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報告書&レポート

2011年9月15日 サンティアゴ事務所 神谷夏実
2011年46号

ブラジルと豪州で期待高まるペグマタイト起源のリチウム資源開発

 ブラジルにおいて、次世代自動車用に需要の伸びが期待されるリチウムの生産、技術開発を促進するために、産学官協同のネットワーク「PTD-Lithium」が構築されようとしており、2011年8月12日は、リオデジャネイロで第1回リチウムセミナーが開催され、ブラジル国内のリチウム関係者が集まって情報交換が行われた。これに先立つ7月7日には、サンパウロにてブラジル日本商工会議所が主催した同様なセミナーが開催された。(7月28日付けカレント・トピックス11-39号「ブラジルのリチウム資源開発状況 ~ブラジル・リチウム・セミナー参加報告~」参照)
 これまでリチウム資源の開発はチリ、ボリビア等のかん水系リチウム資源の開発に関心が高まっているが、ブラジルでは、リチウムバッテリー向けに、国内に豊富に賦存するペグマタイト系リチウム資源の開発に関心が集まっている。豪州でもペグマタイト起源のリチウム資源の開発が事業化されつつある。
 本報告では、8月12日開催のリチウムセミナーの概要と、ブラジルにおけるリチウム需給、豪州での開発の現状について報告する。

1. 第1回リチウムセミナー

 今回のセミナーは、ブラジル連邦政府鉱物資源研究所(CETEM:Centro de Tecnologia Mineral)のFarias de Oliveira鉱物処理部長、Santa Catarina大学Marcio Fiori教授等が中心となって開催されたもので、産学官協同のネットワーク「PTD-Lithium」に関する初の会合となった。「PTD-Lithium」の中心的な課題の一つは、ブラジル国内に豊富に賦存するとされるペグマタイト起源のリチウム資源の活用である。
 ペグマタイト起源のリチウムの開発はコストが高いとされ、現在、世界的にはかん水系リチウム資源からバッテリー用リチウムが生産されているが、ブラジルではリチウム資源が連邦原子力エネルギー委員会の管理下に置かれ、リチウム関連物質の生産、貿易が規制されていることや、国内資源の有効活用の観点から、国内のペグマタイト起源のリチウムの開発の可能性の検討が始まろうとしている。
 一方豪州企業による、豪州産ペグマタイト起源のリチウムを用いて、中国でバッテリー用リチウムを生産する事業も始まりつつあり、ブラジル側関係者の間では、国内のペグマタイト起源のリチウム開発に対する期待が高まっている。
 なお、このセミナーに先立つ8月8日に、日本とブラジル両国政府間において第5回日伯貿易投資合同委員会が、ブラジルBahia州サルバドルで開催された。この委員会は、日本側経済産業省、ブラジル側開発商工省が主催する政府間会合であり、2009年以来開催されている。今回の会合では、鉱物資源関係の議題として、ブラジル開発商工省からリチウムネットワーク(PTD-Lithium)の設立、日本からのバッテリーメーカー等の参加による技術支援の期待について発表が行われた。特にリチウム資源については、ブラジル国内に豊富に賦存するペグマタイト起源のリチウム資源開発に焦点を当て、資源調査、技術開発を進めていくと報告された。

● リチウムセミナーの参加者は、ブラジル側のリチウム関係者約40名であり、参加者の概要は以下のとおり。
 ※ 政府関係機関:開発商工省、鉱山動力省、開発商工省鉱物資源研究所(CETEM)、Ceara州政府(リチウム生産州)
 ※ 大学:Santa Catarina大学等
 ※ 民間企業:CPqD(民間研究所)、UNESC社、Fulgris社等リチウム関連製品、バッテリー生産者。

● リチウムセミナーでの発表内容の概要は以下のとおり。
 ※ ブラジル国内のリチウム資源開発の必要性

 ブラジルではリチウムの資源開発、生産、貿易は原子力エネルギー委員会の管理下において規制されている。今後、電気自動車並びにリチウムイオン電池の普及が予想される中、ブラジルでのリチウムイオン電池生産基盤を整備するために、国内に豊富に賦存するペグマタイト起源のリチウム資源の開発の可能性を模索する。今後必要な情報交換、技術開発を進めるために、ブラジル国内のリチウムサプライチェーン関係者のネットワークを構築する。本セミナーは第1回目として、関係者の紹介、リチウムサプライチェーンの基本情報について意見交換を行ったものである。

