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報告書&レポート

2011年11月4日 ロンドン事務所 小嶋吉広
2011年55号

2011年LMEセミナー報告

写真1. Abbott LME会長の冒頭挨拶
写真1. Abbott LME CEOの冒頭挨拶

 毎年恒例イベントとなっているLondon Metal Exchange(LME)主催によるLMEウィークが2011年10月3日の週にロンドンで開催された。この期間、世界中から金属関係者が集い、LMEを始め市場関係企業などによるレセプション、ディナー、または各種セミナーが多数開催され、関係者の交流、情報交換などの機会が提供されている。この時期に開催されるセミナーは市場予測に係るものが多く、供給者と需要家の間における翌年の価格設定の材料として重要性を持っている。
 本稿では10月3日に開催されたLME主催の「LME Metals Seminar」において、今後の金属市場の展望をテーマとする講演について報告する。本セミナーではこれまで、鉱種別の価格予測をテーマとした講演がなされてきたが、本年はよりマクロ的な視点で市場全体を分析する講演が多く見られた。また、これまで市場において大きな牽引役となってきた中国などの新興工業国の経済成長が減速傾向にあり、さらに先進諸国の成長停滞が予測される中、新たな局面を迎えつつある世界経済を視野に今後の市場動向を展望する講演が目立った。(講演資料はLMEのwebページで参照可能。)

1. 冒頭挨拶

 London Metal Exchange, Chief Executive, Mr. Martin Abbott

 今回は、最近のLMEに関するトピックとして3点話したい。
 まず、LME独自のクリアリング・ハウス(清算機関)の構築に関しては、2010年8月から実行可能性調査を行っており、率直な議論が進められている。LMEのビジネスで創出した価値を株主に還元すること、そしてLMEにおける効率を向上することが話し合いの焦点となっている。
 次に、LME倉庫に関しては過去5年間で、LMEに関する他のどの話題よりも多くメディアに報道されているが、確かな情報に基づく報道が少ないと感じている。LME倉庫における待ち時間の長期化が幾つか報道されてきたが、LME倉庫の課題は、様々な要素が複雑に関係して発生したものである。LME倉庫のシステムに関しては、根本的な欠点はないと考えている。LMEの役割は市場や価格に影響を与える要素に関する情報の透明性を保つことであり、市場を管理することではない。
 最後に、LMEへの買収オファーに関する各社の報道があったが、LMEではこれから数か月間は買収オファーに関するコメントは控え、買収オファーを検討するためのプロセスに入る。まず買収の申し出を受け付け、その後LME役員会で話し合いを行い、真剣に検討すべき買収オファーがあればLMEの株主に報告を行う。最終的な決定が下されるのは、早くても2012年Q2の終わりである。買収オファーの検討に当たっては、『LMEを売却する必要はない』という考えがあくまで基本にあり、その考えを覆すほどの素晴らしい買収オファーがない限りはLMEの売却は考えがたい。

2. 西側先進諸国の限界的借入と新興諸国の消費支出余力

 CCB International Securities Ltd., Global Head of Financial Strategy and Asia Banks, Mr. Paul Schulte(同氏は、アジア・新興市場のトップアナリストとして知られるが、1980年代にはWhite Houseの米国国家安全保障会議のアナリストでもあった。最近では野村証券から2010年に香港ベースの証券会社に移籍。)

● 今後の金属市場の需給動向を分析するに当たり、重要なマクロ経済指標として各国のLoan/Deposit比率(LDR)が挙げられる。これはマクロレベルでの預金債権総額に対する債務残高の割合であり、この比率が100%を超えると預金債権以上に借り入れを行っていることを示している。

● 主要国のうちLDRが低い国は、中国が68%と著しく低く、次いでカナダ、インドネシア、シンガポール、ドイツの順で高くなっており、これら国々はいずれも100%を下回っている。他方、LDRが高い国としては、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシア、スペイン(以下「PIIGS」)などソブリン・リスクが高いとされるユーロ圏外縁部の国々や、米国(政府保証による民間借入分も含む)、英国など多数の欧米諸国のLDRは100%を超えている(図1参照)。

