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報告書&レポート

2012年2月2日 金属企画調査部 竹下聡美 今野広祐
2012年05号

「日秘経済・鉱業セミナー2011」の開催について

 「日秘経済・鉱業セミナー2011」は、2011年12月12日、ペルー・リマ市において、経済産業省、JOGMECの主催及び、在日ペルー大使館、在ペルー日本国大使館の共催により開催された。ペルーは我が国にとって亜鉛、銅等ベースメタルの主要な供給国であると共に、セミナー直前には日・ペルー経済連携協定(EPA)の発効が日本の国会で承認され、今後さらなる経済関係の発展が期待されている国でもある。本セミナーは、これまでに培われた両国間の鉱業分野を始めとした幅広い経済協力関係について、2011年7月に誕生したウマラ大統領の新政権下においても引き続き継続し、さらに発展させることを目的に開催したものである。本稿ではセミナーについて報告する。

1. ペルーと我が国の関係

 我が国のペルーからの2010年の主要鉱産物輸入量は亜鉛精鉱28万t、銅精鉱78万tで、輸入量全体に占めるペルーの割合は亜鉛29%、銅15%と高く、ペルーは鉱物資源の供給国として非常に重要な位置にある。さらに、同国には我が国企業が操業・参画する鉱山や権益を保有する探鉱・開発プロジェクトが多数存在し、我が国企業による鉱業投資が活発になされている。

表1. 日本のペルーからの主要鉱産物輸入量(2010年)

鉱種 ペルー 世界全体 ぺルーの占める割合 輸入相手国順位
亜鉛精鉱 284千t 988千t 28.7% 1位
銅精鉱 777千t 5,355千t 14.5% 3位
鉛精鉱 18.8千t 155千t 11.6% 4位

(出典:日本貿易統計)

2. セミナー概要

 本セミナーには両国政府関係者・鉱業関係者を中心に131名が参加した。主要参加者として、福川在ペルー日本国大使、ポサダ通商観光省副大臣、戸谷経済産業通商政策局審議官、マルチネス・ペルー鉱業石油エネルギー協会会長、ベガ・日本ペルー経済協議会ペルー側委員長、シンノ・エネルギー鉱山省鉱山総局長、JOGMEC森脇理事らが出席し、さらにJETRO、JICA、JBIC等の日本政府関係機関を始めとして、現地進出日本企業関係者、ペルー民間企業関係者も参加した。セミナー前々日から前日にかけて、レルネル前首相の辞任に伴う内閣改造がなされたため、当初出席が予定されていたエネルギー鉱山大臣及び同省副大臣は欠席となったものの、エネルギー鉱山省を中心に約50名の政府関係者が出席し、参加者の半数以上をペルー側関係者が占めた。
 福川在ペルー日本国大使は、開会挨拶において2011年11月の両国首脳会談について触れ、日本政府として、本セミナーでの討議も参考にしながら、ペルー経済の発展と社会的安定に資する効果的な経済技術協力を拡充するため、ペルー政府関係者と協議を行っていくと述べた。
 戸谷経済産業省通商政策局審議官は、出席を予定されていた松下経済産業副大臣に代わって挨拶し、EPAや環太平洋経済連携協定(TPP)を契機に両国の経済連携が強化されることを期待するとともに、我が国企業による鉱業投資がさらに進展するよう、ペルーの投資環境の整備、制度の透明性確保、外国投資の保護等の推進を期待したいと述べた。

 閉会挨拶においてJOGMEC森脇理事は、鉱業先進国であった日本が有する優れた環境技術をペルー鉱業に活かすことにより、今後も互恵的な関係の構築への期待を述べるとともに、ペルー政府に対して昨今各地で頻発している反鉱業活動に対する適切な対応と鉱業税の地域還元促進等を要望した。

写真1. 福川大使による開会挨拶
写真1. 福川大使による開会挨拶
写真2. 戸谷審議官による開会挨拶
写真2. 戸谷審議官による開会挨拶


写真3. セミナー会場
写真3. セミナー会場
写真4. 森脇理事による閉会挨拶
写真4. 森脇理事による閉会挨拶


3. 各講演の概要(全15件、順不同)

