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報告書&レポート

2011年10月13日 ジャカルタ事務所 高橋健一
2011年51号

Mining Philippines 2011参加報告-拡大するフィリピン鉱業の現状と課題-

 2011年9月13日~15日3日間、フィリピン・マニラ首都圏パサイ市Sofitel Hotel Plazaで、「Mining Philippines 2011, Conference & Exhibition」が開催された。本イベントは、フィリピンChamber of Mines(フィリピン鉱業会議所)主催により例年開催されているものである。2010年のフィリピン鉱業への投資額が前年比33%増の9.6億US$となるなど、金、銅、ニッケルなどの非鉄金属鉱物を中心としたフィリピン鉱業が好調であることを反映し、国内外からの参加者の規模は500人超(登録者ベース)、出展ブース約50社を数え、盛況なものとなった。本稿では同カンファレンスの模様について報告する。

写真1. 会場エントランス
写真1. 会場エントランス

1. フィリピン鉱業の近況

 ここ数年のフィリピン鉱業は、金属価格の高値基調と、政府の積極的な投資促進政策の後押しもあって、極めて好調となっている。鉱業における2010年の各経済指標、鉱業投資額が前年比33%増の9.6億US$、鉱物資源輸出額は同27%増の18.7億US$などがこの好調さを顕著に示している。
 フィリピン鉱業は、かつて1970年代に我が国の企業投資などにより数多くの鉱山が開発され、興隆した時期があり、そのピーク時には総輸出額の24%を鉱業が占めるなど、フィリピン経済に対し大きく貢献していた時期があった。その後、金属価格の低迷などによる鉱山開発投資の減速、1995年新鉱業法の違憲訴訟、環境問題、共産党ゲリラやイスラム過激派などによる治安悪化などの問題も抱え、鉱業の地位は低下していった。
 現在の好調な状況への転機は、2004年における新鉱業法の合憲判決とともに、金属価格の上昇・高値局面が到来し、その後、国内経済の活性化や、特に地方遠隔地においての貧困削減を狙いとして、かつての主要産業であった鉱業の再活性化政策が進められてきたことが大きな要因となっている。一方で、投資、開発が拡大する中、一部の地域において依然として共産党ゲリラなどによる治安問題が存在していることや、環境問題・社会問題が、従来から活動的であった環境NGO、カトリック教会に加え、これらの抗議活動も背景に、最近では地方政府からも問題視されていることなど、今後解決すべき課題も少なくない。
 このような中、2011年のカンファレンスは「Driving Progress & Communicating Result」をキーワードとし、フィリピン経済成長のキードライバーとなる鉱業のさらなる発展と、全てのステークホルダーとのコミュニケーションによる調和といった内容をテーマとしている。
 以下フィリピン鉱業の現状を示す講演を中心に報告する。

写真2.
写真2. 講演会場
写真3. 展示会場
写真3. 展示会場

2. 基調講演

(1) 主催者であるフィリピンChamber of Mines, Benjamin Philips会長が、9月14日のカンファレンス・プログラムの冒頭、オープニング・スピーチを行った。講演内容はフィリピン鉱業の現状及び課題を総括するもので、その概要を以下に紹介する。

● 昨今のフィリピン鉱業の好調さは、主に次の3つの点に裏付けされる。

   第1に、近年の金属価格上昇と高値基調が、もともと資源ポテンシャルを有し鉱業国であったフィリピンに対し、再び投資家の目を引き付け、ここ数年投資が拡大してきたことである。さらに、鉱業投資は、現政権が重要視している貧困削減、雇用創出のための新規投資促進にとって極めて有効な手段であり、フィリピン経済に大きく貢献するものである。フィリピンが歴史的に鉱業国であったことについては、意外に多くの人に知られていないが、過去1970年代には鉱業輸出額は平均的に総輸出額の1/5を占め、ピーク時には24%を計上していた実績がある。

   第2に、鉱業は、既にフィリピン経済全体での失地回復に成功し、さらなる成長が期待できる点である。2010年のフィリピンの経済成長率は、1986年以降の最も高い7.3%を記録したが、この中で鉱業セクターは12.1%の高成長率となり経済全体に大きく貢献した。また、銅、金などの鉱業輸出額は前年の14.7億US$から27%増の18.7億US$となるなど、フィリピン経済を牽引する役割を担うようになった。この傾向は2011年上期以降も継続する見込みであり、例えばこれまでの主要産業であった農業の成長が横ばいとなる中、製造業とともに鉱業は今後の基幹産業としても十分に期待できる。

