閉じる

報告書&レポート

2012年8月2日 ボツワナ・地質リモートセンシングセンター 久保田博志 ロンドン事務所 小嶋吉広
2012年47号

ザンビア共和国ZCCM-IHの事業内容について-南部アフリカ諸国の国営鉱山会社に係る分析報告②-

 2000年代に入り、中国・インドなどの新興国における資源需要の急激な増加、鉱物資源価格の上昇に伴い、資源国、特に新興国や発展途上国を中心に資源ナショナリズムの傾向が顕著になってきている。その代表的なものに政府が直接、鉱山開発・操業に関わる国営鉱山会社の形式があり、南部アフリカ地域においても一般的な時流となりつつある。本稿では、他国に先駆けて設立されたザンビア共和国の「政府系企業」ZCCM-IH(ZCCM Investment Holdings Plc)の設立の経緯、企業戦略等について報告する。

1. はじめに

 資源ナショナリズム政策の代表的なものに政府が直接、鉱山開発・操業に関わる国営鉱山会社(State Mining Company)がある。南部アフリカ地域においても、ザンビア共和国のZCCM-IH(主な対象鉱種:銅、コバルト等)、ナミビア共和国のEpangelo Mining Company Ltd.(主な対象鉱種:ウラン、銅、金、亜鉛、石炭等の「戦略的鉱物」。詳細はカレント・トピックス2012年36号参照)、南アフリカ共和国のAfrican Exploration Mining Finance Corp(AEMFC、主な対象鉱種:石炭等)、モザンビーク共和国のMozambique Mining Exploration Company(主な対象鉱種:ベースメタル等)などがある(図1参照)。
 これら各国の国営鉱山会社が目指すものは、自国の経済発展における鉱業による裨益効果の極大化であるが、その方法は各国それぞれ異なっている。1970年代~1980年代、資源国を席巻した資源ナショナリズムの動きに先駆け、ザンビアは1969年に銅産業を国有化しZCCM-IHの前身であるZCCM(Zambia Consolidated Copper Mines Ltd.)を設立したが、経営破綻により、持ち株会社であるZCCM-IHに改組した歴史を有する。ZCCM失敗の歴史とZCCM-IHのビジネスモデルを理解することは、現在他国で見られる国営鉱山会社設立・強化の動きを分析する上で、貴重な歴史的示唆を供するものである。

図1. 南部アフリカの主な国営鉱山会社
図1. 南部アフリカの主な国営鉱山会社

2. ZCCM-IHの設立の背景と経緯

2-1. 銅産業の国有化
 ザンビアは1964年に独立した後、当時の高い銅価を背景に銅の生産量を拡大していった。Kenneth Kaunda初代大統領は、独立後の懸案であった農村部での貧困削減及び都市部での雇用創出に対応するため、外貨獲得の柱である銅産業への政府による関与を強める方針を掲げた。1969年に政府は、銅生産の主要会社であったRhodesian Anglo American Corp.とRoan Selection Trust(RST)の株式51%を取得し、前者はNchanga Consolidated Copper Mines Ltd.(NCCM)、後者はRoan Cosolidated Mines Ltd.(RCM)に改称された。これら2社は、高い銅価を背景に、電力、運輸、金融、電気通信分野にまで進出する一大コングロマリットに成長し、ザンビア経済の成長を牽引した。その後、1973年の第1次オイルショックをピークに銅価は下落基調に転じ、一大コングロマリットの成長の歯車は逆回転を始め、公社ゆえの雇用維持(換言すれば政権基盤の保持)、探鉱費・設備投資の減少、生産減という負の連鎖を引き起こすこととなった。これを受け政府はこれら2社を統合し、5つの主要な鉱山(Konkola、Nkana、Nchanga、Mufulira、Luanshya)から構成されるZCCMを1982年に新たに設立した。

2-2. 生産の低迷
 しかしながら80年代に入っても銅価は低迷を続け、輸出収入や雇用の減少、深刻な財政赤字、対外債務の増大にザンビア経済は悩まされることとなり、1984年時点で、ザンビアの対外債務残高は4,000百万US$にまで膨れ上がった(図2参照)。このため資金調達が困難となり主要鉱山は鉱山設備の老朽化等で操業を休止し、銅生産量が大幅に減少する事態となった。立て直しに向けた五カ年計画が1986年に策定されたが、五カ年計画は所期の成果は上がらず、銅生産量は減少が続いた(図3参照)。

図2. ザンビアの債務状況
図2. ザンビアの債務状況
(出典:「南部アフリカ援助研究会報告書」JICA)
図3. ザンビアの銅生産量の推移
図3. ザンビアの銅生産量の推移
(出典:ZIMEC 2012でのZCCM-IHによる講演資料)

