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報告書&レポート

2012年6月14日 ハノイ事務所 五十嵐吉昭
2012年31号

ベトナム新鉱物法の本格的運用について

 2011年7月1日、ベトナムでは2010年11月に制定された新しい鉱物法(No.60/2010/QH10)が施行された。この新鉱物法は、競売制度の導入や地方政府の権限縮小により鉱物資源探鉱・開発の許可制度を透明で公平なものとし、併せて国家管理を強化することにより、鉱物資源の有効利用と付加価値の創造、及び環境と調和した鉱山開発を目指すものである。新鉱物法の施行後、実施細則の制定が大幅に遅れ本格的な運用には至っていなかったが、2012年4月、5月になり、漸く実施細則及び採掘権の競売に関する政令が相次いで施行され、ほぼ新鉱物法運用の骨格が見えてきた。本稿ではその概要と今後の見通しを以下にとりまとめた。

1. 新鉱物法関連の法規規範文章

 ベトナムで初めて鉱物法が採択されたのは1996年3月のことで、2005年にはその条項の一部を修正・補足する改正法が出され(No.46/2005/QH11)、その改正法を実施するにあたっての詳細な規定が政令として施行されていた(No.160/2005/ND-CP)。
 ベトナムでは法律の下位規範として表1のとおり、政府から出される政令(decree)、政府首相から出される決定(decision)または指示(directive)、各省または国家機関が出す通達(circular)、及び地方レベルで人民委員会等が出す法規規範文章があり、実務上はこれら法規規範文章に従って動いている部分も多い。従って、ベトナムの鉱物資源開発に関心を持つ外資にとり、鉱物法に加えて数多く出される法規規範文章を理解することが重要となる。

表1. ベトナムにおける法規規範文章体系と関連文書数

  政府 政府首相 省・国家機関 地方レベル
法規規範文章 政令 決定・指示 通達 2004年の文書
公布法で規定
1996年鉱物法 5件 6件 26件 173件
2005年改正法 3件 5件 9件 136件
2010年新鉱物法 3件 4件 6件 NA

*文書件数はMining 2012 Vietnam講演及びハノイ駐在員事務所による(2012年5月時点)

 2010年新鉱物法に関しては、省庁間或いは地方との調整に手間取り、表1のとおりこれまでに3件の政令が施行されたところで、その内の以下の2件が特に重要である。また、引き続き鉱物資源に関する行政違反の処罰を規定する政令が準備されている。
・ 鉱物法実施細則(No.15/2012/ND-CP):2012年4月25日施行
・ 鉱物資源採掘権の競売に関する政令(No.22/2012/ND-CP):2012年5月15日施行
 一方、表1の政府首相による決定・指示の内2件とは、鉱物資源戦略とその首相指示のことで、カレント・トピックス12-11号で既報の通りである。省や国家機関が定める通達については、政令の施行を待っていたこともあり、現在までに制定されたのは6件で、内3件は手数料関係である。今後上記政令の施行に伴い、手続き書類のフォームや資格規定等の通達が相次いで制定されることとなる。

2. 政令も含めてみた新鉱物法の特徴

 この4月、5月に相次いで施行された実施細則及び採掘権の競売に関する政令により、ベトナムの新鉱物法の特徴がより明確になった。ここでは以下の3点について列記する。

① 鉱物資源の採掘権は原則競売によって与えられる
 競売制度は、鉱物資源権益取得の透明性及び公平性を確保するために導入された言わば新鉱物法の目玉であり、その詳細については細則とは別に政令が出された。探鉱段階であっても探鉱権ではなくあくまで採掘権として競売され、参加者は鉱業の経験、能力、資金力等事前に審査を受け、特に採掘段階の案件では採掘後の加工方法や使用目的まで吟味される。ただし競売対象の例外として、新鉱物法施行前に探鉱または採掘許可証を得た場合、エネルギー資源(石炭、ウラン及びトリウム)、及び首相が決定した場合等について競売は行わないとされる(細則第12条)。なお、競売を実施する関係者及び親族は競売に参加できない規定がある(競売に関する政令第10条)。

② 地方政府が探鉱・開発許可証を発給できる範囲を厳格に定義
 2005年の鉱物法改正により鉱物資源開発の許可を一部地方に移譲したことが近年の乱開発や密輸に繋がったとの指摘が多い。新鉱物法では地方政府が許可できる対象が厳格に定められており、一般的な建材、泥炭、零細鉱業(artisanal mining)及び小規模点在鉱物のみに許可証の発給が限定され、それ以外は天然資源環境省の所管となっている。細則には小規模点在鉱物の予想資源量を鉱種毎に千トン単位(一部トン単位)で定義する別表が添付されており、更に天然資源環境省がどの既知鉱床が小規模点在鉱物に該当するのか公表することになっている(細則第11条)。

