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報告書&レポート

2011年7月7日 金属企画調査部 渡邉美和、廣川満哉報告
2011年33号

国際タングステンフォーラム(2011)報告

2011年5月19~21日、「国際タングステンフォーラム2011(World Tungusten Forum 2011)」(亜州金属網主催、贛州タングステン業協会協賛)が、中国の福建省厦門(アモイ)市の悦華酒店(Yeo-Hwa Hotel)で、開催された。参加者は約50名で、中国のタングステン業界の内、主な生産者の殆ど(中国五鉱、厦門タングステン、江西タングステン業、株洲硬質、自貢硬質など)が参加するなど、参加人数が少ない割に注目を浴びた会議であったと思われる。
中国国内で需要も供給も拡大している中で、価格が上昇した要因と価格動向の今後の見通しに関しての発表が注目された。また、ベトナムでフェロタングステンを生産し、中国へ輸出を始める香港資本メーカーの動向発表も、中国市場での新たな競合者としてその発表内容が注視された。
主な発表内容を以下にまとめる。

写真1. 会議案内
写真1. 会議案内
写真2. 会議参加者
写真2. 会議参加者

1.中国鉱産資源の保護の概略

広東省河源市国土資源局 副局長 邵衛根

 中国及び世界のタングステン需要の伸びに対応してタングステン鉱石を生産する中国の世界シェアは最近では8割を占めている。しかし、鉱石生産の増加に伴い環境問題も生じている。小規模生産者による汚染が多く、このために企業規模適正化と違法鉱山の規制を行っている。(事後に入手した情報によると、広東省河源市では、鉛蓄電池生産者に起因した血中鉛濃度異常事件が2011年5月中旬に発生。市当局は鉛関連生産者の管理監督に追われており、特に突っ込んだ発表に至らず、現状の簡単な紹介のみに終始したものと見られる。)

2. 贛(カン)州市のタングステン原料供給の概略

贛州タングステン業協会 秘書長 邱万毅 

写真3. 邱万毅氏
写真3. 邱万毅氏

 江西省贛州市はタングステン資源量では全中国全土の39%を占める一大産地である。現有のタングステン鉱山会社は53を数える。タングステンの製錬加工企業は25社である。
贛州タングステン業協会は、毎月初めに“精鉱、APT(パラタングステン酸アンモニウム)及びパウダーの贛州価格”を発表、現在のタングステン価格の指標になっている。人件費等の上昇で採掘コスト
が上がっていることを強調していた。

主な贛州市タングステン生産指標等は以下の通り。
① 鉱山※生産能力(鉱石)500万t/年;2010年実績(精鉱)2.5万t
② APT生産能力7万t/年;2010年実績4.5万t
③ タングステンパウダー生産能力;2.5万t/年 2010年実績2.2万t
④ 厳密計算での贛州地区タングステン精鉱生産コスト10万元/t<
⑤ 贛州地区でのAPT生産コスト(タングステン精鉱→APT)1.45万元/t前後
⑥ 贛州地区でのタングステンパウダー生産コスト(APT→パウダー)

(中粒)2.5万元/t
※贛州市の鉱山(自山鉱)のみ

3. 東日本大震災の日本産業への影響とタングステン産業への影響について

アドバンストマテリアルジャパン株式会社 西野元樹

写真4. 西野氏
写真4. 西野氏

 東日本大震災への中国の支援に対する感謝が述べられた後、以下のような影響についての考察が紹介された。
① 日本の産業界への影響の要素として以下の4つの観点から捕える必要がある。
  a. 建物設備への影響
  b. 物流への影響
  c. 電力供給との関連
  d. 福島原発問題
② 影響のまとめ

a. タングステン産業への影響は大きい、特に硬質合金生産への影響が大きかった。

b. しかし、生産回復の速度は速い。生産への影響は最小限に留まる見込み。

c. 日本の工業全般も同様に回復中だが、タングステン製品需給の見通しは未だ不明。

d. ごく近い将来で暫定的な回復に至ると見られる。

4. 硬質合金材料と技術の現状及び発展

中南大学教授 易丹青
写真5. 易教授
写真5. 易教授

 中国での硬質合金用途のタングステンについて、その利用の歴史、組成、産業を概観した後、超ナノメーター結晶や表面気相成長法による硬質相コートなどのタングステンカーバイド(以下WCと略)の動向に続き、以下のような中国の最新技術などが紹介された。

 a. 出成型等の技術動向と設備
 b. 低圧焼結技術     
 c. マイクロ波焼結技術
 d. 表面気相成長技術
 e. プラズマターゲット技術

5. 2011年中国タングステン市場分析

江西稀有稀土金属タングステン業集団 副総経済師 祝修盛

①最近のタングステン需要動向について以下のような数値が示された。

表1. 中国国内のタングステン(需要動向)

