへ(年率7.8%増)、銅地金生産は152万tから457万tへ(年率13.0%増)、銅スクラップ産出は257万tから713万tへ(年間12.0%増)と増加している。一方、需要面では、2001~2010年の間、銅地金の消費は年率13.1%で伸びており、2010年には680万tになっている。このため、現在の中国政府及び産業界としては、供給不足をどのように補うかが大きな関心事である。
 中国国土資源部の発表によれば、2001年の時点では中国には961の銅鉱床、埋蔵量3,084万t、資源量3,833万tであったが、2009年末時点では1,607の銅鉱床、埋蔵量2,951万t、資源量は5,075万tとなっている。品位を見ると、銅品位1%以上の鉱床の埋蔵量は32.4%(2001年)から27.9%(2009年)と減少傾向にある。また、中国の銅鉱山は、小規模、低品位(平均0.87%)、硫化銅鉱床が多いなどの特徴があり、地域別では江西省徳興(Dexing)が他の地域と比べて埋蔵量の占める割合が大きいが、最近発見された鉱床は中国西部が中心である。
 銅精鉱の生産が近年伸びた理由は、高水準の銅価格により探鉱活動の活発化、既存鉱山の拡張、低品位の銅鉱山の生産が可能となったこと等である。
 近年、銅資源の安定供給のために、中国企業がペルー、アフガニスタン、ミャンマーなどの未開発鉱山への投資やザンビア等での鉱山の買収(例えば、CNMC(中国有色鉱業集団有限公司)のChambishi銅鉱山及びLuanshya銅鉱山(共にザンビア)の買収、China Minmetals社(中国五鉱集団有限公司)のSepon銅鉱山(ラオス)の買収等)が行われている。

表5.中国資本による銅鉱山投資(出典:Antaike, ICSG)
鉱山名 企業等 国名 生産開始 生産形態 生産能力(kt)
Chambishi CNMC ザンビア 2000 銅精鉱 50
Luashya CNMC ザンビア 2009 銅精鉱 60
Sepon Minmetals ラオス 電気銅(SX-EW) 65
Ayanak MCC/Jianxi Copper アフガニスタン 2009.6. 銅精鉱 220
Galeno Minmetals/Jianxi Copper ペルー 2010 銅精鉱 144
Toromocho CHINALCO ペルー 2010 銅精鉱 220
Monywa Wanbao Mining Ltd ミャンマー 2010 電気銅(SX-EW) 100
Corriente CRCC/Tongling エクアドル 銅精鉱 250

   中国の第12次5カ年計画(2011~2015年)において、政府は、雲南省Pulang銅鉱山、チベット自治区のXietongmenプロジェクト、新疆ウイグル自治区のTuwu銅鉱山等の新規開発、既存鉱山の拡張など、 中国各地における銅鉱山の開発をさらに進める予定である。
 しかし、安泰科社としては、中国国内の銅鉱山の開発・生産を推進したとしても、需要の増加には到底追い付かないことから、供給不足の状況はさらに拡大すると予想している。したがって、中国としては海外での鉱山開発にもっと力を入れる必要がある。
 最後に、是非指摘しておきたいことがある。こうした中国での銅需要は、決して中国国内における消費のみを意味するものではない。中国の銅需要は、銅半製品や銅を含んだ最終製品が中国で製造されているためであり、これらの製品は最終的には世界市場で消費されているのである。

表6.今後の中国の銅の需給予測(出典:安泰科社)
  2010年 2011年 2012年 2015年
銅精鉱(kt) 1,156 1,230 1,300 1,510
銅スクラップ(kt) 713 790 860 1,100
銅地金消費(kt) 6,800 7,340 7,850 9,100
バランス -4,931 -5,320 -5,690 -6,490
注)上記には、半銅製品用の銅の消費は含まれていない。

(d) 銅のプロジェクト・パイプライン/Intierra社 Glen Jones氏
 当社では、すべての鉱物資源を対象に、プロジェクト別、企業別等のデータベースを構築し、会員企業に提供している。
 当社データベースによれば、活動中のプロジェクトを鉱種別にみると、銅は金に次いで2番目、8千弱のプロジェクトが存在する。国別にみると、カナダ、豪州、米国で約75%を占める(図2参照)。

 

 

活動中の銅開発プロジェクト
Top 10 Countries
図2. 国別銅開発プロジェクト(出典:Intierra社)
図2. 国別銅開発プロジェクト(出典:Intierra社)

