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報告書&レポート

2012年7月19日 ジャカルタ事務所 高橋健一
2012年40号

第8回Asia Mining Congress 2012参加報告-フィリピン・ベトナム・インドネシア・インド最新鉱業事情-

 2012年3月26日~30日の5日間、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ・コンベンション・センターでAsia Mining Congress 2012が開催された。本イベントは、経済成長が著しいアジアにおける鉱業投資をテーマに、地域の代表的な金融センターの一つであるシンガポールで毎年開催され、今回で8回目を数える。今年は特に、石炭、銅、鉄鉱石をフォーカスした鉱物別セッションや、インドネシア、フィリピンを始めとする東南アジア資源各国の法規制動向・投資プロジェクトに関するセッションに焦点が当てられたものとなった。また、鉱業投資のグローバル化の流れの中で、アフリカ・セッションが開催されたことも大きな特徴と言える。イベントには、45か国から1,700人超の参加者(主催者発表ベース)を数え、うち、金融機関等の投資関係者が約4割、探鉱・鉱山企業が約3割となった。
 本稿では、以下、東南アジアを中心とする資源各国の鉱業投資に関する講演を紹介する。

写真. 会場写真. 会場
写真. 会場

1. フィリピン

 環境天然資源省・鉱山地球科学局Leo L. Jasareno局長による同国鉱業概況及び検討中のマイニング・ポリシーに関する講演があった。主な内容は以下のとおり。

(1) マイニング・ポリシー
 近々リリース予定のマイニング・ポリシーは現在政府内のスタディ・グループにより検討中であり、国内で大きな議論となっている環境問題や社会問題に焦点を当て、持続可能な鉱業開発を目指すため、これら問題への対応方針を示すことが、重要なテーマとなる。
 現在、鉱業による環境破壊の横行、それを防止するための政府能力の不足、反鉱業のポジションを示す地方政府の存在などの問題への対処や、鉱業からのさらなる政府収入の確保、鉱業投資の促進などの課題が、現在政府が直面し、対応すべき主要テーマとなる。また、小規模鉱業に対する規制の未整備や、農地、漁場、森林区域などの他産業との土地使用を巡る摩擦などの顕在化への対応も求められている。
 これら問題・課題への対応を目的に、新たなマイニング・ポリシーは、大きくは6つの柱で構成され、各内容は次に示す項目が含まれる見込みである。

 ① 持続的開発に貢献する産業構造の確立
  ・ 関係省庁間協議体制の構築及び鉱業への参入条件の透明性の確保
  ・ 鉱業権付与におけるオークションの実施
  ・ 環境保護及び永久的な閉山後の修復・管理責任をも保証する義務的保険制度導入の検討
  ・ 鉱業法令義務違反者に対する罰則の拡大及び厳格な適用
  ・ 大規模から小規模事業までの全ての事業規模に適用可能となる総合的な鉱業法令の制定

 ② グッド・ガバナンスを促進するための国際標準的なベスト・プラクティスの導入
  ・ 不法採掘者対策
  ・ 関連行政手続きのワンストップ・ショップ化
  ・ EITI(採取産業透明性イニシアティブ)への加盟
  ・ 人権侵害監視体制及び人権侵害被害者救済のための国連人権委員会との連携体制の構築
  ・ 環境規制に関する立案機関と実施機関の分離

 ③ 科学技術的に効果的な手法の導入による環境保護、先住民保護
  ・ 鉱業区域に近接した地域における農業優先区域、自然保護区域などの指定
  ・ プログラム化された環境影響アセスメント制度の導入

 ④ 地方発行法令に対する中央政府国家法優先の裁定及び両者の法令及び政策の調和
  ・ 地方発行法令に対する中央政府国家法優先の裁定
  ・ 両法令のギャップや矛盾を解消するための既存法令の改正

 ⑤ 鉱業による利益の最適化及び平等化
  ・ 鉱物資源(鉱廃滓中の有用金属を含む)に係る政府権益の強化による収益の拡大
  ・ 政府権益を最適化するための政府-企業間の既存鉱業関連契約の見直し交渉の促進

 ⑥ 小規模鉱業も含めた効率的、効果的な管理体制の構築
  ・ 中央政府及び地方政府関係機関の研修・能力開発の推進
  ・ 州・市レベルの鉱業規制委員会の設立・運営
  ・ 先住民の居住地及び所有地の確定作業