(単位:t)

  2009年 2010年
WC 15,265 19,968
特殊鋼 8,870 10,278
タングステン材 3,838 4,976
化工品 2,284 2,698
合計 3,0257 37,820

写真6. 祝修盛氏
写真6. 祝修盛氏
写真7. 祝修盛氏のプレゼン
写真7. 祝修盛氏のプレゼン

② 2011年の中国の需給について以下のような見通しが示された。
 a. 中国国内需要は経済成長に伴い増加が期待される。
 b. 世界の需要も安定的で持続可能な成長段階に入り、逐次、需要増加が見込まれる。
 c. 中国の鉱石生産が急激に増加する可能性は少なく、輸入スクラップや輸入精鉱は2011年に入り明らかに減少。
 d. 国内需給は供給不足が予想され、在庫の減少とともに価格の下落は予想しにくい。

6. フェロタングステン市場―その現状と展望

越南陽星タングステン業公司総経理 黄明星

 越南陽星タングステン業は香港資本企業で、2007年5月にベトナムの広寧(Quang Ninh)省で工場建設に着工した。もともと中国のフェロタングステン生産能力過剰による再編でベトナムへ進出した。2009年2月に生産開始し、同年のフェロタングステン生産量は1,700 t(ベトナム市場規模は中国への輸出を加えて2,860 t)。2010年は1,800 t(同3,077 t)であった。Win-winの関係を築いて今後とも中国企業とともに発展したい。
(他の中国企業会議参加者に尋ねたところ、越南陽星は今後中国への輸出ソースとして中国進出も考慮しているらしく、会議での生産量アピールにより中国への参入の意向を示したと思われる。)

写真8. 黄明星氏
写真8. 黄明星氏
写真9. 黄明星氏のプレゼン
写真9. 黄明星氏のプレゼン

7. 2010年中国のタングステン輸出と今後の動向

厦門タングステン業股份有限公司 国際業務部経理 呉如清

 中国は依然としてタングステン原料の供給者の地位を保持し、世界の価格決定権を強固にするため、将来も原料輸出管理を継続すると共に加工産業の強化を図るであろうと見通している。

8. マクロ経済指標下に見るタングステン市場と市場予測

亜州金属 タングステン市場分析師 解小延

写真10. 解小延女史
写真10. 解小延女史

 タングステン価格形成をマクロ、ミクロから分析検討している。近年の価格上昇の要因として、以下のとおり分析している。
(中国国内要因)
・経済成長により2009年の内需30,000 tが40,000 tに近づく。
・2009年E/L枠余剰調整の影響を受けてE/L枠が不足
・中国政府の採掘規制
・中国国内のタングステン精鉱備蓄の減少
・売り手の売り惜しみ、投機的な資金の流入
・インフレの進行による原材料の価格上昇
・湖南省、江西省の電力不足
 (世界要因)
・世界経済回復による工業製品生産の回復
・タングステン精鉱の供給不足(DRCコンゴ産タングステンの規制等)
・スクラップの減少

 2011年の価格については、総体的に現在の状況が継続され価格は強含みで推移すると以下のように予測している。
① 中国国内価格は小幅調整の場面もある。
② 中国の輸出管理政策は継続され、中国国外での価格は上昇圧力が続く。
③ 2011年末に中国タングステン精鉱(65%)の価格は200千元/t、APT国内価格は300千元/t、輸出価格は580-600 US$/MTU、フェロタングステン価格は300千元/t、輸出価格は75 US$/t(W量)となる可能性がある。

表2. 中国の主な企業の硬質合金生産能力

企業 生産能力 備考
厦門钨業 2,000t 16の鉱山と子会社
株洲硬質 5,000t 湖南有色の傘下
自貢硬質 5,000t 湖南有色の傘下
江钨集団 30,000t 41のグループ企業を含む
章源钨業 1,500t 他にAPT10千t、タングステン粉5千t

図1.中国の硬質合金メーカー関連図(解小延女史プレゼン資料に加筆)
図1.中国の硬質合金メーカー関連図(解小延女史プレゼン資料に加筆)

9. まとめ

 日本国内のタングステン鉱山は、中国の安値攻勢による価格の低迷及び円高の影響による採算悪化で全て閉山し、1993年以降、タングステン需要のほとんどを中国1か国に依存している。また、世界においても、タングステンの供給のうち80%以上を中国が占めており、中国1か国の政治経済等の動向がその需給面に大きな影響を及ぼす構造となっている。
2010年当初からタングステン価格は上昇し、2011年4月には史上最高値を記録している。本会議の中でも、今後も価格は上昇するとの予測が出ており、その状況は近年変わっていない。常に中国の動向を把握し供給上のリスクを考えておかねばならず、なおかつ、中国以外への供給源の分散、さらなる日本国内のリサイクル率の向上を考えていく必要がある。

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