 ※ リチウム資源開発アプローチ

 ブラジル国内では、Minas Gerais州及びCeara州に賦存するペグマタイト起源のリチウム資源がある。両州のリチウム資源はペグマタイト初生鉱床中に発達するものを主体としている。リチウム鉱物としては、リシア輝石(Spodumen)を対象とする。
 ペグマタイト起源のリチウム鉱床からのリチウム回収は、かん水系のリチウムに比べて高コストであるとされるが、国内資源の活用の観点から、ペグマタイト起源のリチウム資源の開発に焦点を当てる。
 豪州では、Galaxy Resources社(ASX上場)が、ブラジルと同様なペグマタイト起源のリチウム鉱石を開発し、中国に輸出した後、中国で硫酸処理による炭酸リチウム生産を行う事業が立ち上がりつつある。こうした動きを見ながら、ブラジル側関係者は、国内のペグマタイト起源のリチウムの利用も可能となるとの判断をしている。
 ペグマタイト起源のリチウムの回収技術としては、硫酸処理、アルカリ処理等の方法があるが、CETEMでは硫酸処理の方が有利と判断し、今後技術開発を進める方針である。

 ※ リチウム技術開発の進め方

 今回のセミナーは、ブラジル連邦政府研究機関であるCETEMが主催したものであるが、関係者の説明では、国内リチウム資源開発に向けた特別の政府プログラムが組まれているわけではないとのこと。また、連邦政府開発商工省関係者も政府として特別のプログラムを用意しているわけではないと説明していた。ただし、研究開発関係者は、自前予算の他に、国家開発銀行(BNDES)の研究開発費を活用できるとのことである。リチウム回収プロセスはCETEMが中心に行うとのことであるが、具体的な研究開発計画についての説明はない等、リチウムネットワーク(PTD-Lithium)の推進体制に若干不透明感があるものの、今後の動向が注目される。

2. ブラジル国内のリチウム資源開発の現状

● ブラジルのリチウム資源
 USGSによると世界のリチウム埋蔵量は11百万tと推定されているが、ブラジルでは、主にMinas Gerais州とCeara州に賦存する。リチウム鉱物としては、Minas Gerais州ではAracuai、Itingaにおけるリシア輝石、アンブリゴ石、リシア雲母、ペタル石、Ceara州ではSolenópole におけるアンブリゴ石、Quixeramobimにおけるリシア雲母がある。現在ブラジルでのリチウム生産はMinas Gerais州でのみ行われている。2006年の世界のリチウム生産量は21,022 tであったが、ブラジルの生産量は437 tで世界の2.1%とされている。

● ブラジルのリチウム生産
 ブラジルでは、Companhia Brasileira de Lítio (CBL)がMinas Gerais州でリチウムの生産を行っている。2006年のブラジルのリチウム精鉱の生産量は、8,585 tで、2005年より3.8%減であった。CBLはCachoeira 鉱山(Minas Gerais州Araçuaí)において、ペグマタイト起源のリチウム鉱石から精鉱を生産している。採掘は坑内採掘で、鉱石からリシア輝石が分離され、リチウム鉱石中の酸化リチウム品位は5.09%とされている。リチウム精鉱はDivisa Alegreにあるリチウム工場に運ばれ、リチウム化合物(炭酸リチウム、水酸化リチウム)が生産されている。現在、ブラジル国内でのリチウム需要は主に潤滑剤グリース(lubricant)であり、水酸化リチウムが消費されている。リチウム水酸化物を生産するためにアルカリ処理によるプロセスが使われているが、炭酸リチウム生産のためには新たに硫酸処理のプロセスを開発する必要があるとされている。2006年の生産量は炭酸リチウムが235 t、水酸化リチウムが451 tであった。

