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報告書&レポート

2012年6月7日 メキシコ事務所 高木博康
2012年28号

メキシコ・チワワ州の鉱業の現状について

図1. チワワ州位置図

図1. チワワ州位置図

 メキシコ・チワワ州は、Peñoles社の主力鉱山であるNaica多金属鉱山及びBismark多金属鉱山を有する他、近年は西部の西シエラマドレ山脈で外資系企業を中心に金・銀を対象とした新鉱山が次々と操業を開始する等、メキシコ屈指の鉱業州の一つである。
 2012年4月25日~28日に2年に1度開催される鉱業大会Chihuahua Minero 2012が開催され、プレゼンテーションやブース展示により、同州で鉱山や鉱業プロジェクトを保有する企業、州政府、メキシコ鉱業センター(SGM)チワワ事務所等から同州の鉱業の現状等について話を聞く機会を得たので、ここに紹介する。


1. チワワ州の鉱業の現状

(1) チワワ州の金属鉱業生産量
 チワワ(Chihuahua)州は、州別生産量で、銀、鉛、亜鉛がサカテカス州に次ぐ第2位、金がソノラ州に次ぐ第2位、銅がソノラ州、サカテカス州、サン・ルイス・ポトシ州に次ぐ第4位となっている(表1)。

表1. チワワ州及びメキシコの主要鉱石生産量(2010年)

鉱種 チワワ州
〔①〕
メキシコ計
〔②〕
世界計
〔③〕
チワワ州の
対メキシコ
計割合
〔①/②〕
メキシコ計
の対世界
計割合
〔②/③〕
チワワ州の
国内順位
メキシコの
世界順位
金(t) 18.3 79.4 2,550 23% 3% 2 11
銀(t) 783 4,411 21,299 18% 21% 2 1
銅(千t) 13.1 270.1 16,099 5% 2% 4 12
鉛(千t) 46.3 192.1 4,102 24% 5% 2 5
亜鉛(千t) 133.7 570 12,115 23% 5% 2 8

(出典:チワワ州とメキシコはメキシコ国立地理情報院(INEGI)、世界計はWBMS2011)

図2. メキシコ及びチワワ州の金の生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

図2. メキシコ及びチワワ州の金の生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)
図3. メキシコ及びチワワ州の銀の生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

図3. メキシコ及びチワワ州の銀の生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

 チワワ州の金、銀の2006年から2010年の生産量の推移を見ると、メキシコ全体での伸びに比べれば小さいものの、この5年間で金(図2)は58%、銀(図3)は85%と増加している。一方、鉛(図4)は減少傾向にあり、亜鉛(図5)は概ね横ばいとなっている。チワワ州の金、銀の生産量の増加の要因は、外資系鉱山の増加のためである(詳細は2.参照)。なお、メキシコ全体で2010年に銀、鉛及び亜鉛の生産量が大きく伸びているのは、サカテカス州のPeñasquito多金属鉱山が2010年9月に商業生産を開始した影響である。
 2010年にチワワ州の鉛、亜鉛の生産量が減少しているのは、PeñolesのNaica多金属鉱山が電力庁(CFE)のトランスミッションの故障に起因する浸水により操業に支障が生じたことが一因である。

図4. チワワ州の鉛の生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図4. チワワ州の鉛の生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)
図5. チワワ州の亜鉛の生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図5. チワワ州の亜鉛の生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

(2)チワワ州の金属鉱業生産額
 チワワ州の金属鉱業生産額は、2006年の101億Peso(約9.4億US$)から2010年の220億Peso(約17.8億US$)へと増加している。2010年生産額の鉱種別内訳を見ると、金が42%、銀が29%、亜鉛が17%、銅、鉛が6%となっている。また、州別の鉱業生産額では、チワワ州は、ソノラ州、サカテカス州に次ぐ第3位で、メキシコ全体での鉱業生産額の13%となっている。

図6. チワワ州の金属鉱業生産額の推移(出典:SGM、単位:百万Peso)

図6. チワワ州の金属鉱業生産額の推移(出典:SGM、単位:百万Peso)

2. チワワ州の主要鉱山の現状

 2010年のチワワ州の主要鉱山の鉱種別生産量は、表2のとおりとなっている。

表2. チワワ州の主要鉱山の鉱種別生産量(2010年)

鉱山名 企業名
(t)

(t)

(千t)

