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報告書&レポート

2012年2月9日 金属企画調査部 山本 万里奈 古瀬 義治
2012年07号

Asia Nickel Outlook 2011参加報告

 アジア地域におけるニッケル生産は世界の25%を占め、消費面においてもニッケルの主な用途であるステンレス市場の65%を同地域が占めること、世界一のニッケル消費国(37%)が中国であることから、アジアの需給動向はニッケル市場全体を捉えようとする際には外せない要素である。こうしたことに鑑み、2011年11月21~23日にかけてインドネシア・バリで”Asia Nickel Outlook 2011”が開催された。
 本稿は、そこで得られたアジア各国の代表企業により紹介されたニッケル市場の現状及び展望について報告する。また、合わせてインドネシアの新鉱業法における鉱物資源高付加価値化義務に対する企業の動きについても報告する。

1. アジアのニッケル需給動向

写真1. 会場看板
写真1. 会場看板
写真2. 講演会場
写真2. 講演会場


1-1. Norilsk Nickelの需給予測
 ”Asia Nickel Outlook 2011”はスイスの調査会社Informaの一部門であるIBC Asiaの主催によるものであり、2011年11月21~22日にニッケル需給動向やニッケル産業におけるファイナンスやリスク管理に関する講演、11月23日に鉱業契約作成に関するワークショップが開催された。
 第一番目の発表として、Norilsk Nickelが世界のニッケル市場概観について講演した。以下にその概要をまとめる。

 2011~2012年にかけて、世界のニッケル需給はほぼ均衡する。2011年の消費は中国の旺盛な需要と欧米の緩やかな回復により前年比8%増、生産は既存プロジェクトの生産再開及び新規プロジェクトの開始により同12%増と、生産・消費ともに大きく伸びると推定される。2012年は中国の持続的成長が欧米における需要低迷をカバーし、また新規プロジェクトが開始されることで生産・消費ともに5%の伸びが見込まれる。
 また、中国のニッケル需給については、2011年の消費は前年比17%増と推定される。これは建築・消費財用の高いステンレス鋼需要と300系ステンレス鋼割合の増加、原料のニッケル銑鉄(以下、NPI)へのシフトによるニッケルスクラップ利用の減少、食器・合金生産とバッテリー産業の成長によるものである。生産はNPI生産の増加(但し第4四半期は生産コストや環境規制から第1、2四半期から30~50%減少)、小規模製錬所からのカソード生産の増加により同20%増。2012年の消費は前年と同様の要因から同10%増、一方の生産に関してはNPI生産の減少によりニッケル生産も減少する可能性が高く、その動向はNPIとニッケル価格の変動に依存すると予測される。
 長期的なニッケル市場については、2025年には需要が2011年から130万t増の290万tになると予測され、その背景として中国及びインドの国内ステンレス鋼需要の安定的成長、宇宙・エネルギー産業、ハイブリッドカー等のバッテリー産業向けニッケル需要の増加が挙げられる。供給は2019年までは現在計画されている新規プロジェクトにより需要を満たすことができるが、2020年以降は新規プロジェクトの開発が求められる。

1-2. 各国企業の講演内容
 以下に、各国企業による講演の概要をまとめる。

 (1) 中国

(Shanghai Tsingshan Mining Investment Co., Ltd、Shanghai J. Sun Trading Consultants Ltd)
 中国のニッケル鉱石輸入は、近年著しく増加している。2005年に26万t(鉱石量)だったのが2010年には2,461万t、更に2011年には前年比62%増の40百万tを突破する見込みである。これはNPI需要の拡大とそれに伴う生産能力の増強によるものであり、2011年NPI生産(Ni純分)は前年の20万tから26~29万tにまで増加する見込みである。これに伴い、インドネシア及びフィリピンからの鉱石調達量も増えている。これらの国における新規鉱山からの供給増により、今後2~3年で中国の需要は賄えるようになる。
 NPI生産能力の拡大により、中国の2011年ニッケル生産は48万tと予測され、これは全世界の生産の30%にあたる。一方のステンレス市場は供給過剰状態にあり、2010年のステンレス生産が前年比28.68%増の9.87百万tであったのに対し、消費は同14.35%増の9.40百万tに留まった。そのため輸出が増加傾向にあり、2010年の輸出量は1.54百万tであったが2011年Q1~Q3迄で既にそれを上回る1.75百万tに達している。さらに生産能力は今後数年で現在の24.4百万tから30百万tまで増強される予定であるため、供給過剰状態が続き輸出は今後も増加する見通しである。
 中国のステンレス生産は上位3社のTaigang stainless、Baosteel stainless(2010年にBaosteel GroupとDesheng Nickelが合併しBaosteel Deshengとなった)及びLiscoで37%を占める。ステンレス価格がより変動し易くなり競争も激化する中で、中国ステンレス業界における企業再編は今後増えていくと予想される。