● ブラジルのリチウム需給
 2006年のリチウム化合物の輸入量は、酸化リチウムが1 t、塩化リチウムが26 tで、輸入額は198千US$であった。主要輸入相手国は、中国(輸入量の64%)、米国(同32%)、ドイツ(同3%)であった。2005年のリチウム化合物輸入量は15 tで、2006年に大幅に輸入量が増えたことになる。リシア輝石等鉱石の輸入はなかった。
 一方、2006年のリチウム化合物の輸出は13 tで、炭酸リチウムの輸出先は、アルゼンチン(輸出量の91%)、ナイジェリア(同6%)となっている。
 ブラジルの主要なリチウム需要はグリース、潤滑剤で、2006年に約700 t(前年7.6%減)が消費された。

3. 豪州Galaxy Resources社、ペグマタイト起源のリチウム開発を開始

 豪州においては、Galaxy Resources社がペグマタイト起源のリチウム資源を開発するとともに、中国において炭酸リチウムならびにe-バイク用リチウムバッテリーを生産する事業を開始しつつある。同社のビジネスモデルは、豪州でリチウム資源の開発を行い、巨大市場中国でのリチウムバッテリー生産までを手掛ける垂直統合型モデルである。同社のプロジェクト並びにビジネス戦略の概要は以下のとおりである。

● 豪州でのリチウム精鉱生産の概要

※ Mount Cattlin鉱山(豪州WA州南部のRavensthorpe近く)でリチウム精鉱を生産。対象鉱物はリシア輝石(Spodumene:リチウムのアルミニウム・イノケイ酸塩鉱物、化学式LiAl(SiO3)2)で、埋蔵量は11.4百万t(Li2O品位1.05%)である。副産物としてタンタルを生産する。

※ 生産状況:2010年Q4にリチウム精鉱の生産を開始し、現在立ち上げ操業中である。2011年8月現在の稼働率は能力の70~80%程度である。2011年7月の生産量は8,916 wet-tで、前月比25%増であった。9月に第3回目の中国向け出荷を予定。輸送船は2万tクラス船舶を使用する。

※ リチウム生産戦略
 豪州でのリチウム鉱山開発、ならびに、中国江蘇省で炭酸リチウム生産工場の建設を行っている。炭酸リチウムの年間生産能力は17千tで、2011年Q4に生産開始の予定である。同社webによると、炭酸リチウム販売に関し、三菱商事㈱の他、中国国内の電極メーカーとオフテイク契約が成立しているという。
 また炭酸リチウム工場と同じ工業団地内に、e-バイク向けリチウムバッテリー生産工場の建設を検討中で、2010年Q4にFSを終了した。計画では、e-バイク用リチウムバッテリーを年産35万個生産するのもので、売上予測は68百万A$(約72百万US$)である。リチウムバッテリー生産に関し、米国の生産者であるK2 Energy Solutions Inc.と技術供与契約を2011年7月に締結している。中国では毎年e-バイクが27百万台生産されており、現在は主に鉛バッテリーが搭載されているものの、今後軽量なリチウムバッテリーの需要が急速に伸びると予測し、中国国内でのリチウムバッテリー生産までを計画中である。

まとめ

 今回のセミナーは、ブラジル連邦政府研究機関であるCETEMが主催したもので、第1回目ということで、関係者の紹介、基本的情報交換が行われた。ただし、リチウムネットワーク(PTD-Lithium)の推進に関し、政府の予算的措置等についての説明がなく、またリチウム回収プロセスの技術開発で中心的な役割を果たすとみられるCETEMからも、具体的な科学研究開発計画についての説明はなかった。今後の動向に不明点もあるが、ブラジル国内のリチウム資源開発に向けた動きが始まった点は注目される。
 リチウムバッテリー向けリチウム資源の開発は、これまでかん水系リチウム資源が中心であったが、豪州の例にあるように、今後ペグマタイト起源のリチウムの開発が進む可能性もある。ペグマタイト起源のリチウム開発は、かん水系リチウムに比べてコストが高いとされているが、今後の技術開発の動向が注目される。ブラジル側は日本のバッテリーメーカー等による技術協力を期待している。

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