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報告書&レポート

2011年11月17日 希少金属備蓄部 北 良行、山本 耕次 ロンドン事務所 小嶋 吉広
2011年60号

南アフリカの最近の鉱業事情

 南アフリカは、金、プラチナ、クロム、マンガン、バナジウムなどを産する世界有数の鉱業国で、また、南アにとっても、鉱業部門は輸出総額の4割を占め、産業雇用人口は約50万人を超え、鉱業は国内経済における主要産業である。
 平成23年9月南ア・ヨハネスブルグで開催された鉱業会議の参加に伴い、南アフリカ鉱業関係機関等と面談し情報収集を行った。ここでは、その時得た情報等を参考に、南アフリカ鉱業に関する政治経済、ストライキ、鉱業憲章、鉱山国有化等の動きについて概説する。なお、現在最大の関心事となっている電力問題、輸送問題についてはカレント・トピックスNo.11-53、No.11-59にて報告済みであり、今回は割愛する。

1. 南アの政治・経済

1-1. Zuma大統領への支持は低下傾向であるがANC支持に大きな変化はみられない
 ANC(African National Congress)への圧倒的な支持に大きな変化はみられないが、ANC党内では、選出されて2年が経過したZuma大統領の2014年に予定される総選挙で続投への信任に揺らぎが出ている。ワールドカップも終わり、ANCYL(African National Congress Youth League:青年同盟)のMalema代表の暴言や、COSATU (Congress of South African Trade Unions)と政府による経済政策をめぐる対立で、ANC、SACP(South African Communist Party)、COSATUによる三者関係に亀裂が生じ、政権の安定性が弱まっているのではとの憶測が広がっている。
 こうした中、Zuma大統領は2009年5月の政権発足から17ヵ月たった2010年10月31日、内閣改造に踏み切った。Siphiwe Nyanda通信大臣、Geoff Doidge公共事業担当大臣、Barbara Hogan公営企業担当大臣を更迭し、9閣僚を入れ替えた。ただし、財政、経済担当相の入れ替えはなく、経済政策への影響はないとみられている。
 内閣改造後公表された新成長戦略は、COSATUに配慮し雇用対策に重点が置かれたもので、同政権が左傾化し財政が肥大するとの懸念が広がった。Ebrahim Patel経済開発大臣は「富裕層と貧困層の所得格差は拡大しており、失業率は若年層が高い」とし、新成長戦略では、①2020年までに500万人の雇用創出、②失業率を25%から15%に改善、としている。しかし、新成長戦略の中の雇用目標については、実現可能性の低い目標を掲げているとの批判が圧倒的である。政権発足以降、経済政策運営における国家計画委員会(NPC National Planning Commission) Manuel委員長への権限集中を批判し、Zuma大統領は、Manuel委員長の権限をインフラ整備などの開発計画に集約し、Patel経済開発大臣の権限が相対的に強まっていた。そのManuel委員長は、2011年6月6日、国造りの長期的な課題に取り組むNPCとして行った南アの経済情勢や社会構造、喫緊の課題等を示す調査報告書を発表した。南アの最も差し迫った課題は教育と失業であり、この他公共及び行政サービスの改善、汚職の根絶、インフラ整備などについても述べられている。

