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報告書&レポート

2012年8月2日 メキシコ事務所 高木博康
2012年46号

メキシコ合衆国・サン・ルイス・ポトシ州の鉱業事情

図1. サン・ルイス・ポトシ州位置図

図1. サン・ルイス・ポトシ州位置図

 サン・ルイス・ポトシ(San Luis Potosí)州は、鉱業生産額がメキシコ第5位(注1)に位置している。同州には、銅の生産量がメキシコ第5位であるものの、HP等で情報を一切公表していない地元資本のSanta María de la Paz銅鉱山、亜鉛の生産量がメキシコ第2位であるGrupo Mexico社のCharcas多金属鉱山、環境NGOによる抗議行動によりメキシコで最も苦労したと言われている(注2)Cerro San Pedro金・銀鉱山、Grupo Mexico社のサン・ルイス・ポトシ亜鉛精錬所(銅製錬所は2010年に閉鎖)等が存在している。
 今回、同州を訪問し、州政府、メキシコ鉱業センター(SGM)、Santa María de la Paz銅鉱山を保有するNEMISA社、Grupo Mexico社のプラント関係者等から話を聞く機会を得たので、ここに紹介する。
(注1)2010年、2011年ともソノラ州、サカテカス州、チワワ州、コアウイラ州に次ぐ。
(注2)2012年4月にチワワ州で開催された鉱業大会Chihuahua Minero 2012の「コミュニケーション・フォーラム」と題する鉱業関係者とマスコミ関係者によるパネル・ディスカッションにおいてもメキシコで最も環境NGOによる抗議行動で苦労した鉱山として紹介されていた。

1. サン・ルイス・ポトシ州の鉱業の現状

 サン・ルイス・ポトシ州は、州別生産量で、銅がソノラ州、サカテカス州に次ぐ第3位、亜鉛がサカテカス州、チワワ州に次ぐ第3位、銀が第5位、金及び鉛が第6位となっている(表1)。

表1. サン・ルイス・ポトシ州の主要鉱石生産量と国内シェア(2010年)

鉱種 サン・ルイス・ポトシ州 メキシコ計 国内シェア 国内順位
金 (t) 4.8 79.4 6.0% 6位
銀 (t) 180 4,410 4.1% 5位
銅 (千t) 21.6 270.1 8.0% 3位
鉛 (千t) 4.2 192.0 2.2% 6位
亜鉛 (千t) 58.0 570.0 10.2% 3位

(出典)メキシコ国立地理情報院(INEGI)

表2. サン・ルイス・ポトシ州主要鉱山の2011年生産量

鉱山名 会社名 金(t) 銀(t) 銅(千t) 鉛(千t) 亜鉛(千t)
Charcas Grupo Mexico (注3) (注3) 1.1 2.7 52.7
S. M. de la Paz NEMISA 1.04 58.8 19.8
Cerro San Pedro 加New Gold 4.47 61.9

(出典) 各社HP、NEMISA社についてはヒアリングによる。
(注3) Santa Bárbara鉱山、Santa Eulalia鉱山(いずれもチワワ州)と併せ、金0.2 t、銀182.5 t。

2. 各鉱山の概要

(1) Santa María de la Paz銅鉱山
 同鉱山は、 サン・ルイス・ポトシ州北部に位置し、メキシコ資本のNegociación Minera Santa María de la Paz y Anexas, S.A. de C.V.(NEMISA)社が所有している。同社は、株式を上場していないため、HP等での情報公開は行っていない。2012年6月に同社Manuel González探鉱地質部長等から聞いたところ、以下のとおりである。

写真1. NEMISA社の本社ビル

写真1. NEMISA社の本社ビル

 同鉱山は1864年から操業が行われ、同社は、1970年から同鉱山を保有している。同鉱山はスカルン型鉱床で、坑内掘により採鉱している。1992年までは現在の本社ビルの下に位置するLa Paz鉱床において、銅、鉛、亜鉛、金、銀を採掘してきた。1992年に同鉱床の鉱量低下及び労働問題の発生から操業を停止した。1993年からは、近傍Dolores鉱床の坑内採掘を開始したが、労働問題の教訓から、会社組織を一種のホールディング制とし、メキシコ労働法で労働組合に加盟義務の無い労働者19人以下の子会社を数多く作り、その子会社に委託する形で鉱山経営を実施している。2011年からDolores鉱床の北側にあるCobriza鉱床の採掘も開始した。

写真2. Santa María de la Paz銅鉱山

写真2. Santa María de la Paz銅鉱山

(中央の山がDolores鉱床、右の山がCobriza鉱床)

