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報告書&レポート

2012年7月26日 金属企画調査部 山内英生 (前リマ事務所所長)
2012年45号

ペルーの先住民事前協議法と同法施行細則について

 ペルー政府は、2012年4月3日に先住民事前協議法施行細則を公布した。これは2011年8月23日に国会で可決・承認され、9月6日に公布された先住民事前協議法(国際労働機関(ILO)第169号条約で認められた先住民族に対する事前協議の権利に関する法律(法律第29785号))の細則を定めるものである。
 先住民事前協議法は、法律の目的、事前協議の権利や目的、協議の原則などを定めた第1章、協議の対象となる先住民を定めた第2章、協議プロセスを定めた第3章、協議プロセスにおける国家機関の義務を定めた第4章及び最終補足規定からなっている。また、今回公布された同法施行細則は、言葉の定義や協議プロセスの詳細、先住民専門機関としての文化省異文化受容次官室の役割など、先住民と事前協議を実施するに当たっての具体的な事項等が定められている。
 本稿では、これら先住民事前協議法及び同法施行細則の要点などを紹介する。

1. 先住民事前協議法制定の背景と明文化事項

 国際労働機関(ILO)は、1986年に先住民の権利を定めた第169号条約を採択した。同条約では、政府が先住民の権利を保護し、活動を進展させる責任を持つことや、政府は先住民に直接影響する恐れのある法的又は行政的措置を検討する場合には、先住民の代表的団体を通じた手続等を経て、合意又は同意を達成する目的のために先住民と協議することなどが定められている。
 また、同条約では、天然資源に関する先住民の権利に関して、「国家が鉱物若しくは地下資源の所有権又は土地に属する他の資源に対する権利を保有する場合には、政府は、当該資源の探査若しくは開発のための計画を実施し又は許可を与える前に、当該地域の関係人民の利益が害されるか及びどの程度まで害されるかを確認するため、これらの人民と協議する手続きを確立し、又は維持する。関係人民は、可能な限り、このような活動の利益を享受し、かつ、当該活動の結果被る恐れのある損害に対しては、公正な補償を受ける。(同条約第15条第2号)」と規定されている。
 現在、22ヶ国が同条約を批准し、ペルーも、1994年2月に同条約を批准した。
 ILOは、2010年3月に、ペルー政府は国内の先住民や農民コミュニティに影響を及ぼす資源の探査や開発を停止すべきであるとの見解を示した。その理由として、鉱物資源や炭化水素資源の探鉱を目的とした公聴会がプロジェクトに関する単なる情報提供や周知を目的としており、ILO第169号条約の要件である「先住民社会・文化に適した事前協議」を満たしていないことや、鉱業権の付与後に市民参加が開始されることなどを挙げた。
 その後、2010年5月には国会で先住民事前協議法案が可決されたが、当時のガルシア大統領が法案の修正を要求したことなどから同法の公布には至らず、同年9月に、ペルー憲法裁判所が国会に対して5月に可決された同法案を早急に公布するよう、また、エネルギー鉱山省に対して先住民との事前協議に関する規則を策定するよう申し渡した。しかし、当時のサンチェス・エネルギー鉱山大臣は、同省が定める市民参加規則は同条約を反映したものであり、当該規則の修正によって対応するとの姿勢を示した。
 国内各地で反鉱業運動が頻発する中、2011年5月に、ガルシア政権は、鉱区申請の対象となる地域に先住民コミュニティが存在する場合には、政府が先住民コミュニティの了解を得ることを鉱区付与の条件とする最高政令(023-2011-EM)を公布し、事態の終息に当たった。
 2011年7月に発足したウマラ政権は、新政権への移行後間もない2011年8月に、先住民事前協議法案を国会で可決し、9月6日に同法を公布した。また、2011年11月には文化省によって施行細則の案文が作成され、その後、先住民グループなどとの協議を経て、2012年4月3日に、先住民事前協議法施行細則が公布された。なお、同法の公布に伴い、最高政令(023-2011-EM)は廃止された。
 事前協議は、政府と先住民が話し合いによって合意や了解を形成するために実施され、先住民事前協議法及び同法施行細則の公布によって、先住民との事前協議に関する以下の事項等が明文化された。

 ① 協議の対象
先住民に直接影響を及ぼす法的措置及び行政措置

 ② 基本原則
事前協議は、国によって義務として実施され、国家機関によって採用される法的措置或いは行政措置に先立って、異文化受容に基づく視点を持って、信義誠実の原則に基づき、柔軟性を持って、適切な期間を設け、一切の強制や条件付けを行わず、必要な情報を得て行われる。