図1. 各国のLDR

(出典:LMEセミナー講演資料)

図1. 各国のLDR

● LDRが低い中国(68%)は、投資に回すことができる流動性資金を2兆US$有している。他方、LDRが高い国々は借入れに依存しており、例えば、PIIGS(130%)は5,000億US$、米国(140%)は2兆US$を借入れに依存している。今後、巨額の流動性(即ち投資)資金を有する中国が、米国やPIIG諸国に財政支援の手を差し伸べるのか、あるいは自国の経済成長のために投資をするかは大変興味深いところだが、後者の可能性が大きいと言えるであろう。

● 一般に、異なる国々の通貨価値を図る指数として、Big Mac Indexというものがある。これは「国際同一商品」としてのビッグマックの販売価格を基準に試算した購買力平価水準であり、例えばビッグマックが日本で320円、米国では4 US$であった場合、1 US$は80円の価値を有すことになる。その時点での為替レートが85円であった場合、円が実態に比べ5円ほど過小評価されているという考え方である。このBig Mac Indexを用いてLDRとの相関関係を分析すると、豪州、ブラジル、ユーロ圏諸国などLDRが100%以上の国の通貨は過大評価され、中国、インドネシア、マレーシアなどLDRが100%以下の国の通貨は過小評価されているという関係が見られる。経済学的には一般に、経常収支が赤字の国は通貨が減価すると言われており、豪州、ブラジル、南アといったいわゆる資源国においては今後インフレ率が高くなることが予想され、借入れを減らさざるを得ない事態になるであろう。

● 横軸にLDR、縦軸に「各国の市場の時価総額/現預金総額」を取ると、各国の市場経済の信用度は時計回りにサイクルを描くと考えられる(図2参照)。中国はまだ借入金比率が低いので今後レバレッジが高まるだろう。レバレッジが高まると各国の中央銀行は政策金利を徐々に引き下げる。さらにレバレッジが高まると、当該国の為替レートが低下し、市場の時価総額が下がり、借入金比率も下がるというデフレによる市場縮小の動きとなる。最終的に借入金比率も時価総額も下がったのが日本である。インドネシアはサイクルを逸脱するほど信用度が高く、逆にPIIGS諸国は圧倒的に信用度が低い。

図2. 各国の市場経済の信用度

(出典:LMEセミナー講演資料)

図2. 各国の市場経済の信用度

   一方、LDRが100%以下でかつGDPに対する消費の割合が世界的に見て低くその数値が60%を下回っている国々、すなわち中国、東南アジア諸国は今後4~7年のスパンで見ると消費が更に拡大することが予想される。中国の現在の一人当たりGDPは約6,000 US$であるが、諸外国の例を見ると一人当たりGDPが6,000 US$(購買力平価ベース)を超えると、金属や石炭の消費増が顕著になる傾向がある。中国における不安要因は国内の経済格差であり、上海、北京をカバーする東部都市部と西部農村地帯との経済格差は著しい。これら2地域の人口は3億2千万人でほぼ同等だが、東部都市部の一人当たりGDPは西部農村地帯の3.6倍にも上り、政治的にも中国政府はこの格差是正を重要項目して取り組んでいくものと考えられる。

● 国の規模から見ても、中国の動向に対しては注視していく必要があると言える。GDPに対する銀行及び企業が有する現預金保有高を国別にGDP比でみると、香港はGDPの75%、中国はGDPの30%に対して、欧米は10%以下の水準となっている。中国は、経済規模と比較して国内消費が小さいことから、負債を減じたネットの現預金残高が3.5兆US$相当額に上っている。この現預金残高を目当てとして、先進各国が自国製品の販売及び各国の資産売却を画策しているのは当然理解できる。

● 上記の事実をコモディティ市場に当てはめて見ると、以下の点を理解することができる。

 ① 2007年の金属価格高騰に見られるコモディティのバブルは、自己資本に比し過剰な借入が招いた結果である。

 ② 今後何年かは投機等を含む“過剰な借入による”コモディティ市場への影響は影を潜め、ファンダメンタルズに基づいた実需がより価格形成に影響を与えることになるであろう。