1-2. ANC内部ではANCYLが火種
 ANCは、基本的にはZuma大統領をサポートする中核部、COSATU等の労働組合を中心としたSocialist、ANCYLなどPopulistという内部の構成は変わっていない。ANCの内部ではCOSATUなど労働組合系とZuma大統領との関係は従来通り良好といわれる。しかし、ANCYLの動きが国有化の問題など過激になっており、今後問題が生じる可能性がある。Zuma政権は発足当初のような人気がなくなり、ANCYLのリーダーMalemaからはZuma大統領はやめるべきであるとの発言も出ている。
 そのMamelaはボツワナ訪問に際して、ボツワナのKhama政権を「米国の傀儡」呼ばわりし、「同国野党と共にボツワナの政権交代を目指す」と発言した。ANCは党の綱領に様々な形で違反したとの理由により、Malema及びシバンブ報道官を党懲罰委員会に召喚、Malemaの党員剥奪の憶測も流れた。召喚はされたもののANC本部前で抗議をする若者が続出、騒動が暴力を伴い過激化したため、ANCは一旦Malemaを解放し、場所を移して後日懲罰委員会を再開する旨を発表した。さらに、Malemaには政府の入札に対する便宜供与の見返りとして様々なビジネスマンから金銭を受け取ったという汚職の疑惑も浮上している。Malema及びANCYL側は申し立て内容を全面否定しているが、調査が進められることとなった。

1-3. 統一地方選で野党民主同盟が躍進
 野党の動向については、COPE(Congress of the People:国民会議)に変わって野党民主同盟(Democratic Alliance:DA、ケープ州付近が主な支持地域)が注目を浴びてきた。基本的には支持者が白人中心の政党であるが、インド人、カラードなどからの支持も受けている。ただし、黒人にはまだ浸透していない。2010年7月には独立民主党(ID:Independent Democrats)と選挙協力と将来の統合を打ち出した。2018年の総選挙でどうなるか注目されている。インカタ自由党(IFP Inkatha Freedom Party)は、国民自由党(National Freedom Party:NFP)とIFP に割れた。このように野党も一枚岩ではなく、圧倒的な支持を得ているANC に対抗できる状況ではない。
 このような情勢下、2011年5月26日、統一地方選が実施された。ANCが60%を超える得票率を得て勝利したものの、前回2006年に比べ2.7ポイント低下した。一方、DAは大きく票を伸ばした。ここ数年、ANCが市政を担う地域の行政サービスに対し、国民の不満が高まっている現われと言われている。

2.ストライキ等

2-1.頻発するストライキ
 2010年COSATUが警告していた労働組合ストライキが2011年7月に始まった。ストは金属業界労組から始まり、科学、エネルギー、製紙、印刷、木材業界労組、鉱山業界系労組などを巻き込んだ大規模なものに発展、各労組は雇用者に対し二桁の賃上げを要求した。ストは1~2週間ほどで収束したが、7月後半から行われた鉱山業界系労組のストは8月に入ってからも継続された。金鉱山会社AngloGold Ashanti社、Gold Fields社、Harmony社の鉱山労働者約10万人は、2011年7月28日からストに入っていたが、8月2日、経営者側と2年間の賃上げ協定を締結したことによりストを終結した。労働者の職位によって7.5~10.5%の賃上げが行われる。De Beers社でも、鉱山労働者と経営者側の賃上げ交渉が決裂したことを受け、7月22日からスト入りしていたが、8月4日、2年間の賃上げ協定で合意に達したことからストを終結した。同社は14日間に及んだストライキにも拘わらず、2011年の生産目標達成は可能であると予測している。一方、白金生産世界第2位のImpala Platinum社は、南ア鉱山労働組合(NUM:National Union of Mine Workers)との賃上げ交渉は長引いた。

