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報告書&レポート

2012年5月24日 サンティアゴ事務所 神谷夏実
2012年25号

チリのリチウム資源開発に関する入札制度の導入状況-特別操業契約による現行鉱業法下での新しい開発体制の整備

 2012年2月7日、チリ鉱業省のPablo Wagner次官は、政府は、20年間でリチウム10万t(リチウム純分)に相当するリチウム開発権の入札を行う予定であると発表した。同次官によると、アルゼンチン、オーストラリア、中国、米国等諸外国で、リチウム資源開発計画が進展していることから、チリのリチウム資源を有効活用し、リチウム生産の競争力を維持するために、これまで開発が規制されていたリチウム採掘権を入札により解放する制度の創設を検討している。現在、チリのリチウム生産は、世界のリチウム市場の約40%を占め、世界最大の生産国となっている。同次官の発表によると、2012年第2四半期までに入札の準備が整えば、第4四半期ごろに、まず、最初の入札を行う予定である。政府によると、政府原案は、3月末に会計検査院による最終審査段階に入っている。
 現段階では、政府原案が公表されておらず、入札制度の詳細は不明であるが、メディア報道、政府関係者から聴取した結果に基き、新制度の概要とその背景について報告する。

1. 現行鉱業法下におけるリチウム特別操業契約

 現行鉱業法(Ley.18.248、1983年施行)では、リチウムは鉱区の設定ができない鉱物と規定されており(第7条)、事実上リチウムの開発は行うことができない。現在リチウムの生産を行っている事業者(SQM社、SCL社)は、旧鉱業法(1932年施行)によって認められているリチウム採掘権を根拠として、操業を許可されている。現行鉱業法の下で、新たにリチウムの開発を可能とするためには法改正が必要であるが、利害関係が複雑で困難が予想される。さらに、現在のチリ国会は、上下院において与野党勢力のねじれ現象(与党は下院でかろうじて過半数を占めるが、上院では劣勢)が起きており、連立政権を組む与党は、現行鉱業法を改正することは難しいと判断しているとみられる。そこで政府は、現行鉱業法の下で新たなリチウム開発権を導入することを検討している。
 これまでのメディア報道、政府関係者から聴取した結果に基づく、新たなリチウム開発権の概要は以下のとおりである。

現行鉱業法は、リチウムを鉱区設定ができない鉱物としており、リチウムを採掘することが事実上できない。鉱区設定ができない鉱物の開発は、国、国有企業が行うか、あるいは大統領が定める「管理鉱区 (Concesionas Administrativas)」において「特別操業契約(Contoratos especiales de operacion)」により開発が可能(第8条)となっている。そこで、この条項を用いて「リチウム特別操業契約(CEOL:Contoratos especiales de operacion de litio)」の制度を創設する。

政府は、リチウム開発権を含むリチウム特別操業契約を国際入札によって、落札事業者に与える。初回の入札では、リチウム開発権(Quota)1件を解放する予定で、対象地域を特定せずに、チリ国内で20年間にわたり10万t(リチウム純分)のリチウムの開発ができる権利とする。

落札事業者と鉱業省は、リチウムの採掘操業に係る特別操業契約を締結するもので、この中に、核エネルギー委員会(CCHEN:Comision Chilena de Energia Nuclear)の許可も含まれる。

落札事業者は、開発までの期間(6年程度)に、環境影響調査(EIA)を行い環境許可を取得しなければならない。

落札事業者が、リチウムが賦存する場所の現行鉱業法に基づく採掘権を持っている場合、落札した開発権を使い、当該鉱区のリチウムの開発を行うことができる。落札事業者が、採掘権を持っていない場合、リチウムが賦存する場所の採掘権を持っている事業者と契約を行うことにより、リチウムの開発を行うことができる。

既存生産者(SQM社、SCL社が旧鉱業法に基づいてCORFOが保有する採掘権に基づいて操業)、CODELCO等旧鉱業法下で保有している採掘権については、新制度は適用されない。

政府は、落札事業者に対し、一般税以外に、年間売上高の7%をリチウム特別納付金(Pago Especial de Litio)を支払う義務を課すことを検討している。政府は開発権1件当たりの納付額として、20年間で約3.5億US$に達すると見込んでいる。

特別操業契約は商業契約となり、紛争解決は国際商事仲裁等の国際的な場となるとみられる。

現政権下で開放する開発権は1件とする見込みである。(ピニエラ大統領任期は2014年3月まで)