 2011年は、粗鉱処理量5,400 t/日であったが、増産計画を実施中であり2012年10月までに段階的に粗鉱処理量を8,650 t/日まで引き上げる。これにより銅の生産量は、2011年の約2万tから2013年には約3万tとなる。
 現在の精測資源量(Dolores鉱床:27.5百万t、平均品位 銅0.97%、金1.82 g/t、銀48 g/t、Cobriza鉱床:40.0百万t、平均品位 銅1.46%、金0.74 g/t、銀61 g/t)等からするとマインライフは6~7年となるが、鉱化作用が発見されているものの資源量評価を行っていない地区が複数存在しており、20年は鉱山を維持できると考えている。
 同鉱山において生産される銅精鉱は、大手鉱物トレーダーTrafigura Beheer社(蘭)に売却され、太平洋側のコリマ州のマンサニージョ港から輸出されているとのことである。

図1. Santa María de la Paz銅鉱山の採掘方法(岩盤が良いため縦45mを掘削)

図1. Santa María de la Paz銅鉱山の採掘方法(岩盤が良いため縦45mを掘削)

(出典:NEMISA社資料)

表3. Santa María de la Paz銅鉱山の資源量

    資源量
(百万t)
平均品位
金(g/t) 銀(g/t) 銅(%)
Dolores鉱床 精測資源量 27.5 1.82 48 0.97
概測資源量 53.8 1.61 39 0.73
予測資源量 94.1 1.45 35 0.68
175.4 1.55 38 0.74
Cobriza鉱床 精測資源量 40.0 0.74 61 1.46
概測資源量 17.9 0.94 42 0.98
予測資源量 18.1 1.54 41 0.96
76.0 0.98 52 1.23

(出典)NEMISA社資料

(2) Cerro San Pedro金・銀鉱山
 同鉱山は、サン・ルイス・ポトシ市の北東約20 kmに位置する露天掘鉱山で、加New Gold社が保有している。
 同鉱山は、開発許可取得段階の1999年にグリーンピースがシアン、大量の水及び爆発物の使用により住民の生活に深刻な影響を与えるとして行政機関にプロジェクトの中止要請をして以来、2007年4月に操業を開始するまでの間、様々な環境NGOが環境天然資源省からの環境影響評価報告書の認可、国防省からの火薬の使用許可、州政府からの土地使用許可等に対し抗議行動を頻繁に行った他、地域住民が鉱山予定地を占拠するといった抗議行動が行われた。また、操業開始後の2009年11月には、環境影響評価報告書を無効とする連邦行政裁判所の判決を受けて、環境検察庁から操業停止命令が出たため、同年12月に連邦地方裁判所から操業停止命令の執行停止命令が出るまで約1か月間操業を停止した。2010年にも環境NGOの抗議を受け、国防省が火薬使用許可の更新を一時的に保留するといったこともおきている。このような中、同鉱山の生産量は順調に増加している(表4)。

写真3. Cerro San Pedro鉱山のリーチング・パッド

写真3. Cerro San Pedro鉱山のリーチング・パッド

表4. Cerro San Pedro金・銀鉱山の生産量の推移

鉱種 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
金 (t) 0.83 2.63 2.97 3.69 4.47
銀 (t) 13 34 47 68 62

(出典)New Gold社HP

 メキシコ事務所では、サン・ルイス・ポトシ州Nieto Gonzalez鉱業部長を通じ、New Gold社への面会を試みたが、同社の方針として面会には応じられないとのことであった。同部長の同鉱山に関する話は、以下のとおりであった。
 同社は、マスコミにあること無いこと書かれたこともあり、閉鎖的になっており、面会に慎重になっているのであろう。
 同鉱山への抗議行動の背景としては以下のことがあげられる。

① 同鉱山は、サン・ルイス・ポトシ市の東側を南北に貫く丘陵地に位置しており、鉱山から同市を一望できる。同市は、水不足により年中微粉末による公害に悩まされており、このようなところに露天掘鉱山を作ることへの抵抗感が市民にあった。

② また、水不足の問題があるなか、鉱山が散水のために水を使う(リーチングに使う水はリサイクル)ことへの市民の抵抗感もあった。

③ この鉱山の位置する地域は、自然保護地域(注4)(動植物保護地域)に指定されていた。しかし、環境天然資源省から環境影響評価報告書の認可を受け、特別開発地域に設定されており、現在は法的に何ら問題が無い。
(注4)自然保護地域及び同地域において必要な手続きについては、平成23年度8月25日付けカレント・トピックス「バハカリフォルニア半島の現状と自然保護地域での鉱業活動について」(11-43号)を参照されたい。