③ 鉱物資源の地質基本調査の民間投資を奨励する
 以前よりベトナムでは探鉱許可証を取得して本格的に探鉱を始める前の調査を地質基本調査と位置付けている。この地質基本調査はマスタープランに基づく国の仕事ではあるが、細則では石炭、ウラン等を除き、また国境地帯を除いて民間の調査を奨励している(細則第10条)。ただし、実施に当たっては地質鉱物総局のチェックを受けることとなり、もし有望な鉱床を発見した場合に得られる権利の記載はない。この点について鉱物資源総局に確認すると、有望な鉱床を発見した場合でも探鉱許可証を取得できる優先権は無いとのことで、これでは民間によるグリーンフィールドの探鉱活動の活性化には繋がらない。

3. 今後の見通し

 今後の見通しについて鉱物資源総局に確認したところ概ね以下のような手続きが残されている。
・ 残る一つの政令の制定(鉱物資源に関する行政違反の処罰)
・ 手続き書類のフォームや資格規定等の通達の制定
・ 既知の小規模点在鉱物区分の公表(5月末までに鉱物資源総局が天然資源環境省に案を提出)
・ 将来のために開発を凍結する資源、国家資源保護区域の区分の公表(同上)
 何事も予定通り進まないお国柄であるが、7~8月頃には関連文章は出揃い、その後順次競売が実施されるものと期待される。なお、マスタープラン及び輸出基準は商工省の管轄である。商工省の担当者によれば、ボーキサイトとチタンについては変更が予定されており、年内には全鉱種を網羅する言わば親マスタープランの作成に着手する考えがあるとの話。一方、細則によれば、鉱物の輸出一覧表、輸出条件や基準を作成して公表するとなっているが(細則第2条)、現状では商工省が2008年6月18日に制定した通達「鉱物の輸出ガイド」(No.08/2008/TT-BCT)が有効であり、新たな通達は未定とされる。

4. 終わりに

 去る3月7日から9日、ハノイ市内において Mining 2012 Vietnamという鉱業展示会とセミナーが開催された(写真)。ベトナムにおいて初めて催行される鉱業展示会とされ、商工省と天然資源環境省が後援し、インドネシアとベトナムのイベント会社が主催したが、展示ブースは100に満たず小規模なものであった。本邦企業や中国企業も幾つか見られたが、豪州、EU及び旧ソ連構成国の展示が目立ち、内容的には石炭関係が多かった。全体的には外資による資源開発を呼込むというよりは、エンジニアリング会社に対して鉱山開発のEPC(設計調達建設)等に各種最新技術を持込んで稼いで下さいという印象であった。ベトナムはとても鉱業国とはいえず、しかも開発主体はあくまでも国営を含む地元企業である。90年代よりベトナム鉱業の変遷を見てきたある当地の弁護士によれば、石油業界とは異なり、この国では鉱物資源については将来の世代も含む人民の資産という意識が強く、法的には外資参入可能であっても(2005年投資法No.59/2005/QH11号第29条では外国投資条件付き分野に分類される)、事実上外資の参入はほとんど見られないとし、今回の一連の法制度改革にしても、競売制度がうまく機能して外資参入が増えることには懐疑的であった。
 その一方で、2011年10月に日越首相間で署名されたレアアース開発については、我が国企業がパートナーとして認められており、参入にあたっては従来からベトナム側が固執している付加価値の創造、及び環境と調和した鉱山開発について日本企業の技術力が大いに期待されている。カレント・トピックス12-11号で指摘したとおり、ベトナムにおける鉱物資源開発は先ず政府の鉱物資源戦略やマスタープランに合致していることが必須条件となっている。単に鉱山開発へ参入し、原料として輸出する投資は認められず、輸出余力のある資源に限って、その下流の精製や付加価値創造を可能とする新たな加工産業の育成及び製品の輸出に繋がる投資が求められている。円高傾向もあり日本からベトナムへの累計直接投資額は2012年に入って初めて世界一となり、国としての支援もこの流れを後押しし、2011年の円借款供与国としてベトナムはインドを抜いて世界一となっている。外資による資源開発が低調なベトナムにおいて、今後本邦企業による下流産業まで巻込んだ資源開発への参入が進むかどうかは、前述のレアアース開発の成否が握っていると言えるかもしれない。

写真1. Mining 2012 Vietnam写真1. Mining 2012 Vietnam
写真1. Mining 2012 Vietnam

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