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報告書&レポート

2012年4月19日 メキシコ事務所 高木博康
2012年20号

メキシコ・オアハカ州の鉱業の現状について

図1. メキシコ・オアハカ州位置図
図1. メキシコ・オアハカ州位置図

 オアハカ(Oaxaca)州は、メキシコ南部に位置し、植民地時代には日本の佐渡等とともに金の産出地として世界的に有名であった。また、州の南西部には大規模な鉄鉱床が存在しており、学術的にポーフィリーカッパー鉱床の存在も知られている。その他、アンチモン、チタン、マンガン、レアアース等の賦存が知られている。
 一方、同州は、州の南東のチアパス州とともに、先住民問題等から鉱業等の開発が困難な州として知られており、メキシコ2大非鉄金属企業のGrupo Mexico社及びPeñoles社は投資対象外地域としている。
 このような中、2010年から2011年にかけて2つの鉱山が商業生産を開始した。
 JOGMECメキシコ事務所は、この商業生産を開始した2鉱山及びオアハカ州産業・鉱業部等を訪問し、関係者からオアハカ州の鉱業の現状について聴取することができたので、ここに紹介する。

1. オアハカ州の鉱業の現状と今後の見通し

(1) オアハカ州の金属鉱物生産量
 オアハカ州の金属鉱物の生産量は、植民地時代には金の産出地として世界的に有名であったものの、近年の金属生産は個人所有の小鉱山による金・銀のわずかな生産のみであり、表1のとおり、2008年及び2009年の金属鉱物の生産はゼロとなっていた。2010年10月に米Gold Resource社がEl Águila多金属鉱山の金・銀鉱体において商業生産を開始し、2011年9月に加Fortuna Silver社がSan José金・銀鉱山の商業生産を開始した。また、2011年からはEl Águila多金属鉱山が多金属鉱体において商業生産を開始したため、2011年から銅、鉛、亜鉛の生産も記録されている。

表1. オアハカ州の金属鉱物生産量の推移

  2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
金 (kg) 56 0 0 0 326 805
銀 (t) 6.3 0.1 0 0 3.5 83.1
銅 (t) 620
鉛 (t) 1,840
亜鉛 (t) 3,730

(2) 今後の見通し
 今後、上記2鉱山が操業を本格化させることによる生産量の増加やGold Resource社が進める他のプロジェクトの生産段階への移行に伴う生産量の増加は見込まれるものの、オアハカ州産業・鉱業部の話によると上記2社以外に進展したプロジェクトは存在していない。
 その背景としては、オアハカ州には先住民が多く、その先住民は土地への愛着が強いこと、また郡(Municipio)(注)の数がオアハカ州は570(うち人口1万人以下の郡が531)と多いため、多くの関係者との交渉を必要とすることが挙げられる。
 (注) メキシコの行政組織で州政府の下部組織。日本の市町村に相当し、人口30万人以上の郡は、「市(Ciudad)」の名称を使うことができる。
 前者は、鉱業分野だけで無く、様々な事業分野での開発を困難にしている。例えば、オアハカ市と太平洋岸を結ぶ高速道路の建設も凍結されている。鉱業分野においては、生産段階だけで無く、探鉱段階から先住民コミュニティとの交渉が必要となり、探鉱を行う見返りの金品が必要となることが多い。このため、学術的に存在が指摘されているポーフィリーカッパー鉱床についても探査が十分に行われていない。
 後者の例としては、州の南西部には大規模な鉄鉱床が存在しているが、複数の郡にまたがり、郡の境界線争いがあるため、開発ができずにいるとのことである。
 オアハカ州Vicente José Vasques産業・鉱業部長は、「これらのような困難さは存在するものの、上記の2社の例があるように開発が全くできない訳では無く、地域コミュニティにとって良いことだと理解してもらえば開発は進む。地域コミュニティとのコミュニケーションを十分に取り、彼らとの協定・合意を得つつ、慎重に開発するよう投資家にはアドバイスしている。州政府としては、地域コミュニティに関する情報提供や地域コミュニティとの対話の仲介等、投資家に対する協力を最大限行いたい。」とのことであった。

2. オアハカ州の鉱山の現状(ヒアリング結果)

