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報告書&レポート

2012年4月5日 サンティアゴ事務所 神谷夏実
2012年18号

チリ銅公社(CODELCO)を中心としたチリ銅産業国有化の歴史と企業統治

 チリ銅公社(CODELCO)は、1976年の設立後、チリ政府の銅鉱業資産国有化の中枢を占める国営企業として発展してきた。1970年に世界を吹き荒れた鉱業資産国有化の動き、その後の世界銀行が中心となって進めた民営化推進の政策の後、CODELCOは現在残り少なくなった数少ない国営鉱業企業として活動している。その保有する銅資源埋蔵量は世界最大規模であり、世界最大の銅産出国チリを代表する企業である。
 しかし、国営企業であるが故に、その経営についてはこれまで強力な大統領権限の下に置かれてきたため、企業統治の観点から経営改革の必要性が叫ばれていた。バチェレ前政権時代の2007年、CODELCOの経営体制を一新するためにCODELCO改革のための法案が国会に上程され、長い議論を経て2009年に「CODELCO近代化法(法第20,392号)」が成立した。
 新体制では、CODELCOの経営を監理する独立した「役員会」を設置、その運営を大統領権限から一歩独立させ、透明性を高めることが重視された。総裁職も、それまでの大統領による選任から、独立した役員会による透明性のある体制に改められた。また、CODELCOは将来に向けて大型投資を計画しており、そのための金融市場からの資金調達を必要としており、より高い格付けを得るための高度な企業統治も求められている。
 世界の企業経営環境、投資環境、金融環境が急速に変化する中で、国営CODELCOも、2010年に誕生したPinera政権下で、スピード感とビジネス感覚による変革が求められ、新たな企業統治の基、再出発を果たした。本稿では、こうしたCODELCOの新しい企業統治についてまとめた。

1. チリにおける銅産業国有化の歴史

・鉱山国有化の動き
 El Teniente鉱山、Chuquicamata鉱山等チリにおける大規模な銅鉱山開発は20世紀初頭から、主に米国資本により始められたが、その後も外国資本による探鉱、開発、生産が続き、外国企業の独占状態が続いた。こうした中、銅産業に対する政府関与の強化は1950年代から始まった。チリ政府は、1955年、「新処理法」(法第11,828号)による銅の生産、販売、計画管理のために、CODELCOの前進となる銅局(Departement de Cobre)を設立し、これにより、外国企業による銅価格決定の独占体制に終止符を打った。さらに、国有化の動きは、1964年のFrei政権下での、政府の銅産業に対する直接的参加によって加速された。1965年には、銅局は銅会社(Corporacion del Cobre)に改組され、これにより銅の生産と販売に対する権利をチリ政府が直接保有することとなった。さらに、1966年には、外国企業は、チリ政府が51%を保有する共同企業体を形成して銅生産を行う体制となった。
 1970年代に入り、チリ政府は外国企業との粘り強い交渉により、相次いで合弁協定を締結し、4大鉱山(El Teniente、Chuquicamata、Salvador(51%)、Andina(30%))の権益を確保した。また1970年のAgende社会主義政権の誕生により、急進的な社会主義への改革が進み、憲法修正によって天然資源等の排他的利用を強化した。国の資源に関する権利に関し、国会は1971年に、規則第17,450号により、銅産業について100%国営化することを決定し、新組織「国営鉱山会社(Sociedades Colectivas del Estado)に引き継がれた。

2. Pinochet政権下でのCODELCOの誕生

 1973年の軍事クーデターにより誕生したPinochet政権においても、銅産業国営化の方針は変わらず、1976年に政令1,350号により、新たな国営CODELCO Chileを設立し、大型鉱山を傘下に置いた。
 CODELCOは、法1,350号において特別に規定されたこと以外は、一般企業と同様な法規、規制が適用されるが、その業績は鉱業省を通じて政府に報告することとなっている。
 しかし、1980年代を通じて、既存鉱山の生産の維持のための投資を行ったものの、鉱石品位低下や新規鉱床開発のための大型投資が制限されたこともあり、CODELCOは次第に競争力を失っていった。このような状況を打破するために、1992年にCODELCO・JV法(法第19,137号)が公布され、民間企業との共同探鉱の実施、チリ鉱業公社(ENAMI)への中小鉱床の譲渡等が認められ、より柔軟な経営、リスクシェアが可能となった。1994年には、El Abra鉱山の開発に関し、外国企業であるCyprus Amax社と初の外国企業との共同開発に着手、また1998年には初の自主開発プロジェクトであるRadomiro Tomic鉱山開発に着手した。