 (2) 韓国(POSCO Research Institute)

 韓国におけるステンレス鋼生産は、未だ2008年の経済危機以前の水準まで回復していない。2010年におけるステンレス需要は約130万tで、過去10年間では年率5.7%の割合で増加していたが、今後の年間成長率は3.2%まで鈍化し、2015年以降は成熟市場になる見通し。先の経済危機からの回復途中であったところに欧州政府債務危機というマクロ経済を揺るがす問題が起こったことで、再び自動車・電気・建設といった産業の成長率に急激な鈍化あるいはマイナスが見込まれ、それに伴いステンレス生産も伸び悩むこととなった。
 更にステンレス用途の変化やニッケル価格の変動幅の大きさを受け、従来ステンレス鋼において大きな割合を占めていた300系よりニッケル含有量の少ない400系(クロム系)へのシフトが著しくなっている(2000年:300系87.1%、400系12.9%→2010年:300系59.6%、400系40.4%)。

 (3) 日本(Norilsk Nickel他)

 日本は2011年3月に発生した東日本大地震と津波による被害地域の復興にとりかかることとなる。地震直後は自動車生産が減少(国内生産は6割減)したものの、2011年6月末迄には生産は前年水準まで回復、10月には国内生産台数が前年同月比20.3%増の90万4,247台と持ち直している。こうした回復基調の中、インフラ再建で日本においてもニッケル需要が押し上げられると予測される。

 (4) インド(Jindal Stainless)

 インドはグローバルスケールでの大規模な製鉄所買収により世界の鉄鋼業勢力図において中核をなす国となった。2010年の同国粗鋼生産は前年比6.4%増の66.8百万tに達しており、2013年にかけて10%前後の伸びが期待される。政府による積極的な建設、インフラ、自動車といった産業への資本投入促進の試みにより、鉄鋼業は将来的に加速する見通しである。
 しかしその中のステンレスはというと、Posco同様200系や400系ステンレスへのシフト、ステンレス生産能力の縮小及び炭素鋼や合金鋼への多様化、ステンレスにおけるニッケル代替開発への動きが見られる。また現在のニッケル需要も約3万t/年とあまり大きくはないのが実情である。

 (5) インドネシア(Bumi Makmur Selaras Group)

 インドネシアは経済成長促進・拡大マスタープラン(MP3EI)に基づき6つの経済回廊の形成を進めているところであり、特にSulawesi島においてはニッケル産業がその要となっている。したがって同国のニッケル産業は国内のみならず、東南アジア、アジア大陸、ひいては世界全体の経済を戦略的に潤す可能性を秘めている。

 (6) フィリピン(MRL Gold Phils Inc.)

 フィリピンは資源が豊富な国であり、現在も27鉱山が操業している(そのうち18か所がニッケル鉱山)。また、既にプロジェクト実施の許可が下りた数は682、現在手続き中の鉱業プロジェクトは3,717に上る。2010年の鉱業セクターの成長率は12.1%、また資源輸出量は全体の27%を占めており、さらに2011年から2016年にかけての投資額は140億US$から200億US$と予測され、フィリピンにおける鉱業セクターのプレゼンスは今後ますます高まっていく見込みである。
 ただ、フィリピンには地方政府と中央政府の鉱業を巡る対立という課題もある。フィリピン地方(南コタバト州)政府による露天採掘禁止令(モラトリアム)が発布されている一方、地方政府から承認されてはいるが実際には違法な小規模鉱山での採掘が増加している。これらに対し、中央政府は議論の場を設けたり、あるいは企業からの税収を地方政府に配分したりする等して地方政府の不満軽減を試みている。また、政府はEITI(Extractive Industries Transparency Initiative; 採取産業透明性イニシアティブ)を採択し、資源開発事業におけるガバナンス向上に努めている。