(1) El Águila多金属鉱山
 ① 鉱山の概要

 米国デンバーに本社のあるGold Resouce社が100%権益を持つ。同社は他にオアハカ州内でEl Ley金・銀プロジェクト、Las Margaritas銀プロジェクト、Sologa銀プロジェクト及びAlta Gracia金・銀プロジェクトの探鉱を行っている。

写真1.El Águila鉱山の選鉱プラント遠景
写真1.El Águila鉱山の選鉱プラント遠景

 El Águila多金属鉱山は、オアハカ市南約110 kmの山岳地帯に位置し、El Águila金鉱体(露天掘)とArista多金属(ポリメタリック)鉱体からなる。2010年10月にEl Águila鉱体からの金の商業生産を開始し(2010年の生産量は金326 kg、銀3.5 t)、2011年からは粗鉱処理量1,000 t/日のEl Águila選鉱プラントで銅精鉱、鉛精鉱及び亜鉛精鉱も生産している。
 2010年末現在の確定・推定埋蔵量は、300万t(平均品位 金6.5 g/t、銀506 g/t、銅0.60%、鉛2.24%及び亜鉛6.75%)となっている。
 今後は、2012年中に粗鉱処理量1,500 t/日に拡大し、2012年は金換算3.7~4.4 tの生産を計画している。
 El Águila鉱山から80 km離れたEl Rey金・銀プロジェクトの鉱石はEl Águila金・銀抽出プラントで処理する予定である。El Águila鉱山の当初計画のマインライフは9年であるが、El Reyプロジェクトと既存鉱体の資源量評価の結果で延長が見込まれる。


 ② 探鉱段階における地域コミュニティとの関係

 探鉱は1997年から実施しているが、探鉱を行うに当たっては、まず地元の社会状況を調査し、オアハカ州の中では比較的問題無さそうな地域であることを確認した。その後、地元の信頼できる者を雇用し、地元対策を担当させた。地元のエヒード(農業共有地所有者)と探鉱に係る協定締結に向けた調整を行うとともに、地元の郡や農地監督局に相談し、協力要請を行った。その結果、エヒードとの間でエヒード所有地内で探鉱を行うことの見返りに探鉱料を月々支払う契約を締結し、地元の郡との間で週2回無料診療を行う契約を締結した。

 ③ 開発段階以降における地域コミュニティとの関係

 エヒードとの間では新たに土地の借用契約を締結した(具体的な金額は言及しなかったが、探鉱段階より高額)。
 地元の郡との間では協力協定を締結し、診療所、小学校の建設、中・高等学校学生への奨学金、商業的価値の高い植物の植樹等を行っている。
 雇用は地元を優先しているが、雇用者のうち3分の1が郡、3分の1が周辺の郡、残り3分の1はそれ以外の地域からの経験者となっている。
 なお、オアハカ州のコミュニティの教育水準は低いが、このコミュニティはスペイン語が通じるとのことである(オアハカ州にはミステカ語を話し、スペイン語が通じないコミュニティも多い。)。

(2) San José金・銀鉱山
 ① 鉱山の概要

写真2. San Jose鉱山遠景
写真2. San Jose鉱山遠景

 カナダ・バンクーバーに本社があるFortuna Silver社が100%権益を持つ。同社は、他にペルーにおいてCaylloma多金属鉱山を操業している。
 San José金・銀鉱山は、オアハカ市南東約50 kmに位置する坑内掘の金・銀鉱山である。粗鉱処理量1,000 t/日の選鉱プラントにより銀精鉱を生産し、国際的な金属取引会社を通じて韓国に輸出している。
 Fortuna Silver社は、2009年3月に加Continuum社からSan José鉱山の100%権益を買収し、2011年9月に商業生産を開始している。2010年末の概測鉱物資源量は、270万t(平均品位 金2.27 g/t及び銀295 g/t)。2011年の生産量は、金134 kg、銀15.3 t、マインライフ7年で、年間生産量は、金778 kg、銀100 tを計画している。