(2) フィリピン鉱業概況
 2011年のフィリピン鉱業は、ニッケル鉱山生産量が前年の17.3万tから23万tに拡大し、ロシアの28万tに次いで、インドネシアと並び世界第2位(以上、米国地質調査所発行「Mineral Commodity Summaries 2012」データによる。)になるなど、世界的レベルで見ても好調であった。国内経済指標においてもGDPの1.2%、総輸出額の5.6%を占めており、いずれも拡大基調にある。
 現在操業中の金属鉱山・製錬所は33カ所あり、鉱物別内訳数は次表のとおりである。

表1. フィリピン 稼行鉱山・製錬所

区 分 鉱山・製錬所数
銅鉱山(含む金、銀、亜鉛) 4
金鉱山 5
クロム鉱山 3
マンガン鉱山 1
ニッケル鉱山 18
ニッケル製錬プラント 1
銅製錬プラント 1

(出典:講演資料からJOGMECが作表)

 また、現在、次の8件の鉱山・製錬所プロジェクトの建設が進んでおり、さらなる生産量拡大が見込まれている。
   ① Far Southeast 銅・金鉱山プロジェクト:ルソン島
   ② Runrumo 金・モリブデン鉱山プロジェクト:ルソン島
   ③ OceanaGold Didiplo 銅・金鉱山プロジェクト:ルソン島
   ④ Kingking 銅・金鉱山プロジェクト:ミンダナオ島
   ⑤ Tampakan 銅鉱山プロジェクト:ミンダナオ島
   ⑥ Siana 金鉱山プロジェクト:ミンダナオ島
   ⑦ Boyungan 金鉱山プロジェクト:ミンダナオ島
   ⑧ Taganito ニッケル製錬プロジェクト:ミンダナオ島

 さらに、2012年1月時点での許可済み各種鉱業権の内容が以下のとおり紹介された。

表2. フィリピン 許可済み鉱業権一覧(2012年1月現在)

区 分 許可・契約件数
探鉱許可 115
鉱物生産分与契約 339
技術・資金協力契約 6
鉱石プロセッシング許可 68
工業用砂・砂利採掘許可 214
マイニング・リース契約 36
合 計 778

(出典:講演資料からJOGMECが作表)

2. ベトナム

 ベトナム鉱物資源総局Nguyen Van Thuan総局長による、ベトナムの地質・鉱物と新鉱物法に関する講演があった。主な内容は以下のとおり。

(1) ベトナム地質・鉱物概況
 これまで実施してきた鉱物資源地質基礎調査により、ベトナム本土においては総面積33万㎢の約60%に当たる地域の5万分の1スケールの地質図が、浅海域においては延べ10万㎢の50万分の1スケールの地質図が作成されてきた。
 また、調査の結果、50種の鉱物資源が発見され、次のような大規模な資源量も把握されるに至った。
 ・ ボーキサイト:中央高原地域に賦存。予測資源量100億t
 ・ チタン・ジルコン:ベトナム中央沿岸部、主にビントゥアン省に賦存。予測資源量6億t
 ・ レアアース:主にベトナム北西部に賦存。予測資源量1,700万t
 ・ アパタイト:主にベトナム北西部に賦存。予測資源量25億t
 ・ シリカ砂:ベトナム中央沿岸部に賦存。予測資源量30億t
 ・ セメント用石灰石:主にベトナム南部及び中央北部に賦存。予測資源量107億t

(2) ベトナム新鉱物法
 2010年11月に制定された新たな鉱物法(No.60/2010/QH10)の主なポイントは、次のとおりとなる。
 ・ 鉱物資源地質基礎調査の更なる促進
 ・ 鉱業権オークション制の導入
 ・ 鉱業権料の徴収
 ・ 景観地及び環境保護を優先した鉱業の実施
 ・ 高付加価値を生み出し、社会・経済に貢献するための製錬・加工部門を伴った鉱業の促進
 ・ 大規模鉱床については、着実な開発を行うとともに、輸出振興に有効な高付加価値を伴う下流産業化に貢献する役割
 ・ 中小規模鉱床については、国内需要向け
 ・ 資本、技術を保有する外国企業に対し、鉱業及び製錬・加工分野での国内企業との提携を促進

3. インドネシア

 東南アジア最大の資源国であるが、最近保護主義的な法令・政策が打ち出されているインドネシアに関し、石炭鉱業を中心とした同国の鉱業動向、投資環境についてのパネル・ディスカッションが行われた。以下、パネリストのコメントの主なものを紹介する。