2-2. ストライキの背景
 黒人層でも政治家やビジネスマンは、民主化の進展やZuma政権樹立による利益を享受している一方、労働者はこれらによる利益を十分に享受していないという意識がある。また、汚職事件も発生しており、現状に対する不満がある分、将来に対する期待が高くなってきている。インフレーションがかなり高くなっているが、労組側の賃上げ率はインフレ率より高くなっている。2010年のインフレ率は約5%、賃上げ率は全労働者平均で8%程度となっている。その理由としては、低賃金の労働者ほど、全支出における基礎的な支出(食料、電力、交通費等)の割合が高く、食料や電力等の基礎支出の値上げによる家計への影響が高くなるため。最貧困層の生活に換算すると10%以上のインフレとなる。なお、国有企業関係の労組側からは18%との要求があったが、政府は6%を提示した。またANCは立法により、ストライキ中の暴力行為(鉱業以外で発生)は非合法とした。低所得者層では8%~10%の賃上げとなったが、石炭鉱山や白金鉱山では、賃上げ分は製品価格に転嫁せず、効率化で対応する。また金鉱山では、生産性向上に係る基本合意を締結した。労使間の基本合意はインフレ率が想定を大きく上回らない限り、2年ごとが原則である。南アでは賃金、インフレ問題はもとより、失業も大きな問題である。
 2011年前半の失業率は2008年の水準を下回っているものの、2011年Q2は25.7%で2011年Q1の25.0%から悪化している。政府は、2009年と2010年で395千人の雇用が喪失したとしている。2011年Q2において喪失した雇用のほとんどが若年層で、今や若年層の60%が失業していると言われている。Zuma大統領は、若年層の雇用状況を改善すべく、90億ランド(約11.3億US$)のファンド設立を求めることに加え、政府系の投資機関であるIDC(Industrial Development Corp.)に対し、新たに100億ランド(約12.6億US$)を雇用創出に繋がる分野に投資することも求めている。2020年までに500万の雇用を創出することを謳った「新成長戦略」の実現に向けては、まだまだ課題が多い。

3. 鉱業憲章

3-1. 鉱工業業界の見通しは暗雲
 2011年7月の鉱業生産高は、前年同月比で5.1%減となった。主因は、金と石炭の生産量減少である。この2種の合計で南アの鉱業生産の42%を占めるが、前年同月比で10.2%の減少となった。また、白金族金属においても落ち込みは顕著で、前年同月比で10.0%の減少となっている。短期的には鉱工業業界の見通しは芳しくないといえる。

3-2. 鉱業憲章の改定、付加価値化
 南アでは2009年4月に大統領選挙が行われ、翌5月に、Zuma 新大統領の下、鉱業大臣にSusan Shabangu 女史が就任し、今後の鉱業政策として、鉱山保安対策の重視、鉱業憲章で定めるBEE(Black Economic Empowerment)政策の見直しを重点的に行い、また、国営鉱山企業の設立可能性の調査検討を行うことを表明した。
 鉱業憲章の改訂は、各関係機関との調整に手間取り難航したが、2010年9月13日、一年遅れで内容が公表された。鉱業大臣は、2010年時点ではBEEの目標ターゲットに達することができなかった項目がいくつか存在し、特にBEE権益譲渡については、2009年目標15%以下の、企業平均8.9%しか遵守できていなかったと警告した。今回の改訂には、BEE権益譲渡の促進、労働者の技術スキル訓練の充実等を厳格化する内容を盛り込んだ。特に、法的拘束を明示、不遵守企業は、探鉱権・鉱業権の無効、罰則の対象となり得るとした。BEE権益譲渡の目標は最低26%を保持、BEE企業からの資本財の調達40%、サービス調達70%、消費財調達50%で、また、年間収益の0.5%を社会開発ファンドに、支払い給与総額の5%を人材育成に利用する、などである。
 一方、付加価値化に関する戦略で定められた10種の鉱物(金、白金族金属、ダイアモンド、鉄鉱石、クロム、マンガン、バナジウム、ニッケル、チタン、石炭/ウラン)の付加価値化の達成レベルによっては、譲渡すべき権益11%のオフセットが可能と義務緩和がなされた。
 南ア全国鉱山労働者組合(NUM:National Union of Mineworkers)の代表は、HDSA(Historically Disadvantaged South Africans)への利益還元の増加のためにも、遵守の取り締まり強化を歓迎している。他方、南アの法律分析や市場分析の専門家等は有用な内容も多くあるが、曖昧な点を残す可能性もあると指摘する。南ア鉱業協会(Chamber of Mines)の代表者は、「今回の鉱業憲章の発表は、改訂内容に係る方向性を示すものであり、完結したことを意味しているのでは無い」とコメントしていた。
 なお、Zuma内閣は2011年6月9日付加価値化戦略を承認し、声明文の中で「高付加価値化戦略は、鉱物資源が南アにもたらす優位性を国家の競争優位性へと成長させるための枠組みを提供する。また、国内外の投資家にとっては、南ア経済における高付加価値化産業及び製造業への投資を行う好機となるだろう。」とコメントしている。

