閉じる

報告書&レポート

2012年8月30日 メキシコ事務所 高木博康
2012年50号

メキシコ合衆国の鉛・亜鉛鉱石の生産の現状及び今後の見通しについて

 メキシコの2011年の鉛、亜鉛鉱石の生産量は、それぞれ世界第5位、第7位(注1)であるが、Goldcorp社のPeñasquito多金属鉱山の操業開始もあり、2007年に比べそれぞれ、8.7万t、18万t増加する等、世界の金属需給にも少なからずの影響を与えている。
 そこで、政府統計、各社HP及びこれまでのメキシコ政府関係機関、企業等からのヒアリング結果による情報を基に、メキシコの鉛、亜鉛鉱石の生産及びプロジェクトの現状並びに今後の生産の見通しについてまとめたので、ここに報告する。

 (注1) World Metal Statistics Yearbook 2012による。

1.鉱石生産の現状

(1) 鉛
 メキシコの2011年の鉛鉱石の生産量トップ10の鉱山の生産量は、表1のとおり推移している。

表1.メキシコの2011年の鉛生産量トップ10の鉱山における鉛生産量の推移(単位:千t)

  鉱山名(企業名) 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
1 Peñasquito(加Goldcorp) (注2) 44.2 70.2
2 Naica(Peñoles) 23.7 20.8 20.7 15.1 15.5
3 Santa Bárbara(Grupo Mexico) 10.2 10.5 12.3 13.7 14.3
4 Fresnillo (Fresnillo) 9.2 8.7 11.1 12.2 13.4
5 F.I.Madero(Peñoles) 9.1 10.8 11.5 11.4 10.0
6 Asientos (Frisco) 非公表 非公表 非公表 9.2 8.9
7 San Francisco de Oro (Frisco) 非公表 非公表 非公表 6.7 8.2
8 Sabinas(Peñoles) 4.0 5.5 7.9 7.3 7.8
9 La Cienega (Fresnillo) 8.0 9.1 6.1 6.5 6.3
10 Tisapa(Peñoles 51%、
Dowaメタルマイン39%、住友商事10%)
5.8 5.7 5.9 6.2 5.5
メキシコ鉛鉱石生産量  137.1 141.2 143.8 192.0 223.7

(出典)各社HP、メキシコ鉛鉱石生産量についてはメキシコ統計地理情報院(INEGI)

(注2) 2009年10月に鉛精鉱の生産を開始しているが、試験操業中として2009年の鉛の生産量は非公表。

 2009年10月に鉛精鉱の生産が開始された加Goldcorp社のPeñasquito鉱山が圧倒的な第1位となっている他は、メキシコ企業の鉱山が連なっている。第2位のNaica鉱山の生産量は減少傾向にあり、第3位のSanta Bárbara鉱山、第4位のFresnillo鉱山及び第8位のSabinas鉱山の生産量は増加傾向が見られるが、メキシコ企業の鉱山は歴史の古いものが多く、長期に亘り安定的に生産を行っている。
 図1は、2011年の鉛生産量トップ10(表1)の鉱山の位置図である。これを見ると第1位のPeñasquito鉱山をはじめ4鉱山が位置するサカテカス州を中心に第2位のNaica鉱山をはじめ3鉱山が位置するチワワ州から第10位のTisapa鉱山の位置するメキシコ州までメキシコ中央部を北北西から南南東の方向に概ね一直線に並んでいる。

図1.メキシコの鉛生産トップ10の鉱山の位置図(数字は2011年の生産量の順位)
図1.メキシコの鉛生産トップ10の鉱山の位置図(数字は2011年の生産量の順位)

 表2は、メキシコの鉛鉱石生産量をメキシコ企業によるものと外資系企業によるものとに分けたものである。2007年には外資系企業による鉛の生産量はメキシコ全体での鉛の生産量のわずか9%にすぎなかったが、Goldcorp社のPeñasquito鉱山が操業を開始したこと及びその他の外資系企業の生産量がこの5年間に50%以上増加したことにより、2011年にはメキシコの鉛の生産量の40%を占めるまでに至っている。一方、メキシコ企業による鉛の生産量は、年により多少の変動が見られるものの概ね安定的に推移している。
 なお、メキシコの鉛鉱石の生産量の増加の主な要因となっているPeñasquito鉱山は、2008年に酸化鉱からの金の試験生産を開始、2009年10月に硫化鉱からの鉛精鉱・亜鉛精鉱の試験生産を開始、2010年9月に商業生産を開始、2012年Q1からフル操業となっている。