④ 鉱山はサン・ルイス・ポトシ市に隣接するサン・ペドロ村のすぐ裏であり、数件の家の立ち退きが必要であった。

⑤ 歴史的価値のある教会があることがマスコミに報道されているが、反対派の口実にすぎない。サン・ペドロ村に1990年代始めに建設された教会があるが、国立考古学協会から考古学遺跡に関する許可を受けており、何ら問題が無い(タクシーの運転手の話では観光客がこの教会にいくことは全く無いとのことであった。)。

写真4. サン・ペドロ村から見た露天掘鉱山

写真4. サン・ペドロ村から見た露天掘鉱山
写真5. 歴史的価値があるとされる教会

写真5. 歴史的価値があるとされる教会

 なお、そもそもサン・ルイス・ポトシ市は、スペイン植民地時代にCerro San Pedro銀鉱山(坑内掘)によって出来た街である。鉱山近くには水が全く無かったため、20km離れたところに人が住んだのが市の歴史である。
 同社が最近、同州の鉱業関係者が集まった席で話したところでは、2016年から現在の金・銀の露天掘に加え、地下のマント型の鉱体を対象に坑内掘で金、銀、鉛、亜鉛を採掘するとのことである。
 なお、SGMサン・ルイス・ポトシ事務所Ramón Montiel所長にこれらの部長の話を紹介し、事実関係を確認したところ、概ねそのとおりであるが、2016年以降行う予定の坑内掘りは埋蔵量が少なく、2~3年しか続かないだろうとのことであった。

表5. Cerro San Pedro金・銀鉱山の精測及び概測資源量

資源量(百万t) 平均品位 含有量
金(g/t) 銀(g/t) 金(t) 銀(t)
81.4 0.35 13.26 28.4 1,079

(出典)New Gold社HP

表6. Cerro San Pedro金・銀鉱山の地下マント型鉱体の予測資源量

資源量
(百万t)
平均品位 含有量
金(g/t) 銀(g/t) 鉛(%) 亜鉛(%) 金(t) 銀(t) 鉛(千t) 亜鉛(千t)
6.27 1.83 94.5 1.09 3.09 11.4 593 68 194

(出典)New Gold社HP

(3) Charcas多金属鉱山
 Charcas多金属鉱山は、メキシコでGoldcorpのPeñasquito鉱山(サカテカス州)に次ぐ亜鉛の生産量第2位のGrupo Mexico社保有の坑内掘鉱山である。2009年まではメキシコで亜鉛生産量トップであった。今回は同鉱山を訪問していないが、Grupo Mexico社サン・ルイス・ポトシ・プラントAmador Osoria探鉱部長から聞いたところでは、探鉱の成果が出てきており、2009年度までの水準で今後長期にわたり亜鉛生産を継続できる見通しであるとのことであった。

表7. Charcas多金属鉱山の生産量の推移(注5)

鉱種 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
亜鉛(千t) 64.0 62.3 62.1 57.8 52.7
鉛(千t) 2.6 4.4 4.2 3.3 1.1

(出典)Grupo Mexico社HP
(注5)金及び銀については、坑内掘鉱山の合計でのみ公表されているため、同鉱山生産量は不明。

(4) サン・ルイス・ポトシ州におけるその他の鉱山
 サン・ルイス・ポトシ州Nieto Gonzalez鉱業部長及びSGMサン・ルイス・ポトシ事務所Ramón Montiel所長から聞いたところ、以下のとおりである。

① Catorce郡において、NEMISA社の社長がアンチモンの生産を小規模に行っている(同社に確認したところ、アンチモン鉱石の鉱山を保有しており、120 t/月の高品位アンチモン鉱石を米国に輸出しているとのことである(メキシコの統計においてはアンチモンについては州毎に生産量が公表されておらず、統計に反映されているかは不明。)。

② Santo Domingo郡において、地元企業2社が小規模にマンガンを生産している(メキシコの統計には反映されておらず、同州のマンガンの生産はゼロとなっている。)。

3. 製・精練所

(1) サン・ルイス・ポトシ銅製錬所(2010年閉鎖)
 Grupo Mexico社サン・ルイス・ポトシ・プラントAmador Osoria探鉱部長から聞いたところ以下のとおり。
 サン・ルイス・ポトシ銅製錬所は、2010年初頭に閉鎖した。その背景としては、①製錬所周辺に民家が増え、住民との軋轢が生じてきていること、②製錬所ができてから110年が経ち老朽化してきたこと、③今後の同社の銅生産はソノラ州等メキシコ太平洋側に重心があること、④バハカリフォルニア半島のEl Arco銅プロジェクトが計画されていることから、同社として将来的に太平洋側に製・精錬所を新設することとしていたことが挙げられる。その後2010年6月にCananea(現Buenavista)銅鉱山のストライキが解決したことから、Buenavista鉱山の増産とともにソノラ州のGuaymas港に面した鉄道の終点Empalmeに銅製・精錬所を建設する計画を2010年8月に決定、公表している。

