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報告書&レポート

2012年1月26日 バンクーバー事務所 片山弘行
2012年04号

カナダ鉱業における労働市場とその展望‐技能労働者獲得競争の激化‐

 世界で資源獲得競争が激化する中、競争を勝ち抜くために必要となる資源関係人材の不足が日本でも懸念されているところであるが、資源国であるカナダにおいても、資源分野における国際競争力を維持するために必要となる人材の不足が危惧されている。特にここ数年は、ベビーブーム世代の退職による技能労働者の減少が懸念されている。
 カナダの鉱業人材協議会(Mining Industry Human Resources Council, MiHR)は、カナダ鉱業界が直面する人材不足等を始めとする人的資源問題について各ステークホルダーと協調して啓蒙活動を行っており、その一環として労働市場予測(Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts)を発表している。
 本稿では、MiHRの報告書を基にカナダ鉱業界が抱える人的資源問題及びその展望について概説する。

1. 現状分析

 MiHRによると、鉱業部門における就業者総数と金属価格との間には強い相関があることが示されている(図1)。カナダ銀行が2011年4月に発表した金融政策レポート(Monetary Policy Report, April 2011)によると、短期的には金属を始めとするコモディティ価格は上昇し、中~長期的には高値安定するとの見方を示しており、上述の相関関係から鉱業部門の雇用情勢も同様の動きが予想される。
 カナダの鉱業部門は、平均賃金が他業種と比較して高く魅力的な業界であるが(表1)、女性や移民の就業率は依然として低い(表2)。例えば、鉱業部門に従事する労働者の約14%が女性であるが、これは産業全体での割合である47%と比較すると非常に低い。一方で、鉱業部門の特徴として先住民雇用が進んでいることが挙げられ、産業全体では全就業者に占める先住民の割合はわずか3.07%であるのに対して、鉱業部門では2倍以上の6.75%となっている。これは、鉱山の立地が先住民の土地に関係することが多く、鉱山開発に当たって先住民の関与が必要となることから、その一つとして積極的に先住民を雇用しているためである。
 2010年時点での鉱業部門に従事する労働者の年齢構成を見ると、55歳以上が全体の12.3%を占め、鉱業部門の平均退職年齢である59.5歳を勘案すると、約31,000人が3~5年以内に退職を迎えることとなる。

図1. 鉱業部門(石油除く)における就業者総数とカナダ銀行発表のMinerals Price Index(1972年1月を100とした指数)
図1. 鉱業部門(石油除く)における就業者総数とカナダ銀行発表の
Minerals Price Index(1972年1月を100とした指数)
(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

表1. 業種別平均賃金の推移(1週間当たりC$)

  林業 鉱業 製造業 建設業 金融・保険業
2005 883.89 1,167.44 896.35 877.34 921.01
2006 902.28 1,186.92 904.69 900.32 951.25
2007 907.41 1,300.09 940.67 961.16 998.93
2008 935.84 1,342.18 949.54 1,014.51 1,002.03
2009 853.28 1,350.42 917.73 1,048.42 1,036.81

(出典:Facts + Figures 2010, The Mining Association of Canada)

表2. 就業者全体に対する割合

  鉱業部門 産業全体
女性 14% 47%
移民 8.7% 21%
先住民 6.75% 3.07%

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

図2. 鉱業部門(石油含む、NAICSコード21)における2010年世代別就業者数
図2. 鉱業部門(石油含む、NAICSコード21)における2010年世代別就業者数
(単位:千人)(出典:CANSIM Table 282-0008, Statistics Canada)

2. 今後10年間の展望

 カナダにおいても、今後10数年かけて起こるベビーブーム世代(およそ1946~1965年頃誕生)の退職により、新規雇用者数よりも退職者数の方が多くなることが想定されている。特に鉱業界においては、他業界よりも平均退職年齢が低い傾向(鉱業部門:59.5歳、他業界:62歳)があることから、他業界よりも早く転機が訪れるとしている。
 MiHRでは鉱業部門における労働市場予測を発表しており、最新の2011年版では2021年までの10年間で鉱業部門が新たに雇用しなければならない労働者数を予測している。業界が新たに雇用しなければならない労働者数は、
 ● 退職者分を充足するために必要となる数(Retirement)
 ● 退職以外で鉱業界から別業界へと転職する労働者分を充足するために必要となる数(Non-Retirement)
 ● 業界の拡大(縮小)に伴う雇用変動(鉱業部門における全就業者数の変化)(Change in Employment)
の総数として求めている。なお、予測には世界銀行が発表している鉱物資源価格インデックス、カナダ統計局が発表している労働生産性(Labour Productivity)と労働力調査(Labour Force Survey)を用いている。