2-3. 構造調整の失敗とKaunda政権の退陣
 世銀は1986年にザンビアに対する構造調整プログラムを開始した。世銀は、主食メイズ1への補助金削減を構造調整プログラムの柱に据え、ザンビア政府へ可及的速やかな履行を迫った。Kaunda政権は、世銀の勧告に基づき、メイズへの補助金削減を断行したが、同年12月の大規模な暴動を引き起こし、Kaunda政権の弱体化を加速させる結果となった。1987年5月にKaunda政権は世銀/IMFとの取り決めを一方的に破棄し、構造調整プログラムを放棄した。その代わりに、固定為替相場、物価統制などを盛り込んだ独自の経済復興計画を立案したが、世銀/IMFや先進ドナー国の信頼を失ったこともあり、同計画は惨憺たる結果に終わった。1990年、Kaunda政権は世銀/IMFへ再度歩み寄り、メイズの補助金削減を実施した結果、暴動が発生し、1991年選挙では敗北、Chiluba大統領へ政権の座を譲ることとなった。


1 メイズ;トウモロコシ。ザンビアはメイズの粉を煮て練って固形状にした「シマ」を主食としている。

2-4. 民営化庁による民営化の取り組み
 Chiluba大統領は世銀/IMFによる処方箋を漸進的に進め、ZCCM等公社の民営化に向け、まずは1992年に民営化法を成立させ、民営化庁(ZPA:Zambia Privatization Agency)を設置した。ZPAによりZCCM以外の公社は 1999年までに民営化されたが、ZCCMの民営化は難航を極めた。世銀グループの支援を受け、2000年2月に、Nkana鉱山とMufulira鉱山はGlencore及びFirst Quantumが所有するMopani Copper Mines社への売却が決まり、ZCCMは持株会社であるZCCM Investments Holdings plc(ZCCM-IH)へ移行し、Mopani Copper Mines社の株式10%を所有することとなった。また、KonkolaとNchanga鉱山については、2000年3月にKonkola Copper Mines社へ売却が決まった。これによりKonkola Copper Mines社の権益比率は、ZCI(Zambia Copper Mines社、Anglo Americanの現地子会社)が65%、ZCCM-IHが20%、IFCが7.5%、英連邦開発公社(Commonwealth Development Corp.)が7.5%となった。後に、ZCIは本プロジェクトから撤退し、インド系資本のVedantaが参画することとなった。
 現在、ZCCM-IHの株式87.6%はザンビア政府が保有しており、残りの12.4%はロンドン、ルサカ、NYSEユーロネクストの各証券取引所に上場・取引されている。株式の9割近くをザンビア政府が保有しており、政府は絶対的な筆頭株主として同社経営に多大な影響を与えている点を鑑みると、ZCCM-IHは実質的には鉱山公社であると言えよう。

表1. ZCCMとZCCM-IHの設立経緯

時期 事柄
1964年 ザンビアが英連邦より独立
1969年 主要外国資本2社(Rhodesian Anglo American Corp.、Roan Selection Trust)の株式51%を政府が取得し、国有化。
前者はNchanga Consolidated Copper Mines Ltd.(NCCM)、後者はRoan Cosolidated Mines Ltd.(RCM)に改称。
鉱山操業はAnglo AmericanとRCMがコントラクターとして実施。
1982年 NCCMとRCMが合併し、ZCCMが設立。
1996年 ZCCM民営化が始まる。
政府、ZCCM経営陣(Boards of ZCCM)、ザンビア民営化庁(Zambia Privatisation Agency(ZPA))がZCCM Ltd.民営化を承認。
民営化プログラムは、NM Rothschild & Sons and Clifford Chance(英国)が担当
2000年 ZCCMはZCCM-IHへ改組。同社はZCCMによる過去の負債を継承するとともに、ZCCMが有していた鉱害についての責任も負うことになっている。
2003年7月31日-2008年8月 鉱害防止対策の一環として、世界銀行、北欧開発基金からの無償援助により、カッパーベルト環境プロジェクト(Copperbelt Environmental Project)が実施される。

3. ZCCM-IH設立の目的とビジネスモデル

 ZCCM-IHは、2000年のZCCM民営化に伴い、同社の投資会社への移行、政府の鉱山における少数権益保有、民営化に伴う負の遺産(負債や鉱害等)の受け皿として設立され、ザンビア鉱業における中核的投資企業であるとともに、ザンビア経済の発展・高付加価値化のための先導的な企業となることを目的としている。
 そのビジネスモデルとして、投資による会社の価値を高めることや、銅・コバルト以外の鉱種への投資など多角化による利益拡大とリスク低減、そのための官民連携(Public Private sector Partnerships:PPP)など、民間資本の活用を柱に据えた事業方針を掲げている。その背景には、1970年代の銅鉱山国有化に失敗し、一旦国有化した銅資産を民営化した教訓をもとに、鉱山開発は民間セクターによって行われるべきものとの共通認識がある。
 ZCCMの破たんは、ザンビア国内資本と技術だけでは、鉱山経営を行えない現実をザンビア政府に理解させることとなり、この苦い経験によってザンビア政府は、資金・技術・鉱山経営の面で豊富なリソースと知見を有する外資との連携が不可欠であることを改めて認識させられた。

