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報告書&レポート

2011年10月27日 金属企画調査部 佐藤朋恵
2011年54号

ボリビアにおける「鉱山協同組合」─Caracoles錫鉱山の場合─

 ボリビア多民族国の鉱業に関するニュースを読んでいると、頻繁に“cooperativa”や“cooperativista”といった言葉に遭遇する。これらは「協同組合」と訳されるものだが、ニュースを読み進めると、日本にあるいわゆる農業協同組合や生活協同組合といったものとは性格の異なるもののように感じられる。ボリビアにおける鉱山活動は、住友商事によるSan Cristobal鉱山のような100%民間企業の経営は稀で、COMIBOL(ボリビア鉱山公社)の単独経営、またはCOMIBOLと民間企業とのJV鉱山(Porco亜鉛・鉛・銀鉱山、Bolívar亜鉛・鉛・銀鉱山、Colquiri亜鉛・錫鉱山、Huanuni錫鉱山、San Vicente亜鉛・銀・銅鉱山、Poopó亜鉛・鉛・銀鉱山、Corocoro銅鉱山、Mutún鉄鉱山等)があるが、残りの大半は「協同組合」による経営である。これら「協同組合」がどのような組織でどのような役割を担っているかは、報道のみから知ることは簡単ではないが、この存在を知らずしてボリビアの鉱業を理解したとは言い難い。
 著者は、2011年8月下旬、ボリビアを訪問した際、環境対策調査(鉱山残渣調査)の一環として、「協同組合」が実際に活動している鉱山の一つであるCaracoles鉱山を訪問する機会を得、同鉱山の現場で勤務している、COMIBOLのMiranda技術主任から直接話を聞くことができた。ここに、その聞き取り調査内容をまとめ、「協同組合」の実態を知る一端としたい。

1.ボリビア鉱業の概要及び現状

 ボリビアは、錫、亜鉛、鉛、銀等を採掘してきた伝統的な鉱業国である。しかし組織的な調査を十分に行ってこなかったことから、未探鉱地域が数多く残されていると言われている。また、南部Potosí(ポトシ)県には、世界最大のリチウム資源ポテンシャルを有するとされるウユニ塩湖がある。
 2010年の同国の輸出総額(68億7,052万US$)に占める鉱物資源の割合は約27%(18億5,184万US$)で、全体の約42%を占める天然ガスに次いで2位である。主な輸出鉱産物は亜鉛(鉱物輸出額全体の48%)、銀(37%)、鉛(8%)、錫(3%)で、その他、タングステン、アンチモン、銅、金等も輸出されている。
 日本企業によるボリビアへの鉱業投資状況は、住友商事が100%出資し、Potosí県で2007年からSan Cristobal鉱山を操業している。標高3,800~4,500 mに位置する露天掘りの亜鉛・銀・鉛鉱山であり、マインライフは16年とみられている。鉱山の事業規模もYPFB(ボリビア石油公社)に次ぐ規模である。
 2009年2月に、施行された新憲法に基づき、現在、鉱業冶金省を中心に新鉱業法を策定中である。

2.ボリビアにおける鉱山活動の歴史

 ボリビアで最初に開発された鉱山は、スペインによる植民地支配後の1545年に発見されたPotosí銀鉱山(Cerro Rico de Potosí)である。この鉱山の開発は当時の欧州に莫大な富をもたらした一方、ボリビアには何も残さなかったことから、モラレス大統領がよく口にする「搾取」の象徴とされている。
 19世紀末から1952年までは、三大財閥(パティーニョ、アラマヨ、ホッホチルド)が、ボリビア国内の錫の生産を独占していた。
 1952年10月、錫三大財閥の鉱山を国有化した革命政府は、COMIBOL(ボリビア鉱山公社)を設立、以後鉱山開発を独占的に支配することで、計画と生産管理の一元化による能率向上を計った。1970年代には錫、亜鉛、鉛、銀等の鉱産物の輸出額が全輸出額の80%を占めていた。しかし、1985年に錫の国際価格が下落した後は、国営鉱山の近代化の遅れ等も重なり、鉱業は衰退傾向となり、ボリビア国庫に巨額の負債を残すこととなった。