3. 新たな企業統治の必要性が高まる

 CODELCOは国営企業であるがゆえに、数々の規制、手続きに縛られ、政治的な制約も受けることが多く、これらの点を是正し、より自主性を持ち競争力のある資源企業となる必要がある。そのために、新しい企業統治の導入、民間企業的経営の導入による経営効率化、収益の柔軟な投資、銅機密法の廃止等の改善を行っていく必要が生じているといえる。銅機密法は、銅輸出金額の10%を軍に納付するもので、軍事政権時代の遺物として現在も残る制度であり、CODELCOの国外への進出の妨げになっているとも言われている。銅機密法の廃止は、毎年のように国会での審議が図られているにもかかわらず実現していない。Pinera大統領は2011年の国会で、銅機密法廃止法案を可決したいと意気込んでいる。2012年1月16日には、チリ下院の防衛委員会で、機密法廃止法案が承認されたとの報が入ってきている。
 いずれにしても、CODELCOは、高いレベルの企業統治を行い、今後民間企業的な経営手法を取り入れることによって、高いレベルの格付けを獲得し、経営の効率化を進める必要があり、そのための経営体制の改善が迫られているといえよう。CODELCOは現在の生産レベル(170万t/年)を維持するために、2015年までの5年間で約180億US$の投資が必要であるとしており、社債発行、金融機関からの借り入れによる資金調達が避けられないが、有利な条件での資金調達を実施するために、より透明性の高い企業統治、効率的な経営体制がもとめられている。

4. CODELCOの企業統治の改革

4-1. 2010年3月までの経営体制
 CODELCOの経営はCODELCO役員会(CODELCO Board of Directors)によって管理され、以下のとおり7名の役員で構成されていた。
 ・ 鉱業大臣(役員会会長)、大蔵大臣
 ・ 大統領任命役員(3名):2名は大統領が選任、1名は軍が選任
 ・ 労働組合代表(2名)
 役員の任期は大統領の任期中となっていた。総裁(CEO)は、役員会によって任命され、CODELCO全体の生産、会計の管理を行う責任を有する。またCODELCOの予算は、鉱業大臣と大蔵大臣が作成する。このように、CODELCOの役員会は、労働組合代表役員2名が入っているものの、大臣2名及び大統領選任による役員を中心に構成されており、大統領権限下で統治されていたことになる。

4-2. CODELCO近代化法(法20,392号)の施行
 CODELCOの企業統治を改めるための法案(CODELCO近代化法案)は、2007年3月13日に国会に提出されたが、たび重なる審議においてもまとまらず、2009年5月になって上院鉱業委員会はCODELCO近代化法案を承認した。また、会計検査院がチリ銅委員会(COCHILCO)を通じCODELCOの経営を監査できるという提案、CODELCOの2008年度の利益のうち10億US$を2009年度のプロジェクト投資予算に組み入れること、新たなCODELCOの役員の選任方法(4名を独立した形で選任、2名を労働組合の選任、3名を大統領による選任)も承認された。その後、上院大蔵委員会での審議、若干の修正を経た後、2009年10月に本法案は国会で承認され、同年11月4日にBachelet大統領により施行された。
 CODELCO近代化法は、企業経営に関する国際的な仕組みを組み入れており、国営企業の企業統治についてのOECDによる提言も含んでいる。近代化法により、CODELCOの企業、株主(チリ共和国)の株主価値、利益を保護するためのインセンティブを与える保護、投資、資金の効率的運用に対する期待を含んでいる。また、CODELCOは、証券保険監督局(SVS)にも、証券市場規制法の基で、第785号企業として登録されており、一般企業と同様な報告、情報開示が義務付けられている。

 CODELCO近代化法のもとで導入された新たな統治システムは以下のとおりである。
 ① 株主、株主会の設置と大統領権限

 近代化法は、大統領が、CODELCOの株主としての権利と義務を遂行することを定めている。この規定に基づき、大統領は以下の権限を有する。

‐ 役員会役員(9名)の任命。ただし、このうち3名は大統領が推薦した候補者、6名は第三者が作成したリストに基づいて任命する。

‐ 役員会会長の任命
‐ 内規の承認、改訂

 このために大統領は、株主として、株主会(企業統治法に規定する定義の範囲内において)の権能と義務の行使に責任を負う。大統領は株主会への参加を大蔵大臣、鉱業大臣に委任することもできる。