2. 新制度の導入スケジュール

現在、鉱業省は、新たな規則の原案を策定しており、2012年中を目途に入札を実施できる体制を作りたいとしている。

政府は、3月28日に政府原案が完成し、会計検査院(Contraloria)が審査を開始したと発表した。会計検査院の審査は、通常は1~2か月程度で終了するとされている。

鉱業省によると、2012年第2四半期までに入札の準備が整えば、第4四半期ごろに、最初の入札を行う予定である。

政府は、国際的な関心の高さから、チリ国外で国際入札の説明会を計画している。鉱業省関係者によれば、会計検査院の審査状況にもよるが、早ければ、入札参加が想定される国において、2012年の年央にも実施したいとしている。

3. 新たな入札制度に対する反応

下院エネルギー資源委員会では、3月以降の会合において、野党議員を中心に、法改正を伴わない新たな制度作りに対する批判的な質問が行われている。また一部議員から、鉱業省の情報開示が遅れているとの指摘もされている。

メディア報道によると、鉱業省のPablo Wagner次官は、リチウム特別操業契約に伴う税負担が、リチウム生産による収益の50%相当になるだろうとの見解を表明した。国外のリチウム開発事業者からは、新たな制度に関する情報が不足していること、税及び納付金の額が高く、国際的に競争性が低いとの意見も聞かれる。

CODELCO労働組合は、現在政府が検討しているリチウム開発権の入札制度は、リチウム開発の民営化に他ならず、こうした民間企業によるリチウム開発ではなく、CODELCO等政府関与の元で進めるべきとの意見を出している。

CODELCOは、リチウム開発の可能性があるPedernales塩湖において、旧鉱業法によるリチウム開発権を有している。昨年来、CODELCOは、リチウム開発事業の規模が小さく関心が低いことを表明してきたが、3月には、エルナンデス総裁は、リチウム開発は中心的な事業ではないが、開発の可能性を排除しないとの発言も行っている。

4. リチウム開発が現行鉱業法の対象外であるのに、現在リチウム開発が行われている理由

旧鉱業法においては、リチウムを含む鉱物資源の探鉱、開発に関する権利、義務が規定されており、現在でも、旧鉱業法によって設定されたリチウム鉱区の開発は可能である。

しかし、原子力開発に関する法律(1979年施行)によって、リチウムを含む核物質の開発を、鉱業法から分離し管理することが決められた。このため、新規に発見されたリチウム資源の開発は、核エネルギー委員会の許可が必要となった。

現行鉱業法では、リチウム、その他の核物質を除く鉱物資源の探査、開発を規定しており、リチウムは除外されている。制度上、核エネルギー委員会が許可を出せる形になっているが、施行規則が整備されておらず、事実上リチウム開発ができなくなっている。

旧鉱業法でのリチウム採掘権は、チリ開発公社(CORFO)、CODELCO等少数の鉱区権者が保有しているとみられる。旧鉱業法のもとでは、1977年にリチウム資源の有効活用の観点から、CORFOが、チリ第II州アタカマ塩湖でのリチウム採掘鉱区を取得し、一部を米国企業等にリースする形で開発が始められた。その後CORFOのリース権が受け継がれるなどして、現在もSQM社、SCL社にリースされ、生産が続けられている。

5. 現行鉱業法でのリチウム資源の位置づけ

現行鉱業法では、リチウムは炭化水素及び海底資源と同様、鉱区設定ができない鉱物と規定されている。(現行鉱業法第7条)

リチウムの法的位置付け
リチウムは、「核物質であるための条件規則」(1975年)によって、放射性物質(核物質)として規定された。当時の旧鉱業法では、リチウムは一般鉱物と同様に採掘権により開発が可能とされていたが、この条件規則によって、「核物質」であると規定され、鉱業法の対象外となった。さらに、「リチウム資源の開発についての規則」(法令第2886号、1979年施行)では、[1]所有権が既にありかつその登記が既になされているもの、あるいは、[2]法令の発布日以前一年以内に登記手続きがなされていたもの以外について、リチウム生産及び開発については全て核エネルギー委員会の許可が必要と規定された。

現行鉱業法では、リチウムは鉱区設定ができない鉱物に指定されているが、国、国有企業、或いは、大統領が事例毎に最高政令で定める条件の適用を受ける管理鉱区、もしくは特別操業契約を通じて開発できることが規定されている(現行鉱業法第8条)。今回の新制度は、この特別操業契約に関する規定を使うものである。