 ③ 世界的に見て中国等の新興工業国の経済成長による石炭、鉄鉱石、銅の構造的需要は引続き力強いものであると予想される一方、米、英及びユーロ圏PIIGS諸国の需要は低調に推移するものと思われる。ただし、日本においては原発事故により石炭の需要は増加するであろう。

 ④ 貿易赤字、経常赤字のいわゆる「双子の赤字」問題を抱えるコモディティ生産国の豪州、ブラジル、南アは、今後、予想を超える経済成長低迷と通貨減価の事態が発生するおそれがある。

● 今後の世界の経済動向を見る上で、最も貴重なリソースは自己資本でありLDRの動きに注意して行く必要があると言える。総じてLDRが100%を超えている米、英及びユーロ圏PIIGS諸国は、まずは借入れ減少を目指した緊縮財政の下、積極的な財政政策が取れないことから経済成長は低迷を続けるであろう。

3. LMEの新しい商品とサービス:パネルディスカッション

 London Metal Exchange, Head of Business Development, Mr. Cris Evans
 Marex Financial Ltd., Managing Director & Global Head of Sales, Mr. Gavin Prentice
 London Metal Exchange, Asia, Managing Director, Mr. Liz Milan
 HSBC Bank Plc., Managing Director, Ms. Fabian Somerville-Cotton

● 直近1年でLMEに起きた大きな出来事としては、LMEが買収のターゲットとなりいくつかのオファーを受けたことが挙げられる。LME自身は“身売り”の必要性は全く無いと考えるが、株主であるLMEメンバー(94社)の75%以上が買収を受入れるとすれば、他社の傘下に入ることになる。買収提示価格は判断に際しての重要な要素であるが、買収後もLMEが提供する現サービスを維持することが出来、また買収によって何らかの便益をもたらすことが明確となれば買収に同意することになる。

● 数か月前よりLME自身のクリアリング・ハウス(清算機関)設立に向け本格的に検討を開始した。LMEでの取引に係る清算業務をインハウスで行うことは、業務の垂直的拡大により最大限の効率向上をもたらすことに加え、コスト節約に留まらず追加的な収入増加になることから、こうした動きを取るに至ったものである。今後、株主、LMEメンバー等と協議を重ね、最終的な結論を出すこととなる。

● LMEではコバルト、モリブデンの取引を2010年2月より開始したが、LME価格は現物取引の価格とほぼ相関して動くなど、これまでのところ概ね良好に推移していると言える。コバルト、モリブデンの購入契約において、LME価格準拠を盛り込んでいる例はまだ極めて限られているが、上場後、LME価格が普及するまでは過去の例からみても多少時間がかかるものと見込まれる。

● LMEの指定倉庫において、倉庫からの引き渡しに時間を要する問題については、いくつかの倉庫で在庫がタイトになっていたことが一因であると考えられる。こうした事態に対処するため、LMEは指定倉庫からの最低受け渡し量や倉庫保管料を6か月毎に見直していくこと等を決定した。

● 2010年、シンガポールにLME初の海外事務所を設置した。2011年2月にはシンガポール取引所と連携してLME−SGXの金属先物商品を導入し、アジアのみならずアジア近隣市場をターゲットとしている。アジアでの需要家及び機関投資家の金属商品取引量は大きく成長しているが、一般の個人投資家も大きな興味を示している。今後アジアの会社とのジョイント・ベンチャー等を通じ、アジアにおける新たなビジネスチャンスを見つけるとともに、拡大する一般の個人投資家のニーズに合う商品も導入していきたいと考える。

4. 非金属市場の需要展望

 CRU, Group Manager – Non-ferrous Metals, Mr Paul Robinson

● 2000年から2010年の間の金属市場の成長は中国の需要拡大に負うところが大きい。世界全体の需要量における中国の割合は、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、アルミニウムにおいて2000年の10%前後から2010年には40%前後に大きく飛躍している(図3参照)。

図3. 需要における中国のシェア

(出典:LMEセミナー講演資料)

