閉じる

報告書&レポート

2012年9月13日 ハノイ事務所 五十嵐吉昭
2012年56号

ラオスにおける鉱業政策見直しの背景

 2012年6月末にラオスにおける新規鉱業投資が禁止されたと報道が流れ、Sepon及びPhu Khamの2つの銅鉱山が順調に生産を伸ばすラオスにおいても、鉱業投資が難しくなるのではないかと心配する声があがった。この報道の根拠になったのは6月11日に出されたラオス首相令で、実際には新規の探査許可申請の審査を一時停止するのみで、既存事業や新たな採掘許可について禁止したわけではない。しかしながら、首相令には未加工鉱石の輸出を禁じる内容も含まれており、どこか昨年からのベトナムにおける動きと似たところもある。本稿では今回の首相令をはじめとする最近のラオスの鉱業政策見直しの背景を明らかにし、今後の鉱業投資への影響について探った。

図1.ラオスにおける主要鉱山位置図
図1.ラオスにおける主要鉱山位置図

1. 首相令

 首相令とは6月11日付けNo.13/PMで、各省及び関連機関、並びに首都ビエンチャンを含む全国の省の知事宛に出されており、その概要は以下の通り(プランテーションに関する部分は除く)。
 近年、中央政府及び地方政府は国内外の会社に対し、砂金採掘も含めて数多くの鉱物資源探査の許可証を発給し、その面積は全土の23.13%に至っている。鉱業は雇用や収入の面で国の経済社会活動に貢献している一方、実際の投資の実行が効率的ではなく環境や社会に悪影響を与えている場合もある。天然資源の有効利用や持続可能な発展のため、党のガイドラインに沿った形で、首相は以下の命令を出す:

・ 鉱物資源の探査に関する新規投資事業の審査及び許可を2015年12月末まで一時停止する。但し、既に政府と契約している事業は契約に基づき実施され、また、戦略的問題、国防及び治安に関わる特別な場合、政府は事業ごとに慎重に対処する。

・ 火力発電やセメント工場などに使用する石炭、石灰石、粘土等に関する審査は、国内産業の需要に合わせて引き続き審査を継続する。

・ 未加工の鉱物を輸出することを禁止するが、輸入は輸入禁止品目以外認められる。

・ 計画投資機関を中心に、エネルギー鉱山機関、天然資源環境機関、財務機関及び地方行政府により特別委員会を設置し、(鉱業投資について)監査・評価を実施して政府に報告する。

・ 上記監査・評価を終了した後、天然資源環境省及びエネルギー鉱山省は、2015年までに鉱業分野における投資奨励戦略を策定し、政府の認可を得る。

2. 首相令が出されるまでの流れ

 上記首相令は突発的に出されたものではなく、2012年5月の計画投資省による鉱業コンセッション審査の一時停止(モラトリアム)及び2011年末の鉱物法改正や天然資源環境省新設の流れの中にある。

(1) 鉱業コンセッション審査の一時停止
 6月の首相令に先立ち、2012年5月15日付け計画投資省(MPI)による通知No.1263/MPIにより、鉱物資源の概査及び探査のコンセッション審査は一時停止となった。この措置は過去20年間におけるラオス国内の民間投資をレビューする全国会議の結果、探査やプランテーションのコンセッションが抱える問題に取組むには新規の審査を一時凍結するしかないと判断されたからである。しかしながらこのモラトリアムは今に始まった話ではない。2007年1月には課税や操業要件等の現行制度を見直すため新規の探査権や採掘権の発給を一時停止した。また、2009年9月には首相府による通知No.1648/GSにより、既存のコンセッションの監査と実行状況の評価のため、鉱物資源の概査及び探査の投資審査を一時停止している。このモラトリアムは2010年9月まで続いたが、その間、コンセッションを持つ鉱業プロジェクトが1件1件吟味され、法律を順守しない会社は活動停止に追い込まれたとされる。当時はラオス政府が中国やベトナム企業に便宜を図り西側企業の締め出しを狙っていると解釈する向きもあった(Mining Journal 2011/11/04)。また、このモラトリアムの期間中においても、権限を持たないはずの地方政府が鉱業活動の許可を出し続けていたとの指摘もある。