2-1. カナダ鉱業部門
 図3に2011~2021年の各年においてカナダ鉱業部門が必要とする新規雇用者数の予測を示す。この図において、2011年では退職者が約4,000人見込まれ、鉱業界からの離職者が約4,200人見込まれる一方で、業界の拡大に伴い新たに約9,500人の雇用が必要となることから、全体で約17,000人強の新たな労働力が必要であることが示されている。
 MiHRでは、鉱業部門の雇用情勢は、中~長期的にはコモディティ価格の高値安定と労働生産性の向上を受けて漸減するとの見解であり、それを反映して2013年を境に雇用情勢が縮小に転ずる(Change in Employmentが負を示している)と予測している。しかし、それを上回る数の退職者、離職者が想定されており、全体として新規雇用者数は毎年10,000人程度必要になるとしている。
 表3に2011年からの10年間で必要となる新規必要雇用者の累計数を示す。基本モデルでは、今後10年間で業界はわずかながら縮小し、鉱業に従事する労働者の総数は1,000人減少するとしているが、退職者が61,000人強、離職者が42,000人弱見込まれることから、これらの労働力を充足させるために10年間で約112,000人の新たな労働力を鉱業部門が獲得しなければならないとしている。
 鉱業部門がさらに縮小するという仮定に基づく縮小モデルにおいても、退職者・離職者の労働力を充足しなければならないことから、今後10年間で約75,000人の新たな労働力が必要とされる。さらに鉱業部門が拡大するという仮定に基づくモデルにおいては、今後10年間で約14万人の労働力を獲得しなければならないとしている。

図3. カナダ鉱業部門における新規必要雇用者数の予測(2011~2021年)
図3. カナダ鉱業部門における新規必要雇用者数の予測(2011~2021年)
(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

表3. 2021年時点での想定モデル別新規必要雇用者数予測(累計)

  全労働者数
(増減)
退職者数 鉱業部門から
の離職者数
累計新規
必要雇用者数
縮小モデル -28,200 61,550 41,930 75,280
基本モデル -1,000 67,080 45,940 112,020
拡大モデル 20,500 71,740 49,300 141,540

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

2-2. 職種別予測
 鉱業部門が今後2年間、5年間、10年間で必要とする職種別の新規雇用者数予測を表4に示す。なお、職種別予測に際しては、統計データのうち北米産業コード(NAICSコード)と職業コード(NOC-Sコード)から金属鉱業に関係する職業のデータを用いているが、これらコードだけでは該当職業のうち金属鉱業のみに従事する者を抽出することは困難であり、多業種にも従事する労働者(例えばオイルサンド産業)が混在している可能性があることを付記しておく。
 本予測によると、最も新規雇用を必要としている職種は、重機オペレータに代表されるような鉱山操業現場での技能労働者であり、上位10種の職種のみで約40,000人の労働者が新たに必要とされる。これは、鉱業全体で必要とされる約112,000人(表3の基本モデル)の約30%を占め、今後、これら技能を有する労働者の雇用が厳しくなる可能性を示唆している。

表4. 職種別の新規必要雇用者数予測(累計)(上位10種)

  NOC-S
コード
2013 2016 2021
生産作業員
(Production clerks)
B573 2,540 3,905 6,960
重機オペレータ(クレーンを除く)
(Heavy-equipment operators (except crane))
H611 2,210 3,415 5,795
トラックドライバー
(Truck drivers)
H711 1,820 2,940 4,955
坑内生産・採掘工
(Underground production and development miners)
I131 1,605 2,485 4,475
建設工及び機械工(繊維関係を除く)
(Construction millwrights and industrial mechanics (except textile))
H411 1,680 2,465 4,335
生産管理マネージャ(農業を除く)
(Primary production managers (except agriculture))
A381 1,170 1,930 3,265
溶接工及び関連機械オペレータ
(Welders and related machine operators)
H326 1,055 1,620 2,755
鉱物・金属処理作業員
(Labourers in mineral and metal processing)
J311 980 1,365 2,545
重機整備工
(Heavy-duty equipment mechanics)
H412 950 1,425 2,465
鉱物・金属処理設備オペレータ
(Machine operators, mineral and metal processing)
J121 1,040 1,330 2,330