図3. 需要における中国のシェア

● 2008年後半に始まった世界金融危機によるOECD諸国の経済低迷は、2009年Q1に底を打った後、回復基調となったが、2010年10月に回復のピークに達し、世界景況は今後成長鈍化のサインを示している。この状況下にあって、中国が引き続き金属需要拡大のドライビング・フォースとなり続けるかどうかは、慎重に見極める必要がある。

● 欧米諸国の経済成長低迷に伴う消費減退により、中国国内の輸出産業が影響を受けることに加え、中国政府の金融引き締め政策により、住宅、自動車などの内需が減速している。よって中国の経済成長は今後も健全なレベルで維持されるであろうが、従来に比べ成長率は鈍化するものと予想される。2008年の世界金融危機の後、中国国内での製品在庫積み上げにより金属価格は回復したが、今回は中国が再度そのよう動きに出る兆候は見られない。

● 錫、鉛、銅、亜鉛、ニッケルおよびアルミニウムに係る2012年の需要予測において、需要の伸びの50%以上が中国の寄与によるものと見込まれるが、各鉱種の市場見通しは以下にまとめることができる。

 ① 錫:2009年は世界金融危機による需要減により供給超過となったが、2011年は若干の供給不足となっている。2011年の世界における電子産業の成長率は6縲・%と見込まれており、錫の需要増の要因となっている。また、リチウムイオン電池や触媒、再生ガラス(e-glass)等の省エネ技術の開発により、錫需要の増加が予想される。現在の供給不足は2014年までには需給均衡となり、2015年までの錫需要は年率平均2.1%で成長すると考えられる。

 ② 鉛:中国浙江省での電池工場からの鉛汚染問題は、政府当局が取締まりに着手したことから短期的には中国の鉛需要は減少するが、その影響は2012年には解消するであろう。北米の電池需要が堅調であることから、2015年までの鉛需要は年率4.1%で成長すると考えられる。

 ③ 銅:2011年については、中東・北アフリカでの政治的混乱が需要に与える影響は限定的と見られている。また、中国は財政引き締め政策により、在庫の積み増し(又は積み直し)は行わないという見方が一般的であるものの、2011年は供給不足になると予想される。中国の2011年縲・012年の消費はほぼ同水準、欧州の消費は2011年Q2より下降局面に入っており、米国の銅地金需要も鈍化している。銅の代替としてアルミが使用されているのも需要減の一因である。そのため、銅需要の2015年までの平均成長率は年4.3%程度と見込まれている。

 ④ 亜鉛:日本の自動車産業の回復の勢いは当初予想よりも力強く、日本市場における長期的なインパクトも当初懸念されていたほどではないと見込まれる。総じて需要は堅調で2011年縲・012年には供給過剰が解消されるものと見込まれる。そのため、亜鉛需要は2010年から2015年にかけて年率約5.0%で成長すると見込まれる。

 ⑤ ニッケル:ニッケル需要は総じて堅調な動きを示すと見られる。中国は、ニッケル価格の低下に伴いニッケル銑鉄の生産が一時的に中断されたことから、最近輸入増加の動きに出ている。それに加え中国のステンレスメーカーがスクラップよりもプライマリーのニッケル銑鉄を選り好みする傾向があり、また、電池またニッケル合金鉄などの世界的需要が強いことなどが、その背景となっている。そのため、2015年までのニッケル需要は年率約7.0%で成長する見込みである。

 ⑥ アルミニウム:上記に掲げた鉱種に比べアルミニウムは最も旺盛な需要が期待できる。この理由として、銅などの他の金属の代替としてアルミニウムが使用されていること、特にアジアにおいて飲料用の缶において需要が堅調であること、中国において自国生産価格より安いアルミニウムを輸入売買する裁定取引が中国需要を喚起していること、自動車、航空機など運輸セクターにおいて需要が強いことなどが挙げられる。アルミニウムの消費は今後も堅調に推移すると見込まれ、2015年までのアルミニウム需要の成長率は年率約7.6%と高い水準が見込まれる。