2. インドネシアの鉱物資源高付加価値化義務に対する企業動向

写真3. 住友金属鉱山 池田貴美人フェロニッケル担当課長による講演
写真3. 住友金属鉱山 池田貴美人
フェロニッケル担当課長による講演

 ”Asia Nickel Outlook 2011”の2日目(11月22日)に、住友金属鉱山 金属事業本部 ニッケル営業・原料部 池田貴美人 フェロニッケル担当課長によりプレゼンテーションが行われた。インドネシア政府は、新鉱業法とその詳細規定となるエネルギー・鉱物資源大臣令に基づき、2014年以降の鉱石輸出を禁止するとしている。日本はこの鉱物資源高付加価値化義務に強い懸念を抱き、官民連携で同国政府に働きかけを行っているところであり、池田氏による講演は、そうした日本企業の懸念を明確に示したものと言える。
 池田氏は講演で、日本が長きにわたりインドネシア鉱業にハード及びソフトの両面から貢献してきたことを改めて強調し、新鉱業法の下で互恵関係を維持・促進するためにインドネシア国内で必要量を消費した後の余剰分の鉱石輸出の継続を希望すると述べた。
 一方、この政策に同調しこれを利用してニッケル事業拡大を試みる一部のインドネシア企業、中国、欧州企業は、製錬所プロジェクトに積極的に投資しており、もはや高付加価値化義務の現実性について議論する段階にはないという認識をしているようであった。”Asia Nickel Outlook 2011”の講演では、インドネシアにおけるニッケル投資について、これらの企業から下記のような言及がなされた。

1. インドネシアBumi Makmur Selaras Groupは、同社は中国とエネルギー・鉱山分野において協力協定を結び、ニッケル開発に7億US$を投資予定

2. 中国Shanghai Tsingshan Mining Investmentは、インドネシアの中央SulawesiにおいてMorowaliニッケル銑鉄プロジェクトを建設計画

3. 露・欧系Solway Groupは、フェロニッケル生産を2016年までに12万~13万t/年に増やし、世界トップ5に入る目標を立て、インドネシアAquiaでの約20億US$の投資

 しかし、高付加価値化義務の流れの勢いが強まる一方、当該政策も含め、インドネシア政府が進める新たな施策に対しては、企業側は必ずしも一枚岩ではないようである。今回、本会議の参加に先立ちインドネシア国営企業であるAntam社を訪問する機会を得たが、彼らは法律や政府の方針には従わなければならないとしながらも、鉱石輸出は継続したいとのコメントがあった。また、新鉱業法の下、国内資本化も進める政府の動きに対しては、「Antam単独ではプロジェクトの実行は難しい場合もあり、技術面では特に日本 企業のような技術力のあるJVパートナーを求めているところだ」と述べ、実情にそぐわない政策に戸惑いを示していた。
 また、Vale Inco Indonesiaは、新鉱業法におけるCOW(鉱業事業契約)の撤廃に憤りを見せており、「このように契約が途中で変更されては事業の進めようがない」と述べた。2006年にValeに買収されたVale Incoは、Vale内部の他の金属部門との競争に晒されその中で生き残るために業績向上を余儀なくされている。こうした背景から、足元のリスクにはより敏感になっているようである。

3. おわりに

 ニッケルのLME価格は2011年2月に29,030 US$/tまで値を上げたが、その後は欧州債務危機や8月の米国国債格付けの引き下げから下落基調となり、9月末以来20,000 US$/tを割り込む状態が続いている(2012年2月現在では、中国におけるインフレ鎮静化による同国の金融緩和実施への期待感や、米国におけるゼロ金利政策の期間延長を受け、値を20,000 US$以上に戻し、維持しつつある)。また、ニッケル価格はこうしたマクロ経済のほか、ステンレス分野におけるニッケル代替の動きや複数の新規鉱山における生産開始の見通しから市場に需給緩和観測が広がっていることも軟調の要因と考えられる。
 ”Asia Nickel Outlook 2011”においても同様のことが指摘され、ニッケル市場の展望は必ずしも明るいとは言えないとの印象を受けた。しかし、足元で需要低迷が懸念される一方、Xstrataは2017年までにニッケル生産を現状から2倍の20万tに増やすなどニッケル生産への注力を言及、Valeは宇宙・エネルギー産業でのニッケル需要を見込んでいるとの報道もある。また、Norilskの講演では、世界のニッケル消費の3割を占める中国の2012年GDP成長率は前年より鈍化する見通しではあるが、欧米の成熟市場を補うだけの力はあるとの指摘もなされており、中長期的なニッケル需要の動向については今後も注視すべきところと考えられる。

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