(2) 鉱物法改正と天然資源環境省の設立
 ラオスにおいては1997年に初めて鉱業法が制定されたが、2006年に鉱物法に変更され、2008年の12月に改正鉱物法が成立した。しかしながら、政府による法制度見直しは継続され、先ず中央政府による国土と環境の管理を徹底するため、2011年8月に天然資源環境省(MONRE)が設立され、2011年11月28日付けの政令No.435/PMにより、MONREの機構と活動内容が定められた。引き続き、同年12月20日改正鉱物法が国会で承認され、2012年4月16日に施行された。MONREには水資源や環境行政、国土管理の一部及び森林保全の機能が寄せ集められ、鉱業関係ではエネルギー鉱山省より地質鉱物局(DGM)が移管され、鉱物資源の概査、探査からプレFS(実現可能性調査)までを所管することとなった(FSから鉱山開発までは従来通りエネルギー鉱山省の所管)。改正鉱物法では、単に鉱業の振興を図るのではなく、技術や財政の裏付けのある投資家を選別する政策を打ち出し、探査地域の面積は減じられ、鉱区放棄義務やFS移行をより厳しく管理している。また、採掘した鉱物資源の加工についても原則義務化している。

3.鉱業政策の見直しの背景

 今回のラオスの鉱業政策見直しの流れは、2012年4月に改正鉱物法施行、2012年6月に新規投資の審査一時停止、2015年末までに新たな鉱業戦略策定となっており、昨年のベトナムでの流れと酷似している。ベトナムでは2011年7月に新鉱物法施行、2011年8月に新規鉱業許可証の発給一時停止、2012年1月に新たな鉱物戦略を受けた首相指示発令となり、その背景には環境を無視した鉱物資源の乱開発と中国への密輸の横行があった。ラオスでも首相令の前文にある通り、環境や社会に悪影響を与えているケースも実際にあるとされるが、ベトナムと同様な背景があったのであろうか。実際、ラオスにおける鉱業コンセッションの外国投資の半数は中国企業単独か中国と地元企業のJVではあるが、ラオス北部で中国と国境を接する部分は限られ、内陸国故海上輸送も困難で、密輸出が簡単にできる状況ではない。何より、鉱業関係のコンセッションの95%以上は探査段階で、鉱物資源を実際に採掘している鉱山は限られており、鉱物資源が周辺国に大量に密輸されているといった話を聞くこともない。環境破壊の面では鉱業同様に新規のコンセッション審査を停止されたゴムやユーカリのプランテーションの方が、面積も広くより影響も大きいと思われ、森林の伐採は地元住民の生活の場を奪い取ることになり、地元住民との軋轢にも繋がっている。
 現地において様々な関係者から意見を聞く限り、最大の要因は人材不足のように思われる。2012年3月時点で、ラオス全土における鉱物資源の概査案件が107件、探査案件が125件あるが、これらの案件を管理する政府の職員、つまり新設されたMONREの専門家の人数は限られている。概査や探査に投資する内外の投資家には、転売目的や資金難、或いは技術力不足から調査を実施していない会社もあり、中には政府の監視が行き届かないところで関係する法律を順守しない会社もあるとされる。この問題を解決するには、新規の概査や探査の審査を棚上げとし、プロジェクトを監視・評価する専門家の人数を増やす必要があり、監視する側の人的資源とプロジェクト数をバランスさせなければならない。ラオスに鉱業法が初めて導入されたのが1997年、引き続いて環境保護法が1999年、環境アセスメント規則が2000年、初めての近代的な比較的規模の大きな鉱山、Sepon鉱山(当初は金を採掘)の稼働が2002年末であり、元々鉱業国ではないラオスにおいて政府の人材育成が間に合わない状況も容易に想像がつく。2015年まで年8%以上の経済成長を目標とし、環境と調和した鉱業の発展により持続可能な開発を目指すためには、先ず鉱業活動の現状を把握して、更なる健全な鉱業の発展のための新たな戦略を構築する、というのが今回のラオスの鉱業政策見直しの背景にあると思われる。