● 今後12か月の消費動向は不確定要因もかなりありボラタイルな(上下の揺れが激しい)動きを見せることが予想される。しかし中期的には、技術革新に伴い金属、特にレアメタルに対する新たな需要創出が見込まれる。例えば太陽電池普及による錫の需要、自動車の軽量化によるアルミニウムの需要、またハイブリッド自動車用のニッケル水素電池の需要拡大などの新規需要によりファンダメンタルズは良好に推移するものと考えられる(図4参照)。

図4. 2015年までの需要成長予測

(出典:LMEセミナー講演資料)

図4. 2015年までの需要成長予測

5. 非鉄金属の供給サイドとして対応

 Maquarie SecuritiesGroup, Commodities Research Executive Director, Mr. Jim Lennon

● 2000年~2010年の銅、亜鉛、ニッケル、アルミニウム市場において、需要の拡大を支えてきたのは中国の需要によるものである。この需要増大に対応する供給増加は中国自身が自ら担ってきたとも言える。中国における鉱石生産量は限られているが、鉱石を輸入して、安価な電力コストや人件費という比較優位を用い国内で製錬し、国際競争力のある地金を供給してきた。これにより中国の供給シェアは世界全体の 20縲・0%と極めて高い水準にまで達した。中国の比較優位は、設備投資コストが安価であること、建設許可入手など事前準備期間が短期間であること、地方政府などの助成により資金調達コストが低いこと、これまでは環境規制が緩やかであったことなどが挙げられ、こうした要因により需要を賄うための製錬設備の急速な増加を可能ならしめてきたのである。

● しかしながら近年、鉱石の供給元である鉱山において生産に影響を及ぼすような事象が発生するようになってきた。例えば、鉱石品位の低下、鉱山用大型トラックタイヤやSAGミル等鉱山資機材の調達時間の長期化、過度の採掘による落盤事故発生、製錬設備のメンテナンス不足などが挙げられる。またこれら以外にも、チリでの水不足(海水淡水化プラントのコスト上昇)、鉱山技術者の不足、環境許認可手続きにおける各種要請、天候不順及び地震災害の頻発、資金調達コスト及び開発コスト上昇によるプロジェクト遅延、資源国での鉱業法制及び財政制度変更による不確実性の増大などが挙げられる。

● 鉱石品位低下に関しては、これまでの積極的な採掘活動の結果、銅、亜鉛、ニッケルにおいて鉱石品位低下が発生し(図5参照)、世界的に高品位鉱石の採掘が難しくなってきている。この結果、チリなど主要生産国においては、新規プロジェクトが生産開始しても全体の生産量増加に繋がらない事態が発生している(図6参照)。

図5. 鉱石品位の低下

(出典:LMEセミナー講演資料)

図5. 鉱石品位の低下

図6. 鉱石生産量の推移

(出典:LMEセミナー講演資料)

図6. 鉱石生産量の推移

● 亜鉛について見てみると、2015年までの間に、閉山及び生産減を迎える鉱山は以下のとおりである。他方、その減少分を補うべく以下に掲げる新規鉱山の操業開始が予定はされているが、予定どおり操業開始できるかどうかは今後注視する必要がある。

1. 閉山
 ・Brunswick、 カナダ(230千t/年)〔2013年閉山予定〕
 ・Perserverance、 カナダ(135千t/年)〔2014年閉山予定〕
 ・Mt.Garnet、豪(55千t/年)〔2014年閉山予定〕
 ・Century、豪(500千t/年)〔2015年閉山予定〕
 ・Lisheen、アイルランド(170千t/年)〔2015年閉山予定〕
2. 生産減
 ・Antamina、ペルー(180千t/年)〔2011年から〕
 ・Golden Grove、豪(50千t/年)〔2013年までに〕
 ・Red Dog、米(45千t/年)〔2015年までに〕
 ・San Cristobal、ボリビア(85千t/年)〔2015年までに〕
3. 新規又は拡張
 ・Penasquito、メキシコ(85千t/年)〔2011年から〕
 ・Rampura、インド(50千t/年)〔2011年から〕
 ・Perkoa、ブルキナファソ(100千t/年)〔2012年から〕
 ・Dairi、インドネシア(120千t/年)〔2013年から〕
 ・Dugald River、豪(200千t/年)〔2013年から〕
 ・Neves Corvo Lombador、ポルトガル(100千t/年)〔2014年から〕
 ・Oued Amzour、アルゼンチン(120千t/年)〔2014年から〕
 ・Cerro de Pasco、ペルー(100千t/年)〔2015年から〕
 ・Ozernoye、ロシア(300千t/年)〔2015年から〕