表2.メキシコ鉛鉱石生産量の企業別内訳(メキシコ企業、外資系企業、主な企業)(単位:千t)

資本別・企業名 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
メキシコ鉛鉱石生産量 137.1 141.2 143.8 192.0 223.7
メキシコ企業計 124.7
(91%)
124.8
(88%)
124.0
(86%)
129.1
(67%)
134.5
(60%)
  うちGrupo Mexico 19.4 20.4 22.5 20.1 18.8
  うちPeñoles(含Fresnillo)(注3) 60.7 59.9 63.0 60.6 61.2
  うちFrisco(注4) 非公表 非公表 非公表 20.7 22.4
うち上記3社以外(注5) 27.7 32.1
  うちGrupo Mexico、Peñoles以外 44.6 44.5 38.5 48.4 54.5
外資系企業計 12.4
(9%)
16.4
(12%)
19.8
(14%)
62.9
(33%)
89.2
(40%)
  うちGoldcorp (注6) 44.2 70.2
  その他 12.4 16.4 19.8 18.7 18.8

(出典)INEGI、各社HP

(注3) Tisapa鉱山のように外資との共同権益の場合、外資権益分は外資系企業分に計上。一方、一般株主が一部の権益を持つPeñoles社子会社のFresnillo社等の場合、100%Peñoles社に計上。

(注4) Frisco社は、株式上場前の2009年以前は、生産量等が未公表。

(注5) INEGIの鉱石生産量の確報値は、鉱業法に基づく経済省への報告義務により補正されており、正確性は高いと言われているが、統計誤差はここ及びこの一つ下の欄に含まれる。

(注6) Goldcorp社のPeñasquito鉱山の2009年の鉛生産量が非公表。

図2. 2007年の鉛生産量の内訳
図2. 2007年の鉛生産量の内訳
図3. 2011年の鉛生産量の内訳
図3. 2011年の鉛生産量の内訳


(2)亜鉛
 メキシコの2011年の亜鉛鉱石の生産量トップ10の鉱山の生産量は、表3のとおり推移している。2009年10月に亜鉛精鉱の生産を開始した加Goldcorp社のPeñasquito鉱山が第1位で、第4位にベルギーNyrstar社のCampo Morado鉱山が入っている他は、メキシコ企業の鉱山が上位を占めている。第2位のCharcas鉱山及び第5位のF.I.Madero鉱山の生産量は減少傾向にあり、第3位のBismark鉱山及び第7位のTisapa鉱山の生産量は増加傾向が見られるが、メキシコ企業の鉱山は歴史の古いものが多く、長期に亘り安定的に生産を行っている。
 なお、Charcas鉱山の生産量は、減少傾向にあるが、2012年6月にGrupo Mexicoサン・ルイス・ポトシ・プラントAmador Osoria探鉱部長から聞いたところでは、探鉱の成果が出てきており、2009年度までの水準で今後長期にわたり生産を継続できる見通しであるとのことであった。また、ストライキの発生を契機に2007年途中から生産を休止していたSan Martín多金属鉱山(2006年の亜鉛生産量15.4千t)及びTaxco多金属鉱山(2006年の亜鉛生産量 14.4千t)の生産を2014年には再開させるとのことであった。

表3.メキシコの2011年の亜鉛生産量トップ10の鉱山における生産量の推移(単位:千t)

  鉱山名(企業名) 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
1 Peñasquito(加Goldcorp) (注7) 70.1 129.9
2 Charcas(Grupo Mexico) 64.0 62.3 62.1 57.8 52.7
3 Bismark(Peñoles) 40.9 40.2 47.7 48.4 47.1
4 Campo Morado
(ベルギーNyrstar)(注8)
6.4 37.9 42.0 46.0
5 F.I.Madero(Peñoles) 61.1 48.1 47.2 42.6 42.3
6 Asientos(Frisco) 非公表 非公表 非公表 37.6 37.5
7 Tisapa(Peñoles 51、Dowaメタルマイン39、住友商事10) 29.1 31.2 31.0 31.3 33.1
8 Santa Bárbara(Grupo Mexico) 26.2 30.0 32.9 34.4 31.1
9 Tayahua(Frisco) 非公表 非公表 非公表 34.9 27.1
10 Sabinas(Peñoles) 25.4 26.3 25.4 25.2 23.7
メキシコ亜鉛鉱石生産量 452.0 453.6 489.8 570.0 631.9