4.終わりに

 2011年におけるラオスの銅生産は順調で、Sepon鉱山が7万9千トンの銅地金を、Phu Kham鉱山が25万トンの銅精鉱(銅量で6万トン)を各々生産した。その銅の輸出額はラオス輸出総額(FOB)の36.5%にも達し、建国以来貿易収支の赤字が続くラオスにとっては極めて重要な輸出品である(鉱業全体では44%に達する)。また、Phu Kham鉱山を所有するPanAust社は、2011年に利益税、ロイヤルティ等89百万ドルの税金を政府に収めたことを明らかにした(Sustainability Report 2011)。これ程に国家経済に貢献の大きい鉱業に対して、新たな投資を妨げる政策を取るとは考えにくいであろう。ある地元弁護士によれば、首相令には抜け道もあり、戦略的な問題は例外として取り扱うとあるので、新たな探鉱投資を許可しないとは言っても、政府と交渉してみる価値はあると指摘している。また、有望地域は既にコンセッションが取られているので、逆に政府によって調査をしていない有望地域が取上げられ、他の投資者に機会が与えられるなら好都合であるという見方すらある。未加工鉱物の輸出禁止についても、ベトナムでは輸出可能な加工度合いを鉱物の品位で規定する通達が存在するが、ラオスにおいてその基準は曖昧で、銅精鉱も加工品とする見方もある。実際、Phu Kham鉱山で生産する銅精鉱を輸出しているPan Aust社は、6月末の報道直後に、首相令の影響はないことを政府高官に確認したと発表した。ラオスにおいて鉱業活動を実施中の会社は、事前に鉱物探鉱生産合意書(MEPA)を政府と締結しているが、この合意書を順守している限り、今回の首相令の影響は受けないものと考えられる。それでもなお、未加工鉱物の輸出を禁じ、国内の産業育成を図り雇用増加を期待する政策は資源国の間で広まっており、今後の政策動向には注意が必要であろう。溶媒抽出電解採取(SXEW)法により銅地金を生産するSepon鉱山と銅精鉱を生産するPhu Kham鉱山の違いは、鉱石が酸に容易に溶けるか否かが鍵となるが、この違いを政策立案者が理解しているのか疑問視する声もある。自国資源の囲い込みを図り、隣国のラオスにまで資源獲得の手を伸ばすベトナムにおいては、ベトナム北部の銅資源開発に外資参入を実質的に受入れず、鉱石輸出も認めず、年産1万トン程度の小規模な乾式製錬所でわざわざ銅地金を生産している。人口が9千万人近く、自国の資源を自ら加工して工業化を進めるベトナムと、人口が6~7百万人で産業集積の難しいラオスとでは自ずと目指す産業政策も異なるはずであるが、ベトナムが近年盛んに口にするdeep processing(より加工度を高める)政策がラオスに影響を与えた可能性も否定できない。PanAust社が主張するとおり、建設費に多額の資本を必要とする割に加工賃(TC/RC)の収入が小さい乾式製錬所を新たに建設するのは、よほど大規模な銅鉱床が開発されない限り合理性は無いと考えられ、SXEW法が適用できない銅鉱床に、乾式製錬所の建設を強いるようでは、鉱業投資は進まないであろう。もしラオス政府が更なる加工を求める場合は、加工度を高めるだけが総合的に見て国の利益に結びつくとは限らないことを、粘り強くラオスの政策立案者に説明する必要があると思われる。

写真1. Sepon鉱山電解採取工程
写真1. Sepon鉱山電解採取工程
(出典:Annual Report 2011 Minmetals Resources Ltd)
写真2. Phu Kham鉱山貯鉱施設
写真2. Phu Kham鉱山貯鉱施設
(出典:PanAust社Annual Review 2011)

ページトップへ