3-3. 南アBEE権益譲渡の現状
 南ア鉱物資源省(Department of Mineral Resources:DMR)は、BEE権益譲渡達成目標は2009年までに15%であったが、実際にHDSAに譲渡されたのは8.9%であり目標値を下回っていたと発表した。ただし、BEE政策の実施状況には進展が見られ、2014年までの目標26%を達成できることを確信しているとコメントした。しかし、南ア鉱業協会は国会でプレゼンテーションを行い、同協会会員会社は既に目標値を超える平均28%をHDSAに譲渡していると主張した。
 今回のインタビューでも、南ア鉱業協会は会員企業が政府に提出したレポートを協会にも提出させ調査を実施したという。協会会員は殆どが優良企業であり、これをもとに集計すれば良い結果となるのは当然で、会員会社で15%を下回っている会社は1社も無かったという。SAMDA(South African Mining Development Association)など小規模鉱業では達成率が5%とみられている。
 政府と協会で数値に大きな違いが起きる理由としてまず考えられるのが、上記のような対象会社母集団の違い。次の理由として考えられるのが、企業の発行済み株式の分母の考え方である。政府は全世界での発行株式を分母にしているが、協会は南ア国内での発行済み株式を分母としている。また、BEE企業として分離・独立させた場合の、たとえばExxaro社やARM(African Rainbow Minerals Ltd.)社の換算の仕方にも違いが見られる。

3-4. 鉱業憲章目標未達に関する議論
 南ア鉱物資源省の鉱業政策開発部長Andre Andreas氏は、鉱業憲章の不遵守に対する罰則強化を検討中であることを明らかにし、「鉱業憲章を遵守できなかった鉱山会社に対する罰則の強化を検討している。」と語った。
 2010年9月に改訂された鉱業憲章では、BEEの目標値をクリアしない場合、ペナルティを課されるかライセンス剥奪になる。ペナルティの中身は未定であるが、罰金となると思われる。罰金の額は明らかになっていない。ライセンス剥奪に係る手続きについては鉱物・石油資源開発法で規定されており、剥奪される前に企業は抗弁する機会を与えられている。
 この改訂前の鉱業憲章では、スコアカードのすべての項目をクリアしなければライセンス剥奪の恐れがあった。現行の鉱業憲章は、改訂前に比べ、BEE達成に関して確実にクリアすべきものと柔軟に対応するもののバランスが改善されている。例えば、人的投資の支出額のうち、3%以上を黒人労働者に対して支出しているか等の点を足し上げて合計点を出す仕組みである。Ownership、Accommodation、Reportingが3つの大きな基準となっているが、不明確なところがまだかなりあり、これを明確にしてゆく必要がある。なお、南ア鉱業協会では現行の鉱業憲章の内容を好意的に受け止めている。