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

2-3. 地域別予測
 カナダ諸州を6つの地域に分けた場合の鉱業部門就業者数の予測を表5に示す。平原3州(マニトバ、サスカチュワン、アルバータ)及び準州(ユーコン、ノースウエスト、ヌナブト)が鉱業に従事する労働者の総数が増加するとの見通しを示しており、平原3州は年率1.0%(年平均約1,000人)、準州は年率1.1%(年平均約50人)で増加するとしている。一方、その他地域では鉱業に従事する労働者総数は減少するとの見通しを示しており、BC州で年率1.1%の減少などとしている。特に大西洋諸州とオンタリオ州は、年率約2%の水準で鉱業部門就業者数が減少するとしている。これらは労働生産性の向上を反映しているものと思われる。
 このうち本稿では、日本の投資対象候補である太平洋側の3地域、ブリティッシュコロンビア(BC)州、平原3州及び準州を中心に取り上げることとする。

表5. 地域別の鉱業部門就業者数予測

  2013 2016 2021 年増減率
大西洋諸州
(ニューファンドランド‐ラブラドル、
ノバスコシア、ニューブランズウィック)
11,100 10,200 8,600 -2.3%
ケベック 41,800 37,100 34,500 -1.7%
オンタリオ 44,600 38,700 35,800 -2.0%
平原3州
(マニトバ、サスカチュワン、アルバータ)
88,000 96,900 97,900 1.0%
ブリティッシュコロンビア(BC) 21,900 20,500 19,400 -1.1%
準州
(ユーコン、ノースウエスト、ヌナブト)
4,000 4,600 4,500 1.1%
カナダ全土 216,600 208,000 200,700 -0.5%

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

2-3-1. ブリティッシュコロンビア(BC)州
 BC州では、今後10年間に約10,500人程度の新規雇用が必要と見込まれている。その中でも生産現場での技能労働者が最も必要とされるが、同州での盛んな探鉱活動を反映してか地質技師や技術員も多く必要とされている(表6)。

表6. BC州の職種別新規必要雇用者数予測(累計)(上位10種と全合計)

  2013 2016 2021
重機オペレータ(クレーンを除く) 330 490 870
生産作業員 275 410 725
トラックドライバー 225 335 590
重機整備工 150 225 400
坑内生産・採掘工 150 225 400
生産管理マネージャ(農業を除く) 150 220 390
建設工及び機械工(繊維関係を除く) 120 180 315
地質技師、地化学技師、物理探査技師
(Geologists, geochemists and geophysicists)
105 160 280
地質学・鉱物学技術員/作業員
(Geological and mineral technologists and technicians)
105 160 280
採鉱・採石監督員
(Supervisors, mining and quarrying)
100 145 260
全66職種の合計 3,950 5,910 10,460

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

2-3-2. 平原3州
 マニトバ、サスカチュワン、アルバータの平原3州では、今後10年間で鉱業界全体の雇用が伸びるとしており、約58,000人の雇用が新たに必要とされている(表7)。これら3州は他地域と比較しても鉱業部門の平均賃金が高く(表8)、それだけ鉱業関係人材が必要とされている地域である。それに伴い、生産現場での技能労働者を筆頭に各職種で必要とされる雇用者数も多くなっている。カリウム・ウラン資源の豊富なサスカチュワン州が牽引役となっているものと思われるが、それを勘案してもやや大きい数字との印象を受ける。本予測にはアルバータ州のオイルサンド産業は除かれているが、統計データの構成上、完全に取り除くことは難しいため、平原3州全体の数字が大きくなっているものと想定される。

表7. 平原3州の職種別新規必要雇用者数予測(累計)(上位10種と全合計)