   一方、試掘中のプロジェクトの数を時系列でみると、昨年2010年1~12月期は460件、うち2010年Q1は161件だったのに対して、今年2011年Q1は213件と32%増加している。2010年の国別の試掘プロジェクトを見ると、豪州141件、カナダ118件、米国30件等となっている。また、試掘プロジェクトを段階別にみると、探鉱段階が215件(47%)と最も多く、追加的探鉱段階109件(24%)、Pre FS 59件(13%)となっているが、全くの初めての試掘(Grass Roots)は2件と1%にも満たないのが特徴である。2011年Q1の試掘の状況は、2011年と同様に国別では豪州、カナダ、米国の順、段階別では探鉱、追加探鉱、Pre FSの順であり、グラスルーツは2件(1%)となっている。ここで面白いのは、段階別のプロジェクト数をみると、銅と金は、グラスルーツが36%、探鉱段階(追加を含む)が48%、生産段階が8%と段階別割合が全く同じであるということである。
 また今後、2011~2015年に生産を開始するプロジェクトは66件で埋蔵量102.3百万t、国別ではペルー11件、同34.0百万t、チリ6件、同13.8百万tなどとなっている。2016年以降では55件、埋蔵量58.8百万tとなっている。

2. 環境経済委員会(第30回)

 現在、銅市場は、LMEの銅在庫は増加傾向が続いているにもかかわらず、銅地金価格は2月に1万US$/tの大台を一時突破するなど、高値水準が続くという異常事態が続いている。そのため、環境経済委員会では、最近の銅市場の動向及びETFの影響など新たな銅市場の動向要因について議論が行われた。

(1) 世界の銅市場動向 2011~2012年/
Credit Agricole投資銀行 Robin Bhar氏
 マクロ経済では、世界経済の回復は勢いを増しつつあるが、ネガティブな要素も出てきている。一方、米国及び欧州の景気後退の二番底はないが、米ドルは引き続き弱含みであろう。
 マクロ経済とコモディティ市場との関係で興味深いのは、各国の協調的な為替・財務政策により豊富な流動性がもたらされると同時に、金利低下、米ドル等基軸通貨の下落などから、投資家のリスク選好(注:より高リスクの投資を好むこと)が増大し、投資資金がコモディティ市場へ流入するという現象をもたらしていることである。
 銅市場を見ると、需要面では、中国を主な要因とする構造的な中長期的需要の高まりが続いている。供給面では、既存の銅鉱山は鉱石品位の低下等の問題、新規銅鉱山は深度の増大等の問題を抱え、新たな銅鉱山・製錬所の計画遅延も相俟って供給制約が生じている。また、資源国のナショナリズムの台頭も新たな鉱山開発に影を落としている。さらに鉱山開発には、短期的には地震、悪天候、労働組合や災害などの問題がある。
 こうした需給ひっ迫の要因は、2010年に30%上昇という銅相場の高値を支えてきたが、足下では状況の変化が見られている。具体的には、不安定な中東等の政情、LME在庫の急速な積み上がり(35万t(2010年12月初旬)から45万tへ)、LME Cancelled Warrants(買手付き在庫)の低迷(LME在庫比率:2010年初9%→3%)、2010年末の70 US$/t逆鞘から15 US$/t順鞘への転換、現物プレミアムの低下、日本の震災を受けた銅鉱石加工賃(TC/RC)の高騰(60 US$/t→120 US$/t)、スクラップ供給の増大などである。中国の実需要者は、既存在庫の消費と共にスクラップ輸入を増加させたと考えられ、その影響を受けて銅相場は2011年1~3月期に1.8%値下がりしている。
 近年の銅相場の高騰は、中国の戦略的な備蓄増と、米ドル、米投資からの投資資金の分散によってもたらされたものである。しかし、2011~2012年にかけての銅相場については、世界経済の回復による中国以外の実需要の増加が牽引し、8,500~9,000 US$/tが底となり、再び10,000 US$/tを超えて上昇するだろうと予想している。

(2) 銅ETF、実市場、銅価格ボラティリティについて/
JP Morgan社 Michael Jansen氏
Thompson Reuters社 Andrew Home氏