3-5. 鉱業権手続きの不手際
 南アでは2010年、Lonmin及びKumba社等との論争が起こった主因でもある鉱業権・探鉱権の付与に関することが問題となり、投資家の信頼度が低下した。この課題を解決するため、DMRは同年8月、鉱権・探鉱権の新規オンライン管理システムを導入すると発表した。これにより、DMRのウェブサイトを通じて関係者全員が探鉱・鉱業権情報にアクセスできるようになり、鉱業権・探鉱権付与の透明性を向上することとされた。DMRは、新規の電子媒体による鉱業権、探鉱権の管理システム導入のため、2010年9月から探鉱権の申請受付を6か月間停止すると発表した。また、その間に、MPRDA法(Mineral and Petroleum Resources Development Act)の施行後に更新、承認された鉱業権、探鉱権の包括審査を行うとした。探鉱権の申請の受付は2011年4月18日から再開された。
 一方でDMRは、2011年4月19日、2004年以降に発行された3,266件の探鉱権及び採掘権に対して、434件に違反があるとして取り消しの旨を通知した。規定違反の内容としては、許認可後120日以内に探鉱活動を開始しなかったこと、許可を受けた探鉱活動の内容からの逸脱があったこと、DMRに提出した情報に虚偽があったこと、などが含まれている。また、環境要求事項の不履行があった713件に対しては、違反の是正を要求する旨の通知を発行した。環境要求事項の不履行が是正されない場合は、付与された権利が失効する可能性がある。

3-6. Black Eliteの存在
 Black Elite(一部の黒人が裕福になる)の問題は依然として存在し、これに対処するためにはESOPs(Employee share ownership schemes)がますます重要になる。労組は、ESOPsを未だ導入していない企業に対しESOPsの導入を要望している。鉱業憲章の精神は不利益を被った人種(特に黒人)に広く利益を享受させることであるが、Black Eliteはその精神に反する。Black Eliteの問題が即座に解決するとはみられていないが、現在の格差拡大は社会にとって許容できないレベルにまでなってきている。何らか対策を講ずるべきと考える。2010年、鉱業分野では5人のBlack Elite(Patvice Motsepe、Tokyo Sexwale、Sipho Nkosi、Lazarus Zim、Cyril Ramaphosa)がリストアップされていたが、The Rich Listが2011年9月初めに公表されたSunday Timesで、Optimun社(石炭鉱山)を所有するMike Teke の名前が載った。ちなみに9月の黒人資産家ベスト10は以下のとおり。
1. Patrice Motsepe, 2. Cyril Ramaphosa, 3. Sipho Nkosi, 4. Vincent Mntambo, 5. Leonard Sowazi, 6. Mike Teke, 7. Sakumzi Macozoma , 8. Dalikhaya Zihlangu, 9. Dr Mlungisi KWini, 10. Eliphus Monkoe

3-7. 新ロイヤルティ
 南ア財務大臣が、2009年5月に施行予定のロイヤルティ法案は鉱業をめぐる雇用情勢が悪化し、2010年3月1日まで延期されていた。この新ロイヤルティ方式での最初の納税が2011年にあったが、納税額は総額60億ランド(約7.6億US$)となった(数字は鉱業協会による)。鉱業関連の景気がよいことも背景にあるが、この額は従来の納税額よりかなり増加した。南ア鉱業のGDPに占める貢献度は6~8%であるが、法人税の歳入に占める割合は14%になった。鉱業界は、南ア経済におけるシェア以上に国庫貢献していることになる。

4. 鉱山国有化の問題

4-1. ANCにおける議論
 南アにおける鉱山国有化の議論は極めてホットな状態である。2011年6月16日、ANCYLは第24回国民会議で南ア鉱山の国営化と無償での土地収用を国会で要請することを宣言した。ANCは2011年6月20日、ANCYLの国民会議における要請に関する声明を発表し、「ANCYLの国民会議はあくまでANCYLの会議であって、ANCの2012年選挙会議に直接関係するものではない。」とコメントしたが、国有化の可能性について検討するための調査チームを設置している。
 ANC設立時の自由憲章上に鉱業国有化が盛り込まれていることや、不況による鉱山閉鎖や雇用削減の動きに対応するため、鉱業国有化により雇用の場を守り、国外に出てしまう利益を国内に留めたい等がこの背景にある。
 こうした動きがあるものの、Zuma政府は一貫して鉱業国有化の要求には応じないことを表明している。8月1日Malusi Gigaba公共企業大臣が、また8月2日にはSusan Shababgu鉱物資源大臣がともに鉱山国有化議論を非難し、国有化議論は南アへの外国投資を鈍化させ、長期的な投資に悪影響を与えているとしている。特に、Shababgu大臣は、国有化議論の中で大切なのは貧困と失業の削減及び教育システムの改善であり、国有化そのものではないと語った。