 本セミナーでは計15件の講演が行われた。各講演の概要を以下に述べる。

写真5.ポサダ 通商観光省副大臣
写真5.
ポサダ 通商観光省副大臣

(1) ペルーのFTA戦略と日・ペルーEPAへの期待
[講演]ポサダ 通商観光省副大臣
アジアからの輸出入比率は現在約3割で今後アジアでのプレゼンスを高めていきたい。対日本輸出額は2010年17億US$(全体の5%)で2011年には22億US$に達し今後増加見込。EPA発効により両国の市場が拡大し、貿易・投資がより活発化することを期待。新たな農産物や水産物等の新規市場を開拓したいと考えている。


写真6.ビルカ副大臣
写真6.
ビルカ副大臣

(2) ペルーの鉱業政策
[講演]サンチェス・エネルギー鉱山省鉱業振興課次長
(ビルカ副大臣の代理講演)
鉱業はペルーの全輸出額の62%を占め重要な産業。2016年に銅生産量は2011年の120万tから410万tに増加予定で成長は継続。鉱業税収入の執行遅延(2011年鉱業税納付額50億ソル(1,400億円))や違法採掘、地域社会問題への対応が急務。現在、違法採掘適正化プロセス法案を策定中。


写真7.ベラステギ環境管理政策法令局長
写真7.
ベラステギ環境管理
政策法令局長

(3) 環境政策と国家環境管理システム
[講演]ロアイサ環境省環境管理政策法令局専門官
(ベラステギ環境管理政策法令局長の代理講演)
環境政策として国家環境管理システム(SNGA)を制定。特徴は権限を部門化し地方政府レベルの実施体制としたこと。現状、地方政府の環境当局の脆弱性、及び住民との協調に至るまでの協議体制の不備が課題。「建国200年計画」で2021年までに全ての企業に対し環境管理体制を徹底することを明記。


写真8.マルチネス・ペルー鉱業石油エネルギー協会会長
写真8.
マルチネス・ペルー鉱業
石油エネルギー協会会長

(4) 鉱業投資の展望と環境
[講演]マルチネス・ペルー鉱業石油エネルギー協会会長
近年の鉱業投資及び鉱物生産量の伸びは著しく、鉱業部門の法人税収額は全体の3割で、多数の探鉱・開発案件が進行中。今後10年間の鉱業投資額は507億US$と推定。一方、違法採掘や環境問題等に直面しており、業界団体として適切な対応を進めることで国民の鉱業への正しい理解促進に努めたい。


写真9.ベガ・ペルー日本経済委員会委員長
写真9.
ベガ・ペルー日本経済
委員会委員長

(5) ペルー・日本間のビジネス環境の展望
[講演]ベガ・ペルー日本経済委員会委員長
現状ペルーにとって日本は輸出入ともに第5位で全体の約5%を占める。EPA発効により今後の貿易拡大に期待。一方、今後の交渉で日・ペルー間の二重課税防止協定を優先的に締結することが必要。世界でも有数の技術立国である日本からの投資は、今後の高付加価値化産業育成にとって非常に有益。


(6) インフラ・システム輸出と資源確保
[講演]石川 経済産業省 資金協力課課長補佐
[内容]インフラ輸出政策と資源確保戦略を紹介。経済産業省は資源国に対しJOGMEC、JBIC、NEXI、JICAによるオールジャパン体制の支援を実施。我が国は成長戦略として資源国との二国間関係を重視しており、資源国へのインフラ整備や資源開発への支援を通じて双方に利益をもたらす互恵関係を築いていきたい。

(7) ペルーの鉱業分野におけるJOGMECの活動
[講演]山内 JOGMECリマ事務所長
[内容]かつての鉱業国として日本企業は鉱山開発において技術力、環境対策、CSRの面で優れており、さらに政府も企業に対しフルサポートを行っている。JOGMECは政策実施機関として探査技術の支援、ファイナンス支援、鉱山周辺インフラに関する調査支援に加えて、鉱害防止技術に関して専門家を派遣する等の多角的な支援を行っており、ペルー鉱業の発展に対して大きく貢献している。ペルーにとって日本がベストパートナーであることを強調した。