 ③ 協議プロセスと期間
協議プロセスは、法的措置、行政措置の周知段階から始まり、情報提供段階(30~60日)、内部評価段階(最大30日)、対話段階(最大30日)を経て国家機関によって決定され、最大協議期間は120日間とする。

 ④ 協議結果の取扱い
合意内容は双方にとって義務的な性質を有する。一方で、合意に至らないまま法的措置や行政措置が発布された場合には、推進機関は先住民の集団的権利、生活、安全、発展への権利を保障するのに必要なあらゆる措置を講じなければならない。

 ⑤ 文化省異文化受容次官室の役割
本法律及び施行細則の適用に当たって、文化省異文化受容次官室は先住民専門機関としての役割を果たし、その適用に関するガイドラインを作成する。また、事前協議の対象となる先住民コミュニティを公式に登録したデータベースを作成し、公表する。

2. 先住民事前協議法及び同法施行細則の要点

 以下に、先住民事前協議法及び同法施行細則の要点を列記する。
 なお、本項は、JOGMECリマ事務所で仮訳した同法及び同細則の条文等を抜粋して取りまとめたものであり、詳細な解釈に当たっては、適宜原文を参照いただきたい。

(1) 法律の目的
 先住民に直接影響する法的措置や行政措置に関して、これら先住民が有する事前協議への権利の内容、原則及びプロセスを規定する。(法律第1条)

<定義>(細則第3条)

 ① 先住民:植民地化された時期にペルーの領域内に居住していた人々の子孫であり、現在の法的状況の如何にかかわらず、独自の社会的、経済的、文化的、政治的組織の全て或いは一部を保持していると同時に、先住民としての主観的アイデンティティを有している人々。
本法律第7条に定められる先住民の特定基準は、ILO第169号条約第1条の規定の枠内で解釈されなければならない。
農民コミュニティや先住民コミュニティの中で組織的に生活する人々に関しても、同特定基準に基づいて、先住民又はその一部として特定することが可能である。

 ② 直接的影響:法的措置や行政措置が先住民の法的状況や集団的権利の行使に変化をもたらす側面を有する場合、先住民に対して直接影響を及ぼすと判断される。

 ③ 法的措置:法律としての効力を有する規則で、先住民の集団的権利に直接影響するもの。

 ④ 行政措置:一般に広く適用される規則のほか、何らかの活動やプロジェクトの開始を認可する行政行為、また、同様の目的の契約締結を行政府に対して許可する行為であり、その結果として先住民の集団的権利に直接影響しうるもの。
行政行為の場合、先住民に対する協議プロセスは、行政行為が実施される地理的範囲に所在する先住民の代表組織を通じて、伝統的な流儀・慣習に基づき実施する。

 ⑤ 集団的権利:憲法やILO第169号条約等のペルーによって批准された国際協定、また、国内法規により認められた先住民の権利。
これらには、国家の司法制度によって定義される基本的権利や、国際的に認識されている人権との不一致をみないことを前提に、文化的アイデンティティへの権利、先住民の参加の権利、協議の権利、開発過程における優先事項選択の権利、習慣の維持の権利等が含まれる。
その他、特別管轄権や土地・地域に対する権利、即ち現行法の枠内において、地理的領域内に存在し、伝統的に利用してきた天然資源を使用する権利や、異文化受容に根ざした保健や教育の権利等を含む。

 ⑥ 地理的範囲:先住民が居住し、集団的権利を行使する領域であり、先住民が所有権を有する場合や、国家により認められたその他の権利に基づいて居住或いは集団的権利を行使する場合、また、伝統的に同領域を利用・占有している場合を含める。

(2) 事前協議の権利
 先住民は、その集団的権利や物理的存在、文化的アイデンティティ、生活の質、発展に直接影響を及ぼす法的措置や行政措置に関して事前協議を行う権利を有している。同様に、その権利に直接影響する国家或いは地方レベルの開発計画、プログラム、プロジェクト等も協議の対象となる。協議は、国家によってのみ、義務として実施される。(法律第2条)

(3) 事前協議の目的
 協議の目的は、先住民に直接影響を及ぼす法的措置や行政措置に関して、国家と先住民との間に合意や了解を形成することである。協議は、国家の決定プロセスにおける先住民の包摂を保障する異文化受容に基づく対話を通じて行い、更に、その集団的権利を尊重する方法を採用する。(法律第3条)