4-2. 鉱業界の反応
 南ア鉱業協会も同国の鉱山国営化に反対の立場を示しており、Bheki Sibiya CEOは2011年8月11日、鉱山国営化が実施される可能性は低いとの考えを示した。同氏は「鉱山国営化を求める声があるのは貧困等に原因があり、それらの問題を理解し解決する必要がある。鉱山国営化はそれらの問題を解決する糸口とはならない。鉱業協会、鉱山会社は協力し、国営化の議論に立ち向かわなければならない。」とコメントした。
 今回のインタビューで鉱業協会Baker氏は次のように述べている。「ANCYLらは国有化を要望しているのではなく、SIMS(State Intervention in the Mineral Sector)を要望しているという点であることを強調している。すなわち鉱業分野において国はどのような役割を果たすべきかを議論しているのであると解釈しているという。これは他の国においても議論され、検討されていることである。国が鉱業に関与する方法としては、国営鉱山公社の設立やロイヤルティ率の引き上げという方法もある。しかしながら、検討に際し忘れてならないのは、最近10年間で南アの鉱業は縮小傾向をたどっているという点である。ANCの今回の調査によって、鉱業の発展に繋がるような検討がなされることを期待する。調査結果は本年末までに出される予定である。」
 Anglo AmericanのCynthia Carroll CEOは、2011年6月28日、資源国で活発化している資源国有化の議論に関して「資源国は、民間投資を呼び込みたいのであれば、国有化や重課税のような『出口なき議論』に賛同するべきではない」と懸念を示した。国際的な企業は投資機会の選択肢を複数有しており、安定的かつ公正な投資環境が整った投資先を主体的に選択するので国有化は機能しないとコメントしている。具体例としてジンバブエでの黒人資本参画強化による鉱業発展の阻害の例を挙げ、資源の国有化は鉱業の発展には繋がらないと懸念を強調している。

4-3. 国営鉱山会社AEMFCの動向
 南ア唯一の国営鉱山企業AEMFC(African Exploration Mining Finance Corp)が2011年2月26日、Vlakfontein石炭鉱山を開山した。2010年10月26日に予定されていた本鉱山の開山式が延期となっていたもの。Vlakfontein石炭鉱山はMpumalanga州内のJohannesburgから東へ約100 kmに位置する。同鉱山の初期開発費には1.3億ランド(約18.6百万US$)が計上されているが、現状では、AEMFCの親会社であるCEF(Central Energy Fund:南ア鉱山省の下部機関)が払込資本(Equity Capital)を支出した模様。同鉱山では約120人の雇用創出が期待されている。
 主な出荷先は年間122.7百万tの石炭を消費するEskom(南ア電力公社)を予定している。Eskomは既存のKendal発電所などの運営継続に加え、Medupiなどの新規火力発電所の設備計画により、石炭消費量はさらに拡大すると見込まれている。
 AEMFCには採掘権1件と探鉱権27件が付与されている(2010年10月時点)。Shabangu大臣は、AEMFCに関して、「エネルギー供給の確保は、南アの経済成長に不可欠である。2008年石炭不足により、Eskomの電力不足を余儀なくされた。政府としては、石炭、ウランをEskomによる戦略鉱物の確保を願う」と述べていた。
 なお、AEMFCには2008年10月、探鉱・鉱山操業に係る鉱業法規の一部適用免除が認められていたが、Shabangu大臣は2010年11月15日、世界市場での競争力を保つために国営企業でも民間企業と同様に法規を適用すると述べていた。
 AEMFCはAlexkor社(ダイアモンド)と同様、2008/09期は10百万ランド(約1,300万US$)の営業損失、2009/10は14百万ランド(約1,800万US$)の営業損失を計上していることから、ANC政府による鉱山操業能力は疑問視されている。