 ② 新役員会の設置

 2010年3月11日のPinera新大統領就任後の3月25日、CODELCO役員会は、新企業統治規程(Code of Corporate Governance)を採択した。この規程は、CODELCOの企業統治を規定したもので、CODELCOの株主会(企業保有者)、役員会メンバー、幹部職員相互の関係と実務について、関連する法規、規則等とともに規定したものである。

 ③ 役員の推薦及び任命

 CODELCOの役員会は、2009年11月4日施行のCODELCO近代化法(法第20,392号)によって規定される9名のメンバーで構成される。CODELCO近代化法は、大統領に9名の役員会メンバーの任命権を与えているが、大統領が自ら推薦できるのはこのうち3名だけとなり、その他6名の役員は、下記に示すプロセスによって推薦される。
 ・ 大統領推薦(3名)
 ・ 政府高級ポスト人事審議会推薦(4名)

・ 労働組合推薦(2名):1名は銅産業労働組合(FTC)、残り1名は銅産業管理職組合(FESUC)、全チリ銅管理協会(Asociacion Nacional de Supervisores del Cobre)、銅管理連盟( ANSCO:Federacion de Supervisores del Cobre)から推薦

 役員候補の資格要件は、労働組合推薦の候補者を除き、チリ国内外の大学卒業の学位取得、国有企業もしくは民間企業での最低5年間の管理職経験を有する者となっている。
 また4名の候補者は、政府高級ポスト人事審議会(Consejo de Alta Dirección Pública)によって人選されるが、これは、政府及び政府関係機関の幹部ポストの人選を行うための公的な制度(Sistema de Alta Dirección Pública)で、適切な人材を選任し行政の公平性、効率性、専門性の向上を図るために2003年に創設されたものである。

4-3. 初の株主会開催(2011年4月)
 CODELCOは、2011年4月21日、初の株主会を開催した。出席者は、株主である政府を代表して、Felipe Larrain大蔵大臣、Laurence Golborne鉱業・エネルギー大臣が出席し、CODELCO側は、Gerardo Jofre役員会議長、Diego Hernandez総裁(CEO)、Thomas Keller CFOが出席した。株主会では、2010年の会計及び企業活動の報告がなされ、承認された。なお、現在CODELCOは、原則としてその利益をすべて国庫に納付するが、その額は、一般企業における会計上の税引き前利益に相当する額で、総利益(Total Profit)と呼ばれ、軍に納付する銅機密法税額、法人税、特別鉱業税、利益から構成される。CODELCOは、今後、これらの総利益のうち一部を資本金に取り込み、投資資金を確保したいところであるが、今回の株主会では、Larrain大蔵大臣は、CODELCOの投資計画について抜本的な議論はしなかったと語った。また、今後の金融市場からの資金調達を行う場合、その格付けが問題になるが、これに対して、同大臣は、政府は、CODELCOが競争力、格付けレーティングを失わないようサポートをするとも語っている。
 株主会の開催について、Larrain大蔵大臣、Golborne鉱業・エネルギー大臣は、新統治法の下で初の株主会が開催されたことの意義を強調し、CODELCOがベストプラクティスを持ってより経営パフォーマンスが上昇したこと、新たな開かれた経営陣(役員会)の設置により、政府の管理下での経営から国家の管理下の経営に変わることができたと語っている。

<まとめ>

 CODELCOは国営企業として発足以来、世界最大の銅生産者として経営を行ってきたが、経営環境が大きく変わり、経営条件も厳しくなる中、より効率性、独立性、透明性を持った経営体制に変革する必要が高まってきた。そのために、2009年11月にはCODELCO近代化法が施行され、あらたな企業統治のもとでの経営が始まっている。CODELCOは、国営企業として、様々な経営上の制約、規制の元に運営されているが、今後のより厳しい経営環境の中では、民間企業的な経営を取り入れていく必要もある。現在の生産体制を維持するために、今後大規模な資金調達が必要となっており、自己資本の増加、銅機密法の廃止等の課題が残されている。CODELCOは、今後国営企業でありながら、より自由度の高い経営が求められ、そのための改革が進められて行くものと考えられる。

【参考文献】
 Executive Summary Code of Corporate Governance CODELCO-Chile
 CODELCO Informa 12, December 2010, CODELCO

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