・ 2009年の新鉱業法制定後、インドネシアは、国家資産として、鉱物資源を保護する方向に向かっており、最近の相次ぐ政省令制定により、その傾向が示されている。この中で、外国資本権益の国内資本化が最も注目されるが、手続きの詳細が未だ出ておらず、外国投資家にとっては不透明な状況となっている。また、各地で生じている鉱業地域地元社会との摩擦もその要因の一つとなっている。将来的に2014年の大統領選挙の動向も、今後の鉱業政策、法令の内容に少なからず影響を与えるものと考えられる。鉱業は政治的、行政的な不透明さによって、各地で様々な摩擦の原因となってきたが、総選挙の結果次第では、このような状況が変わる期待も持てるのではないか。また、投資における一層の透明性の確保も求められる。(Toko Azhariyanto氏、PT Bhakti Energi Persada社)

・ 2011年に打ち出された「経済開発加速化・拡充マスタープラン(MP3EI)」に基づき、全国規模での投資・開発を促進するため、現在、政府はインフラ整備に注力している。同マスタープランで、鉱業振興地域として位置付けられている、スマトラ、スラウェシ、パプア・マルク地域においては、インフラ整備が重要課題となるが、現在、中国、インド企業による鉄道建設プロジェクトなどの話も進みつつある。(Supriyadi氏、インドネシア経済担当調整府)

・ 政府の鉱物資源高付加価値化政策に沿い、PT Antamは、国営企業として各種製錬所建設プロジェクトに注力し続けている。その内、カリマンタンのTayanアルミナ・プラント(昭和電工とのJV)及びハルマヘラのフェロ・ニッケル・プラントは、2011年に建設に着手した。他の製錬所建設プロジェクトについては、投資パートナーを模索している。これらのプロジェクト実現に向けて、2012年は全体の鉱業生産を拡大することによって、安定的にキャッシュフローを獲得することが求められる。(Wawan Harawan氏、PT Antam)

・ 投資環境の透明性確保がインドネシアの最大の課題。継続した鉱業投資を促進するためには、政府は、投資環境の不透明性を払しょくする必要があり、そのためには、鉱業投資そのものをより一層理解し、法令・政策に反映させなければならない。(Geoffrey Kelly氏、Mercuria社)

4. インド

 国営Hindustan Copper社CEO、Shakeel Ahmed氏による、インドの銅を中心とした鉱業概況、現在国会で審議中となっている新鉱業法や、国営企業としての同社の戦略を内容とした講演概要を以下に紹介する。

(1) インド鉱業概況、銅需給動向
 インド経済は、政府による2008年~2012年の第11期5カ年計画期間において、平均年率8.2%の経済成長の予測となる。これは、前期第10期の7.7%を上回るものであり、さらに経済成長が拡大することを示す。今期における本年以降の成長率は、2012年6.9%、2013年7.6%、2014年8.6%と見込まれる。この成長は中長期的なインフラ投資を中心とした内需拡大に基づくものとなるが、この成長シナリオを維持するには、投資環境をより良好な状態にすることであり、そのためには、政治の安定化、公平な司法制度、市場の活性化が必要である。
 このような経済成長に牽引され、銅の国内需要は大きく伸びており、その主役となるセクターは、輸送・交通、建設、製造、工業である。特に輸送・交通セクターは、他のセクターの2012年の産業成長率予想が、欧州でのユーロ危機の影響などにより前年の7~8%台から4%前後に減速する中、その2012年の成長率は11.2%と高い伸びが維持されている。これは、次の表で示すように、主にインフラ投資によるものが大きく、インフラ投資計画額は、各5カ年計画期間中、それぞれ前期に対し約2.5倍に拡大する。このインフラ投資の拡大に伴い、銅地金の国内需要も2011年の57.5万tから2016年には100万tを超えるものと予想される。

表3. インド インフラ投資計画額(単位:億US$)

セクター 第10期5年計画
2003~2007年
第11期5年計画
2008~20012年
第12期5年計画
2013~2017年
電力 705 1,504 3,200
道路・橋梁 317 761 2,400
情報通信 225 651 1,700
鉄道 203 622 1,950
港湾 13 18 640
空港 21 85 350
合 計 1,484 3,803 10,240

(出典:講演資料)

 この国内需要拡大に対し、国内の銅製錬能力は、現状の70万t規模から2016年までに130万t規模に拡大する計画であるが、国内の銅鉱石生産能力は、現状の3万t(銅量)規模からせいぜい12万t規模への引き上げが限界であり、現状を含め、将来的にも鉱石供給の90%以上は、輸入に頼らざるを得ない状況である。仮に将来的な国内銅需要が100万tと仮定した場合、現在の国内銅鉱山からの供給量3万tを差し引いた銅量97万t相当の銅鉱石輸入が必要となり、このギャップを縮小させることが中長期的な重要課題となる。