● 2010年~2020年の間の10年間において、需要に対応するため必要な供給量の追加分は2000年~2010年の10年間に比べ大幅に増えているが(図7参照)、開発プロジェクトは未だグリーンフィールド段階のものも多く、必要量に見合った鉱石を供給できるか予断を許さない状況である。

図7. 2010年~2020年の10年間で必要な追加的供給

(出典:LMEセミナー講演資料)

図7. 2010年~2020年の10年間で必要な追加的供給

● また、中国国内での地金生産にも変化が見られる。これまで中国はその“安い労働力”を武器に国内で製錬を行い、地金を供給してきた(銅は除く)。しかしながら最近、状況は変わりつつあり、中国国内での賃金、エネルギーコスト、輸送コストの急激な上昇が見られるようになってきた。今後人民元が米ドルに対し年率3縲・%切り上げされれば、中国での生産コストは米ドルに換算しておおよそ年率7縲・0%も上昇することになる。中国の製錬所の特徴として、供給の価格弾力性が高いことが挙げられる。これは2008年後半の金属価格下落と2009年の価格回復の時期に顕著に見られ、金属価格が高ければ地金の生産を増やし、低くなれば生産を急激に落とし、輸入を増やしている。このように価格にシビアな中国の製錬所は、今後、人民元切り上げによって国際競争力が低下すれば、生産を大幅に減少させる恐れがある。

●上記のような、鉱山での生産環境の変化及び中国における生産コスト増加の動きは、金属価格のコストアップへと作用するため、今後の金属価格は、2000年代前半までのような低い状況に戻ることはもはや想定できず、引き続き堅調に推移するものと考えられる。なお、供給サイドにはプロジェクトの遅延等の不確実性が存在するため、引き続き注視は必要である。

6. 新ファンダメンタルズ−現市場を動かす要因は何か?−パネル・ディスカッション

 LME, Head of Education and Marketing, Ms. Catherine Markey
 LME, Deputy Chief Executive, Mr. Diarmuid O’Hegarty
 CRU,社、Group Manager – Non-ferrous Metals, Mr. Paul Robinson Maquarie SecuritiesGroup, Commodities Research Executive Director, Mr. Jim Lennon

– 今後の金属市場を展望する上で需要/供給という基本的な要因に加え新たにどのような要因を考えていく必要があるであろうか?

● 資金面:2008~2009年の金融危機においては、プロジェクト実施に当たり資金調達が極めて難しくなり、設備投資の遅延やプロジェクトの規模縮小等が見られたが、その後、資金調達は急速に容易になり、資金調達がプロジェクト実施の障害となっている事例は少なくなってきている。現在、市場の勢いに翳りが見え始めていることから、需要動向を見極めるためプロジェクト実施を一時的に見合わせるケースは考えられるが、中長期的には需要は力強く成長するものと予想される。これまで需要を賄ってきたのは主に1970年代後半から80年代にかけて着手した大規模プロジェクトであったが、鉱量が枯渇してきているものもあるため、大規模な新規プロジェクトを新たに立ち上げる必要がある。そのためには、資金調達をいかに効率よく行うかがキーになってくる。

● 法制面:EUレベルでの金属取引におけるポジション上限規制法案が10月19日に出される予定だが、これはLMEや他の取引所における金属取引に影響を与えるかどうか関係者は注目している。事前に報道された草案で見る限りにおいては、市場安定を重視する等一般的な内容に留まっており、特に懸念する必要は無いと考える。ただ規制当局が、金属市場特有の将来的リスク、即ち鉱石を採掘し製錬過程を経て地金にするまでには時間を要し、製品となった時点での市場における価値というのは予測し難い、という特殊事情を容易に理解できると期待してはいけない。LMEは金融市場ではなく、金属の公正な価格をセッティングする市場であり、リスクをヘッジする市場であるという点をアピールし、EU規制案の内容がLMEの活動を制限するもので無いことを確認していく必要があろう。