(4) 信義誠実の原則
 協議プロセス中、国家機関は、相互を信頼・協力・尊重する環境の下で、先住民の見解を分析・評価する。国家及び先住民組織・機関の代表者らは、信義誠実の原則に基づいて行動する義務を負う。見解や立場の転向を促す行為や、非民主的な行為は禁止される。(法律第4条c)
 対話協議プロセスへの権利を阻害・限定しようとする行為や、協議プロセスにおける圧力の手段としての暴力的・抑止的措置を禁止する。信義誠実の原則は双方に適用されるものであり、以下の事項を含める。

 ① 対話プロセスの進展に重要な全ての情報を提供すること

 ② 合意事項の不履行を図る行為・行動を回避すること

 ③ 協議の実施・進行に協力すること

 ④ 合意事項を真摯に履行すること

 ⑤ 協議への権利の行使を阻害或いは限定しようとする行為を除外すること

 ⑥ 協議プロセス中、見解や立場の転向を促す政治的行為を行わないこと

 (細則第3条d)

(5) 事前協議の対象となる先住民
 協議の権利を有するのは、法的措置や行政措置によってその集団的権利が直接影響を受ける先住民である。(法律第5条)

(6) 先住民の事前協議への参加形態
 先住民は、伝統的な流儀・慣習に基づいて選出された代表的組織・機関を通じて、協議プロセスに参加する。(法律第6条)
 先住民は、独自の流儀・慣習に基づいて選ばれた代表者を通じて協議プロセスに参加する。なお、協議プロセスにおいて、先住民は代表者を承認する正式な文書を推進機関に提出しなければならなない。(細則第10条)

<定義>(細則第3条)

 ① 先住民の代表的組織・機関:先住民の流儀、慣習、独自の規定や決定に基づいて、その集団的意思を表明するメカニズムを有する代表的組織や機関。
これら組織・機関は、その形態に応じて、国家管轄機関の特別規則により承認される。

 ② 代表者:協議対象の行政措置や法的措置によって直接影響を受ける先住民の一員である自然人で、これら先住民の伝統的な流儀・慣習に基づいて選ばれた人物。
本施行細則で言及される「代表者」は、本法律第6条に示される参加形態に関連するものとして解釈される。

 ③ 推進機関:本法律及び施行細則に規定される枠組みにおいて、協議の対象となる法的措置や行政措置を発布する責任を負う公的機関。

(7) 事前協議プロセス
 法的措置又は行政措置の推進機関は、以下に示される最低限の協議プロセスの各段階を経なければならない。

 ① 協議の対象となる法的措置や行政措置の特定

 ② 協議の対象となる先住民の特定

 ③ 法的措置や行政措置の周知

 ④ 法的措置や行政措置に関する情報提供

 ⑤ 先住民に直接影響を及ぼす法的措置や行政措置に対する先住民の代表的組織・機関による内部評価

 ⑥ 政府代表者及び先住民代表者との間の対話プロセス

 ⑦ 決定

 (法律第8条)

(8) 事前協議の対象となる措置の特定
 国家機関は、その責任において、先住民の集団的権利に直接的な関連を持つ法的措置や行政措置を特定する義務を負う。これらが先住民の集団的権利に直接影響を及ぼすと結論付けられた場合に、当該措置について事前協議を実施する。
 先住民の代表的機関・組織は、直接影響を及ぼすと考えられる特定の措置に関して、事前協議プロセスの適用を申請することができる。その場合、該当する法的措置や行政措置を推進し、協議プロセスの実行責任を有する国家機関に対して申請書を送付しなければならない。一方、これら国家機関は、申請内容を評価しなければならない。
 国家機関が行政府に所属する場合であって、先住民の代表的組織・機関による申請が拒否された場合には、行政府の先住民専門機関に対して異議申し立てを行うことができる。行政府の先住民専門機関においても申請が拒否された場合には、対応する法的機関に申し立てを行うものとする。
 (法律第9条)

(9) 協議計画書
 協議計画書は、推進機関から先住民の代表組織に対して、協議対象となる法的措置、行政措置の提案内容と共に提示されなければならない。これら協議計画書には、少なくとも以下の事項を記載する。

 ① 協議対象となる先住民の特定

 ② 協議プロセス当事者の義務、課題、責任

 ③ 協議対象となる法的措置、行政措置の性質に見合った協議の期間

 ④ 協議プロセスの方式、開催場所、使用言語
また、協議プロセスにおける先住民女性の参加を促す措置

 ⑤ 協議プロセスの周知、情報提供、アクセス、透明性に関するメカニズム
また、協議実施方法や協議対象の法的措置、行政措置に関する説明

 (細則第16条)