(千t)
亜鉛
(千t)
Bismark Peñoles  18.3  1.9  3.1  48.4
Naica Peñoles 0.02  59.2  0.5  15.1  11.1
Santa Eulalia Grupo Mexico (注1)  3.1  7.0
Santa Bárbara Grupo Mexico (注1) (注2)  13.7  34.4
San Francisco de Oro Frisco 0.06  37.2  0.7  6.7  19.0
Dolores 加Minefinders 1.74  37.9
Pinos Altos 加Agnico-Eagle 4.06  36.9
Ocampo 加AuRico Gold 3.21 137.4
Moris ペルーHochschild 0.67  2.7
Palmarejo 米Coeur d’Alene 3.19 183.1
Bolivar 加Dia Bras  1.3  8.0
El Sauzal 加Goldcorp 4.73
その他 0.70 (注3) (注4)  4.6  5.8
合計 18.38 783.1 13.1  46.3 133.7

(注1)Grupo Mexicoは、坑内掘鉱山の銀の生産量は個別に公表していない。坑内掘3鉱山(Santa Eulalia、Santa Bárbara鉱山及びCharcas鉱山(サン・ルイス・ポトシ州))の合計の銀の生産量が203.7 tとなっている。
(注2)Grupo Mexicoは、坑内掘鉱山の銅の生産量は個別に公表していない。坑内掘2鉱山(Santa Bárbara鉱山及びCharcas鉱山(サン・ルイス・ポトシ州))の合計の銅の生産量が5.6千tとなっている。
(注3)(注1)の配分次第で、66.7~270.4の間の数値。
(注4)(注2)の配分次第で、3.1~8.7の間の数値。

 表の上から5つ目までのメキシコ資本の大手鉱山企業の所有する多金属鉱山は歴史が古く、6番目以降の外資系企業が所有する鉱山は最近操業を開始していること及びBolivar多金属鉱山を除き、金・銀鉱山であることが特色として挙げられる。
 Peñoles社のBismark鉱山は、同社の亜鉛生産の主力鉱山であり、1992年に操業を開始している。Naica鉱山は、メキシコ最大級の鉛主体の多金属鉱山であり、50年以上操業されている。Grupo MexicoのSanta Eulalia鉱山及びSanta Bárbara鉱山は、坑内掘の多金属鉱山で長い歴史を持つ鉱山として知られている。なお、Santa Eulalia鉱山は、金属価格の低迷から2000年~2005年1月まで操業を停止していた。Frisco社は、2010年のメキシコ株式市場への公開前は情報公開がほとんど行われていないため、操業開始時期等は不明であるが、同社はSan Francisco de Oro鉱山を1961年に保有している。なお、Frisco社は2012年Q1にConcheño金銀鉱山の操業を開始している。
 一方、外資系企業の保有する鉱山については、加Goldcorp社のEl Sauzal金鉱山が2004年12月に商業生産を開始したのが最も歴史が古い。その後、加AuRico Gold社のOcampo金銀鉱山が2007年1月に商業生産を開始し、ペルーHochschild社のMoris金銀鉱山が2007年8月に操業を開始している。加Dia Bras社のBolivar多金属鉱山は2008年から粗鉱処理量500~600 t/日によるパイロット生産を行っていたが、2011年11月に粗鉱処理量1,000 t/日による商業生産を開始した。更に2013年には粗鉱処理量2,000 t/日に拡張する計画である。2009年には、米Coeur d’Alene社のPalmarejo金銀鉱山(3月)、加Minefinders社のDolores金銀鉱山(5月)、加Agnico-Eagle社のPinos Altos金銀鉱山(11月)が相次いで商業生産を開始した。2011年には、Pinos Altos鉱山のCreston Mascota金銀鉱体(11月)、米Pan American Goldfield社のCieneguita金銀鉱山(12月)が商業生産を開始している。このように外資系企業の保有する多くの金銀鉱山等が近年操業を開始していることが1.(1)のチワワ州の金、銀の生産量の増加の要因となっている。
 また、チワワ州は、チワワ州の南隣に位置するドゥランゴ州とともに地元鉱山主による小規模鉱山の操業が活発に行われていることでも知られている。Grupo Mexicoが坑内掘鉱山の鉱山毎の銀の生産量を公表していないため、数字が確定しないが、メキシコ大手3社及び外資系企業以外の鉱山(表2中の「その他」)の2010年の銀の生産量は、66.7~270.4 tとなっている。メキシコ鉱業センター(SGM)チワワ事務所によると、チワワ州には約40の小規模鉱山が存在し、そのうちの25が南部のドゥランゴ州との境界付近のParrar地区に所在している。そのParrar地区には、1990年代にJICAの技術協力により近代化された粗鉱処理量400~500 t/日の州営の金銀抽出プラントが存在している(かつてはSGMの所有)。