(出典)各社HP、メキシコ亜鉛鉱石生産量についてはINEGI

(注7) 2009年10月に亜鉛精鉱の生産を開始しているが、試験生産中として2009年の亜鉛の生産量は非公表。

(注8) 2011年1月に加Farallon社を買収することにより入手。2010年までの生産量はFarallon社による。買収後にG-9鉱山から名称変更。

 図4は、2011年の亜鉛生産トップ10の鉱山(表3)の位置図である。これを見ると第1位のPeñasquito鉱山のあるサカテカス州を中心に第3位のBismark鉱山が位置するチワワ州から第4位のCampo Morado鉱山が位置するゲレロ州までメキシコ中央部を北北西から南南東の方向に概ね一直線に並んでいる。

図4.メキシコの亜鉛生産トップ10の鉱山の位置図(数字は2011年の生産量の順位)
図4.メキシコの亜鉛生産トップ10の鉱山の位置図(数字は2011年の生産量の順位)

 表4は、メキシコの亜鉛生産量をメキシコ企業によるものと外資系企業によるものとに分けたものである。2007年には外資系企業による亜鉛の生産量は、メキシコ全体での亜鉛の生産のわずか8%に過ぎなかったが、Goldcorp社のPeñasquito鉱山及びNyrstar社(当時は買収前の加Farallon社)のCampo Morado(当時はG-9)鉱山の生産開始等により、生産量が7倍以上に増加し、メキシコの亜鉛の生産量の37%を占めるまでに至っている。一方、メキシコ企業による亜鉛の生産量は、鉛同様安定的に推移している。

表4.メキシコ亜鉛生産量の企業別内訳(メキシコ企業、外資系企業、主な企業)(単位:千t)

資本別・企業名 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
メキシコ亜鉛鉱石生産量 452.0 453.6 489.8 570.0 631.9
メキシコ企業計 417.8
(92%)
409.8
(90%)
409.6
(84%)
408.6
(72%)
396.7
(63%)
  うちGrupo Mexico 121.0 106.9 110.5 99.2 83.8
  うちPeñoles(含Fresnillo)(注9) 181.1 175.4 178.0 173.6 174.5
  うちFrisco (注10) 非公表 非公表 非公表 91.6 82.1
  うち上記3社以外(注11) 44.2 56.3
  うちGrupo Mexico、Peñoles以外 115.7 127.5 121.1 135.8 138.4
外資系企業計 34.2
(8%)
43.8
(10%)
80.2
(16%)
161.4
(28%)
235.2
(37%)
  うちGoldcorp (注12) 70.1 129.9
  うちNyrstar(注13) 6.4 37.9 42.0 46.0
  その他 34.2 37.4 42.3 49.3 59.3

(出典)INEGI、各社HP

(注9) Tisapa鉱山のように外資との共同権益の場合、外資権益分は、外資系企業分に計上。一方、一般株主が一部の権益を持つPeñoles社子会社のFresnillo社等の場合、100%Peñoles社に計上。

(注10) Frisco社は、株式上場前の2009年以前は、生産量等が未公表。

(注11) INEGIの鉱石生産量の確報値は、鉱業法に基づく経済省への報告義務により補正されており正確性は高いと言われているが、統計誤差はここ及びこの一つ下の欄に含まれる。