(10) 法的措置、行政措置の周知段階
 協議対象となる行政措置や法的措置の推進機関は、先住民の代表組織に対して、先住民やその代表の使用言語を考慮して、文化的に適切な方法及びプロセスをもって、これら行政措置や法的措置の内容を周知しなければならない。同時に、協議計画書を提出しなければならない。
 (細則第17条)

(11) 情報提供段階
 推進機関は、協議プロセスの開始時から、先住民及びその代表(機関)に対して、協議対象となる法的措置や行政措置の動機、影響、効果、結果等に関する情報を提供する義務を負う。情報提供段階は、推進機関の定めるところよって30日から60日間とする。
 情報提供は、協議の対象となる法的措置や行政措置に関して、先住民がこれらの措置を評価し、自らの提案を提示するために必要かつ十分な情報を有しなければならない。その際は、異文化受容の視点の下に、先住民にとって適切なコミュニケーションの手段を用いることで、先住民の代表組織及び代表者に対して効果の高い情報伝達を行わなければならない。
 推進機関は、先住民が法的措置や行政措置を理解するために必要な技術的・専門的支援を得られるよう取り計らうものとする。
 (細則第18条)

(12) 内部評価段階
 先住民の代表的組織やその代表者らは、法的措置や行政措置の性質を考慮した上で、これらの措置が及ぼす影響や効果と、自らの集団的権利や生活の質、発展に及ぼす影響との間の直接的な関連性等に関する分析を行うための妥当な期間を与えられなければならない。
 先住民代表組織の代表者が法的措置や行政措置に合意を表明した場合は、協議プロセスは完了する。この場合、推進機関は、先住民による合意の意思を示す内部評価段階の書類を協議文書とみなす。先住民代表組織の代表者が協議対象の措置に対して何らかの変更や提案、提示を行った場合には、対話段階が開始される。
 内部評価は最大30日以内に完了しなければならない。
 (細則第19条)

(13) 対話段階
 異文化受容に基づく対話は、行政措置や法的措置の推進機関と先住民の代表(組織)との間で意見や立場が相違する点について実施される。この対話は、協議対象の法的措置や行政措置に関して合意することを目的に、継続的な努力と信義誠実の原則に従って実施されなければならない。
 対話段階は最大30日とするが、事前に正当と認められる理由と双方の合意に基づいて延長が可能である。
 対話段階では下記の規則を最低限履行する。

 ① 先住民は先住民言語或いは公用語を使用する権利を有する。
協議プロセスの当事者のいずれかが対話相手の使用言語を理解しない場合には通訳者を介する。

 ② 対話段階の開始に際して、法的措置や行政措置の推進機関は、内部評価段階終了時に提出された書類を基に、内部評価段階の終了時点で存在している法的措置や行政措置に対する不賛同の点に関して公表しなければならない。
この公表の後、合意形成模索のプロセスが開始される。

 (細則第20条)

(14) 決定段階
 法的措置や行政措置の承認決定は、推進機関が実施する。
 この決定は、協議プロセス中に先住民によって提示された視点、提言、意見の評価と、これらの措置の適用が、ペルー国憲法及びペルー国家により批准された国際協定において認められた集団的権利に及ぼす直接的な影響に関する分析に基づいたものでなければならない。
 国家と先住民の間で、協議プロセスの結果として全面的又は部分的な合意が達成された場合、その合意内容は双方にとって義務的な性質のものとなる。
 合意に至らないまま、推進機関が協議対象の法的措置や行政措置を発布した場合、推進機関は先住民の生活の質を向上させつつ、その集団的権利、生活、安全、発展への権利を保障するのに必要なあらゆる措置を講じなければならない。これに対して、反対を表明する先住民の代表(組織)は、その立場を協議文書に明示する権利を有する。
 (細則第23条)
 協議プロセスの結果は、双方により合意が形成された場合を除いて、義務的な性質を有さない。
 (細則第1条)

(15) 最大協議期間
 周知、情報提供、内部評価、対話段階の実施期間は、行政措置や法的措置の提案内容や案文の提示から協議文書への署名までとし、最大で120日間とする。
 (細則第24条)

(16) 異文化受容次官室の役割
 文化省組織権限法及び同法の施行細則によって定められる異文化受容次官室の役割には、以下の事項が含まれる。

 ① 協議への権利の行使に関する国家的指針や政策の決定、取りまとめ、調整
更に、協議への権利の適用プロセスに対する事前見解の発表

 ② 推進機関及び先住民の代表機関とその代表者に対する専門的支援や事前研修の提供
また、各プロセスにおいて発生しうる質疑に対する推進機関との連携における対応

 ③ 推進機関により制定が計画されている法的措置や行政措置に対する評価や協議対象の範囲、協議対象の先住民の特定、協議計画書等に対する意見や見解の発表
この発表は異文化受容次官室が自発的に、或いは協議実施を推進するあらゆる団体からの要請に応じて行う