3. チワワ州の主な探鉱開発プロジェクト

 チワワ州の主要な開発中又は進捗した探鉱プロジェクトは、表3のとおりである。

表3. チワワ州の主要な開発又は進捗探鉱プロジェクト一覧

プロジェクト名 企業名 鉱種 備考
Tres Marias 加War Eagle Mining 亜鉛、銅、ゲルマニウム 精測・概測資源量:2,460万t、平均品位 亜鉛2.97%、銅0.28%
Cinco de Mayo 加MAG Silver モリブデン、金 概測資源量:モリブデン4,260 t、金7.2 t
2010年プレFS実施。
Cordero 加Revon Resources 銀、鉛、亜鉛、金 概測資源量:金28 t、銀9,670 t、鉛131.7万t、亜鉛240.6万t
2012年1月プレFS結果公表。
Loa Jarros 加AuRico Gold 金、銀 概測資源量:金換算401 t
Orisyvo Fresnillo(Peñoles(77.1)) 精測・概測資源量:金84.6 t(酸化鉱)、金202.5 t(硫化鉱)
Monterde 加Kimber Resources 金、銀 概測資源量:金22 t、銀1,150 t
San Miguel 米Paramount Gold 金、銀 概測資源量:金22 t、銀1,100 t
Bahuerachi 中国Jinchuan(金川)グループ 銅、亜鉛、モリブデン 精測・概測資源量:5億2,500万t、平均品位 銅0.4%、亜鉛0.55%、モリブデン0.008%
開発中。
Guadalupe y Calvo 加Endeavour Silver(注) 金、銀 概測資源量:金3.9 t、銀263 t
2012年3月プレFS結果公表。
San Julián Fresnillo(Peñoles(77.1)) 金、銀 概測資源量:金15.2 t、銀4,473 t
2012年Q2にFS実施予定。

(注)2012年4月に加AuRico Gold社から買収。

 Cinco de Mayo(シンコ・デ・マジョ)プロジェクトは、加MAG Silver社が2006年に銀、亜鉛、鉛、金、銅の塊状硫化物鉱床を発見し、その近傍でモリブデン、金の酸化物鉱床を発見した。同社は、後者の開発を先行させることとし、2010年にプレFSを実施した。
 Corderoプロジェクトは、加Levon Resources社が2006年から探鉱を行っていた鉱区主から125万C$で100%権益を買収した後、2009年に探鉱活動を行う技師及び作業員の飲料水の確保のために井戸を掘ったところ、全く予想していなかった地域で高品位の銀を主とした鉱化作用を発見した経緯がある。その後、表面近辺で広範囲に亘って銀を主とした鉱化作用を発見した。同社の説明では、銀、亜鉛、鉛型のポーフィリー鉱床とのことである。同社は、2012年1月、プレFSを終了している。現在把握している概測資源量は浅部を対象としたものであり、同社は、現在2,500万US$を投資し、地表下600 m~1,000 mの物理探査による異常域の確認を目的とした総延長13万mのボーリング探査を実施している。
 Bahuerachi(バウエラッチ)プロジェクトは、中国Jinchuan(金川)グループが2008年3月に1億9,300万US$で加Tyler Resources社を買収することによって、100%権益を入手している。このプロジェクトは、Barrancas del Cobre(銅渓谷)に位置し、今後資源量が大幅に増加する可能性も指摘されており、メキシコ最大級の銅・亜鉛・モリブデン鉱山の一つとなるポテンシャルを有している。中国企業による買収以降、情報公開がほとんど無く、今回の鉱業大会でもプレゼンテーション等は無かったが、SGMチワワ事務所によると既にインフラ工事を進めているとのことである。なお、買収前の2007年9月にTyler社が行った予備FSによると、マインライフ12年間の平均年間生産量は、銅83.4千t、亜鉛14万1,200 t、モリブデン1,100 t、銀86 t、金441 kg、総資本コストは6億1,900万US$と試算されている。
 加AuRico社は、加Endeavour Silver社にGuadalupe y Calvo金銀プロジェクトを売却しているが、AuRico社によると同社主力のOcampo金銀鉱山とのアクセスが悪い一方、Endeavour社がドゥランゴ州に保有するGuanacevi金銀鉱山とのアクセスが容易であることから売却の交渉がまとまったとのことである。