   第3に、現政権が鉱業投資に対し全面的、積極的に支援する政策を執っていることである。アキノ大統領は、統制された鉱業は、地方遠隔地も含む国全体の経済開発にとって重要な役割を担うと同時に、環境保全を維持した社会開発が可能であることを確信しており、現在のフィリピンの発展に有効な産業であることを強調している。

● ここまで、好調に推移してきた鉱業投資であるが、一方で、この状況をさらに前進させるためには、現在抱えているいくつかの課題、南コタバト州政府による露天採掘禁止命令(モラトリアム)、環境保護NGOなどによる開発停止訴訟、国会での議員提出による鉱業法改正案など、産業成長を阻害する要因を解決する必要がある。中でも特に重要なものは南コタバト州政府によるモラトリアムであり、大規模投資案件であるTampakanプロジェクトが対象となっていること、また、南コタバト州以外の地方政府でもこれに追随する動きもあり、早期にこの問題の解決を望む。

写真4. Chamber of Mines, Benjamin Philips会長の講演
写真4. Chamber of Mines, Benjamin Philips会長の講演

(2) ベニグノ・アキノ大統領代理としてフィリピン政府を代表し、Paquito Ochoa官房長官が9月14日、オープニングセレモニーの中で基調講演を行った。概要は以下のとおり。

● フィリピン政府は、今後も鉱業投資を促進する政策を引き続き実施し、そこから生み出される利益を国家収入及び社会一般への還元をさらに拡大させる方針であるが、一方で、投資が拡大する中、国内には鉱業は環境問題を発生させるといった意識や環境NGOなどによる抗議活動も高まっているのも事実である。1995年の鉱業法には環境保全に関する規定は盛り込まれており、今後はこれらの法令遵守がより厳格に行われることが重要である。

● さらに、国内全域における鉱業に対する理解を高めるため、政府は、採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI)に候補国として加盟する予定である。この加盟を通じ、鉱業からの国家への収益の透明性を確保し、国家経済への貢献度をオープンにすることによって、鉱業に対する社会的認知度・許容度を高めることが重要であると考えている。

● 鉱業をより成長させるために、他の成功している鉱業国、カナダ、豪州、チリの事例を参考にしながら、環境保全、社会開発、良い統治といった点を今後はより一層重視しながら政策を進めていく方針である。

写真5. Paquito Ochoa官房長官の講演
写真5. Paquito Ochoa官房長官の講演

 なお、基調講演には来賓として在フィリピンの中国大使、チリ大使が招かれ、それぞれスピーチを行った。

3. 環境天然資源省Ramon Paje大臣の講演

 環境天然資源省Ramon Paje大臣により、鉱業セクターの概況、鉱業政策動向についての講演があった。概要は以下のとおりである。

① 2010年のフィリピン鉱業は、主に金、銅、ニッケルの金属部門が牽引し、総生産額は前年比39%増の1,444億PhP(約33億US$)となった。

表1. 2010年鉱業生産額・部門別

鉱種 2010総生産額
・億PhP(億US$)
2009年比・(%)
鉱業全体 1,444(33) +39
 金属部門 1,111(25) +77
   金 705(16) +63
   銅 158(3.6) +14
   ニッケル 230(5.2) +21
   その他 181(4.1) +1.6
非金属部門 333(7.6) +23

出典:「Instituting Policy Reforms in Mineral Resources Development」
RAMON J.P. PAJE, Secretary, DENR

② 2011年上期における金属部門の実績は前年同期比31%増の639.2億PhP(約14.5億US$)となり、引き続き好調の結果となった。鉱種別に見れば、金:421.8億PhP(約9.6億US$。前年同期比66.13%増)、ニッケル:110億PhP(約2.5億US$。同17.25%増)、銅91.9億PhP(約2.1億US$。銅14.42%増)であった。

③ 2010年の鉱業投資額は前年比33%増の9億5,586万US$となり、2004年から2010年までの鉱業投資累計額は38.35億US$となった。2011年以降も、XstrataのTampakan銅プロジェクト、St Augustine Gold and Copper Ltd(米)のKingking銅・金プロジェクトなど多数の鉱山開発プロジェクトが計画されていることから、今後も投資額は増加傾向となり、2016年までの投資累計額は180億US$に達する見込みである。