図1. Caracoles鉱山位置図
図1. Caracoles鉱山位置図

 1986年、Paz Estenssoro政権はボリビアの経済運営を国家主導から民間主導へ転換する「新経済政策」を発表し、大統領令21060号でCOMIBOLを解体し鉱山業から撤退させることとなった。その結果、1987年のCOMIBOLの生産はほぼゼロに近い状態まで落ち込んだ。1990年代には国有鉱山の民営化、国有鉱区の開放、外資導入策の推進、新鉱業法の制定等に取り組み、探鉱・開発を積極的に行ってきたが、非鉄金属市況の低迷により鉱業活動は停滞した。
 2005年12月、反米・民族主義を掲げるモラレス政権が誕生した。2006年5月に石油・天然ガスの国有化を宣言し、外国企業を排除する動きが鮮明化した。こうした資源ナショナリズムは非鉄金属鉱業へも波及し、2007年2月にVinto錫精錬所の国有化、5月にCOMIBOL強化に関する大統領令を発布し、過去に契約した鉱業権以外の全ての鉱区はボリビア国家の所有であり、これらの開発、生産、販売等の権利は全てCOMIBOLにあるとされている。
 一方、現在のCOMIBOLの活動は、民間企業とのJVによる鉱山運営であるが、これについてはほとんど機能せず、休廃止鉱山の管理・監督が中心となっている模様である。

3.Caracoles錫鉱山にみられる協同組合との関わり

(1) 位置

写真1. Caracoles鉱山全景
写真1. Caracoles鉱山全景

 Caracoles錫鉱山はLa Paz市から南東へ248 kmのLa Paz県Inquisivi(インキシビ)郡Quime(キメ)町に位置する。La PazからはOruroへ向かう街道の149 kmに位置するKonani(コナニ)村で、北東~北北東に伸びるQuime方面へ向かう舗装道路に入り83 kmほど北東に進む。途中Tablachaca(タブラチャカ)村、Caxata(カクサタ)村、Huaynacota(ワイナコタ)村を通過し、Molinos川の谷に入ると、Caracoles鉱山の選鉱場・尾鉱堆積場のあるMolinos(モリノス)地区に到着する。Caracoles鉱山エリアの最も奥に位置する採掘場所はPacuni(パクニ)と呼ばれ、Molinos地区からは16 kmの距離である。鉱山の直下流にはMolinos集落がある。

(2) 歴史
 Caracoles鉱山も、例外に漏れずボリビアの錫三大財閥のひとつが始めた鉱山であり、1952年にCOMIBOLが操業する以前から稼行していた。  1986年のCOMIBOL解体に伴い同鉱山も活動を停止する。1986年から1996年までの10年間は閉山に伴う後処理

写真2. COMIBOL・Miranda
写真2. COMIBOL・Miranda
技術主任からの聞き取り調査

期間と位置付けられ、この間に各鉱山において、COMIBOLに解雇された鉱山労働者の間で協同組合(cooperativos)が結成された。現在は、COMIBOLが協同組合に「リース契約(Contrato de Arrendamiento)」の形で鉱山活動の場を明け渡している状態である。この協同組合は、4つの集団(El nevado Ltda.、Cooperativa Libertad Ltda.、Cooperativa Porvenir Ltda.、Cooperativa Gran Poder del Asiento Ltda.)から構成される鉱山協同組合で、まとめてGrupo Cooperativo Minero Central Caracolesと呼ばれている。

(3) 現状
 著者が実際に現場に立ち入ることができたMolinos地区、Argentina地区、Pacuni地区が、元来COMIBOLが採掘していた地区であり、現在は協同組合が探鉱・採掘活動を行っている場所である。また協同組合は、COMIBOL操業時代から存続するMolinos地区の選鉱場並びに堆積場をそのまま使用している。

    一方COMIBOLは、新たな鉱山プロジェクトとして、Proyecto Triunfo de Marnéプロジェクト(タングステン、錫、亜鉛)を2014年までに、またPackachaプロジェクト(錫、亜鉛、アンチモン)を2012年までに始めようとしている。これらの新規プロジェクトにおいては、Molinos地区にある既存の選鉱場並びに堆積場ではなく、新規設備を建設し、2つの新規プロジェクトにおいて共同で利用する計画である。このことから、Caracoles鉱山におけるCOMIBOLの存在意義は、協同組合の活動の管理・監督や、問題となっている堆積場の環境対策等ではなく、自らの新規案件の開発のためといえる。
 Milanda技術主任から聞き取った内容によると、2011年7月現在、月あたり1,693 tの採掘鉱石を処理し、錫精鉱45 tが生産されている。なお、COMIBOL操業時代の方が扱う鉱石量が多く、ピーク時は月6,000 tと、現在の約3倍あったというデータもある。

(4) 環境問題

写真3. Caracoles錫鉱山より
写真3. Caracoles錫鉱山より
下流側Molinos集落を臨む

 Caracoles鉱山における環境対策に関し、Miranda技術主任は、「1977年に施行され現在も有効である鉱業法(法令第1777号)には、環境や鉱害防止に関する規定があるものの、罰則がないため、同鉱山においても厳密に守られていないのが現状」と説明した。
 また、地域住民の環境への意識が芽生えたきっかけとして、2009年に制定された新憲法において、環境保護や先住民の権利等が明確に規定されたことが挙げられる。一例として、新憲法第304条に「先住民族と農民の自治権は、その管轄地域内で展開される鉱業活動を社会的・環境的にコントロールし、モニタリングすることを可能とする」と定められている。このことから、鉱山エリアの水が下流の町を流れることについて、鉱山の直下に位置する集落から一部苦情が出始めている。これら苦情の内容は、COMIBOLや協同組合が実際にモニタリングやデータの採取を実施している訳ではないため、鉱山の方向から流れてくる悪臭、並びに河川に直接流している選鉱廃水による川の水の変化から体感的に得られる内容とみられる。