(8) ペルーエネルギー・鉱業セクターにおけるJICA事業について
[講演]中尾 JICAリマ事務所長
[内容]ペルーでは閉山後に鉱山周辺住民の健康や環境保全に関する閉山計画書の提出義務があるが、政府内の人材や技術不足のため審査が大幅に滞っているのが現状。JICAは閉山計画審査改善アクションプランを策定し支援を実施。さらに地熱資源について、これまでの調査結果から高地のため技術的難易度は高いものの、南米で最も高い地熱資源ポテンシャルを有することを紹介した。

(9) ペルーにおける国際協力銀行の活動
[講演]根岸 JBIC鉱物資源部第1ユニット長
[内容]JBICは過去20年間でペルーに対し資源開発、輸出、インフラ等17案件36億US$の融資を承諾。世界では過去10年間で資源開発案件向け承諾額約4.9兆円。特に資源金融については権益取得から精練、インフラ整備まで幅広い支援を実施。ペルーの鉱山についてはアンタミナ鉱山やセロ・ベルデ銅鉱山に対して融資を実施。

(10) 日本貿易保険の事業紹介
[講演]佐藤 NEXIニューヨーク事務所長
[内容]ペルーではセロ・ベルデ銅鉱山開発及びVotorantin亜鉛製錬所拡張案件に対し保険の引受けを実施。NEXIでは低い料率で幅広いリスクのてん補範囲等を実現する資源エネルギー総合保険を設定。我が国の政策に基づき、インフラ輸出支援促進、資源エネルギーの安定供給確保及び再生エネルギー等の持続可能社会確立の3分野を重視している。

(11) EPA締結に伴う日・ペルービジネス環境
[講演]石田 JETROリマ事務所所長
[内容]セミナー直前に日本国会においてEPA発効の承認がなされたのは非常に好機である。JETROとしてEPAに基づくビジネス環境整備に向けて支援を実施していく。両国間の投資環境が改善されることにより投資が拡大されることを期待する。

(12) ペルーにおける三井金属鉱業の鉱山事業
[講演]五味 三井金属鉱業ペルー支社長
[内容]ペルーにおいてワンサラ亜鉛鉱山を操業中。地域住民の合意と協力なくして安定操業は不可能であるという認識から操業開始当時からCSR活動を展開してきた。更なる鉱山投資促進のために、ペルー政府に対し、暴力的鉱業反対運動への対応と鉱業に関する社会教育、違法採掘の規制、探鉱への助成や税優遇措置等の検討を要望した。

(13) 住友金属鉱山のペルーにおける鉱業活動
[講演]岡田 ペルー住友金属鉱山社長
[内容]住友金属鉱山はセロ・ベルデ銅鉱山に参画(出資比率21%)しており、ダムや水処理プラント建設等により地域社会に大きく貢献している。さらに推定35億US$の生産拡張計画により年産で銅量27万tが増加予定。ペルー政府に対しては、地元住民に対し鉱業に対する正しい知識の啓蒙と近年拡大している違法鉱業の取締り、政府内諸手続きの迅速化を要望する。

(14) ペルーにおける三菱商事の事業活動
[講演]松岡 ペルー三菱商事社長
[内容]ペルー三菱商事は、鉱業、エネルギー、プラント等への積極的な投資を通じてペルーと世界を繋げる活動を推進している。鉱業では出資しているアンタミナ銅・亜鉛鉱山に13億US$を投じ、粗鉱処理能力を38%向上する拡張工事を推進中。生産は2012年4月にフル操業を予定。

(15) 日・ペルービジネスの現状と展望
[講演]高瀬 日秘商工会議所会頭
[内容]これまでの日本・ペルー両国はそれぞれ工業製品、鉱産物を輸出入する補完関係であったが、今後はその関係を維持しつつも、ペルー農水産物のマーケット化や更なる日本の製造業誘致など、多様性を持った新しいフェーズでの経済関係を構築していくことが重要である。

4. おわりに

 ペルーでは、本セミナー直前に閣僚19名のうち10名が交代する大規模な内閣改造がなされ、エネルギー鉱山大臣は鉱山会社社長を歴任した投資促進庁理事のメリノ氏が就任した。本セミナーは図らずも新体制が敷かれた直後の開催となったが、鉱業分野を中心にEPA発効を目前にした両国の幅広い経済関係の可能性について討議がなされる好機となった。
 一方、内閣改造の背景となった反鉱業運動の動向は引き続き注視する必要があり、政府新体制による反鉱業運動への対策がどのように進展していくのか注目していきたい。

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