 ETF(上場投資信託)は、1990年にカナダ・トロント証券取引所が取扱いを始めたのが最初で、株価指数や商品先物指数に連動するETFが金融商品として開発され、欧米を中心に分散投資ツールとして広まった。一方、金属現物と交換可能な現物担保型のETFは、2003年に豪州Gold Bullion Securities社(英国ETF Securities社の前身)が金の現物担保型ETFを初めて上場し、近年、英国ETF Securities社が、2010年に白金とパラジウムの現物担保型ETFを、2010年末には銅、ニッケル、錫の現物担保ETFをそれぞれ上場している。
 2010年1月以降の銅の相場の推移を見ると、米国株価指数S&P500オプション取引を基に算出されるVIX指数(Volatility Index)と概ね逆の相関関係にある。VIX指数は、リーマンショックの年に異例の最高値を示すなど、投資家の不安感が強いことを示す指数として知られており、別名「恐怖指数(Fear Index)」と呼ばれている。つまり、銅は産業用金属であると同時に、投資家の不安感に価格が連動する金融リスク資産となっているのである。
 今般のETF Securities社等の小口投資家をターゲットにした金属現物担保型のETFの上場は、既に金、白金等の成功例やインフレヘッジ(貨幣価値の減少により価値が上昇する実物資産を買うこと)へのニーズなどから、非常に時宜を得たものと思われたが、実際には商いが低調で地味なスタートとなった。これは、既に、銅価格や他の金属との組み合わせた銅関連のETFが上場されていたこと、現物を担保する分、手数料が他のETFと比較して大きいこと、普通の小口投資家は同じETFなら金のETFの方を好んだということであろう。
 一方、現物担保型のETFは、米国商品先物取引委員会(CFTC)の取引制限規制の外であり、商品先物市場への投資ができなかった機関投資家にとっては、銅市場への投資が開かれたこととなった。機関投資家にとっては、様々なリスクがある金属の開発プロジェクトよりはETFの方がはるかに投資はしやすい。
 こうした中、既に銅現物担保型ETFを上場しているETF Securities社は2,600 t、Basinvest社は1,850 tもの銅の現物を確保しており、今後上場予定のJP Morgan Chase社が61,800 t、BlackRock Asset Management社が121,000 tもの銅の現物を確保していると言われている。こうして保有された金属であるが、機関投資家は保有意識が高いことから、長期間通常のサプライチェーンから外れ、供給不足を悪化させる可能性があると指摘されている。
 LMEにおける銅の在庫水準と逆鞘の度合い(先物市場における期近になることにより得られる収益(Roll Return))を見ると、在庫水準が低い方が逆鞘の度合いが大きく利益が上がっている。結果として、今般の銅の現物担保型ETFの上場では、2007年と比較すると、利益幅が大きく縮小している。現在は、現物よりも先物の方が高い状況が続いていることから、買手ばかりであり、売り手がいない市場環境になっている。こうしたことから、現物担保型ETFは、アルミニウムETFのように供給余剰の際に非常に魅力的な商品となり得ると考えられる。

(各国代表等からの意見)
銅のETFについては、各国代表または産業界からの意見は以下のとおり。

 ・現在、LMEの銅在庫は増加傾向であるにもかかわらず、銅地金価格は高値で安定した状態が続いている。これは、2010年末以降の銅の現物担保型ETFの上場に伴う機関投資家等の資金の流入、その準備のための現物買い占めなどにより、銅の市場が本当の需給ではなく、投機により決定されるという異常事態になったためである。

 ・最近では、銅価格が高すぎるため、現物の引き取り先が見つからずLMEに預けざるを得ず、さらにLME在庫が積み上がるという現象も起こっている。

(3)その他
 事務局から世界の銅リサイクルの現状について説明があった。会場からリサイクルの予測が2011年4月の時点にもかかわらず、2010年の予測で留まっている点について、早急に改善するべきではないかとの指摘があった。

3. 産業アドバイザリーパネル

 今後のICSGで取り上げるべきテーマについて、2010年秋のアンケート結果に基づく検討状況について説明が行われた。検討状況としては、伸銅品製造能力と生産データ、探鉱開発と投資、銅スクラップ市場、銅フローモデル、銅生産に影響のある技術などについて可能性があるとのことであった。
 会場からは、銅の現物ETFの関連で金融機関の銅市場に与える影響(8番目の優先順位)を是非取り上げてほしいとの意見が相次いでいた。

4. おわりに

 リーマンショック以降、中国の急激な在庫積み増しにより、急速に価格が回復した銅市場は、銅の現物ETFの登場により投機資金の流入を呼び、原油、金などと同様、金融商品の一部に数えられつつある。
 そのため、今季のICSGでは、銅の現物ETFが市場に与える影響について、大きな議論となった。各国代表や銅産業の代表者からは、従来、銅の市場において、透明性が高いLMEにおける需給バランスによる価格決定メカニズムが機能しなくなり、銅が金融商品として扱われることに対する危機感が数多く表明された。
 一方、金融機関の関係者からは、銅市場に資金が流入したのは、各国の低金利、ドル安容認等のマクロ政策により、行き先のなくなった資金が、将来的な新興国での銅需要拡大を見込んで流入したためであり、自然な流れであるとの戸惑いの声があった。また、有識者からは、現在の銅の価格の上昇は、銅価格低迷期にリスクの高い探鉱活動が不十分であったためであり、市場メカニズムの下では不可避な状況であるとの意見も聞かれた。
 こうした中、2011年のG8及びG20の議長国であるフランスは、銅を含む一次産品の価格高騰を2011年のG8及びG20の議題に掲げており、こうした国際的な議論の場で市場メカニズムへの介入がどの程度議論されるのか、注目に値する。
 引き続きJOGMECロンドン事務所としては、政治的な動きを含めて、銅市場の動向に注視しつつ、情報収集及び発信に努めてまいりたいと考えている。

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