(注12) Goldcorp社のPeñasquito鉱山の2009年の亜鉛生産量が非公表。

(注13) 2010年までの生産量はFarallon社による。

図5. 2007年の亜鉛生産量の内訳
図5. 2007年の亜鉛生産量の内訳
図6. 2011年の亜鉛生産量の内訳
図6. 2011年の亜鉛生産量の内訳


2.主要な多金属プロジェクト

 表5に鉛、亜鉛が関係する主要な開発段階又は探鉱が進展している多金属プロジェクトを示す。これを見ると特に亜鉛を対象としたプロジェクトが数多く実施されている。

表5.主な多金属プロジェクトの概要

  プロジェクト名 所有企業名 資源量等
1 Angangueo Grupo Mexico 推定埋蔵量:1,300万t(亜鉛3.5%、鉛0.79%、銅0.97%、金0.16 g/t、銀262 g/t)。2009年にFS終了。2014年下半期操業開始予定。
2 Buenavista Grupo Mexico 概測資源量:1,300万t(亜鉛3.3%、銅0.97%、銀29 g/t)。Buenavista銅鉱山に隣接。
3 Chalchihuites Grupo Mexico 概測資源量:1,600万t(亜鉛3.08%、鉛0.36%、銅0.69%、銀95 g/t)。2010年プレFS終了
4 Velardeña Peñoles 推定埋蔵量:8,300万t(亜鉛420万t)。2013年Q1操業開始予定。
5 Juanicipio Fresnillo 56%、加MAG Silver 44% 概測資源量:520万t(亜鉛19.04万t、鉛9.27万t、金10 t、銀3,446 t)。2012年6月プレFS終了。
6 El Boleo 加Baja Mining 70%、韓国企業団30% 確定・推定埋蔵量:8,500万t(亜鉛46.8万t、銅11.3万t、コバルト6,800 t、マンガン24.82万t)。既に2011年に採掘開始、2013年Q1に精鉱生産開始予定。資金不足によりプロジェクト継続の危機。
7 Cordero 加Revon 
Resources
概測資源量:5億2,156万t(亜鉛240.6万t、鉛131.7万t、金28 t、銀9,670 t)。プレFS終了。
8 Metates 加Chesapeake
Gold
概測・精測資源量:11億7,900万t(亜鉛190万t、金591 t、銀1万6,133万t)。FS終了。
9 Camino Rojo 加Goldcorp 概測資源量:1億4,088万t(亜鉛52.21万t、鉛26.33万t、金87 t、銀1,634 t)。Peñasquito鉱山の衛星鉱山の位置付け。2014年操業開始予定。
10 Bahuerachi 中国Jinchuan
(金川)グループ
概測・精測資源量5億2,500万t(亜鉛0.55%、銅0.4%、モリブデン0.008%)。インフラ工事実施中。
11 La Pitarrilla 加Silver
Standard
概測・精測資源量2億4,500万t(亜鉛189.0万t、鉛84.6万t、銀2万395 t)。2009年プレFS実施、FS実施中。
12 San Nicolas 加Teck 79%、
加Goldcorp 21%
概測・精測資源量8,000万t(亜鉛147.4万t、銅106.2万t、金38.5 t、銀2,245 t)。亜鉛等の需給状況を見つつ休止中。

(出典)各社HP

1 Angangueoプロジェクト        7 Corderoプロジェクト
2 Buenavistaプロジェクト        8 Metatesプロジェクト
3 Chalchihuitesプロジェクト      9 Camino Rojoプロジェクト
4 Velardeñaプロジェクト        10 Bahuerachiプロジェクト
5 Juancipioプロジェクト         11 La Pitarrillaプロジェクト
6 El Boleoプロジェクト         12 San Nicolasプロジェクト

図7.鉛、亜鉛関係の主要な多金属プロジェクトの位置図

3.メキシコの鉛・亜鉛鉱石の生産の今後の見通し

 鉛鉱石及び亜鉛鉱石の生産量については、今後とも増加が見込まれる。Peñasquito鉱山は2012年Q1からフル操業を開始しており、Goldcorp社の計画では2012年は2011年に比べ鉛1.14万t、亜鉛5.15万tの増産を行う見通しとなっている。また、現在はトップ10には入っていないものの2011年から鉛、亜鉛の生産を開始した加Gold Resource社のEl Áquila鉱山、2011年に増産を始めた加Scorpio Mining社のNuestra Señora鉱山による生産量の増加が見込まれる。
 特に、亜鉛については、2011年の亜鉛生産量第4位のCampo Morado鉱山、2011年に年間粗鉱処理量50万t体制から80万t体制に拡張した第7位のTisapa鉱山において生産の増加が見込まれる。また、2.に示したように特に亜鉛の資源量が大きいプロジェクトが多数存在している。こうしたプロジェクトの操業開始が見込まれることから、今後とも亜鉛鉱石の生産量は増加するものと考えられる。なかでも外資系企業による亜鉛生産は大きく増加するであろう。
 また、メキシコは、銀の生産量が世界第1位であり、メキシコの鉛、亜鉛を生産する鉱山及びプロジェクトの特色として、銀の品位が高いことが挙げられる。このため、世界的な鉛、亜鉛の需給状況から、仮に鉛、亜鉛の価格が下落したとしても、金、銀の生産によって鉱山の採算が取れる可能性があることに考慮する必要がある。

おわりに

 メキシコでは、今回紹介した鉛、亜鉛だけでは無く、生産量が増加傾向にある又は今後増加する可能性のある鉱物資源が複数存在している。メキシコ事務所では、今後とも世界の需給に影響を与えるような動きやモリブデン、アンチモン、ビスマスといったレアメタルの現状を紹介していきたい。

ページトップへ