4. ZCCM-IHの政策上の位置付け

 ZCCM-IHは、ZCCM民営化後の政府による鉱山少数権益の受け皿としての役割に加え、2000年のZCCM民営化に伴う雇用対策(ZCCM Trust Fundによる元従業員への失業補償等)、鉱山鉱害対策義務(銅鉱山を一時国有化したことによる鉱業権者としての義務)など、ZCCMとその民営化に伴う「負の遺産」に対する責任を負っている点で、近年、設立された他国の国営鉱山会社とは異なる側面を持っている。なお、鉱害対策義務に関しては、2003年~2008年に世銀/北欧開発基金の無償援助によりカッパーベルト環境プロジェクトが実施された。

5. ZCCM-IHの主要プロジェクト

 ZCCM-IHの主要プロジェクトを図4、表2に示す。

図4. ZCCM-IHの主要プロジェクト
図4. ZCCM-IHの主要プロジェクト

表2. ZCCM-IHの投資プロジェクト

No 投資先(ZCCM-IH以外の主要株主) 権益 事業内容
1 Ndola Lime Company Ltd. 100.0% 石灰石鉱山、1931年操業開始
2 Maamba Collieries Ltd. 35.0% 石炭鉱山、1967年操業開始。
3 Konkola Copper Mines Plc
(Zambia Copper Investments: Anglo American,
Commonwealth Development Corporations;CDC, International Finance Corporation;IFC
→Vedanta 51%,ZCI)
20.6% Konkola Deep鉱山、Nchanga鉱山
(2006年開始、投資額:400百万US$)、
操業期間:2012~2035年、
鉱石生産量:200万t/年→600万t/年
4 Kansanshi Mines Plc
(Kansanshi Holdings Ltd.;アイルランド
→First Quantum Minerals Ltd.;加)
20.0% Kansanshi 鉱山
2005年操業、銅精鉱をMufulira製錬所へ提供、第一期:埋蔵量142百万t、品位:銅1.43%、金0.22 g/t、操業期間16年、最大生産量:銅13万t/年、金3,500 oz、生産コスト0.38 US$/lb銅
5 Copperbelt Energy Corporation Plc 20.0% 銅産業向け独占的な電力会社(Cinergy Zambia BVと National Grid Zambia BVが合併後、Zambian Energy Corp.(本社:アイルランド)が株式52%を取得し、傘下に収める)
6 CNMC Luanshya Copper Mines Plc (Enya Holdings BV) 20.0% Luanshya銅鉱山
(ZCCM-IHが2005年1月にUS$1,500,000を支払い15%権益を取得)
7 Konnoco Zambia Ltd.
(Teal Exploration and Mining Inc. 80%)
20.0% Konkola North銅鉱山 2012年Q3生産開始予定。予定生産量45千t/年(フル生産時)
8 NFC Africa Mining Plc 15.0% 中国政府系企業(China Nonferrous Metal Mining Corp.;NFC)
9 Chibuluma Mines Plc (Metrex;南ア → Chibuluma Mines plc + IDC) 15.0% Chibuluma West
Chibuluma South Mines Shaft:坑内採掘、埋蔵量757万t、品位3.6%、操業期間16年、生産量48万t/年
10 Chambishi Metals Plc
(Enya Holdings BV)
10.0% Nkana選鉱廃さい堆積場
Chambishiコバルト・硫酸プラント
11 Mopani Copper Mines Plc
(Carlisa Investments Co.:英バージン諸島
Glencore Finance(Berumda)Ltd.81.2% Skyblue Enterprise Inc.(First Quantum) 18.8%
10.0% Mufulira鉱山・製錬所・精錬所、
Nkana鉱山・選鉱所・コバルト工場
12 Albidon Ltd.(Munali Nickel Project) 0.98% Munaliニッケル鉱山
2011年11月、ニッケル価格低迷とニッケル回収率向上のため、操業の無期限停止を発表。
13 Luanshya Copper Mines plc (China Nonferrous Metal Mining Group 85%) 15.0% Luanshya Division 銅鉱山
鉱石処理量:4,800千t(2010年)
2012年1月現在、生産を一時休止中。

(出典:ZIMEC 2012でのZCCM-IHによる講演資料に基づきJOGMEC作成)

6. おわりに

 ZCCM-IHは、銅鉱山プロジェクトを中心として国内の主要鉱山プロジェクトに少数権益者として参画することで、民間投資主導による鉱業セクターの発展と政府の鉱山からの利益の確保を実現している。政府は、同社を単なる投資企業としてではなく、開発企業として鉱業関連産業や中小・零細採掘事業の振興、更には鉱種の多角化や下流産業への事業展開を進めようとしている。
 政府系企業として政府の経済政策の一端を担うことは当然のことではあるが、政府の過大な同社への期待は、鉱山会社としての企業経営を歪める危険性も孕んでいる。かつてのZCCM社の経営破たんを教訓に同社の「民間企業」としての健全な経営と、「政府系鉱山会社」として政府の期待に応えることの両立を如何に実現するか注目される。
 また、ZCCM-IHが投資企業から開発企業として政府の期待に応えるためには、奇しくもルサカで開催されたZambia International Mining and Exploration Conference and Exhibition;ZIMEC 2012において同社のMukela Muyunda社長が自身の講演の中で強調していた各分野における技術者の確保・育成が重要な要素の一つであると言えよう。

ページトップへ