 ④ 協議実行責任を有する機関や協議対象の先住民に対する協議の範囲や特徴の定義に関する助言の実施

 ⑤ 先住民に関するデータベースの作成、強化、更新
同データベースには先住民の代表組織も登録される

 ⑥ 実施された協議結果の記録・登録
協議結果の記録や登録を行うため、推進機関は協議報告書を電子媒体で送付する
この報告書の情報は、協議プロセスで採択された合意事項の履行に対する追跡作業を行う際のよりどころとなる

 ⑦ 協議仲介者や先住民言語の通訳者の登録、保持、管理、更新

 ⑧ その他、本法律やその他の法令及び施行細則に規定の枠内における文書モデルを含めた協議への参加権利の適用に関するガイドラインの作成

 (細則第28条)

(17) 先住民公式データベースの作成

 行政府の先住民専門機関は、先住民及びそれらの各代表的組織・機関の公式データベースを作成する。データベースは以下の情報を含むものとする。

 ① 先住民の特定に使用される公式名称及び自称

 ② 地理・アクセス情報

 ③ 独自の文化・民族的情報

 ④ 先住民が居住或いは利用する地域を特定する民族言語分布図

 ⑤ 組織体系、原則、規約

 ⑥ 代表的組織・機関、代表権の範囲、リーダー或いは代表者、その代表権限及び機関の特定

 (法律第20条)

(18) 法律発効前の法的措置或いは行政措置の扱い
 本法律の発効前に発布された法的措置は変更或いは廃止されず、行政措置に関しても無効にはならない。(法律最終補足規定第2条)

3. 法律制定に対する評価と今後の見通し

 ペルーでは、社会環境問題に起因する争議が多数存在し、また、鉱業に対する反対運動も各地で頻発している。反鉱業を掲げる抗議デモが激化した結果、治安部隊との衝突によって死傷者が発生するような深刻な事態に発展するケースも多く見受けられることから、ウマラ政権にとって、これらへの適切な対応は喫緊かつ重要な課題となっている。
 ウマラ政権によって公布された先住民事前協議法は、ILO第169号条約に準拠しつつ先住民の権利を保障する重要な一歩となった。同法では、先住民は、協議プロセスにおいて、完全な自治権の枠組みの中、第三者の介入を受けることなく、集団的意思を尊重しつつ、内部決定や選択を行わなければならないとされている。また、信義誠実の原則が適用されており、対話協議の権利を阻害・限定する行為や、協議プロセスにおける圧力手段としての暴力的・抑止的措置を政府、先住民の双方に義務付けていることから、今後、先住民との事前協議が本法令に基づき確実かつ適正に執行されるならば、政府と先住民の間の対話と理解が促進され、深刻な対立や衝突を未然に防ぐ有効な対策のひとつとして機能することが期待される。
 施行細則の公布に当たって、ペルー経団連のガルシア・ミロ会長は、施行細則は客観的、専門的かつ透明性ある争議解決のメカニズムであるとして評価し、本細則は今後のプロジェクトの妨げになるどころか、より多くの投資を誘致するための刺激となるだろうとの考えを示した。また、ペルー鉱業石油エネルギー協会(SNMPE)のマルチネス会長は、施行細則の公布が社会争議の解決に寄与するだろうとコメントしたほか、本細則の公布によって、中断状態となっていた様々なプロジェクトの手続きが今後再開されるとの期待を表明した。

4. おわりに

 2012年6月に、ウマラ大統領は、スイスで開催されたILOの総会で演説を行い、ペルーは先住民事前協議法によってILO第169号条約の法制度化及び適用を行った初めての国であること、国際協定を尊重する国であること、文化の多様性が強みであるが故に市民参加や事前協議の重要性を認識している国であることなどを強調した。一方、文化省のラ・ネグラ異文化受容次官は、事前協議の担当官の選定や先住民言語の通訳に対する研修等、事前協議の実施に向けた準備が着々と進んでいるとしたほか、法的措置に対する最初の事例として、森林法及び先住民言語法の各施行細則が、今後、事前協議の対象となることを明らかにした。
 ウマラ政権は、先住民事前協議法の制定によって歴史的な一歩を踏み出したが、一方で、国家の経済発展や貧困や不平等撲滅のために、アマゾンやアンデス地域における天然資源の開発を推進するとの方針を示している。先住民の集団的権利の保護と天然資源の開発促進の両立を目指すウマラ政権の手腕に注目していきたい。

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