 ② 鉱山操業までの許認可及び協定等

 2009年3月にFortuna社が権益を取得してから2011年9月に商業生産を開始するまでに要した許認可や郡、エヒードとの協定、契約等は、表2のとおりとなっている。
 鉱区は、生態系均衡環境保護一般法に基づく自然保護地域の緩衝地帯(注)に位置しており、通常の環境影響評価書(表2中、3)に加え、土地利用変更許可(表2中、5)、MIAの保障金支払い(表2中、10)及び動植物群保全管理計画の認可が必要となっている。MIAの保障金支払いについては、万が一環境にダメージを与えた場合に回復に要する費用を予め保障金として支払うもので、外国企業が自然保護地域で開発を行う場合、環境天然資源省より支払いを求められるケースがある。
 (注)自然保護地域は、中核地帯と緩衝地帯に分けられ、中核地帯においては鉱業等の開発は認められない。一方、緩衝地帯においては必要な措置を取ることにより開発が認められる。
 また、この地域はマヤ文化の遺跡が点在する地域であり、遺跡及び考古学地帯連邦法の考古学地帯に指定されているため、考古学遺跡に関する認可(表2中、2)が必要となっている。

表2. San José鉱山操業に係る許認可及び協定一覧

  許認可及び協定等の名称 取得当局等 取得年月
変電所建設の認可 電力庁 2009年  5月
考古学遺跡に関する認可 国立考古学協会 2009年  7月
環境影響評価書(MIA) 環境天然資源省 2009年10月
エヒード契約 エヒード総会 2009年11月
土地利用変更許可 環境天然資源省 2009年12月
廃さいダム建設に関する許可 国家水委員会 2009年12月
国道175号線横断配管埋設許可 運輸通信省 2010年  1月
浄水プラント水供給協定・契約 Ocotlan de Morelos郡 2010年  1月
火薬使用許可 国防省 2010年  1月
10  MIAの保障金支払い 環境天然資源省 2010年  3月
11  廃さいダムの水利権 国家水委員会 2010年  3月
12  動植物群保全管理計画の認可 環境天然資源省 2010年  3月
13  汚染水排出許可 国家水委員会 2010年  3月
14  坑内水水利権 国家水委員会 2010年  6月

 ③ 地域コミュニティとの関係

 San José鉱山は、地形的に水が少ない地域に位置しており、水の確保に苦労している。San José de Gracia郡には貯水ダムが存在しているが、貯水ダムの水の利用について郡を相手に交渉したところ、全く相手にされなかったとのことである。なお、この貯水ダムは1980年代に生活・農業用水の確保を目的として建設されたものであるが、この郡のコミュニティは、生活用水としても農業用水としても一切使用していないそうである。このコミュニティは、スペイン語は話せるが、教育水準が低く、彼らの慣習には理解しがたいものがあると州政府関係者も述べていた。

写真3. 水のリサイクル施設
写真3. 水のリサイクル施設

 このため、川が流れる15 km離れたOcotlan de Morelos郡との間でFortuna社が浄水場を建設する見返りに水の一部の供給を受ける協定・契約を締結した。
 その浄水場からプラントまでパイプラインを使って送水する計画であったが、途中の郡の一つがパイプラインの建設に反対したため、給水車を使って水を運搬することとなった。反対した理由は、鉱山が属する郡だけが恩典を得ていることへの妬みと考えられるとのことである。
 現在は、給水車による水に加え、廃さいダムの水を再利用している他、水のリサイクルを行っている。
 また、鉱山の鉱脈は国道の反対側に伸びており、別の会社が鉱業権を所有しているが、そこの郡は探査することすら許さず、開発が進んでいない。
 郡との関係構築は重要であり、誠意ある対応とパンフレット配布やラジオ等による情報公開を徹底している。
 雇用は、Águila鉱山と同様、3分の1が郡、3分の1が周辺の郡、残り3分の1はそれ以外の地域からの経験者となっている。


おわりに

 オアハカ州は、州の南東部のチアパス州とともに従来から地域コミュニティとの関係で開発が困難であると言われていた。そのオアハカ州で外国企業により2つの鉱山が相次いで商業生産を開始した。今回の訪問の結果、成功要因は、両社による地域コミュニティとの対話の努力や当該コミュニティが比較的柔軟であったことにあり、依然として同州での開発には困難を伴うことを再認識した。しかし、この2社から聞いた話はオアハカ州だけでなく先住民の多い地域で鉱業開発を行うに当たっての何らかの参考になると思われる。また、Fortuna Silver社から聞いた許認可手続きの事例についてもメキシコで鉱業開発を行うに際しての一つの参考になると思われるので、今回ここに紹介することとした。

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