写真6. サン・ルイス・ポトシ銅製錬所跡から見た住宅街

写真6. サン・ルイス・ポトシ銅製錬所跡から見た住宅街

(2) サン・ルイス・ポトシ亜鉛精錬所
 Grupo Mexico社サン・ルイス・ポトシ・プラントAmador Osoria探鉱部長から聞いたところ以下のとおり。
 サン・ルイス・ポトシ亜鉛精練所についても住民との間で軋轢が生じているが、ISO14000を取得し、銅製錬所の跡地を製・精錬博物館の他、Grupo Mexico社が公園として整備する(市に寄贈するが、メンテナンスはGrupo Mexico社が実施する)などして、住民との関係改善に努め、今後とも精練所を続けていきたいと考えている(これに対し、SGMサン・ルイス・ポトシ事務所Ramón Montiel所長は、2011年に同精錬所で爆発事故が起きており、周辺住民は精練所の存続を容認していないので、将来的に移転を迫られる可能性があるのではないかと言っていた。)。

表8. サン・ルイス・ポトシ亜鉛精練所の地金生産量

  2009年 2010年 2011年
亜鉛 (千t) 98.7 95.7 90.9
金 (t) 7.0 6.8 14.2
銀 (千t) 12.8 10.2 13.7

(出典)Grupo Mexico社HP

4. サン・ルイス・ポトシ州における探鉱・開発プロジェクト等

 SGMサン・ルイス・ポトシ事務所Ramón Montiel所長から聞いたところ、以下のとおりである。
 サン・ルイス・ポトシ州において金属鉱業ポテンシャルがあるのは、北部からサン・ルイス・ポトシ市周辺までであり、東部においては金属鉱業のポテンシャルは無い。北部のCatorce郡においては、現政権が有望な15,000 haを先住民の宗教的儀式を保護する目的で国家留保鉱区にしたため、探鉱可能な土地は残っていない。なお、同郡では他に加First Majestic Silver社のLa Luz多金属プロジェクトが約6,000 haの鉱区を持っている。
 Charcas鉱山のあるCharcas郡においては、加Santacruz Silver Mining社がRosario多金属プロジェクトを開発していて、2013年Q1から500 t/日で小規模な生産を開始する予定である。
 サカテカス州のPeñasquito多金属鉱山、Camino Rojo多金属プロジェクトの南東でCharcas多金属鉱山までの間は、大規模低品位多金属鉱床の有望地域であるが、加Revolution Resources社が30万haの鉱区を取得した。なお、サカテカス州側は、加Goldcorp社と加MAG Silver社が鉱区を持っている。
 このため、州内で唯一残った有望地域であるサン・ルイス・ポトシ市周辺をSGMは探査しているが、対象の亜鉛酸化鉱は物理探査が使えないため、苦労している。

表8. La Luz多金属プロジェクトの精測及び概測資源量

資源量
(百万t)
平均品位 含有量

(g/t)

(%)
亜鉛
(%)

(t)

(千t)
亜鉛
(千t)
3.6 248 0.23 0.22 895 8.5 7.8

(出典)First Majestic Silver社HP

表9. Rosario多金属プロジェクトの資源量

資源量
(百万t)
平均品位

(g/t)

(g/t)
亜鉛
(%)

(%)
1.03 1.16 190.4 3.00 1.38

(出典)Santacruz Silver Mining社HP

図2. サン・ルイス・ポトシ州の鉱山、プロジェクト、精練所位置図

図2. サン・ルイス・ポトシ州の鉱山、プロジェクト、精練所位置図

(参考までにサカテカス州の一部鉱山、プロジェクトを追加)

おわりに

 今回紹介したSanta María de la Paz銅鉱山は、HPで情報を公開していない企業なので情報を入手できるか心配したが、会ってみれば丁寧に説明してくれた。情報を公開していないのは、株式を上場しておらず、単に情報公開の必要性が無いからであった。環境NGOによる抗議行動を受けたCerro San Pedro金・銀鉱山は、直接関係者に会うことができなかったが、実際に現場に行って、人が住んでいる村の直近で露天掘をしているのを見て、抗議行動がある中、鉱山を操業できたことに驚きを持った。環境問題が鉱山開発の障害になることの多い中米の諸国であったらプロジェクトは頓挫していたものと思われる。また、Grupo Mexico社の製・精練所では都市化の中での苦労が見受けられた。
 メキシコ事務所では、今後ともメキシコ、中米、カリブ諸国の鉱業事情を積極的に情報発信していきたい。

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