 鉱山の下流側に位置するMolinos集落では、地域住民が川の水を利用して洗濯をしている姿が見受けられたが、Miranda技術主任の話によると、川の汚染を直接認識しているので、変色した川を避けて洗濯しているとのことであった。一方、さらに下流の街Quimeにおいては、川の合流に加え、下方に流れて行く間に多少浄化効果もあるためか、汚染水の色もかなり薄まっており、Quimeから苦情が聞かれるという話は聞かれなかった。

(5) COMIBOLと協同組合の関係
 協同組合が現在使用している堆積場に実際に立ち入った。選鉱場は月25日ペースで運転しており、訪問日も稼働していたため、COMIBOLに対し、選鉱場や採掘現場であるPacuniの坑道を見せてほしいと依頼したものの、これらは協同組合の管理下にあり、COMIBOLとしては操業や運営に全く関与していないので見せられない、更に、協同組合には関わりたくないので「見たい」と頼むこともはばかられる、という回答であった。上述のように、COMIBOLは現在の鉱山運営には関与せず、別途新たな場所で開発を始めようとしており、さらに新たなプロジェクトで使用する工場や廃さい置き場も新たに設置する予定で、協同組合との「棲み分け」が如実に感じられた。
 Caracoles鉱山において、COMIBOLと協同組合の関係は、「触らぬ神に祟りなし」「一発触発」と表現できそうなほど、良好なものとはいえず、むしろ、関わりを絶っていた。つまり、同じ現場にいても「共存」ではなかった。

4.まとめ

 Miranda技術主任の話によると、Caracoles鉱山エリア内には、宿舎等のいわゆる「鉱山町」が残っているという。これらはCOMIBOL操業時代に作られたもので、病院や学校等、鉱山エリア内に家族で居住可能な公共の施設がかつては整っていたそうだ。現在は、設備の改修が必要と述べていたが、いずれCOMIBOLによる新規プロジェクトが開始すれば、これらを改修し、雇用も増やし、鉱山町の賑わいを取り戻したい、という趣旨の発言が聞かれた。
 協同組合も、1986年のCOMIBOL解体により解雇された鉱山労働者同士が生活の手段として集まり、資源の枯渇により閉鎖した訳ではない鉱山を自ら再び生活の基盤とするために、結成されたものであろう。
 政府組織であるCOMIBOLと、公的組織ではない「有志」の集まりのような協同組合とでは、その立場の違いから、お互いが存在を認め合い共存することは今後も難しいかもしれない。しかし、一旦は解体され、実質的に鉱山運営などの面では機能していなかったCOMIBOLが再び新規案件を立ち上げようとしていること、一旦閉山した鉱山に「居座り」続ける協同組合、どちらも形は異なるが「古き良きCOMIBOL時代」の体現ではないのか。一言に「協同組合」と言っても、その形態、活動、COMIBOLとの関係等は各鉱山によって異なる。しかし、少なくともCaracoles鉱山の場合は、解雇後も自らの生活を守り、生き抜くためには手段を選ばず、勢いづいている協同組合と、これらの活動を黙認というよりは放置しながら自らの復活を目指すCOMIBOLが向いている方向は、どちらも同じであるように感じられた。
 2009年2月に公布された新憲法に基づいて、議会選挙(2009年12月)後1年以内に制定されなければならないと規定された新鉱業法が、未だ公布されないままとなっている。今後のボリビアにおける鉱業の趨勢、並びに「協同組合」の方向性を把握するには、新鉱業法を待たねばならない。

参考文献
 『ボリビアを知るための68章』明石書店、真鍋周三編著、p.183
 『ボリビア共和国の資源開発環境』金属鉱業事業団、1994年、p.11
 http://boliviaminera.blogspot.com/2007/10/los-desafos-del-grupo-cooperativo.html (2011年9月12日)
 http://www.ine.gob.bo/pdf/Resumenes/RES_2011_1.pdf (2011年9月30日)
 『平成22年度稀少金属資源開発推進基盤整備(持続的資源開発推進環境対策支援事業)に関する鉱山残渣調査報告書』、ジオテクノス株式会社、2011年、p.8
 『世界の鉱業の趨勢2010』、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2011年、p.313~320
 『ボリビアの鉱業投資環境調査2009年』、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2011年

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