なお、第8条に定める、鉱区設定ができない鉱物の開発に関する規定は、チリ共和国憲法第19条24項においても同様に規定されている。

リチウムを産する可能性のある鉱区の場合、チリ政府への届け出義務があり、開発に対し様々な制限がある。リチウムが技術的及び経済的に分離・濃縮できる場合は、チリ政府へ譲渡しなければならず、無断で生産、売却した場合は、売却価額及び罰金として売却価額の4分の1を国へ納付しなければならないことが規定されている。(現行鉱業法第9条)。

6. まとめ

リチウム開発に対する需要の高まりから、チリ政府は、国家資産の迅速な有効活用のために、制度改正と開発促進を優先し、法改正を行わずに新制度を創設しようとしている。チリ国会は、上下院で与野党関係のねじれ現象が起きていること、また与党が連立体制であることからも、法改正を行わない形での新制度創設を目指しているとみられる。現在、下院資源エネルギー委員会では、法改正を行わない制度創設に対し、野党を中心に反対意見も出されているところ、今後の国会運営も注目される。

第一回目の入札による開発権は、20年間についてリチウム10万t(リチウム純分)となっており、年間平均5,000 tに相当する。現在のチリのリチウム生産量は約5万t/年(炭酸リチウム)程度で、リチウム純分に換算すると約1万t/年と推定される。つまり、新たな開発権は、現在の生産量の約50%に相当するもので、現在の生産者が2社であることから、新たな開発権により、3番目の生産者が参入することと同じ効果が期待できることとなる。チリ政府の意図もこのあたりにある可能性もある。

政府原案が公表されておらず、入札の詳細は不明であるが、入札への参加条件は特になく、現在の生産者、鉱区保有者に限らず応札が可能であるとみられる。いずれにしても、現在チリ会計検査院が行っている審査の終了が今後の制度設定への第一歩となる。

<参考>チリ共和国の鉱業法(1983年施行)(抄)
      (チリ共和国の鉱業法制:金属鉱業事業団、平成11年3月)

第7条: 液状とガス状の炭化水素、リチウム、領海内に存在して、法によって、鉱業活動よりも国防を重視せねばならないとされた地帯に、全部又は一部が存在するあらゆる種類の賦存物質、鉱床については、鉱区の設定はできない。ただし、これは、鉱区不許可通告以前、或いは、国防重要地帯の通告以前に設定された、現在有効な鉱区に対しては適用されない。

第8条: 前条によって鉱区設定ができない鉱物の探鉱、採掘については、国、或いは、国有企業によって、直接、或いは、大統領が事例毎に最高政令で定める条件の適用を受ける管理鉱区(Concesionas Administrativas)、或いは、特別操業契約(contratos especiales de operacion)を通じて行うことができる。

第9条: 鉱床が鉱区設定可能鉱物以外の鉱物を含有するときも、鉱床中の鉱区設定可能鉱物に対して鉱区を設定できる。
 探鉱、採掘、或いは、採掘鉱区に由来する物質の処理段階で、鉱区設定可能鉱物以外の鉱物が存在する時は、その旨を国へ届け出なければならない。その鉱物が産物中に有意な量存在する場合、即ち、技術的、及び、経済的見地から、濃縮、或いは、分離できる場合、国は、その鉱物を、国の費用で生産者が国に代わって鉱産物から分離して、国へ引き渡すか、或いは、譲渡することを生産者に要求できる。国が生産者に要求しない時は、鉱物には、鉱区設定可能鉱物以外の鉱物が有意に存在しないものとする。
 国は、濃縮、及び、引渡しで発生する生産者の費用を、引渡し前に生産者に支払わねばならない。また、国は、国内で濃縮、或いは、分離を行う為に必要な設備と建造物の改修、追加工事の費用を負担しなければならない。更に、国は、これらの改修、追加工事の際に発生する損害についても補償するものとする。追加工事分は国有財産とする。
 本条が生産者に課す義務を履行しないものに対しては罰金を課す。罰金は第11条の規定、その他に照らして裁判所が決定する。
 第2項に則り、国が請求した鉱区設定可能鉱物以外の鉱物が売却されたときは、如何なる場合でもその価額を何ら減額なしに国に引渡す義務とは別に、譲渡された物資の価額の1/4を罰金として課す。
 本条に関する国の窓口は、リチウムについては核エネルギー委員会(Comision Chilena de Energia Nuclear)、液状とガス状の炭化水素については鉱業省とする。
 本条の適用に関わる全ての問題については、当該裁判所が裁定する。

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