図1. フィリピン鉱業投資額推移:実績及び見込み
出典:「Instituting Policy Reforms in Mineral Resources Development」
RAMON J.P. PAJE, Secretary, DENR
図1. フィリピン鉱業投資額推移:実績及び見込み

④ 今後の鉱業政策動向の主なポイントは次のとおりである。

● 「Use It or Lose It」の方針の下に、鉱業ライセンス発行を実施している。第1弾として2010年10月から2011年6月までの期間に募集した鉱業ライセンスについては、全2,136件のライセンス申請があり、うち530件が許可され、残り1,606件が不適格とされ許可されなかった。一方で、業界側からは許可プロセスに時間がかかりすぎるとの指摘がなされ、改善を求める意見が出された。

● 天然環境資源省は、許可されなかった鉱区の一部については、ライセンス発行プロセスの透明化を図る目的で入札によるライセンス発行を検討している。現在は入札実施方法のガイドラインを策定中である。

● ライセンス取得後活動を行っていない鉱区について調査を行い、ライセンス停止などの措置の検討を行う。

● また、無数に存在している休廃止鉱山を政府が引き継ぎ、これを再開発することを検討している。金属価格の上昇によりこれら鉱山の鉱石や残渣に含まれる資源の経済性が再評価されてきたことや、特に金を対象とし、休廃止鉱山での違法採掘問題も最近浮上してきており、これを抑止する狙いも持つ。

● 鉱業ロイヤルティに関しては5%を課す方向で検討中。

● 現在発動されている州政府によるモラトリアムや、鉱業反対団体に関しては、州政府、関連団体との調整を早期に実施し、事態解決を図るよう検討中。また、今後は鉱山開発に係る環境基準の更新も実施。

● 中長期的な展望としては、鉱物資源の高付加価値化を促進し、製錬分野などの下流産業の育成が課題。

4. 鉱山会社による講演

 開催第3日目、最終日となる9月15日に、フィリピン鉱業の主役となっている、銅、金、ニッケル鉱山会社による自社プロジェクトの講演があった。銅、ニッケルに関する企業の講演内容は次のとおり。

表2. 自社プロジェクトの講演を行った銅・ニッケル企業

鉱種 講演企業 主な鉱山・プロジェクト
Philex Mining Corp. Padcal鉱山、Bulawan鉱山
Sagittarius Mines Inc:オペレーター
(Xstrata:62.5%、Indophil:37.5%)
Tanpakanプロジェクト
Carmen Copper Corp:操業会社
(Atlas Consolidated M&D:100%)
Atlas Toledo (Carmen) 鉱山
TVI Pacific Inc Canatuan鉱山、
ニッケル Nickel Asia Corp Rio Tiba鉱山、Taganito鉱山、Cagdianao鉱山Taganaan鉱山
Benguet Corp Sta Cruzプロジェクト他

 このうち、Sagittarius Mines Inc及びNickel Asia Corpの講演について、以下に概要を紹介する。

(1) Sagittarius Mines Incの講演
 Sagittarius Mines IncがオペレーターとなるTampakan銅・金プロジェクトはミンダナオ島南部南コタバト州に位置し、Xstrata Copperが62.5%、Indophil社(加)が37.5%の権益を所有、開発が進めばフィリピンでは最大、世界でも有数の大規模銅鉱山になると言われている。これまでにFSが完了しており、精測・概測・予測資源量合計で21.8億t、平均品位は銅0.591%、金0.231 g/t、モリブデン0.007%で、開発費52億US$、年産銅34万t、金10.9 t、マインライフ20年とされている。一方、中央政府の政策に反し、2010年10月、鉱山開発反対派の動きを背景とした南コタバト州政府による露天採掘禁止措置が発令され、現在、開発に着手できない状態となっている。そのような状況のためか、講演内容は環境、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)中心のものとなった。講演の概要は次のとおりある。

● 鉱山開発は、鉱山サイトでの露天採掘施設、廃さい堆積場施設、鉱石粉砕施設、選鉱施設、従業員施設、道路・発電・水処理インフラなどの建設と、オフサイトでの石炭火力発電施設、積出港、変電設備等の建設から成る。現在FSのレビューが進行中で、環境天然資源省からの認可待ちの段階である。

● 本プロジェクトの環境影響報告書(EIS)は2010年6月に完成、これまで報告書の一般公開を実施、かつ、2011年6月以降、全てのステークホルダーに対し報告書内容の説明を中心とした公聴会を開催してきている。公聴会はこれまでに南コタバト、南ダバオ、スランガニの各州で実施し、5千人を超える参加者があった。今後、スルタン・クダラット州でも開催する予定である。