4. 鉱山・プロジェクトの位置

 図7にチワワ州の鉱山及び主要な探鉱開発プロジェクトの位置を示す。
 メキシコ大手資本の歴史の古い多金属鉱山(図7中の青数字1~5)は、州の中央部に北北西から南南東に並んでいる。この地域は、チワワ州中央・東部から、コアウイラ州西部、ドゥランゴ州東部、サカテカス州東部、サン・ルイス・ポトシ州に連なるメキシコ北東部白亜系分布地域の一部であり、白亜系の褶曲運動に伴う構造線に沿って、鉛、亜鉛の鉱脈鉱床が多いことで知られている。また、この地域の鉱床の中には深部ほど銅の品位が高くなっているものが存在することが知られており、Grupo MexicoのSanta Barbara多金属鉱山(青数字5)やFrisco社のSan Franxisco de Oro多金属鉱山(青数字4)では今後徐々に銅の生産量が増加していく見通しとのことである。なお、サカテカス州のPeñasquito多金属鉱山においても深部は銅の品位が高くなっているとのことであった。
 探鉱開発プロジェクトについては、図7中の赤数字1~3がこの地域に位置している。このうち、3のCordero多金属プロジェクトを保有するRevon Resources社は、Goldcorp社のPeñasquito多金属鉱山(サカテカス州東部)のような低品位大規模鉱床が存在し得るベルト地帯をターゲットとして探鉱活動を行い、本プロジェクトを発掘したとしている。また、2のCinco de Mayoモリブデン・金プロジェクトも亜鉛・銀等の鉱化帯をターゲットとして探鉱活動を実施し、前述の通り銀、亜鉛、鉛等の塊状硫化物を始めに発見している。
 これに対し、外資系企業の所有する鉱山(図7中の青数字6、8~14、7はFrisco社)は、州の西部に集まっている。この地域は、ソノラ州の東部、シナロア州の東部、ドゥランゴ州の西部、サカテカス州の西部に連なる西シエラマドレ山脈(Sirra Madre Occidental)の一部であり、数多くの金・銀の鉱床が存在するとともに、ところどころに多金属や銅の鉱床も存在している地域である。この外資系企業が保有する鉱山は、Bolivar多金属鉱山(図7中の青数字13)以外は、金銀鉱山である。また、この地域における探鉱開発プロジェクト(図7中の赤数字4~10)のうち、Bahuerachi銅・亜鉛プロジェクト(図7中の赤数字8)以外は、金、銀を対象としたプロジェクトとなっている。

図7. チワワ州の主要鉱山・探鉱開発プロジェクト位置図
(操業鉱山) (探鉱開発プロジェクト)
1 Bismark多金属鉱山 1 Tres Marias多金属プロジェクト
2 Santa Eulalia多金属鉱山 2 Cinco de Mayoモリブデン・金プロジェクト
3 Naica多金属鉱山 3 Cordero多金属プロジェクト
4 San Francisco de Oro多金属鉱山 4 Los Jarros金銀プロジェクト
5 Santa Bárbara多金属鉱山 5 Orisyvo金プロジェクト
6 Dolores金銀鉱山 6 Monterde金銀プロジェクト
7 Concheño金銀鉱山 7 San Miguel金銀プロジェクト
8 Pinos Altos金銀鉱山 8 Bahuerachi銅・亜鉛プロジェクト
9 Moris金銀鉱山 9 San Julián金銀プロジェクト
10 Ocampo金銀鉱山 10 Guadalupe y Calvo金銀プロジェクト
11 Palmarejo金銀鉱山  
12 Cieneguita金銀鉱山  
13 Bolivar多金属鉱山  
14 El Sauzal金鉱山  

図7. チワワ州の主要鉱山・探鉱開発プロジェクト位置図

5. チワワ州鉱業の今後の見通し

 金、銀の生産量については、Goldcorp社のSauzal金鉱山が2010年に生産量のピークを迎え、今後は減少傾向になるものの、2009年に商業生産を開始したPalmarejo金銀鉱山、Dolores金銀鉱山及びCieneguita金銀鉱山が今後生産量を伸ばす見込みであり、また多くの金銀プロジェクトが存在していることから、今後とも増加しているものと予想される。
 一方、ベースメタルについては、Frisco社のSan Francisco de Oro多金属鉱山が選鉱プラントの拡張工事を実施しているが、その他の既存のメキシコ資本の多金属鉱山については、操業を巡る諸事情により多少の変動はあるものの、現在の生産水準を概ね維持するものと思われる。今後、ベースメタルの生産量が増加するか否かは、加Revon Resources社のCordero多金属プロジェクト及び中国Jinchuan(金川)グループのBahuerachi銅・亜鉛プロジェクトの進捗状況によるところが大きい。

おわりに

 JOGMECが行ったアンケートの中でメキシコに関しては鉱業に関する情報が少ないとの意見があった。今回は鉱業大会で情報収集を行う機会があったのを契機に、ソノラ州、サカテカス州とともにメキシコ鉱業で重要な位置を占めるチワワ州の鉱業の現状について報告した。メキシコ事務所では、近年外資系企業による生産が増加する傾向にあるメキシコの鉱業の現状について積極的に情報発信していきたい。

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