(2) 新鉱業法
 インド政府は、拡大する経済成長に対応した安定的な鉱業政策を進めるため、新鉱業法案を策定し、国会に提出、現在国会で審議中である。新鉱業法の主なポイントは以下のとおりである。

・ ベースメタル、貴金属などを対象とし、特に深部域での探鉱の促進

・ 鉱業権許可プロセスでの透明性の確保や探鉱鉱区情報公開システムの導入などによる投資家にとっての利便性の向上

・ 探鉱段階から採掘段階へのシームレスな移行手続き及び保証

・ 鉱区権益移譲に関する円滑化の促進

・ 鉱業区域周辺の地域社会の鉱業に対する受容性を広げるために、地域社会開発のための税の導入や、事業者による住民への直接的便益供与

・ 鉱業規制に対する不服申し立て等に対応するための行政組織や司法制度の創設

・ 新鉱業法案での新たな鉱業権は、①予察調査許可:現行法と同内容、②大規模探鉱許可:高度技術を採用した探査や深部域大規模探鉱など(新設)。③一般探鉱許可:②の対象を除き、現行法と同様、④採掘許可:現行法と同様。ただし、最大面積を拡大。

(3) Hindustan Copper社の取り組み
 経済成長が拡大する中でのインド銅鉱業界が抱える問題の主なものは、次のとおりである。
  ・ 鉱山生産能力が脆弱であるため、国内の銅サプライ・チェーンに、継続的に銅鉱石の輸入を確保すること

・ 探鉱が十分に行われてこなかったこと
-有望地域6万㎢に対し2万㎢のみの実施や、資源量に対する埋蔵鉱石量の低比率など-

・ インドの埋蔵鉱量は世界の2%と、低いこと

・ 銅鉱山生産量は全世界の0.2%、一方、銅地金生産量は同4%と両者のギャップが大きいこと
-地金生産量は国内需要を超え、純輸出国となっている点は、ある意味過剰生産気味-

 これに対し、これら諸問題を解決するために求められる方策は、次のように考えられる。
  ・ 新規地域における探鉱の促進。特に技術的にJVによる方法が有効

・ 最新技術による鉱山生産設備の新設又は更新

・ 大規模鉱山における最新採掘技法の導入(Malanjkhand鉱山など)

・ 大規模・集中的な鉱山関連機器の調達・導入

・ 低品位硫化鉱石処理へのバイオ・リーチングの導入

・ 既存鉱廃滓からの有効回収

 Hindustan Copper社は、現在確認されているインドの銅資源量10.25億t(銅平均品位0.38%)、銅鉱石量3.69億t(銅平均品位1.19%)の2/3以上をカバーする採掘ライセンスを所有するリーディング・カンパニーであるが、これまでに述べたような国内銅産業界が置かれている状況の中、同社の今後の事業展開を次のように示している。

 インド国内;
  ・ 鉱山生産規模の拡大:2017年までに現在の鉱石生産量の4倍の12.4百万tに拡大するため、8鉱山に7.5億US$の投資を計画

・ 埋蔵鉱量の拡大:既存鉱床周辺域での探鉱に2百万US$を投資

・ 新規エリアでの探鉱促進:Rajasthan州政府とのJVを含む新たな16件の探鉱・採掘許可を申請中

・ 低品位硫化鉱石の処理のための商業的に有効な技術の開発

 海外;
  ・ アフガニスタンでの銅・金鉱床開発の検討

・ 海外の中規模銅鉱床権益買収の検討

・ その他、海外銅鉱床資産取得のための企業買収、合弁の検討

まとめ

 以上、東南アジア地域を中心とした代表的な国の鉱業政策や鉱業動向の講演の概要を紹介してきたが、本イベントでは、それ以外の国に関するものや、各国へ進出している企業の講演も多数行われた。一口にアジア地域とは言いつつも、経済開発段階や政治体制などは、国ごとに違うこともあって、鉱業を取り巻く投資環境もそれぞれ異なり、同じような政策・規制が布かれている場合でも温度差も感じられ、各国事情に則した対応が必要であるという印象を改めて持った。
 一方で、アジア地域は世界の中でも人口密集度が高い地域であることからか、各国の鉱業法令・政策の内容や鉱山企業の活動の講演には、環境保護、鉱山周辺域の地域社会への貢献・配慮などの点が、強調され取り上げられていた。これらの点が、アジア地域全体の鉱業投資に共通した問題・課題の特徴の一つとして捉えることができ、投資を進めていく上で、より一層の配慮が必要となり、今後さらにその重要度は増してくるものと考えられる。

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