  2013 2016 2021
トラックドライバー 1,150 1,990 3,305
重機オペレータ(クレーンを除く) 970 1,680 2,795
生産作業員 895 1,550 2,575
生産管理マネージャ(農業を除く) 815 1,410 2,340
建設工及び機械工(繊維関係を除く) 550 950 1,580
溶接工及び関連機械オペレータ 520 905 1,500
坑内生産・採掘工 470 810 1,345
事務員(法務及び医務を除く)
(Secretaries (except legal and medical))
365 635 1,055
重機整備工 335 585 970
配管工
(Steamfitters, pipefitters and sprinkler system installers)
285 495 820
全66職種の合計 20,340 35,230 58,500

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

表8. カナダ諸州の鉱業部門(石油除く)における平均賃金推移(1週当たりC$)

  2005 2006 2007 2008 2009 2010
ノバスコシア x x 944.17 977.93 1,008.00 NA
ケベック 935.07 904.11 1,044.28 1,133.37 1,116.56 1,171.66
オンタリオ 1,043.76 1,022.71 1,115.88 1,208.50 1,271.55 1,286.61
マニトバ 1,114.84 1,012.13 1,106.05 x x x
サスカチュワン 1,152.85 1,102.02 1,227.49 1,338.98 1,323.89 1,457.56
アルバータ 1,041.31 992.01 1,155.32 1,235.52 NA 1,344.92
ブリティッシュコロンビア 1,140.31 1,097.11 1,243.97 1,304.23 1,289.03 1,327.46

(出典:CANSIM Table 281-0027, Statistics Canada)

2-3-3. 準州
 現在、ゴールドラッシュの様相を呈するユーコン準州では、複数のプロジェクトが開発に向けて活動を活発化している。このような動きを受けて、ユーコンを含む準州地域全体では、今後10年間で約3,000人の新規雇用が必要と見込まれている。
 重機オペレータ等の技能労働者が求められている傾向は他州と同じであるが、僻地に探鉱・鉱山キャンプが点在している状況などから、料理人などキャンプに関わる人材が必要とされる点に特徴を見出すことができる(表9)。

表9. 準州の職種別新規必要雇用者数予測(累計)(上位10種と全合計)

  2013 2016 2021
重機オペレータ(クレーンを除く) 195 285 415
坑内生産・採掘工 105 150 220
トラックドライバー 85 125 185
生産作業員 80 115 170
鉱山作業員
(Mine labourers)
60 85 125
生産管理マネージャ(農業を除く) 55 75 115
料理人(Cooks) 45 70 100
地質技師、地化学技師、物理探査技師 40 60 85
地質学・鉱物学技術員/作業員 35 50 70
重機整備工 35 50 70
全66職種の合計 1,420 2,070 3,020

(出典:Canadian Mining Industry Employment and Hiring Forecasts 2011, MiHR)

まとめ

 MiHRによる必要雇用者数予測の精度には異論もあろうが、今後、退職者の増加に伴い、鉱山操業現場の技能労働者を中心として必要雇用者数が増加する傾向にあることは概ね間違いないと思われる。このような情勢の中、MiHRは、今後10年間に鉱業部門で必要となる雇用を満たすためには、女性、先住民、移民、若年層のさらなる雇用が不可欠であるとしている。特に女性や移民の就業率が低いことから、これらのグループに対して鉱業部門の魅力を業界全体が訴えていく必要があるとしている。
 鉱業界における労働者不足はカナダのみならず世界でも顕在化しており、昨今の資源ブームと相まって、技能労働者を巡っての獲得競争が世界で激しくなるものと予想される。MiHRでは、カナダ鉱業界が世界での競争力を維持していくためには他国よりも魅力的な人材確保戦略を必要とし、高賃金等の従来型人材確保戦略は引き続き有効であるとしながらも、鉱業部門のブランド化、キャリアプロモーション、職業訓練、次世代を育成する教育プログラムの強化、といった新たな人材確保・人材育成戦略が必要であるとしている。
 鉱業分野において積極的に海外展開を図る日本企業、あるいは日本の鉱業界にとっても、資源獲得競争のみならず、世界での人材確保に関しても競争が激化していくものと思われ、今後はカナダ等の他の資源国と同様に新たな人材確保戦略が必要となってくるのではないであろうか。

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