● 公聴会などでは、Tampakanプロジェクトは国家及び地域社会に多大な貢献をもたらす希有な大規模案件であることを強調。マインライフ20年間を通し、GDPに対し1%、税・ロイヤルティ収入3,460億PhP(約78.6億US$)、地域におけるGDPに対し10.4%、建設期では1万人、操業期では2千人の新規雇用などの経済効果がある。

● また、鉱山開発を持続的に成長させるためには、経済性、環境保全、社会貢献のバランスを取り、鉱山周辺地域社会との関係を長期に渡り調和させていくことが重要であり、本プロジェクトにおいては、全ての要件について確約可能である点を強調、地域社会における人材開発、技能習得、教育、衛生・医療面の向上に努める方針であるとした。

(2) Nickel Asia Corpの講演
 フィリピン最大のニッケル生産企業であり、2010年には、4つのニッケル鉱山から計60百万tのニッケル鉱石を出荷している。また、Nickel Asia Corpには日本の住友金属鉱山が25%の比率で出資しており、両社はNickel Asia Corpが操業するニッケル鉱山事業と住友金属鉱山がフィリピンで展開するコーラルベイHPALニッケル製錬事業などとの資本・事業連携を強めている。以下、講演の概要であるが、Sagittarius Mines Incと同様、CSRが強調されたものであった。

● 現在、同社が操業しているニッケル鉱山は、パラワン島Rio Tuba鉱山(マインライフ:リモナイト18年、サプロライト28年)、Taganito鉱山(同:リモナイト24年、サプロライト29年)、Cagdianao鉱山(同:リモナイト6年、サプロライト4年)、Taganaan鉱山(同:リモナイト3年、サプロライト9年)の4つの鉱山である。このうち、Rio Tuba鉱山の権益は、Nickel Asia Corp 60%の他、大平洋金属36%、双日4%、Taganito鉱山はNickel Asia Corp 65%の他、大平洋金属33.5%、双日1.5%と日本企業が資本参加している。この他同社では主に鉱山周辺域での探鉱プロジェクトを複数展開している。

● Nickel Asia CorpのCSR活動は、最低限の法令遵守を超えた地域社会への貢献を実践することに取り組んでいる。例えば、同社の操業鉱山地域の最低日給は243 PhP(約5.5 US$)とされているが、同鉱山労働者の平均日給は509 PhP(約11.6 US$)であり、100%を超える賃金水準となっている。また、福利厚生面では、社宅入居、食事、教育、医療などが労働者に対し全て無料で提供されている。

● また、Rio Tuba鉱山周辺地域の先住民率が65%であったこと、加えて彼らの大部分は基礎教育を受けていないことが判明し、同社は、彼らに対し、就学年齢を過ぎた者も対象とした教育プログラムを構築し、継続している。この教育プログラムは、全員教育を基本とし、目的別に、基礎教育学力の習得、職務能力の向上、高等教育レベルまでの引き上げ、現代社会での生計向上・生産性の向上といった、各目的に応じたプログラムが用意され、各個人の教育レベルに応じた教育が提供されている。

● 2010年における同社のCSR活動費は総額223.5百万PhP(約510万US$)となり、法令遵守レベルを試算した場合の112.4百万PhP(255百万US$)に対し、約2倍の金額となる。活動費の内訳としては教育費52.0百万PhP(約118万US$)、医療費43.2百万PhP(約98万US$)、インフラ整備35.9百万PhP(約82万US$)、その他となる。

おわりに

 冒頭にも述べたとおり、フィリピン鉱業は2004年以降、金、銅、ニッケルの非鉄金属がその中核となって好調を持続しており、主要産業であった1970年代当時の地位を取り戻しつつある。しかしながら、投資・開発の急激な拡大は、相反して、同国に元来存在していた反鉱業活動の表面化・拡大化を招いていることも否定できない。このような現状を背景として、今回のカンファレンスでは、テーマの一つに示されているように、基調講演、各企業の講演ともに、環境問題やCSRへの取り組みが強調された印象を受けた。今後、鉱業投資を持続的に拡大していくためには、反鉱業活動に対する早急な対応、解決策を見出す必要性があり、中央政府及び鉱業関係者の取り組みが注目されるところである。

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