4-4. 南ア鉱山国有化の議論と海外投資
 最近のアフリカに対する全般的投資評価に関して、主なFDI(外国直接投資)先は、アンゴラ、ナイジェリア、エジプトで、アフリカ全体では2010年550億US$のFDIがあった。アフリカ向けFDIに占める南アの割合は前年比70%減少し16億US$となった。UNCTAD(国連貿易開発会議)の2010年の対アフリカ外国直接投資ランキングでは南アは10位となった。具体的な数字としては1994~2004年は、製造業に関するFDIは全体の28.1%を占めていたが、2005~2010年には18.7%まで落ち込んでいる。鉱業では29.6%~23.3%にまで低下している。
 最近の鉱山の国有化などの動きは外国からの投資に対する懸念をさらに助長することになっている。たとえば、監査法人Ernst & Young社が2011年8月8日に発表した鉱業におけるビジネスリスクTop 10によれば、2011~2012年のリスクのトップは資源ナショナリズムで、鉱山の国営化、鉱業税及びロイヤルティ率の引き上げ、高付加価値化の義務化等の政策が掲げられている(カレント・トピックスNo.11-50)また、DMRが、Anglo Americanの子会社Kumba Iron Ore社やLonminの鉱区をBEE有力者が経営する企業に付与などの報道が影響してカナダの研究機関Fraser Institute『世界における鉱山探査の容易度ランキング』における南アのランクは、2010年4月の第13位から8月には第31位に下落した。
 今回、MEG(Metals Economics Group)による鉱業投資先の順位として南アは第15位に転落したことについて、鉱業協会のBacker氏は、南アでは、国有化のほかロイヤルティ、鉱区料や鉱区申請に関する凍結や差し戻し、重複発行等、投資環境が十分に整っていないという評価は事実で、理解できるとしている。
 なお、南ア内部の公的投資では、下流における付加価値化を支援するため、南ア産業開発公社(IDC:Industrial Development Corp.)は今後5年間で1,020億ランド(約130億US$)の助成金のうち220億ランド(約28億US$)を鉱業に投資すると発表している。

まとめ

 南アフリカではマンデラ政権発足以来、富の分配を行うため黒人の経済活動への参加を促す政策を実施しているが、未だ十分な成果が出たとは言えない。ANCに課せられたこの命題は、これまで不利益を被ってきた黒人庶民からの新たな強い期待を背負って2009年に発足したZuma政権に引き継がれたものの、2年を経過した現在も改善が見出せていないのが現状である。このような状況下、多くの国民は豊かさを感じられず、その不満は強烈なストライキやANC政権内での鉱山の国有化の議論として顕在化している。
 鉱業界では、鉱業憲章をガイドラインに黒人の経済活動への参加促進が取り組まれてきたが、中間点である2009年時点の目標達成率に関する評価では政府と産業界の間で大きな食い違いがみられ、双方が納得できるような成果には達していないということが伺える。また、この富の再分配の過程でBlack Elite(ブラックエリート)という問題が発生したが、これも現在、改善されておらず、国民の不満はつのる一方である。さらに、かつて白人経済のみに対応し施設された国内インフラは、台頭する黒人中産階級の新たなニーズに対応できず、電力や輸送能力不足を発生させている。
 一方、鉱業界では、鉱業権発給手続きにおける行政側の不手際や不正問題も起きている。このような状況で、海外からの南アへの投資、特に鉱山関係への投資に対しての懸念が広がっている。日本は多くの資源を南アからの輸入に頼っており、また、同国に対する新たな投資案件も検討されていることから、南アに関する情報を、引き続き収集していきたい。

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