● 各国の政策:特に中国の政策の動きが需要に与える影響を今後の予測要因として考えることは重要である。現地の関係者と連絡をとり現状をできるだけ把握したつもりでも、これまでの経験からして予測不可能な事態に遭遇することも考えられ、その場合は予測の前提条件を明確にしておき、予測とのギャップが生じた時点で予測の前提条件を実情に合わせて変えていく方法がベストと考える。

● 金融商品の動向:ETF(Exchange Traded Funds)やベースメタルIndex Fundsのような金融商品の価格が上昇しているが、これは実物or現物の取引価格ではなく先物の理論上のフォワード・カーブ上の価格が反映されたものである。このような取引は現物ではなく投資の契約書を買っているもので、ファンダメンタルズとは乖離した動きとなることがある。市場は先物価格などに影響され短期的に急上昇することがあるが、四半期毎で見てみると市場平均価格はファンダメンタルズを反映する形となって現れている。短期的に投機によって価格が変動しても、長期的にはファンダメンタルズに沿った価格水準に収斂するようになっている。

● 在庫量と価格:一般的には在庫量と価格は負の相関関係を有するが、銅やアルミニウムのように在庫が増加しているのに価格も上昇するという現象が発生している。これは実物の動きを伴わない先物購入契約の増加や投資目的の長期保有在庫の存在、またアルミのコスト高が価格に反映されるなどのいくつかの要因が複合的に作用した結果の動きである。現在、在庫量には3種類あり、①金融機関が保有する在庫、②中国国内の在庫,③実際の物質的在庫、である。これらを正確に把握し、さらにこれら在庫量と価格の関係を明快に示すことは極めて困難である。

7. 所感

 先進国においては、欧州での政府債務問題に端を発するユーロ危機や米国での失業率上昇による社会的な雇用不安など、将来の景気に暗い影を落とす報道がここ数週間で増えてきた。また直近の中国社会科学院の発表では、2011年Q3の中国のGDP成長率は9.2%となり、2011年通年の成長率も9.4%に下方修正され、ここ数年のような2桁成長から減速していることは明らかである。
 筆者は今回初めて本セミナーへの参加の機会を得たが、本年上期に出席した同様のカンファレンスでの雰囲気と比較するならば、「景気の潮目が変わってきた」という意識を参加者が共有しているものの、次に到来する世界経済の具体像・絵姿がはっきりと見えないという漠とした不安感が会場のフロアーに漂っていることを肌で感じ取ることが出来た。それ故、講演において金属需要は今後も着実に拡大し、価格も堅調に推移するという見方に対し、聴衆は懐疑的とまでは言えないが一歩引いたスタンスで反応していた感があった。
 自由主義経済はそもそも経済主体の多数性、すなわち多数の売り手と買い手がおり、各主体は価格に影響力を持たないことを成立の前提としているが、今日の金属市場は価格に多大な影響力を有する二つの巨大なプレーヤーを胚胎してしまっている。一つは投機筋であり、取引市場における利益の極大化という至上目的の下、実需とは乖離した形で巨額の資金を操作し、価格のボラティリティを高めている。二つ目は中国であり、13億人を擁する国家そのものが中華思想の下、一つの経済主体を形成し、自由主義市場経済の行動原理とは異なる社会主義市場経済の原理に基づき行動をしている。社会主義市場経済の中国が自由主義経済の市場・フィールドを跳梁跋扈するということは、冷戦崩壊以後最良のものとして人々に広く信奉されてきた自由主義市場経済の価値観、意思決定プロセスの妥当性に対し内部からアンチテーゼを投げかけているということでもあり、これは、社会主義市場経済による自由主義経済への挑戦ともいえよう。
 世界経済の一断面である金属市場が、これらの特異なプレーヤーを胚胎し、かつ時には規制しながら、今後到来するであろう世界的な景気後退局面においてどのような変容を遂げていくのか、引き続き関心を持って見守りたい。

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